想像
暗闇の中で妙に冴えてしまっている目を瞑り、私は彼の死に顔を想像する。
およそ二時間弱想像し続けていると気がつくと朝になっている。毎朝、どこまでが私の想像で、どこからが夢だったのか、酷い時には彼は実際に死んでしまっているのではないか、分からなくなり、不安になり、混乱してしまう。そう混乱しているうちに、昨晩はどんな彼の死に顔を見たのか、彼はどうして死んでいたのか、全て忘れていく。
ああ、これは全て夢だったのだと、彼は私の見えないところで呑気な笑顔で幸せそうに生きているんだろう、と安心し目元を枕にうずめて水分を取り、起き上がる。
私は毎晩彼の死に顔を想像することによって彼の生を実感していた。もちろん彼はそのようなことは一切知らない。
彼はきっと私の死に顔など想像しなくてもぐっすり眠れるし、朝目が覚めると涙がこぼれ落ちていることなどない。彼は私の想像の中では苦しい思いをし、私に救いを求めるが、実際の彼は私などいなくても生きていけるのだ。きっと私がいなくても彼は呑気に笑うのだろう。
きっと、きっと、見てもいない知りもしない事実を私は決めつけてしまう。彼に「私の死に顔を想像したことはある?」となど聞いたことはない。一度聞いてみようか。きっと彼は少し困った顔で「想像したくもないよ」と言うのだろう。私には彼の言動が容易く想像出来てしまう。
何故なら彼は、私の想像の中でしか生きていないのだから。
想像