時の足跡 ~second story~ 11章~16章
Ⅱ 十一章~命のゆくえ~
アンちゃんが来てから、今日で二日目・・、
今朝は独り部屋に居るのが辛くて、うちは居間へと降りた、気休めでもせめてふたりの近くに居たい、そう思えたから・・。
でもふたりの忙しない店の切り盛りにうちは、何もできずに、ただ見守るだけ、ちょっと情けなくもなるけど、それでもふたりの思いも気遣いも、
うちを癒してくれる、だから独りで居たくないってそう思える・・。
そんな忙しない今朝、うちの処へアンちゃんとヒデさんがふたり揃ってうちの前に顔を見せた、(えっ如何したの・・)
するとアンちゃんが、
「亜紀ちゃん?ちょっと出かけないか~?ヒデさんと話したんだけど、俺、今日の夜には、帰らなきゃいけないんだ~?だからさ~、せっかく休みで
来たのに、亜紀ちゃんとも楽しめないのも寂しいなって話しになってさ~、そしたらヒデさんが、せっかくだから店閉めて、これから三人で、
出かけようってことになったんだけど、亜紀ちゃんも、ずっと独り寂しいだろ~?だからどうかな?」
そう言うと二人揃って笑顔になった、突然の誘いに、ちょっと驚きで戸惑った、
「ええ~ほんと?ヒデさんお店はいいの?あたしは嬉しいけど、ほんといいの~?」
って言ったらヒデさんは
「構わないよ、靖が頑張ってくれたからな~?それに亜紀も何もせずに独りにさせてるのはって靖が気にしてくれてたからさ?だから亜紀が喜んでくれる
なら俺も行きたいし、どう?行かないか?」って言った、
思いもしなかった誘いに嬉しくなった、アンちゃんとこんなふうに出かける事なんてなかった気がする、そう思うと、どこか心弾んでた、
「ありがと~凄く嬉しい~、アンちゃん、ヒデさんありがと?宜しくね?」
って言ったら、ヒデさんが、
「そっか、好かった、それじゃ~行きますか?な~靖?」ってアンちゃんの肩を叩いて二人頷き合ってた、
そうと決ったら、支度をすませるのも、出るのも、そう時間はかからなかった、何処へ行くのかは聞かなかったけど、でも聞いたらなんだか
楽しみが減るような気がして、だから聞かずにアンちゃんのお勧めの場所へと歩きだした、
そして連れてきて貰ったのは、動物園、正直うちは驚いた、まだ、来た事が無かった場所だから、
するとアンちゃんは、
「此処には色んな動物が居るから退屈しなくてすむと思うよ?亜紀ちゃん動物、好きだろう?ヒデさんは?」
って聞かれて、ヒデさんと顔を見合せたら、ヒデさんが、「まあ嫌いじゃ~無いよな~!」って言った、
すると二人してうちの顔を覗きこんだ、
「え~あたし?こういうとこ来るの初めてなのよね~、だから動物も、鳥とか犬とか、猫とかぐらいしか知らないの、だからちょっと分かんない、
ごめんアンちゃん・・」って言ったら、ふたりが顔を見合せて噴き出して笑った、
どうして笑うのか分からなくて、それに恥ずかしくなって「笑っちゃ駄目~」って癖なのか叫んでた、
すると余計に笑い出して、なんだかそんな二人に、からかわれたように思えてそっぽ向いたら、ヒデさんが、
「ごめん亜紀?笑ったりして悪かったよ、?いや~、亜紀は、正直だなって思ったんだよ、まっそこが亜紀のいいとこなんだけどさ、な~靖?そうだよな?」
って言ったら、アンちゃんは
「そうだよ~亜紀ちゃんが知らないから笑った訳じゃないよ?それに知らないからって亜紀ちゃんが謝らなくてもいいんだよ、ごめんな?笑ったりしてさ、
だから機嫌直して、ね?」
ってアンちゃんは手を合わせて拝むように謝ってた、仕方ないから、
「分かりました~!だからもうそんなに謝らないで~?あたしもちょっとは悪いかなって、だから、もうおしまい!」
って言ったらまた笑ってたけど、そんなふたりにはついていけそうにもなくて、もう諦めた。
それから色んな動物を見て回った、すごくワクワクしたりして、怖いのもいたけど、可愛いのも居た、お猿さんを見てたら、アンちゃんがサル真似をして見せると、
ヒデさんが泣き真似をしだした、そんな二人の息の合ったコンビを披露してくれて、普段見せない二人のお茶目な姿が、何だか可笑しくて、嬉しさと混じって
大笑いしてた、そしたら一緒になって三人で笑いだしてた・・。
それから、次の動物を見ようと歩き出したら、うちは息苦しくなった、こんな時にって必死に堪えて思わず胸を押さえしまったら
ヒデさんに、
「亜紀?どうした?顔が真っ青だぞ?大丈夫か~?少し休もう~な?靖、何処か休むとこないかな?」
って言うとアンちゃんが、「あ~有るよ、行こう~!」
そう言われて、うちはベンチの有る場所で休むことになった、なんだかこんな事で二人に申し訳ない気がして、「ごめんね?でももう大丈夫、ありがと~」
って言ったら、アンちゃんが、
「俺、悪いことしちゃったかな~?亜紀ちゃんごめんね?でもこんなこと度々あったの?」って聞かれてちょっと応えるのに戸惑ってた、
でも何か言わなきゃって思っていたら、ヒデさんに、
「亜紀~?そうなのか~?ほんとのこと言ってくれよ?」って言われた、
「そんなんじゃない、あたしは大丈夫よ、ふたりとも心配し過ぎだって~」
って言うと、ヒデさんは、
「そっか、分かった、亜紀がそう言うならもう聞かないよ、靖、どうする?」ってアンちゃんに聞いた、
するとアンちゃんは、
「俺に振らないでくださいよ~、ヒデさんが決めたらいいじゃないですか~?」
って言うとヒデさんは、
「そうだな?それじゃ~、ちょっと潮風にでも当って来るか~な?」そう言ってニコッと笑って見せた、
するとアンちゃんが、
「あ~それ、悪くないかも!行きましょう~」ってグーサイン出してた、
うちには分からないけど、意気の合ったふたりを見てると仲のいい兄弟にしか見えないかなって思えた、そんなふたりを見てると血の繋がりなんて、やっぱり
超えられるんじゃないのかなって思う、だからきっとお兄ちゃんと血は繋がってなくても、分かり合えたら、繋いでいけるって思えた。
少し遠く感じたけど、海が見えてきた、空と海が虹のように広がって果てしなく広がった海、まるで空と海が繋がっているようにも見える、何処まで広がっているのかな
って思いながら辿りついた堤防の上に、三人で並んで腰を下ろして、海を眺めた、
そんな時ヒデさんが、
「亜紀?海は、はじめてだろ~?俺もそんなに来てはいないけどさ~、親父が、生きてる頃に、何度か、連れてきて貰ったことがあるんだ、けど、それ以来かな~、親父は
釣りが好きでさ~店以外では唯一の楽しみの一つだったんだよ、ほんと親父、海好きだったよな~、よくさ~釣ってきた魚、食べさせて貰ったよ、
でも、そんな親父が逝っちまってからは、しばらく来れなかったけどな、けど親父と思い出って言ったら海ぐらいでさ~?だからってわけでもないけど、
今の俺にとっては唯一の場所になっちゃったんだ、この海がさ?だから亜紀にも、一度は見せたいなってふと思い出したんだ・・、
なあ~亜紀?俺も靖も、亜紀の事、大事に思ってるんだよ~?亜紀が好きだからな、だからさ~独りで抱え込むなよ、亜紀が苦しい時は助けるよ、辛い時は支えてやる、
だからさ~な~?亜紀?ほんとは辛いんだろ?正直なとこおしえてくんないかな」って言った、
「あたしも大好きよ?ありがと、心配ばかりかけてごめんね?、ほんと言うと、少し辛いかな、でもね~?大したことじゃないの、すぐ治まるから、だからあたしは大丈夫、
それに、あたしはそんなに心配されるとかえって辛いの、あたしはして貰うばかりで何もできないから、だからね?そっちの方が一番辛い、何だかあたしって勝手言ってるね、
ごめんなさい・・」
って言ったらヒデさんは、空見上げながら・・、
「そっか~?分かったよ、なら約束してくれ亜紀?無理はしないってさ~?頼むよ、な?」って言われて、「約束する、ありがと・・」って言ったら、
アンちゃんが、
「それじゃ~砂浜に降りてみますか~?」って言うとヒデさんが「よし、行こう~亜紀?」って言うとうちの手を取って走り出した。
砂の感触は・・、サクサク音を鳴らして、走りずらいけど、心地よかった、寄せてくる波と追い掛けっこして遊んでたら足まで濡らしてた、それから砂の上に文字を書いてみた、
