群雄割拠

群雄割拠

 眼の奥を鋭く抉る痛みが、私の神経へと落雷が飛来したかの様に、激痛の刺激が走りだした。
 
ハクビシンを、口に加えた私を何者かが、私の眼の奥から大事な物を強奪して行ったのだ。獲物を加えたまま、地上から30メートルか40メートルは、あるであろう檜の木の枝に、腰を落ち着かせ、傷んだ眼をゆっくりと開けながら檜の森を、見渡した。
 
私の眼からは、何故か空が消えていたのだ。今は夜でもない、雨雲が活発かし荒れた天候でもない、空と思わしき景色には、目映い光の太陽と悠々と空を泳ぐ真っ白な雲だけであった。
 
可笑しな事に、晴天とした景色ではあるが真っ青な空だけが、見えないのである。すると、突然、檜の大木が私に語り懸けてきたのです。
「悪魔の祟りじゃ……」
私には、それが何の事かわからず。樹齢300年をこす大木の戯れ言なのだと信じはしなかったのだ。
 
加えたハクビシンを、器用に私は嘴と爪を使い体を裂き、不味い内臓の部位を地面へと捨て落とした。私は、8日ぶりの食事の前に無我夢中で、あっという間に食いつくした。
 
檜の大木は、私に「お前達、猛禽類は無意味な殺生をしすぎた」と呟き、「神の天罰が下るだろう……」その言葉を言い残し檜は、黙ったまま石の様に喋らなくなってしまった。
 
太陽の日光と僅かな雨で、その場から動かなくとも生きていける檜などに侮辱された事に腹を立ちながらも、私は、次の獲物を探す為に、その場を後に空高く飛び立った。
 
 弱肉強食という言葉がある様に、強い者がこの森の食物連鎖のトップに立てる。私は、祖父の代からそう教わってきたのだ。100年も前、どんな出で立ちをしているのか分からないのだが[狼-オオカミ]という動物が生息していたという、私は狼の様な屈強な怪力と疾風の如く森林地帯を駆け巡る脚力を持つ狼を、尊敬していた。
 
しかしその狼ですら人間という動物には、敵わなかったのだ。奴等は、私達には到底、理解や想像のできない行動や鉛玉の様な物を放つ傘みたいな物を脇に添え狼を、乱獲駆除したのだ。
 
私は、狼の成し得なかった事を、これからやるのである。何事も強欲に傲慢に満たしていくのだ。
 
 上空から下を隈無く見渡していると、猪が5頭ほど群れをなし森林の中流へ進行していた。その列の後ろには、猪の子が2頭。前へ進む親からは、決して離れまいと付いて行ってる様だ。私の眼は、どの動物よりも優れていて最後列の猪の子が、右足を負傷しているのが見えた。
 
私は、一気に狙いを定め、その負傷した獲物に向かって風を切る速さで、急降下した。大きな、爪を使い獲物を鷲掴みにし上空へと引きずり込んだ。
 
空を舞っている時も、私の大きな爪の中で瓜坊は、生きまいともがき苦しみ暴れだす。すると途端に、私の眼がまたも疼きだしたのだ。一瞬、先程の檜が言った悪魔の祟りという言葉が、脳裏を過った。
 
あまりの激痛に、私は獲物を離した。飛行が安定しないために強引に両瞼を開けた。
 
すると、森林地帯から緑が消えたのだ。それだけではない地面の土や枯れ葉や落ち葉、大木の肌の茶褐色も消えたのだ。私の目からは、色彩という物が失われてきていたのだ。
 
その世界は、1つ大きく輝く太陽と雲だけになってしまったモノクロの世界の様だった。
 
 雲が無数の大群となり、西の方角から押し寄せてくる。可笑しな肌寒い西風で、嵐が迫ってきているのが微かにわかった。しだいに雨雲と思わしき大群は、こちらに怒りをぶつけるかのように急接近してきた。太陽は、雨雲に遮られ夜というよりも混沌に近い闇の様な景色に変貌を遂げ始めた。光しか、私の眼の色彩神経は反応していた為、自分が、何処へ飛行し移動しているのかが不明となってしまった。
 
雨粒は、私を切り刻むかのように攻撃を繰り返す。前が見えない。すると私の前に、一線の激しい光が落ちた。無意味な殺生を繰り返した、私を自然の神が、罰を与えに来たのだ。私は、死を覚悟せざるを負えないようになった。
 
飛行を諦め、大きな羽をしまい、地面へと真っ逆さまに墜落しようとした時、私から数十メートル程離れているであろう洞窟から、地響きの様な遠吠えが聞こえた。「アォォーン! 」その声は、私を呼んでいると勝手な事を考えながらも私は、その遠吠えの元へとふらつきながらも飛行し続けた。
 
 洞窟にたどり着いた私は、地面へと、勢いよく死人の様に横たわった。私の前へと、大きな牙と爪を持った四足歩行の動物が現れた。頑丈で鋭い歯を噛み締め合う音、地を這うかの様な重くどっしりとした足音、そして獲物を見ると最後まで追い続けていく様な殺気を醸し出した殺しの目、暗闇の洞窟の中で、その得体の知れない動物の目だけが睨みを効かせながら輝いていた。
 
その光景を後にし、私は少しずつ意識を失っていってしまった。
 
 あれから4日程たった--

私は、飢餓に苦しみながらも、楽しみだった食事をやめた。何処か遠い町や山に行こうと思い助走を付け天空へと舞い上がった。頭の中では、食事の事でいっぱいであった。動物がダメならば昆虫は良いのだろうか草木や花などはと色々と試行錯誤を繰り返してみたのだが、最終的には食事とは、殺生なのだという事で諦めた。
 
旅に出る。私は、これから出会っていく食物連鎖の地位が低い弱者を、助ける為に旅に出るのだ。これこそが、本当の狼たちがやりたかった事であり洞窟で出会ったのは正しく狼なのではないのかと思った。嫌、[大神-オオカミ]なのではないのかと。
 
脳へと伝わる飢餓感を私は、遮断するようにして頭では別の事をまぎらわす為に考え胸を踊らせながら次の町へと迎おうとした。
 
 
 遠くから、爆発音の様な音が鳴るのが聞こえた。何故だか私の胸辺りが、焼ける様にムズムズとズキズキと痛いとは感じなかったのだが。私の胸からは、これまで、見たことのないような液体が流れ始めてきた。前に進もうとするが思うように体は動かず、失速してく一方である。私は、地面へと無惨に落ちた。
 
私の前に何者かが駆け足で寄ってくる音が地面に伝わりながら私の聴覚へと脳に伝達された。私の前には、笑顔で喜び鉛玉を放つ傘を持った少年とその父親と思える人物が二人いた。
 
父親と思わしき人物は、少年の頭を大きく優しそうな掌で撫で、腰に付けた刃渡り16センチ位のナイフを右手に持ち私に向かってきた。
 
私の体を、裂くときの父親の目は、殺しの目であった。

群雄割拠

群雄割拠

私は、食物連鎖の王に君臨する。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-02-24

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