BLUE
まだ知らない
「…誰」
「圭史。お前は?」
「ユイナ」
圭史と名乗った少年は、少し考えたあとにこう言った。
「わかった。ユイナ、とりあえず手にしてる蛇を下ろして」
「…なんで」
「なんでって…危ないから」
「危なくない。クリスはおとなしい」
少年はまた少しの沈黙の後話しはじめた。
「クリスって、その蛇のこと?飼ってるの?」
「飼ってない。家族」
「それって飼ってるってことじゃん」
「違う。飼うって言葉自体好きじゃない。それは…人間が飼って あ げ て る って聞こえる」
「確かに…。言い方が悪かった。ごめん、でも、それなら手を離してあげないと可哀想」
「手、離したら、ケイシに噛み付く」
それでもいいの?
そんな冷ややかな顔をする。
「それは…だめだね、離さないで。怖いし」
畏怖と興味。
様々な感情が入り混じり、圭史を支配する。
どんな子なんだろう。
どこに住んでいるんだろう。
そもそも人間なのか?
なにもわからない。
わからないこそ気になる。
なにを考えてこんな山の中にいるのか。
知りたい。
仲良くなりたい。
「ケイシ、何もしないから、ここから出てって」
「なんで?」
「危ないから」
「危なくないよ」
「…なんでそう思うの」
「だって女の子もいられるようなところが危ないわけがない」
「…そう。ケイシってバカね」
「バカじゃないさ…それでユイナ、君はどこに住んでるの?この山の中?」
それまで俺のことを見ることもなく、じっと木を見つめたり、クリスと見つめあったりしていたユイナが、ふと、こちらを向いた。
「…お友達ごっこ?」
「うーん。ちょっとハズレ。友達になりたい」
「そう。最初に言っておくけど、ケイシの言う 友 達 にはなれない」
「なんで」
「住んでる世界が違うから」
「俺、そんなに貧乏でも裕福でもないよ」
「そういう問題じゃない。今日は帰って」
「やだ」
「わかった、蛇を離す」
「待って、帰るよ」
蛇が噛み付いたらたまらない。毒蛇だったら死んでしまう。仲良くなるとか言ってられない。
「明日も来るよ」
「なんで」
「仲良くなりたいから」
「平和ボケした頭してるね。…来るなら、日が暮れる前に山の前にある家の大きな木の葉を6枚採ってきて」
「なんで」
「ケイシはなんでが好きだね」
「お互い様だよ」
ふん、と釈然としない様子だったが、最後まで蛇は離さなかった。
ユイナはバイバイと手を振っても振り返さず、ただじっと俺を見つめていた。
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