うちは大きな文字で「だいすき」って書いたらヒデさんは「だいだいだいすき」って書いた、
そしたらアンちゃんが、
「せかいいちだ」って書いてた、するとヒデさんは、「靖~それはないだろ~、次に俺が書こうと思ってたのにさ~」」って言った、
するとアンちゃんは、
「ヒデさんが、初めに書かないからでしょう~?これは早いもん勝ちなんだよ?」って言いながら満足げにニコって笑った・・、
うちには(どっちが年上なのか、これじゃ~わかんないよね?まるで二人とも子供みたい)って思いながら、海を見渡して見た・・・、
聞こえてくる波の音に、海の潮の香りが風に乗って吹き抜けて、今までになかった心地よさが嬉しくて、うちは胸いっぱい深呼吸してみた、
そんな時アンちゃんとヒデさんが、勢いに乗ってうちを持ち上げた・・、
「なななに?いやだやめて、下ろして~、もうきらい~きらいだからね~ほんとにきらい~」って言うと、
「ようし、それなら、下ろしてあげないからな~」って言い出して、「あ~ごめんなさい、大好きだから下ろしてください・・ね~お願い~」って言うと
やっと下ろしてくれた、
でもうちは悔しいから、海の水を、おもいっきりふたりに振りまいた、すると、
「悪かった・・、亜紀ごめん、うわ冷たい!許してくれよ~な?亜紀ちゃ~ん!」ってヒデさんが叫んで、アンちゃんが
「亜紀ちゃんごめ~ん悪かった~俺風邪ひいちゃうだろう~?」だって、そんなふたりになんだか嬉しくなって、「やった~!」って叫んだら、みんな一斉に笑いだしてた。
その間に、何時の間にか空は陽が落ち始めて、赤く染まってた、
ふたりは砂の上に寝そべって、うちは、ヒデさんの隣に坐って空眺めた、そんな時アンちゃんが、起き上がってうちの隣に坐ったら・・、
「亜紀ちゃん?病なんかに負けるなよ?俺達ずっと一緒だからさ、もう俺はなにも失いたくないんだ?なんかあったら飛んでくるよ、でも今の亜紀ちゃんは昔のように、
もう独りじゃないからな?それに今はヒデさんがついてるから大丈夫だって俺は思ってるけどさ?
絶対負けないでくれよな?ヒデさん泣かせないでくれよ?俺だって泣いちゃうかもよ?まあそん時はヒデさん怨むかも知んないけどな?俺、何言ってるんだろ、ごめん」
って顔を背けてた、
アンちゃんは少し涙ぐんでたように見えた、妹の事思い出したんだって思う、どんな言葉を繋いでもアンちゃんの心に届く言葉はうちには見つかりそうになくて、
ただいつものうちで、アンちゃんの気持ちに応えたいから・・、
「アンちゃん?ありがと!アンちゃんにはいつもいっぱい勇気貰って、いっぱい助けて貰って、ほんと、あたしすごい幸せ者だなって思う、だから負けたりなんかしないし、
泣かせたりしないよ、アンちゃんに怨まれないようにするから、ね?」
って言ったらアンちゃん、
「当然だよ~?怨むとしたらヒデさんの方がもっとだと思うけど、ね?でもほんと今日は楽しかったな・~」って言った、
するとヒデさんが、
「あ~俺もだ、最高だったよ!さてと、そろそろ帰ろうか?大分冷えてきたしな・・」って言うとアンちゃんが頷いて、帰り道を歩き出した・・、
アンちゃんとの別れ道で、ヒデさんが
「靖、お疲れさん?色々ありがとな?これに懲りずまた来いよ、な~?」
って言ったらアンちゃんは、
「ヒデさんこそ、お疲れ様でした~?また寄らせて貰いますよ、亜紀ちゃん?またね?それじゃお二人さん?・・」そう言って、帰って行った・・。
なんとなく寂しい気もして、アンちゃんの後ろ姿、見送ってたら、ヒデさんに、
「亜紀~?寂しいか~?」
って聞かれて、うちは素直に、
「少しね?賑やかだったのが、静かになっちゃうんだな~って思ったらなんだか、ちょっとね・・」
って言ったらヒデさんは、
「そうだな~、俺も少し寂しいかな?あいつが言わなかったら今日はずっと店の中だったからな~、俺もいい気晴らしが出来たし、あいつに感謝だな、な~亜紀?」
ってうちの顔を覗き込むと笑って見せた、
「うん、感謝してる、ヒデさんにもね、ありがと?あたしすごく楽しませて貰ったから・・」
って笑って返したら、ヒデさん、
「俺もだ、楽しめたよ、たまにはいいもんだな~こういうのもさ?また行こうな?亜紀・・」って言って顔を覗き込んできて、
「うん!きっとね?・・」って言ったら、ヒデさんは肩に腕を回してくれた、だからうちはヒデさんの背中を思いっきり抱きしめてあげた・・。
アンちゃんが帰った日から三日が過ぎて、つもの生活に戻ってヒデさんとまた一緒に店に出るようになった、
うちの事何かと気にして、合い間を見ては、休みを入れてくれる、ヒデさんの気持ちが嬉しいだけに、でもやっぱり心苦しいかなって思う、でもアンちゃんと
約束したから、だれも悲しませないって、だから、これでいいんだって、うちは自分に言い聞かせた。
そんな思いの先で不意に思いだしたお兄ちゃんのこと、
「ねえ~ヒデさん?お兄ちゃんに逢いに行きたいって思うんだけど、ヒデさんいいかな~?」
って言うとヒデさんは、
「そうだな、けど亜紀は大丈夫なのか~?亜紀がいいなら、明日にでも逢いに行ってみようか、な~?」って言ってくれて、「ありがとう・・」って返したらヒデさん、
笑顔を見せた・・。
それから一周間が過ぎた頃に、ヒデさんとお兄ちゃんの住む町、そしてうちの故郷に来た・・・、
ヒデさんは、幸恵さんから、お兄ちゃんの居る病院の名前も地図も貰ってた、うちはそんなこと何も知らなくて何時の間にって思ったけど、聞くのは辞めておいた、
聞かなくても分かる気もしてたから・・。
そして何とか辿りついた病院は、こじんまりとした病院、中に入ると、診察を待つ人は、殆んどがお年寄りばかりだった・・、
ヒデさんに、「亜紀~?、行こうか?」って言われて、うちはお兄ちゃんの居る病室に向かった・・、
お兄ちゃんの病室は二階にある個室、ちょっと驚きながら扉の前に来た時、どんな顔したらいいのかなって迷った、なんて言えばって、でも、うちは扉を叩いた、
そしたら中から声がして、ヒデさんと顔を見合せたら、ヒデさんが、「行こう~?亜紀・・」って言われて、中へと入った、
中へ入って見るとお兄ちゃんは、起きて窓の外を眺めてた、
「お兄ちゃん~?久しぶり?具合、どうかな~?幸恵さんに聞いたの、もっと早く来たかったんだけど、あたしも・・、ごめんねお兄ちゃん?」
って言ったらお兄ちゃんは、少し驚い顔で、
「そうか~幸が、でもどうして来てくれたお前が謝るんだ~?よく来てくれたねカナ?そう言えばお前、子供は・・?駄目、だったのか?そうか~そう言う事か・・、
仕方ないな・・、まあでもまた作ればいいよ、でも驚いたろう~こんな私は・・、まっ俺も病気には勝てなくてな、駄目だな~、ああそうだ~ヒデ?だったよな~?わざわざ
ありがと、嬉しいよ、此処に来てくれるとは正直思ってなかったんだ、だから素直に嬉しいありがとう」
って少し照れたようにうつむいてた、
見ない間に随分弱気になってしまったように思える、でも初めてお兄ちゃんに「ありがとう」って言われた、こんなに身近にお兄ちゃんを感じたこと無かったように思えた。
するとヒデさんが、
「そんなこと当たり前なんですから、お礼なんて言わないでください、自分も喜んでもらえて嬉しいですよ・・」って笑った、
するとお兄ちゃん、
「そっか、ありがとう・・」って言いながら、ちょっと照れてた、
それから少しの空白が流れて、そんな時ヒデさんが、「お兄さん?あの・・少し聞きたい事があるんですけど、いいですか~?」って言った、
するとお兄ちゃんは、
「ああ~いいよ?どんなことかな?俺の知ってる事なら・・」って言うと、
ヒデさんは、
「ありがとうございます、あの~カナのお母さんの事でちょっと、カナを連れてくる前は何処に居たのかお兄さん、聞いてませんか?・・」
って切り出したら、お兄ちゃんが急に、
「ああ~静さんね?」って言って考え込んでしまった、そして、思いついたのか顔を上げるとお兄ちゃんは、
「あ~聞いた事があったな~、もう~随分昔の事だから、思いだせないで居たんだが、確か~、病院の看護婦してたって言ってたかな?でもどうしてまたそんなこと?
