日曜日
テーブルに置かれた皿には、ウサギに生まれかわった林檎たちが仲良く身をよせあっていた。耳すませば彼等のささやき声が聴こえそうな、その小ぢんまりとした可愛さに、思わず私のくちびるは綻んでいた。テーブルを挟んで私の目の前で腕を組む彼の頬にも笑窪がみえる。まるで、さっきのケンカはこれでチャラだね、とでも言いたげに。
「さ、食べよう」
キッチンから彼は2本フォークを取り、コトンと机の上に置く。そのフォークに彼からのごめんねの気持ちが込められている気がして、私は思わず俯いた。グッと力強く握り込めた私のこぶしが目に映る。意地っ張りな部分が顔を出してしまい、私は「ごめんね」が言えないでいる。
天邪鬼な私に対して彼は優しい。時にそれが、愛など持ちあわせてないからこそ向けられる嘘の優しさのように感じて苦しくなる。そう思ってしまう自分にしばしば呆れるが、同時に、素直に彼を信じてあげられない自分の中のトラウマとも寄り添って生きていきたいと思う。
「私、あなたよりもこの林檎の方が好き」
にやりとした顔で私は言った。ウサギになった林檎を美味しそうに頬張る彼に意地悪をしたくなった。
「意地悪しないで。俺は林檎よりも君が好きだよ。比べようもないくらい」
優しい声で彼はそう返す。そして目の前の林檎にとどめを刺すように垂直にフォークを突き刺した。サク、と締まりのない優しい音が耳を包んだ。私の望む言葉を彼はこんなにも簡単にくれるのだ。
今週も、日曜日が来たのか。彼と交わす会話で私はそれを実感することが出来る。私は彼が全てでは無い。心の中で何度も呟く。いつか彼が私の日曜日から姿を消してしまったとしても平気なように。私は泣かない。きっと。彼の匂い、声、体温、愛しさまでも忘れる準備は出来ている。
日曜日