詩の顔がみえるとき

詩の顔がみえるとき

   







   






   







  
 
「詩というあなたと隔てられた僕がここにいる。詩はもう一度僕を信じるだろう」



   







   






   







  
あたしはある絶望的な病を患っていた。


人の姿が詩に視えるの




いつからそれが視えてきたのか、わからない


   







   






でもその病は いつだってあたしを憂鬱にさせた





だって 詩はいつだって 



ありふれた世界の一行が



ありきたりの人々で完結する



独奏の 始まりから 終わりだった


   







   






かつて あたしの陳腐な人生には 陳腐な恋人がいた



いつも彼は 「素朴」という詩の足組みで あたしを待った



親切な彼だった でもあたしの大事な日々を退屈させた 


   







   






たまにあたしを 舗道でナンパして誘う男たちがいる



いつもあいつらは 「キザ」って詩の含み笑いで近寄るの



イケメンだけど 歯の浮くような形容しか言えないの 


   







   






あたしは 女友達と ランチを食べた



彼女は いつも 「恋愛」という詩のメイクをしてた



それは どこにでもあるようなメイクで



それは どこにでもいるように着飾っていた


   







   






満たされないあたしは なじみのセフレと時々寝た



イクときのペニスの固さったら いつも「官能」の詩だった



愛撫はとても詳細でエロかった イカせてくれた



でもレディコミの男女のように 会話は致命的に軽かった


   







   






言い寄ってくる男たちは 「自己満足」という詩を被ってた



口説かれるたびに あたしは いつも 思ったわ



その安っぽい口説き文句が 余命半年になって



絶望して 屋上から身を投げちゃえばいいのにって 



   







   







うちにかえって真夜中に ベランダに出て 空を覗いたわ



たくさんの詩が 雨のように降ってきた



ちがう それは 詩じゃなかった



「ポエム」という 雨だった



「ポエム」は パパのように 煩くて



ママのように 綺麗事を並べ立てて



世の中の偽善者のように ペテンの激しい雨だった



   







   






あるとき 交差点で 信号が青になるのを待ってたら



目の前で 一人の詩がダンプにはねられて即死した



あたしは その詩の死骸を直視できなかった



だってそれは ぐちゃぐちゃに壊れていたから



「難解」という詩だったと あとで知ったわ



あたしは 泣き出して その場を逃げ出した


   







   






いつもあたしはひとりぼっちだった



あたしは淋しく 視てきた詩の顔を 悪戯書きする







素 ( ´ⅴ`)ノ 朴



キ <丶`∀´> ザ



恋 (ノ´∀`*) 愛



官 凹))) 凸))))))) 能



自己 ━━━m9(^Д^≡^Д^)9m━━━━ 満足


ポ 。゚ヽ( ゚`Д´゚)ノ。゚(゚ `Д)ノ。゚ヽ(  エ  )ノ゚。ヽ(Д´ ゚)ノ゚。。゚ヽ(゚`Д´゚ )ノ゚。 ム


難 _| ̄|○ ⇒ _|\○_ ⇒ _ \○_ ⇒ ____○_ 解



   







   






いろんな詩の顔を視るたびに



それはあたしをからっぽのように



ひどく虚しく 哀しみを誘った 





あたしには 詩が書けなかったから





あたしの身体には  詩が どこにもなかった



顔にも 手首にも 二の腕にも お尻にも 膣にも・・・・・・・



   







   






あたし、いつものように近くのゲームセンターに行った



いつもは見かけない詩がたった一人 エアホッケーで遊んでたわ





あたしは驚いた



その詩には顔がなかったの





ううん、違う



詩を模っただけの あつらえの仮面がなかった



今まで どこにも 見たことのない本当の詩の顔だった



どこかで抱きしめられたような懐かしい感じがした





詩が 淋しそうだったから


   







   






あたしは 生まれて初めて



あたしから 詩に 話しかけた






「だれ?」





男は はにかみながら どもりがちに答えたわ





「詩に、  はぐ、  れた、  あり、  き、  たりの、  詩だ、  よ」


   







   






彼の言葉は 彼の正体を裏切った



彼という詩は どこまでも彼自身で



他の詩とは違ったの



その詩からは  感じた   今まで感じたことのなかったもの





詩は あたしと出会いたかったの


   







   






その詩の淋しさから



人恋しさのポエジーっていう 優しいシナモントーストの匂いがしたわ



その詩の求愛は



あたしの奈落まで降りてきてくれた言葉で 



ひとりぼっちだったあたしの魂に紫煙を吹き込んで語りかけてくれた




   







   






(きみは)



初めて見たその詩の赤ワインの微笑みから 音楽が聞こえてきたの


(こっちから)



その詩がカタコト鳴らす踵から あたしをモルヒネにするリズムが伝わった



(ぼくは)



その詩は一緒にタンゴを踏み刻んで 凍ったあたしを くるくる踊らせた



(あっちから)



その詩の口ずさむストリートアートが あたしの孤独な退屈を満たした



(ぼくらは)



その詩が共に堕ちてくれる遊園地は 負傷したあたしを癒してくれた



(であう)



その詩が毎朝描くハムサンドが 逃げてきたあたしに安らぎをくれたわ



(だって)



その詩が奏でる指先の先端には あたしにとって世界すべてが息をしてた



(あいしあう)



その詩の要塞のように密やかな心臓にある信念を あたしは真実だと決めた



(詩なんだもの)




   







   







あたしは その詩のセピア色のウェディングフォトみたいな腕に いますぐ駆けて帰っていきたいと思った



あたしは その詩の憂鬱なモンタージュを詰めた身体が あたしの唇と手足と震えと怯えにぴったりだと感じた



あたしの人生が その詩が撮った哀しい幸福な恋人たちを描く映画の 不幸せなハーピーエンドのなかにあったから 



   







   






ついに あたしは その詩と 恋に落ちた





それが 「あなた」という詩だった


   







   





あたしは あなたと 結ばれた



そして あたしは 詩を産んだの





それが 「あたしの詩」になった


   







   






   







   





あたしは 今日もこうして楽しんでいる





あなたの詩の生が 



いつか 



あたしの詩の生と 



心臓が停まるまで生き切ってくれることを。








今夜も



詩のあなたは       詩のあたしを



あたしたちの     リズムで


くるくる   踊らせてる。




くるくる  くる  くる くるくる  くる  くる くるくる  くる  くるくるくる  くる  くる



くるくる  くる  くるくるくる  くる  くるくるくる  くる  くるくるくる  くる  くる・・・・・・・・・

   







   






   







  

詩の顔がみえるとき

二人の女性が与えてくれたインスピレーションで生まれた詩。
マドンナを聴きながら書いた。

作者ツイッター https://twitter.com/2_vich

詩の顔がみえるとき

  • 自由詩
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-02-18

Copyrighted
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