それ聞いたら何か有るのか~?」って聞かれてヒデさんは、「すみません、実は~」って事情を話しだした、
そして聞き終えると、お兄ちゃんは、
「そうか~そんな事が~、静さんはあまり自分の事は話したがらなかったからね~、ただ静さん、自分の所為でカナには申し訳ないって言ってたよ、あの時の俺には、
理解できなかったけど、そうか~、そう言う事か・・」って言うとお兄ちゃんはまた黙り込んでしまった、
するとヒデさんは、
「すみません、こんな事、此処へ来て話す事でもないのにすみません、それだけ聞けば十分です、ありがとうございましたこれ以上は、身体に障ります、すみませんでした・・」
って言うとお兄ちゃんは、
「ああいや~いいんだよ?君が気にすることはないんだ、今さらだけどカナに俺は、まあ~こうなってしまっては君たちに俺は、なにもしてやれない、ヒデ?カナの事、
宜しく頼みます、こいつ泣き虫で思った事は一直線で、でも思いやりは人一倍あると思う、それは母親譲りなんだろうけど、君はほんとにカナを大事に思ってくれているようだ
からな~、俺はこいつに、辛く当り過ぎてたようで兄貴としては失格なんだよ、だから頼みます・・」って言った・・、
お兄ちゃんはずっとうちの事を見てくれてたんだ、知らなかった、初めて見せたお兄ちゃんの素顔、なにも分かっていなかった、
何も見えていなかったのは、うちなのかもしれない、お兄ちゃんが、初めて見せた笑顔、やっと見せてくれた、
血の繋がりを超えて、いつか、いつの日か、お兄ちゃんと手、繋ぎあえるって願ってた、でももうお兄ちゃん、そう思えてきたらうちは涙が溢れて止まらなかった、
そんなうちにお兄ちゃんは、
「カナ?泣き虫は相変わらず変わってないな~お前は?悪かったな?今まで・・、お前には何一ついい思いをさせてやれなかった、寂しい思いばっかりさせてしまったな~?
すまなかった、でもカナ、強くなれ?お前は、優しすぎるからな、静さんもそうだったよ、こんなにも似るものかって最初は俺も驚いた、
自分の気持ちを閉じ込めてしまう所もそっくりだ、でもカナ~?もうお前は一人じゃない、彼を支えてやりなさい、幸せになれよカナ?今日は来てくれてありがとう~?
今まですまなかったな・・」
そう言うとお兄ちゃんは、眼がしらを押さえてた、
「ありがとお兄ちゃん?今まで苦労かけてごめんね?ほんとにごめんなさい・・」って言ったらお兄ちゃんがうちの手を握ってくれた、やっと繋いでくれた手、
なんて暖かいんだろうって思う、お兄ちゃんはうちの髪を撫でて涙を拭いてくれたら「頑張れ?カナ」って言った。
うちは、また涙が溢れたらもう止められなかった、お兄ちゃんの優しさが寂しさがうちの心の中をいっぱいにしてた・・。
するとお兄ちゃんは
「ヒデ?君には色々教えて貰ったよ、実の弟でも、こうはなかったろうな?ああいや~悪い意味じゃないんだ?恥ずかしい話し、親父も、俺には意見する事も無かったからな~?
初めてだったんだ俺には、でも、いい刺激になったよ、ありがとう~?何言ってるんだろな俺は、ありがと?宜しくなヒデ?・・」
そう言いながら初めて見せるお兄ちゃんの照れ笑い、
するとヒデさんは、
「いやっ、色々生意気言ったようですみませんでした、ほんと恥ずかしいな~、こちらこそ宜しくお願いします・・」
って言うとヒデさんまでが、なんだか照れてた・・、
うちには男の兄弟って、建兄ちゃんと慎一兄ちゃんの間しか見てないけど、でもヒデさんとアンちゃんの関係も兄弟じゃないけど、仲のいいし兄弟のように思える、
色んな形があるんだなって思う、それを考えたら、血のつながりが無くても、それにこだわることなんて無いって事、今うちは教えて貰ったように思う・・
病に倒れてからお兄ちゃん、何処か温和になったように思う、でもそれは幸恵さんのお陰かもしれない、もしかしたらお兄ちゃんは、自分の病気の事、もう気づいているのかも
しれないって思った、それでも生きててほしい、いつまでもずっと、やっと繋いだ手は離してほしくないから・・。
「お兄ちゃん?あたし強くなるよ、だからお兄ちゃんも病気になんて負けないでね?あたし何度でもお兄ちゃんに逢いに来る、だからお兄ちゃんも負けないでね?・・」
って言ったら、お兄ちゃんは、
「カナありがと?でも駄目だ!言ったろ~?お前はもう一人じゃない、分かるな?俺の事はいい、家庭を大事にしてくれ?分かってくれるよなカナ?私はお前の気持ちだけで
十分だ、もう帰りなさい、ヒデ?今日はほんとありがと?色々話が出来て楽しかったよ、カナの事宜しく頼むな?」
って言ったらヒデさんは、
「はい、それはもちろんです、お兄さんもお身体、お大事になさってください、それじゃ・・」そう言ってヒデさんは、うちの肩を叩いて、「行こう・・」って言った、
でも、お兄ちゃんは、頑張るとは言ってくれなかった、やっぱり自分の病気の事、いやだ、そう思ったら、
「お兄ちゃんの気持ち、分かった、なら約束して?病気になんて負けないって、負けたりしないで、ね~お願い?お兄ちゃん・・」
「カナ、分かった、分かったよ?だからもう、泣くな!俺は大丈夫だから、心配はいらないよ、わかってくれるならもう泣かないで、ほら~ヒデさん、待たせちゃかわいそうだろ?
