侵入者
三題話
お題
「目玉」
「警報」
「赤」
家中に響く防犯アラームの音で、私は目を覚ました。
窓に取り付けていた安物の警報機の音だ。
つい先日空き巣の被害に遭って取り付けたのだが、こんなに早く活用されるとは思っていなかった。
もしかしたらこの家は狙われやすいのかもしれない。もしくは運がないだけなのか。
寝室が二階で良かった。
私はベッドから降りてドアノブに手を掛けた。
その時、鳴り響いていたアラームの音が止んだ。突然に訪れた静寂。
シンとした空間が、異常を醸し出す。
耳の奥にはアラームの残響。
ぐわんぐわんと頭の中に響いている。
唾を飲み込む音が、やけに大きく聞こえた。
私は。
そばに置いてあった木製バットを手に取って部屋から出た。
…
隣の部屋のドアを開けて、息子が寝ているであろうベッドの膨らみを確認して、私は音を立てないように階段を下っていった。
…
一階に降りるとなにやら物音が聞こえる。
真っ暗なリビングにある棚の前で、ごそごそと何かを手に取り見ている。
しゃがんでいて体格はよくわからないが、太ってはなさそう。
後ろからそっと近寄る。
私は手に持つバットを大きく振り上げて、黒い人影の後頭部を目掛けて思い切り振り下ろした。
鈍い音とともに声を上げずにその場に倒れこんだ人影。
両手には電気が走ったような衝撃。
ぞわりと疼く背筋に、私は激しく高揚していた。
うつ伏せに倒れこんだ人影の頭部に、更なる打撃を加える。
手は痛かったが、その行為は止まらない。
バットを振り上げるたびに撒き散らされる液体。振り下ろすたびに痺れる両手。
ふわりと風で膨らんだカーテンの隙間から差し込んだ月明かりで人影が照らし出された。
転がり出した目玉がこちらを向いている。
砕け散った頭部は今夜食べたマグロのたたきに似ていた。
「――――」
ソレが着ていたのはパジャマで、その服には見覚えがあった。
「――――、――――」
赤色が照らし出された舞台は、しかし一秒で暗転した。
頬を撫でた風が、とても冷たかった。
どうして、目の前に妻が頭から血を流して倒れているのか。
その時階段のほうから足音が聞こえてきた。
侵入者