空事日記 著者:不明

"4月24日
不思議な事が起きたので日記として記そうと思う。アメリカのテキサス州かどこかで空に穴が空いた。さっきテレビで言っていたことによると現在は直径800mほどで驚くことに広がっていっているらしい。速度的には約1ヶ月ほどで地球を覆い尽くすスピードだという。これから何が起きるか私も世界中の人も分からない。

4月25日
穴は広がり続けている。昨日と状況は変わらず。

5月1日
空に空いた穴に関する情報が少しずつ入ってきた。穴の中は灰色でまさに曇り空といった感じだ。このままこの穴が地球を覆うと太陽光が届かなくなり植物の育成が難しくなると専門家が言っていた。海外の一部の人たちはこの世の終わりだと叫び暴徒化しているらしいがこの国ではそんな事起きる気配すらしない。明日も会社だ。どうせ残業代も出ないんだからこのまま世界が滅んでもそんなに悲しくは思わない。

5月7日
アメリカのほぼ全域の空が灰色になった。例の穴は定期的に雨が降るらしく、農作物は多少影響が出るが大きな食糧不足にはならないのではないかという発表がなされた。また、あの穴は宇宙との電波等々を一切遮断しており、アメリカでは人工衛星との通信も徐々に弱まっているためこのことから来月ごろには朝の天気予報から衛星写真は消えていることだろう。

5月17日
上を見上げれば綺麗な灰色だ。今や晴天はかつての曇り空のことであり、かつて曇りと呼ばれた天気は消滅した。夜はきちんとやってくるがそれでも朝の日差しなんてものは当然無くなったため、どんよりとした朝を迎えることになる。GPSが使えなくなったことでカーナビも使えなくなったり、他にも色々不便な事が増えた。これまでいかに社会が人工衛星に頼っていたかがよく分かる。太陽光が届かなくなることによる地球の温度の低下が心配されていたがなぜかそのようなことは起きなかった。一部の金持ちは残されたわずかな青空を求めて移住したりしているがそれもあと1週間程のことである。

5月24日
世界から青空は消え、過去のものとなった。貧しい地域では食料不足が発生し、紛争状態になったりしているが日本に暮らす私には大して関係のない話だ。食費が高くなったのは少し痛いがまあ大丈夫だろう。なんとなく始めた日記だが、仕事がやたらと忙しいせいでほとんど書けなかった。正直こんなこと書く必要なんてなかったと思うし、今後役に立つこともまずないだろう"

私はため息を吐きながらペンを置く。「はあ、辛い。俺は小説家になりたかったんだ。こんな仕事をするために生まれてきたんじゃない。くそ野郎、俺にばっかり仕事押し付けやがって」

「はい。黙読終わりましたか?」
私は教科書から顔を上げ、先生の方を向く。
「これは空事日記という書物です。皆さんも歴史の授業で習ったと思いますが西暦3500年前後に起こった情報大断絶以前の数少ない書物です。現在日本ではこの空事日記と日本神話というものの2つしか情報大断絶以前の情報は発見されていません。」
「へー」
国民学校7年14組の生徒たちは真面目に先生の話を聞き、驚きの声をあげている。
「文体の違いや内容からおそらく日本神話のあとにこの空事日記が作られたものと推測されています。一般的な見解としては日本神話が日本が作られる際の神話。そして、空事日記は空が作られる過程を描いた神話ではないかとされています。一部では空事日記は事実を描いたものであるという意見もありますがやはり少数派ですね。」
「ふーん」
私はいかにも興味がなさそうな声を出し、窓の外を見る。
「こんな何万年も前の話聞いて何になるんだか。」
私は誰にも聞こえないような声でつぶやき、空を見上げる。綺麗な灰色している。

空事日記 著者:不明

空事日記 著者:不明

空は死んだのか、或いは虚偽か、神話か

  • 小説
  • 掌編
  • ミステリー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-02-22

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