、行きなさいカナ・・」って言うと差し伸べた手を軽く叩いて離した・・、
そしたらヒデさんに「カナ、行こうか?・・」って言われて、お兄ちゃんに、さよならをして病室を出た・・。
Ⅱ 十二章~記憶の欠片~
風が吹き抜けてうちの頬を撫でた、重く感じる身体は、胸の痛みを更に辛くして、息がつまりそうになる、空は澄み切っているのに・・、
やっと繋ぎ逢えた、やっと見せてくれたあの笑顔、思いはいつも苦しくて、時間を戻せるなら戻したいって思う、お兄ちゃん、大好きだから、
だから、繋いでくれた手、いつまでも離さないでほしい・・。
お兄ちゃんの居る病院を出て帰りの道を歩き出したら、ヒデさんに、
「亜紀~?大丈夫か?少し休んでいこうか~な?」って、一度来たことのある旅館に、宿を取った・・、
懐かしくも思えた、あの時は違った意味で此処に居た、うちは幾つの時を過ごしてきたんだろうって思う、ヒデさんに、支えて貰って、
勇気づけられてた、その頃には思いを寄せてた、なにもがうちの記憶の中で生きてる、苦しい思いも楽しい思いもみんな。
旅館について部屋へ入るとヒデさんは、障子窓を開けて空を眺めてた、うちは壁に背をして坐りこんだ、気がつくとヒデさんはいつの間にか
うちの隣に坐ってた、
するとヒデさんが、
「兄貴っていいもんだな~、俺にも兄貴が居たんだよ?亜紀には言ってなかったな?ごめん、でも俺がまだ幼児の頃でさ~、
身体が弱くて死んじまったらしんだ、だから俺には居たっていう実感が無いんだよ、でも亜紀~?好かったな~?お兄さんと分かり合えて、
血のつながりが無くったって、あの人は、亜紀のお兄さんだよ、亜紀~?先は分からないんだよ?どんなに医者が予告しても分からないさ、
だからさ俺は奇跡を信じたい、今を大事にしたいと思ってる、亜紀はそう思わないか~?分からない先を悲しむより今を精一杯生きて楽しく
生きたいってさ~俺はそうありたいって思う、な~亜紀?俺は、亜紀の事が一番好きだ?俺にとって、家族って呼べる人は、もうこの世には、
亜紀しかいないんだ?だから今を大事にしたいって思ってるよ・・」ってうちの肩を抱き寄せた、
うちは、ヒデさんの寂しさも、苦しさも、なにひとつ見ぬけていなかった、ヒデさんの優しさに甘えて、ヒデさんにすがるだけで、何も・・、
なんて情けないんだろ~そんな自分が遣りきれなくて涙が溢れた、ヒデさんをひとりぼっちにさせてるのはうちのほう、一番寂しいのは
ヒデさんなのに、何も分かってなかった・・、
「ごめんねヒデさん?あたし何も分かって無かったね?あたしは傍に居ながらヒデさんの気持ち何も分かってなかった、ごめんなさい、
あたしはヒデさん、独りになんてしない、悲しませたりしない、だから、ヒデさんと一緒なら奇跡も信じる、ずっと一緒だからね、ごめんね・・」
って言ったら、うちはまた泣いてた、
するとヒデさんが、
「亜紀~?いいんだよ?俺がどうかしてたな、そんなつもりで言ったんじゃないんだけど、かえって気にさせたみたいで悪かったな?、
泣くなよ?でも亜紀のその気もちは、俺は素直に嬉しいよ、ありがとな・・」そう言ってくれたヒデさんに、少しだけ笑顔が戻ってた・・。
翌朝、目が覚めた時、ヒデさんは窓の外眺めてた・・、
でもその後ろ姿が何だか寂しく思えて、うちは、思わず抱きついた、自分でもよく分からないけど、ただ、もう苦しませたくないって思ったから・・、
するとヒデさんは驚いた顔で、うちを見て、
「亜紀、どうした~?なに具合でも悪いのか~?」って聞かれて少し気落ちしちゃった・・、
「違うよ?ヒデさんが寂しそうだったから元気ずけようかなって思っただけ!でもヒデさん気にしてばかりなのね?それはあたしの所為だから
仕方ないのかもしれない、ごめんね?でもあたしは、ヒデさんが教えてくれた、奇跡信じるって決めたから、大事にするね?
今もそして、ヒデさんも、だからあたしは大丈夫よ?ヒデさん独りになんてしない信じて?ずっとヒデさんの傍にいるから,ね?」
って言ったら、ヒデさん、苦笑いしながら、
「亜紀~?今朝の亜紀は凄くいい顔してるな?ありがとな?俺も大事にするよ、今もそれから亜紀もな?よう~し、亜紀?せっかくだから山、
行こうか?な?」って言い出した・・、
「ヒデさんもしかして、ずっと山のこと考えてたの?」って聞いたら、
ヒデさん少し笑みを浮かべながら、
「いや~そんなことはないさ、亜紀のいい顔見たら、思い出したんだよ?なんだか亜紀とまた、登りたくなってさ?そしたら奇跡も呼び起こせる
気がしたんだ?甘い考えだけどな?・・」って笑ってた、「そうね?行こうか?ねえヒデさん?・・」って言ったら「ああ~行こう・・」
ふたりで登るのは、久しぶりかもしれない、サチとアンちゃんとそして今ヒデさんとやっと二人だけで山へと登りだした、
抜け道を通って辿りついた山の奥へ、静かな空間に、小枝のさえずりが、気持ちまで穏やかにしてくれる・・、
「ヒデさん、あたしね~?此処に来る時はいつも泣いてたの、でもね~?そんな時アンちゃんに教えて貰ったことがあるの、
辛い時悲し時はこの木の頂上で眼を閉じて大きく深呼吸すると元気になれるよって、
あの頃は、どんなにやっても、悲しくなるだけで元気貰えなかった、その時のあたしは、その意味なんて何も理解できてなかったの、でもね?
ヒデさんと、初めて此処へ来て一緒に登った時、ヒデさんに気づかせて貰ったのよ~?ヒデさんが教えてくれたの?
そしたら、あたし、この木の頂上で、笑顔になれた、風の音も、風になびく小枝の音も全部があたしに、元気くれてる、そう思えるようになったの、
あたしがお守り作ったのはね~、この大木のように強くありたいって、そう思ってたからなの、だからくじけそうな時いつも握って祈って
そうすると、不思議と元気になれた、だからその意味で言うと此処は、あたしにとって元気の源かもしれないって思う、
でも今のあたしはヒデさんが居なかったら、笑顔になれなかった、アンちゃんが教えてくれた意味も、知らないままだったって、そう思う、
ありがと~ヒデさん?
だから、今度はふたりで一緒にやろう~?元気貰えるように、くじけないように、あたしの分も全部ヒデさんにあげる、そしたらヒデさん・・・、
あっごめん?何言ってるのあたし、こんな事、あたし可笑しいよね?ごめんなさい」
ちょっと今日の自分が、らしくないって思えた、思いが言葉になって先に走りだしたら、何を言い始めてるんだろう、そんな自分に気がついたら、
もう何も言えなくなった、
するとヒデさんは、
「いや~?可笑しくなんかないさ、俺は嬉しいよ、ありがとな?亜紀があの時の事覚えててくれた事も、それに、そんな風に思っててくれた事も、
俺は最高に嬉しい、だから亜紀の気持ち大事にするよ、亜紀~?一緒にやろう~か、な?」
って、うちが頷いたら二人で登り始めた、
でも途中から辛くなって、息苦しくなって、少しの間動けずに居ると、そんな中をヒデさんは先に着いてた、するとヒデさんに、
「亜紀~?どうした、辛いのか~?俺が先に着くなんて無い事だろ~大丈夫なのか~?」って聞かれた、
なんとか治まりだして登りだした時、
「大丈夫よ~!ちょっと一休みしてただけだから~!今行くから~」って言うとヒデさんは「分かった~、ゆっくり来なよ~!」って叫んだ・・、
やっと登りついたら、ヒデさんはうちの顔を覗き込んで「ほんとに大丈夫なのか~?無理させたな俺、ごめん亜紀・・」って謝ってた、
「いやだヒデさん、そんなんじゃないの~?無理はするなって言ったのはヒデさんでしょう?だから休みながら来ただけなの?
それに来たかったのはあたしも一緒なの?だから謝ったりしないでよ、ね?」って言うとヒデさん「そっか・・」って笑ってた・・。
ふたりで木に寄りかけて腰を降ろしたら、ヒデさんが町の景色を眺めながら、
「亜紀~?俺の元気は亜紀がくれてたんだよ?亜紀は泣き虫だけど弱虫じゃない、それはきっと此処にあったんだって俺は思うよ、それじゃ亜紀?、
やってみようか?」って言われてうちは頷いた・・、
そしてふたりで眼を閉じた、そしたらお兄ちゃんの笑った顔と、ヒデさんの笑った顔が見えた、吹き抜ける風に何処か暖かいもの感じて
うちはゆっくり眼をあけた、するとうちの眼の前でヒデさんが
「亜紀~、ありがとな・・」ってうちはキスされた、いきなりのキスに自分の顔が赤くなっていくのがいやで空に眼を移してしまった・・、
一緒になっても、改まってされるのは、やっぱり恥ずかしい、何も言えなくなる、こんなうちは、やっぱり可笑しいのかな・・。
吹き抜けてく風は、町に木枯らしが舞って、もうすぐ冬が来ると風が伝えているかのように、すり抜けた。
いつもと変わらない朝、店を開けてうちは空を仰いで見た、そしたらヒデさんも隣で空を仰いでた、なにも言葉も交してないのに、一緒になって
大きく深呼吸して伸びをしてた、何も言わなくても息が合っちゃったら何だか可笑しくてふたりで顔を見合せたらふたり笑いだしてた。
お兄ちゃんに逢いに行ってから、早くも一か月が過ぎて、もう街の木々は色付きはじめてた・・、
そんな日の夕暮れ、おじさんが、顔を見せて、
「こんばんわ~?どもヒデさん?亜紀ちゃん元気かな?あれから待ってたんだよ?まだ決心つかないのかな?ヒデさん~後でちょっと話し
聞いて貰えるかな?」
って言っら、ヒデさんは、「あ~はい、いいですよ~それじゃ~後で・・」って言った、
それからいつもより早めの店じまいをすませてヒデさんは「お待たせしました~」そう言って椅子に腰かけて隣にうちの椅子を用意してくれた、
するとヒデさん
「何ですか~?話しと言うのは・・」って切り出した、
するとおじさんは、
「あ~すまないね~?実は亜紀ちゃんの事なんだがね~?ヒデさん、どうだろ~、一度、病院へ来て診て貰うというのは・・」って言い出した、
するとヒデさんは、
「ああ、それは俺も考えてはいますけど、でもどうしてそこまでして亜紀の事を・・?」
って聞くとおじさんは苦笑いしながら、
「ああ~いや~私も職業柄、亜紀ちゃんのこと、ほおっておけなくてね~?知らない仲でもないし、私は亜紀ちゃんが娘のように可愛いいんだよ?
