名もなき26時間の人々

名もなき26時間の人々

   







   






   







  
AM 7:55

「食べかけの果物を連想している
その食べかけの何かの中にそっと手を置きたい
きっと不思議な詩情が生まれるだろう
僕の朝のたわごとに君はそっと手を置いてくれた
その手の形に僕は詩で秘密を呟きたいと思った
君ならきっと解読可能だね
何でも見通せる気がする
きっと今このときも」



   






AM 8:48

「君のことを実はスザンヌと呼びたかった
だって同志さ、僕らは。一緒に死んでくれと言ったら君は死んでくれるだろう
でもきっとこう言うさ
『死ぬなら戦場だけ』 『なぜ戦わないの?』
僕は既に戦ってるさ、君と戦ってるんだ
僕の臆病を許してくれ
いつかそっと一緒に消えようよ」




   






AM 9:24

「君を考えるとね、たぶん憂鬱な季節に生まれたんじゃないかと思う
僕もそうさ
でも一度だけ君の話を聴いていて僕は側にてあげたいと思ったよ
だって今こうしてあの夜の話を思い出しても切なくなるんだ
きっと今、辛い恋をしてるんだろうね
いつでも聴くよ
時間は僕らを許す
きっと」




   






AM 10:33

「詩の中で僕の情感が疼いた
僕には出来ない相談さ
僕はあなたの中に入っていけない
あなたの中で伝われない
桜は散るさ
でも君はきっと夏に僕を思い出すだろう
君の歌声がそれを僕に知らせる
溢れ出した僕の何かを詩に埋めてくれ
君なら僕を託せるから」




   







  
AM 11:02

「君って優しいんだ
日々の糧や賜物を愛せる人だと思うから
花や風の繋がりはきっと君と君の大事な誰かを結びつけるだろう
だって日々は君の所有物なんだ
どこまでも君が主人公なんだ
君の物語は当たり前の幸せの中に咲く
それはいつの日かわからない
でも君の幸せは僕に届くさ」




   







 
PM 12:13

「君はひょっとしたら詩のミューズかもしれない
僕にとって
だってあの日ゲームセンターで見たことのない詩の顔
待っていてくれたのは君だったから
あのゲームセンターでくれた詩人への愛を僕は一生忘れない
出来ればここで咲いて欲しい
僕はその月の下でいたい
だってほのかな灯りだから」




   






PM 1:52

「耽美というのは君のためにある言葉なんだ
君はいろんな男たちを官能の雫に潤しながら枯らせる
何故って?
君の意図はそこにある
君は男たちの栄枯盛衰を知り尽くしているのさ
フランスの書にあるようにね
僕はむしろ枯れたい
君に抱かれて枯れたいんだ
そこにひ弱な魂が残る」




   






PM 2:45

「グローリー・オヴ・ラヴ
君はこの神秘のカードを見事紐解いた
ある時はゴダイヴァ夫人、ある瞬間は宿命のイーディさ
君なら分かるね
だって白い光と白い温度の中でコケティッシュに笑ってる
僕を哀れみながら笑ってくれ。
きっと僕は君に葬られながら言葉を残す
『あの宿命に殉じた』」




   






PM 3:48

「今出川で出会いたいな
にしん蕎麦を君に奢るよ
そのあと同志社のキャンバスを歩こう
真夜中の呟きの意味を教えてくれ
君の朱色の語りを聞かせて欲しい
僕はその中に僕の望みを投じる
きっと美しい万華鏡が開く
シンプルな答えがあるさ
別れは木屋町三条で
いつかの望みさ」




   






PM 4:53

「過去を知りたい誘惑に駆られる
でも話さないどこかの過去に君が今も佇んでいることを僕は知る
河原町は僕らの遊園地
君は夜の聖女か街角の歌い手
歌詞が詩情を帯びるとき、もう一度君の詩は再生する
それはやはり街角
阪急の出口で待つ
新しい散文で祝おうじゃないか
この街を」




   






PM 5: 34

「櫻が舞う頃のいつかの公園で僕はきっと嘘をつく
でも君は不意にそれを肯定する
僕が途惑うとき、君は花弁の香りを教えてくれる
駄々をこねる僕に君は名前をつけるだろう
僕は君の教えてくれた花弁の香りに依存したい
いつまでも沈殿していたい
それは遠い日の僕らの約束になる」



   







PM 6:46

「僕は目覚めた
紫煙の部屋だった
君がこよなく愛する煙草の紫煙
その紫煙の中に僕は物語った君の尊い哀しみを知る
僕がきみの部屋でポール・サイモンを聴いたのを覚えているかい?
冬の散歩道で君は消えるかもしれない
でも後には青春の疼きが残る
消えることで光る灯
永久に」




   






PM 7: 58

「朝
目覚めたら君が笑ってくれた
君はコーヒーを注いでくれる
愛情という名の時間のうちに蒸らされた奇跡
甘かったら今日は僕は誰かとすれ違う
苦かったら君は誰かと出会う
病んだ詩は前を向こうが後を向こうが関係ない
人々の咎めは君の運命ではない
苦いか甘いか
それだけでいい」




   






