水中詩集
青い空は
往古の秘密を隠してどこまでも青く
白い雲は
市井の人の届かない夢を孕んで浮かぶ
空の底で生きる我ら
赤い魚
赤熱した金属で出来た魚が
のどかな港に
悠然とその姿を現したとき
海水はたちまち沸騰し
さながら地獄のようであったという
空
美術の時間、青空を描いた筆を
筆洗い用のバケツにひたすと
絵の具が水に広がり
透明な青をのぞけば
それはまさに空だった
白い絵の具を筆先につけ
水面に触れれば雲ができた
今日の天気は
晴れのちくもり
空を見上げると
大きな筆がおりてきて
雲をたらしていった
水没した時間
こんな曇天の朝は
町がいつもより青い
痛めた足を引きずる僕の
足取りはいつもより重い
水没した時間
呼吸を止めた僕の口は
ただ酸素、酸素、酸素と
声にならない欲求を述べる
5a.m.
午前5時の空は
水没を通り越して深海だった
探照灯が照らす道
熱水噴出孔のビル群
フクロウナギのトラック
発光生物たちが泳いでゆく
月の都
月光が照らす町は、海底だから
そこにいたら溺れてしまうよ
重荷を捨てて浮かんでおいで
月光が照らす町は、深海だから
そこにいたらチョウチンアンコウになってしまうよ
月の都に遊びにおいで
水中詩集
twitterに載せた詩のうち、水中をテーマにしたものをまとめてみました