お節介かもしれんのだが、少し世話をしたくなってね~?それでどうかな、近い内にでも・・」って言った、
するとヒデさんは、
「そうですね?あ~あの?経ち入った事聞きますけど、いいですか?」って言うと「ああ構わないよ、なんだい?」って少し戸惑っているように見えた、
するとヒデさんは、
「あの~娘さんを探しているとおっしゃってましたよね~?それと奥さんの方も・・・」
って聞いたら、急に顔色が変わった、
「ああ~そうだよ、何?何か知っている事でもあるのかな?好かったらぜひ教えてもらえると嬉しいんだが?ヒデさん何か知ってるのか?」
っておじさんは乗り出してた、
するとヒデさんは、
「あのその前に、確かめたいんですけど?あの~奥さん、看護婦されてました~?」
って聞くと、おじさんは更に乗り出してきて、
「あ~女房は看護婦だったよ、身ごもってから辞めたんだ、身体も丈夫な方ではなかったからね~何なにか分かった事でもあるのか?ヒデさん?何か
知ってるなら教えてくれ、静は今何処に?ヒデさん、頼むよ~教えてくれないか~?」
そう言ってヒデさんに手を合わせた、ヒデさんは、
「亜紀~?話していいかな?」って聞かれた、でもどうしよう、分からない、うちは応えられなくて戸惑ってたら、
ヒデさんは、
「静さんは、亜紀のお母さんなんです、亜紀の本当の名前は・・」
って言った時うちは咄嗟に
「カナです、あたしの本当の名前、カナっていいます、でも名字は知りません、あたしのお母さんはあたしが幼児の頃に肺炎で亡くなったって
聞きました、あたしはお兄さんに育てられたんです、だからお母さんの顔も知りません、ただ知り合いの手助けでお母さんのお墓を探して貰えました、
お墓に書かれてた名前には、名前だけでなにも・・、住職さんに聞いたら、お母さんの遺骨と名前の書いた手紙にお金が添えられて、お寺の前に置かれて
いたそうです、入っていたお金を元にお墓をお寺の方で立ててくださったって聞きました・・」
うちの頭の中は空っぽだった、ただ話さなきゃってそう思ったら夢中で話してた、良かったのかなんて解らない、でも止まらなかった、
一気に話し終えたら、前身の力が抜けて行くのが分かった、
するとおじさんは、
「ええ~亜紀ちゃん?カナ・・ちゃんなのか?どうしてそれを話してくれなかったんだい~?どうしてもっと早くに、それじゃ~もしかしてあの時、
私に住所聞いてきたのは、その所為だったんだのか?」っておじさんは顔を強張らせてた、
するとヒデさんは、
「あの~?静さんの写真とか有りますか?有ったらお借りしたいんですけど、確かめたい人がいるんです、お願いします・・」そう言って頭を下げた、
するとおじさんは、
「ああ~写真ね~?あ~有ったと思うが、大分古い写真だと思うがそれでも構わないかな?・・」って言った、
するとヒデさんは、
「ええ~それでも構いません、すみませんがお借りしたいんです・」って言うと「ああ~分かった、すぐにでも持ってこよう~」そう言うと、
店を出て行ってしまった・・。
それから二時間が経った頃におじさんは息を切らせながら戻って来た・・・、
「すまないね~?少し遅くなったかな?ヒデさんこれだよ?もう色あせてしまってはいるがね~これはカナを身ごもる前に撮った写真だ、だがカナを
産んでからもそんなに変わってはいないよ、私の知る限りではこのまんまなはずなんだ・・」そう言って写真を見せてくれた・・、
するとヒデさんが、
「亜紀~?亜紀に似てるよ、よく見れば似てる、亜紀にそっくりだよ~、な~亜紀?この写真?お兄さんに見て貰おうと思うんだ、いいよな?
お兄さんならきっと分かるはずだよ、な亜紀?・・」って聞かれて「そうね・・」って言ったら、
ヒデさんは
「すみません、それじゃ~これお借りします・・」って言うとおじさんは、「あ~宜しく頼む・・」そう言って頭をさげると
うちに向き直って、おじさんは、
「亜紀・・ちゃん?今だから話すが、正直な気持ちを言えば、君が私の娘なら、いや、私は亜紀ちゃんを初めて見た時から、静の面影がずっとあってね?
どうにも亜紀ちゃんが気になってたんだよ、ほんとに私の娘ならって何度もそう思って来たんだ、だから君の身体の事、人ごとに思えなくてね~?
亜紀ちゃん?一度検査だけでも受けて診てはくれないか?後悔しない為にも・・、な~ヒデさん?亜紀ちゃん?そうしてくれ・・」
って言ったら、ヒデさんは黙ってしまった、
「あの~?検査だけでいいですか~?あたし病院には入りたくないんです、検査だけならその事を約束して貰えるならあたし、行きます・・」
って言ったらおじさんは、
「仕方ないね、分かった約束しよう~?ヒデさん、それで納得して貰えるかな?」って言った、
でもヒデさんは、何も応えてくれなくて、いつものヒデさんらしくないって思った、「ヒデさん~?どうしたの?ヒデさん~」
って言うと、ヒデさんは、
「ああ~悪いな、亜紀がいいのなら俺は何も言う事ないよ・・」って言った、
するとおじさんは、
「そうか、好かった、それじゃそう言う事で、ありがとう~邪魔したね?ヒデさん宜しく頼むよ、すまなかったねそれじゃ・・」
そう言って帰ってしまった。
それでもヒデさんはうつむいたままで身動きもせずに坐りこんでた、ヒデさんらしくないって思う、
「ヒデさん~?あたし、なにか悪いことしたの?ね~ヒデさん~?何か言ってよ~お願いだから?・・」うちは耐えきれなくて、泣いてしまったら、
ヒデさんは、
「亜紀~?ごめん泣くなよ?ごめん、少し考え事してて悪かったな?亜紀?明日お兄さんの処へ行こう~、な?確かめにさ?・・」
そう言ったきり、またヒデさんは口を閉ざしてしまった・・。
Ⅱ 十三章~親子~
佇んだままのヒデさんの傍にうちは涙も乾いて、ただヒデさんの笑顔を待ってた、
なにがヒデさんをこんなふうに変えてしまったのか分からない、あの時うちの話しをしてただけなのに、もしかしたら、うちの所為なのかもしれない、何時の間にか考える事も空回りしだして、応えの見つからなくて、遣り切れなさに、乾いてたはずの涙がまた溢れだしてた、
そんなうちに、少しだけ開いたままの窓の隙間から、冷たい風を運んで吹き抜けたら、うちは思わず身を震わせてしまった、
するとヒデさんが、
「亜紀、寒いのか~?ごめんな・・」そう言ってうちを抱き寄せて温めてくれた、
思いがけないヒデさんの言葉にうちは思わず抱きついた、なにより嬉しかった、よかった、そう思ったらうちは泣いてた、
するとヒデさん、
「亜紀~泣いてるのか?身体は平気か~?ごめんな?」
って笑ってくれた、
「ヒデさん~?ずっと一緒だよ?、なにがあっても、ヒデさん独りになんてしない、約束だから・・」
って言ったらヒデさん天井を見つめて、
「ああ、そうだな?ずっと一緒だよな俺達、ずっとさ・・」
そう言いながら自分に言い聞かせるように、何度も繰り返してた、そんなヒデさん見てたら、うちは何も言えなくなった、
すると急にヒデさんが、
「亜紀~?お兄さんの所、行こうか?確かめないとな?俺はもう大丈夫だ、ありがと」って笑顔を見せた、
今度はほんとにヒデさんだって思えたら、何だか嬉しくて、「そうね、行ってくれるのよね?ありがと~あたしの為に・・」
って言ったらヒデさんは
「何言ってるんだよ?当たり前のことだろう?行こう~、な?」って言われて「うん・・」って頷いたらまた笑顔をくれた・・。
そして翌朝、また来てしまったお兄ちゃんの居る病院へ、お兄ちゃんに確かめて貰いたくて・・・、
預かった写真のこの人がうちの本当のお母さんなら、あの人はうちの本当のお父さん、思いは何処か気持ちに追いつけなくて、空回りしてた、
それでも確かめたい、ただその想いだけでうちの心の中満たしてた、
ヒデさんとお兄ちゃんの病室の前に来たら、幸恵さんに出会った、幸恵さんは、
「あら~カナさんにヒデさん、でしたよね~?先日は見舞いに来て下さったとか、遠くから何度も足を運んで頂いて、ありがとうございます?