PM 8:01

「日曜の朝、聖歌隊から戻った君にスポンジケーキをご馳走したい
ヴァレリーの詩を原語で呟いてほしい
僕は聞き入るから
いつか午睡が来たら君が愛する女性のことを僕は想像する
どんな壁も君にとっては淡い網膜に過ぎなかった
君は愛する人を愛するだけ
ポストカードの淡い少女」




   






PM 9:19

「詩のイヤリングは君を知る手がかりだった
僕は街に出て捜し歩いた
眠い心と、帰りたい場所と、空腹の魂
イヤリングを見つけた
確かにそこに証があった
でもそっと僕は記憶だけに残してイヤリングを海に投じるよ
揺られてどこかの国に辿るに違いない
七つの祈り
ちゃんと聞える」




   







PM 10:27

「あなたが男なのか女なのか問題ではなかった
雨のように降り注ぐ毎秒ごとのあなたの言葉がすべてだった
映画のタイトルを模ったように雫が零れる
その一滴がすべての心
あなたは容赦なく怒涛のように語り続ける
僕はいつもそれを見ていた
確かにあなたの血をすべてに感じ取った」




   






PM 11: 37

「実は僕には妹がいた
彼女はよく失恋を話したけど僕は実は心配しなかった
だって妹はシンディのストリートで生きてたから
ぬいぐるみはシンディのプレゼントだった
ぬいぐるみのポケットからドラえもんが飛び出して妹と僕は大笑い
それからだ
日記という名の小説が始まったのはね」



   







AM 0:42

「君にはいろんな短い詩の色があるんだ
虹色なんてものじゃなかった
無限の彩色だ
だけど君は敢えてある男を恋した
故郷の言葉を聴くために駅の雑踏に紛れる男
花を買って妻と憩うプライドの男さ
僕は君の恋心は真実だと知った
無限の君の言葉遣いを聞きながら僕の一日は終えた」



   






AM 1:53

「君は妹思いの男だった
そして薄明かりの中の光を愛したかもしれない
夜の灯り、昼の明かりにも等分の暗黒と苦痛があるのを知っている
そして美醜の対比の中に人間が生きることも
僕は何度も君に救われた
君のアールデコの魂を僕はキュートだと思う
今日は誰の魂を慰撫するだろうか」



   







AM 2:09

「半分だけ地下の場所を教えられた
君が誕生日を燃やしていた
これで星占いなんて無効よと
むしろ夢占いを選ぶのだと
人を失うことを怖れてはいなかった
むしろ百合の川を選んだ
名前さえ君は躊躇せず燃やすかもしれない
でも君の呟きを僕はいつも愛する
星占いを燃やした君の」



   







AM 3:14

「彷徨っていた僕の手を引いたのは制限時間15分前の即興のソナタだった
君はその五線譜の上にいたのだ
世界の終わりを恐れるよりもむしろ笑って死ぬことを選ぶのだと
僕はきみの中に140年間生き続けた物語を見た
物語は兜をつけて岩盤を貫く
その中に君が編んだ闇の街があった」




   






AM 4:26

「君は涙が出そうなのをこらえてそれを読んだ
僕に伝えたのは乗り損なったバスを見送った後だった
君は必死で詩の続きを読もうとした
夜道を一人で歩きながら
雪が降ってきた
君を包む
君は光の雨を見る
そこで結晶が咲く
結晶の華の中に無垢な魂
それが君の本性の光だった」



   






AM 5:37

「ラップを切り刻む少年
そこに僕は男たちだけの詩集を編む一人の絵描きがそばにいるのに気づいた
君だった
僕は自分の弟を想起した
サイケデリックとグラムロックの狭間で魂があった
その混濁の中で僕は泳いだ
ファンクにたどり着く
だが彼も死んだ
君だけが真に死を悼んだ」



   






AM 6:48

「隣にいた
煙を吐いた
僕の紫煙
考えていた
さよならの時を
選ぶのは誰でもなかった
僕は道を突っ走り、夕暮れの先端に突き刺さる
緑色の小さな球体を拾う
君を見つけた
一つの魂が重なって落ちていくのを見送る君
君は真夜中の書き手だった
僕はその証言者だったんだ」




   






AM 7:59

「毎晩僕は待っていた
それはいつのときからかわからない
届いてきたのは今日の日を物語る詩だった
それはほぼ毎晩続いた
僕はその宛名が君だと気づいた
それは過去の物語
でも決して過去にならないと君は言った
物語が世界を行き続ける限りオンタイムで現在なのだと
それが君」



   






AM 8:32

「僕は待っている
何を待っているんだろう
ひどく切ない
こんな淋しいところで
何を待ち望むのだろう
あの人はもうすべてを知ったのかもしれない
何故なら絵の中に塗り込められたあの人の面積を僕は感じた
銃弾が面積を突き破る
混濁がキャンバスから引き出したもの、君だった」

   







   






   







  

名もなき26時間の人々

ツイッターの企画で幾人かの人々に名前を伏せてメッセージを送った。
それを本作に使用した。

作者ツイッター https://twitter.com/2_vich

名もなき26時間の人々

  • 自由詩
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-02-21

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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