まぜるな、きけん

あれと、これと、化学反応。

「まなー、帰らないの?」
何の変哲もない3年1組の教室。
窓際の前から2列目。
「ん~…」
肯定にも否定にもならない声を上げ、ぼんやりと外を眺める。
部活漬けだった学生生活も、もうすぐおわり。
引退後に残されたのは、テスト、受験、卒業。
楽しくない日々の幕開け。
終わりを告げるチャイムが鳴って、行き場のない私は教室に一人取り残された。

夕日に照らされ影が伸びる。
いつの間にか眠ってたみたい。
猫みたいにぐーんと伸びをして目をあけた。
「おはよう」
目の前にいるのは幼なじみ。
数ヶ月前、急に低くなった声。
その音が心地よくて一時期よく話しかけていたっけ。
久々の感覚に心臓が速くなる。
ずっと一緒にいたのに、少しずつ変わっていく世界が怖くなって見ないフリした。
「…どうしたの」
寝起きだからか声が上手く出ない。
誰もいないはずの空間に二人の影。
「なあ」
問に対する返事はなく一方的に言葉が続く。
「好きな人って、誰」
逆光で顔は見えないけど、大きな手はぎゅっと握られている。
急に振られた想定外の話題。
そういえば昼間そんなことを言ったような。

バレンタインが近づくと当たり前になる恋話。
誰かにチョコをあげるとか、気になる人に催促されたとか。
「まなは好きな人いる?」
「うん」
周りから意外そうな顔をされて、こちらこそ驚いてしまう。
確かに部活一筋だったけど、好きな人の一人や二人。
ただ、ゆっくりと育まれた片想いは皆のそれとズレてるような気がして。
次々と話題が変わっては盛り上がる中、少し後ろで会話を楽しむ。
相手が変わらなくなってもう何年だろう。
特別になったのはいつだったかな。
真っ白なチョコレートが好きになったのは。

握られた拳が段々と白くなるのがわかって視線を逸らす。
2人の足元。
底に参考書を詰めた鞄から、部活終わりによく分け合った白い箱がのぞく。
「それ」
甘い時間を運ぶ魔法。
「え、何。…チョコ?」
足元を示した指は、そのまま鼻先へと移動する。
「ホワイトチョコが、好きな人」
ほんの数秒、時が止まる。
目の前で力がフッと抜けて、頭が私の肩に触れた。
「オレ以外だったらどうしようかと思った」
弱々しい声で吐かれた本音。
見たことない一面に胸ポケットのあたりがキュンと音を立てた。
「ずっと好きだったんだ、女の子として」
近くで見るその瞳がゆらゆら揺れる。
「返事はいらないから、」
影がそっと寄り添い、重なった。
うつむいた私の耳元で、愛しい声が響いた。
「俺以外のこと、考えないで」
頭が、真っ白になった。

かわいくて、かっこよくて。
幼なじみで、好きな人で、これからは恋人。
そんなにいっぱい、いいのかな。

君のスキと、私のスキが、混ざり合う。
私の心は、好きな物で溢れて、爆発5秒前。

まぜるな、きけん

まぜるな、きけん

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-02-24

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