お陰さまであれから慎一さん、体調がいいんですのよ?さあ~どうぞ?」そう言われて幸恵さんの案内で病室の中へと入った
ほんとお兄ちゃん、前より顔色がいいって思う、幸恵さんの言ったとうりだって思えた、
「お兄ちゃん?又来ちゃいました、今日は顔色よさそうで好かった~」
って言ったらお兄ちゃんは、
「また来てくれたのか~?此処までは遠いだろう、あんまり無理をするなよ~」
って言うと幸恵さんが
「ああお気になさらないで?こんなこと言ってますけど本人はこれで嬉しいんですのよ~?あなた~?素直に喜んだら?さ~カナさん、
ヒデさん、どうぞ~?せっかく来てくださったのにごめんなさい?私はちょっと出て来ますわね?ご一緒できませんけれど、でもごゆっくり
してらしてくださいね・・」
そう言ってお兄ちゃんと顔を見合せると頷き合って、幸恵さんは病室を出て行ってしまった・・。
うちは、少し戸惑ってしまったけど、でも・・・、
「お兄ちゃん?今日来たのはお兄ちゃんに見て貰いたい物があって来たの・・」って、うちは仕舞ってた写真を出して
「これ・・・」って差しだした、
するとお兄ちゃん、少し驚いた顔でうちの顔と写真を見返して、その内、写真に見入ってしまった、
するとお兄ちゃんが、
「お前、これを何処で?まっよく見つけたもんだ、カナ~?お前、この人がお母さんだって知ってたのか~?随分古いがこれは~、間違いない
静さんだよ、まあ~俺が知ってる静とあまり変わってないよ、しかし驚いたな~?でもどうして?・・」
って言いかけた時、ヒデさんが、成り行きを全部話してた、
するとお兄ちゃんは、
「そうか~、それなら間違いないだろう、それでカナの気持ちはどうなんだ?事実を知ってどうするつもりでいるんだ~?」って聞かれた、
でもうちは考えもしなかった問い掛けに、戸惑ってしまった、
そしたらお兄ちゃんが、
「まっお前の事だからなにも考えてなかったろうけど、まあ~いい、それはお前が決める事だ、俺の経ちいる事ではないからな・・」って言った、
お兄ちゃんのその問い掛けにうちは自問してた、でも何も変わらない、ただ今のうちにはヒデさんが居る、だから今さら、何が変わるのかな
それ以上に何が、ってそう思ったら、やっと気づいた自分の気持ちに、
「お兄ちゃん?あたしはあの人が本当のお父さんだったとしても、あたしは何も変わらないよ?あたしは今のままで幸せだから
、お兄ちゃんと血の繋がりがなくったってお兄ちゃんがいる、ヒデさんが居てくれるから、あたしは今のままが幸せだって思う、だからね?、
なにも変わったりしない、このままでもあたしは十分幸せだって思えるから」
ってうちは思いのまま今の気持ちを話してた、そしたら何故だか涙が零れてた、
するとお兄ちゃんは、
「そっか?分かった、だからもう泣くな、もういいよ?カナの気持ち分かったから、だから・・」
そう言ってお兄ちゃんは、窓の外に視線を変えてた、そして思い出したようにお兄ちゃんは、
「そだ~、今度、暮れに外出が許されたんだよ、病院も休みに入るらしいんだ、それで幸が、いや幸恵が、お前たちを家へ是非呼んでくれって
言われたんだ、自分にも兄弟が出来たって大はしゃぎでね~?是非にって頼まれたんだけど迷惑でなければ、どうかな?ヒデ~?無理は
しなくていいんだが・・」ってお兄ちゃん少し照れてた、
するとヒデさんは、
「それは喜んで、迷惑だなんてとんでもないですよ~、是非お邪魔させて貰いますよ・・」
って言ったらお兄ちゃんは、
「そうか~それは好かった~、嬉しいよ、君とは気が合いそうだ、って言っても俺が勝手に思って居る事だけどな、カナ~来てくれるか?
やり直しの意味で、もう取り戻せないけど、少しでもやり直せるなら、少しお兄ちゃんらしい事もさせてくれるかな~?」って言ってくれた・・、
泣き虫はもう辞めようって思っていたのに、涙は勝手に溢れてきて、慌てて拭った・・・、
「ありがとう?必ず行くから、ありがとお兄ちゃん?・・」
って言うと、お兄ちゃんは、
「そうか、来てくれるか?嬉しいよありがと~?でも泣いてばかりだと泣き虫カナってあだ名付けちゃおうか~?なあ~ヒデ~?ちょっと
言い案だと思わないか~?」って、何処か悪戯な眼をして笑ってた、
するとヒデさんまでが・・、
「そうだな~それも悪くないな?カナ~?それでいくか~?」って言い出した、うちは耐えきれず「それは絶対駄目~」って叫んでしまった、
そしたら看護婦さんが来て「静かにしてくださいね~?」って言われて、うちは慌てて口を押さえながら謝った、
それを見てたふたりはクスクス笑い出して、もう遣り場のない恥ずかしさに顔があげられなくなった、
それでも笑ってるふたりに、大声は出せないけど、堪えきれなくなって「笑っちゃ駄目~笑わないで~」って叫んでベッドに突っ伏した、
そしたら余計に笑われて、もう顔があげられなくなってた、
少し落ち込んでたうちにお兄ちゃんが、
「カナ~冗談だよ?そんなに落ち込むな~でもお前は楽しいな~?楽しみにしてるよ、ヒデ?待ってるからさ・・」って笑ってた、
ヒデさんは、
「はい、俺も今から楽しみですよ、それじゃ~そろそろ帰ります、又その時に・・」
って言うとお兄ちゃんは、「ああ~ありがとな・・」そう言い合って、うちはヒデさんと病室を出た・・。
帰り道、ヒデさんが、
「亜紀~ありがとな?思い出したよ、亜紀に言われた事さ、悪かったな~また亜紀に心配かけてさ、ごめんな?・・」
って、苦笑いしてた、
「あたしが出来る事なんて、でもそれでもヒデさんの笑顔が取り戻せるなら、あたしはそれだけでいいって思えるの、だからヒデさんが謝ることないよ・・」
って言ったら、ヒデさん、
「ありがと?それで亜紀~?お父さんに何て話す~?あっごめん余計な事だったな、まあ~亜紀の思うようにしたらいいことだよな・・」
って、黙ってしまった、ヒデさんに言われるまでも無くうちは、どうしたらいいか迷ってた・・、
「ヒデさん?あたし正直迷ってるの、あの人、お父さんはずっとお母さんのこと、探して来たって言ってたでしょう~?あの年になるまで
ずっと、あたしはいいの、ただお母さんのこと話してしまったらあたしが娘だって、それでも自分が分かんない、何言ってるのかなあたし、
ごめんなさい・・」
するとヒデさんが
「亜紀~?それは亜紀の気持ちでいいんじゃないのか~?形じゃ無くてさ~亜紀の素直な気持ちでいいと思う、亜紀はどうして確かめようと思った?亜紀のお父さんだったとしても、亜紀が望んでたことと違ったとしても、亜紀の本当にしたかった事がこうするしかなかったなら、
それでいいんじゃないかな~?亜紀の素直な気持ちで話して見たらどうかな?俺はそう思うけど、ごめんこれは俺の考えだ・・」って言った、
「ありがと~そうよね?あたしの気持ちが決まってたら、何も迷う事なんてないものね?ごめんなさいこんな事で、あたしどうかしてる、でもありがと?」
って言ったら、ヒデさんは、
「そんなこと無いよ・・ただ・・」ってヒデさんの話が止まった、「ヒデさん?、どしたの?ヒデさん、なに?・・」って聞いたら、
しばらく考え込んでから、
「あっいや、いいんだ、悪い何でもないよ、気にするな、な?」って言った、
