セラピー
「どうしてだろう。どうしてなんだろう」
「なんだい」
「いつも、同じ夢を見るの」
「つづけてごらん」
「最初はスクランブル交差点のど真ん中に立ってるの。
そのことがわかった瞬間に、人人がこっちに向かってきて、私はその人の波に飲み込まれるちゃうの。
もう駄目だ、って思った瞬間に、次にわたしは海の中に漂ってて、ずんずんと海の底に飲まれていくの。」
「すると、どうなるんだい」
「私はどんどんと海の中に飲まれていって、底の底に沈んでいくの。
つぎは底の底。
こんどは底の底の底。
どんどんと底の底の底の底の底に沈んでいくの。」
「それで、きみはどうなった」
「底の見えない底に向かっていくの。
するともう考えるのも馬鹿らしくなっちゃって、気づいたら自分の首を締め上げようとしてたの。
でも全然苦しくならない。
力をどんどんどんどん加えていっても、どうしてか苦しくないの」
「それで」
「なぜだか知らないけど、いつの間にか私は、泣いてたの。
涙が溢れて止まらなかった。
そしたら本物の海の底が見えてきたの。
ああ、やっと地面に体をつけられる。
やっとたどり着くっておもってたら、目が覚めたの。
先生、私はなんで泣いたんだろう。
なんで自分のことを自分で殺そうとしたんだろう」
セラピー