でも、(気にするなって言われたら余計気になっちゃうのに、なんか変だよヒデさん)。
そんなこと話してる間に、店へと帰って来た、自分の住む街に、あれからヒデさん、また黙り込んでしまった、
不安になった、また同じ繰り返しなのかなって、店について部屋に戻ったら、ヒデさんは、何も話してくれず、また壁を背にして坐ってた・・、
どうしてなの、うちには考えても考えても分からなくて、ヒデさんの隣に腰を下ろして、ヒデさんに寄り添って身体を預けた、なにも言葉に
できなくて、ただそこに佇んでた、時が止まってしまったかのように、ただそこに坐ってた・・。
それからどれくらい経ったんだろう、ヒデさんが、急にうちを抱きしめると、
「亜紀~?俺、亜紀の為にどうしていいのか分からないよ、「後悔・・」って何だろうってさ~?亜紀にとって俺はこれでいいのか、俺、正直
怖いんだ俺は亜紀を失いたくないって思った、情けないけど、ずっと頭から離れないんだ、あの言葉がな・・」って言ってうつむいてた、
そんなこと言われても、うちにはどう受け止めてあげたらいいのか、どう応えたらいいのかわからない、
でも今のうちには自分の素直な想いを伝えるだけだって、それでヒデさんの想いを受け止める事できたらってそう思う、だから、
「ヒデさん?あたしもヒデさんがいないのって考えたくない、でもヒデさん言ってくれたでしょ?今を楽しく生きようって、奇跡信じよう
って、あたしはヒデさんと居られたらそれだけでいい、それだけであたしは幸せよ?だからね~?あたしはヒデさんとずっと居たいから、
無理はしないって決めたの、ヒデさん苦しませたくないから、あたしの出来る事をあたしがしてあげられる事、ヒデさんにしたいってそう
思ったの、苦しい時は素直に苦しいって、楽しい時は一緒に楽しいって喜べたら、もし後悔したとしても、悔いは残らないってあたしは思う、
だからあたし、怖くないよ?ヒデさんと居られるなら、それに奇跡、信じたいから、それにねヒデさん~?あたしはヒデさんが大好きなの、
だからそんな事言わないでよ?困るよ、そんなこと言われたらあたしは・・」って言ったら、
しばらく考え込んでたヒデさんが、
「そうだな、そうだったよな~、ありがとう亜紀?困らせて悪かったな?俺も亜紀、大好きだよ?・・」
って何か吹っ切れたように笑顔を見せて、いきなり抱きついてきて笑いだしてた。
お兄ちゃんに逢いに行った日から三日が過ぎて、店じまいを始めた頃に、あの人、おじさんが店に顔を見せた・・、
「こんばんわ~、すまないこんな時間に、ヒデさん、いいかな~?」って聞いた、ヒデさんは「ああ~いらしゃい~、どうぞ~・・」
そう言って居間の方へと招いた、
そして三人が腰を下ろしてから少しの沈黙の後に、おじさんが、
「ヒデさん?それで、どうだったのかな~写真の件なんだがね~?人違いだったのかな?頼むよ教えて貰えないかな?・・」って聞いた、
するとヒデさんは、黙って写真をテーブル上に出すと、うちの顔を見て、「亜紀~?俺から話していいのか~?」って聞かれて、
「あっあの、あたしが尋ねて来た人は、あたしを兄弟として育ててくれた人で、あたしの兄です、静さんは兄のお父さんが、あたしがまだ
赤ん坊の時に、静さん、お母さんに抱かれて連れて来られたそうです、お母さんを連れてきたお父さんの方はお母さんが亡くなってから家を
出て行ったっきり帰らなくなったって聞きました、あたしは、兄に育てて貰いました、写真の人は、静さんに間違いないってお兄ちゃんは
言ってました、だからあの~・・」
うちは言い終えたかも自分でも分からない内から、涙が後から後から零れてた、なぜか悲しかった、
するとおじさんは、
「そう~そうか?それで~亜紀?いやカナ、って呼ばせて貰うよ?カナは私と暮らす気は、もちろんヒデさんと一緒にだが、それと~静の
お墓を、教えては貰えないだろうか?勝手なお願いだとは思うが、すまない・・」そう言ってうつむいてしまった、
うちは、涙を拭いた、
「ごめんなさい?あたしは行けません、此処が好きなんです、ヒデさんと此処の店が、だから此処を離れたくないんです、ごめんなさい、
でもお母さんのお墓は教えます、是非行ってあげてください、喜んでくれると思います、それから~あの?あたしのこと、忘れずにいてくれて
ありがとう?嬉しかった、ほんとにあたし、あっごめんなさい」
もう言葉が出なかった、また泣いてしまいそうで、でもこれでいいって、今はそう自分に言い聞かせた、この人の住む世界は、うちなんかとは、
何もが違うってそう思えたから・・。
するとお父さんが、
「カナ~?最後にもう一つだけ、私の我がままを聞いては貰えないだろか?頼む、君を抱きしめたい、父として、カナ?お前を、駄目かな・・」
って言った、うちは少し戸惑った、でも、うちもそうしたいって思ってた、一度でいいお父さんって、感じてみたかった・・
だから、お父さんの前にきた時、うちは目の前の人に、今まで言いたくても言えなかった言葉を口にした、
「お父さん・・?」って、そしたらお父さんは、うちを抱きしめて「ありがとう~ありがとうカナ?」って言って泣いてた・・、
そんなお父さんの胸は大きくて暖かくて、初めて噛みしめたお父さんの存在に、堪えきれなくてうちもお父さんの胸で泣いた。
その時、お父さんはうちの顔を覗き込んで・・、
「カナ~?身体、大丈夫なのか?私にできる事は何でもしよう~だから、だから私はいつでも待ってるから、来てくれ、治して遣りたいんだよ、
ねえカナ?今日はありがとう~?嬉しいかったよ、ほんとにありがと~カナ・・」って言ってまたうちを抱きしめた、
するとお父さんは、
「ヒデさんありがと、感謝してるよ?ほんとにありがと?すまなかったね私はこれで帰るよ、長いしたね?それじゃ・・」
そう言って帰ってしまった・・、
うちはお父さんの後ろ姿を見えなくなるまで見送った、
そんな時、突然うちの前にアンちゃんが現れて、
「こんんばんわ~、あれ亜紀?大丈夫?なんか顔色悪いよ~?亜紀~?」って声をかけて来た・・・。
Ⅱ 十四章~心の音~
少し冷たさを感じる風が吹き抜けてく夜の街に、独り帰っていくお父さんの後ろ姿を見送りながらうちは街を眺めた,
そんなうちの前に、突然、アンちゃんが顔を見せて、心配そうにうちの顔を覗き込むと、
「亜紀ちゃん?休んだ方がいい、ほんと顔色悪いよ?無理しない方がいい、さっ入ろう~ね?」って一緒に店の中へと入った、
すると椅子に坐りこんでるヒデさんを見てアンちゃんは、
「こんばんわ~ヒデさん?どうしたのふたりとも変だよ~?」って言いながら戸惑ってた、
するとヒデさんが、
「よう~靖?好く来たな~、今日はゆっくりしていけるのか~?」
って聞いた、するとアンちゃんは、
「ああ~そのつもりだけど、でもふたり共、何かあった?なんか変だよ~?」って言われて、ヒデさんは、成り行きを話し始めてた・・、
うちは、居間に腰を下ろして少しのつもりで横になった、でも何時の間にか寝ってしまって、ふと眼が覚めて起きて見たら、何時の間にか
うちに、毛布が掛けられててアンちゃんとヒデさんがそこに居た、
その時アンちゃんが、
「亜紀ちゃん?まだ寝てていいよ?今日はゆっくり出来るから、寝てなよ?後にでも話し出来るからさ・・」
って言った、でも・・、
「あ~うん、でも大丈夫よ?寝かせて貰ったから、ありがと?・・」
って言うとアンちゃんは、
「亜紀ちゃん?あの人やっぱりお父さんだったんだね?それで病院に行く話しだけど~亜紀ちゃん、決めたの~?」
って聞かれて、いきなりすぎてちょっと驚きもしたけど、
「あ~うん、検査だけって約束で、このままだといけないって気もしたから、ね?」
するとアンちゃんが、
「そっか?それじゃ~ヒデさん?覚悟きめなきゃね?ヒデさんがそんなんじゃ俺、心配で仕事も出来なくなるからな~・・」
って言うとヒデさんが、
「ああ~それもいいかもな~どうせならお前、此処で働けよ?そしてらお前の心配も減るだろう~な~?」って言い出した、
するとアンちゃんが、
「なるほど~それも悪くないかもしれないな?そうすれば此処に来る手間も省けるし・・・」ってアンちゃんがヒデさんの話に乗ってた、
それってアンちゃんは本気なのかな、うちには二人の会話にどうしてもついていけなくて、
「アンちゃん~?それ本気で言ってるの~?ヒデさんも本気で言ってるの?」って聞いたらヒデさんは「もちろん本気だよ?」って言うと、
アンちゃんが
「ああ~本気で考えてるよ?」ってアンちゃんまでが言いだした、うちはなんだか、からかわれてる気がしてきて、
「ふたりとも、あたしをからかってない?どうしてそんな簡単に話し進んでるの~?」
って言ったら、アンちゃんが、
「それは~?俺がそうしてもいいなって思ったからだよ?別に亜紀ちゃんをからかってる訳でも何でも無いよ?・・」
って言うとヒデさんは
「そうだよ~?亜紀の考えすぎ!な~靖?・・」そう言ってふたりが頷き合って笑い出した・・。
そんなこと言われても、うちには納得なんてできなかった、でもヒデさんの笑顔が嬉しくて、そしたらなんか許してあげようかなって思えた、
アンちゃんと居る時のヒデさんは、ほんといい顔してる、アンちゃんと居た方が楽しそうにも思えたからかもしれない、それにアンちゃんが
来てくれたらきっと、ヒデさんの苦しむ顔も、少しは和らぐのかな、ヒデさんが笑顔で居られたらそれでもいいのかも、って思えた、
つい考え込んでしまった時アンちゃんが、
「亜紀ちゃん?どうしたの、急に黙り込んじゃって~まだ疑ってるの~?ほんとなんだから、ね?亜紀ちゃん」って困った顔を見せた、
「分かりました~、しかたないから信じてあげる?でもいつ?から、なのかな・・」って聞いたら、アンちゃん・・、
「そうだな~?明日から、かな?・・・」って言いだした、唐突すぎて、またうちは驚いた・・、
「それこそ信じられないよ~アンちゃん真面目に応えてよ~?」って言ったら、「嫌だな~本気だよ俺は~・・」だって、
すると、ヒデさんは、
「靖は、本気になってくれたようだ、亜紀は、嫌なのか~?」って聞かれてしまった、
「そんなんじゃないけど~ただね~?あたしは冗談と本気が解らなくなっただけよ~?・・」
どうしてそんな簡単に決められるのか、うちにはふたりの気持ちが見えてこない、なんだろう、この心の空白、今日は色々考えすぎた所為なの
かなってそう思えて来たらもう考える事、うちは辞めた・・。
翌朝、中々寝つけなくて早くに眼が覚めた、隣でまだ寝てるヒデさんを起さないように寝床を脱け出して、うちは窓を開けた・・、
外からの風が何故だか気持ちよくて伸びをしてみた、その時ふと気になった雀さんの巣を見ると、空っぽに見えた、
どうしたんだろう、もう子雀たちは巣立ってしまったのかなってそう思えてきたら少し寂しい気もした、せめて飛び立っていくとこ
見たかったな・・そう思いながら、空を仰いだ・・、
晴れてはいるけど、少し雲に覆われた空は、なんだかうちの気持ちまでも曇らせて、余計に寂しくさせた・・。
その時つい視線がヒデさんの寝顔に眼がいってしまったら、この頃はヒデさんの笑顔、見ることが少なくなったような気がして、不意に
アンちゃんと話すヒデさんの笑い顔を思い出した、アンちゃんが来てくれた時のヒデさんは嬉しそうだった、久しく見なかったようにも思う、
ヒデさんのあんな嬉しそうな笑顔、ヒデさんの笑顔はうちが奪ってたのかなってそう思えてきたら、今までただうちは気づかずにいただけなの・・、
何時の間にか自分の中で自問自答してた、
そんな時ヒデさんが眼を覚まして、いつもと変わらない表情で起き出してきた、そんなヒデさんに、何処かほっとしながら声をかけた、
「ヒデさん、おはよう~?」って言うとヒデさんは「お~おはよ~?早いな亜紀、寝たのか?」って聞かれて、
「うん、少し早く眼が覚めちゃって、でもちゃんと寝たから大丈夫よ、心配しないで~?」って言ったら「そっか~・・」
って言ったきりヒデさんは店へと降りてしまった・・。
何処か違うように思えたヒデさん、でもいいんだって言い聞かせて、うちも店へと降りた
調理場を覗くともう支度をはじめてた、そんなふたりを見てたら、声をかけずらくなってうちは居間へと腰を下ろした。
そんな時、ふたりの話し声が聞こえて、うちはつい調理場を覗いて見た、
するとヒデさんが
「靖~?仕事の事、ほんとにいいのか~?俺は大助かりだけど、お前、無理してんじゃないのか~?まあ俺が言い出した事だけどな?」
って言いながら苦笑いしてた、
するとアンちゃんは
「何言ってるんですか?俺は全然無理なんかしてませんよ?ヒデさんこそ、亜紀ちゃんの事で少し無理し過ぎなんじゃないですか~?
ヒデさん、根が正直だから俺、分かるんだよね~、俺には男の兄弟はいないからこんな事言うのも変だけど、俺にとってヒデさん、兄さんの
ような存在だからさ?はは、なんか俺らしくないよな~でも、俺はそう思ってますけどね?だから俺がそうしたいって思ったから決めた
んです、それにふたりが好きだからね?でもこんな事、亜紀ちゃんには内緒ですからね~?恥ずかしくてとてもじゃないけど言えないからな・・」
って言うとヒデさんは、
「そっか、ありがとな?そう言ってくれると嬉しいよ、お前の気持ち素直に貰っとく、これからも宜しくな?・・」
って言うとアンちゃんは
「こちらこそ宜しくヒデさん?それじゃ~もうそろそろ店開けますよ~?」「おお~そうしてくれ~頼むよ!」
今まで聞く事も無かったふたりの会話をうちは、初めて耳にしたように思う・・、
ふたりの間にうちの入る場所は無いように思えて、また部屋へ戻って来た、窓から差し込んできた陽の眩しさに目をそ向けて・・、
そしたら涙が零れた、どうして泣いてるのか自分でもよく分からないけど、ただ自分の存在が、重くて苦しめてるだけの自分が要る事に、ただ
辛いだけ・・。
それからお昼を過ぎた頃に、ヒデさんが顔を覗かせて、
「亜紀~?どうした何処か辛いのか~?一人じゃ退屈だろ?どうだ居間に降りないか?三人で一緒に昼飯食べよう、な?」
そう言われて、うちが頷いたら、「よし、行こう~」って言われて一緒に居間へと降りた、
するとアンちゃんが、顔を出して、
「あっ亜紀ちゃん?できたよ~さあ~て食べよう~?」そう言って料理を運んできた、
するとヒデさんが
「今日は靖の手料理だ、後でお腹の薬用意しとくから、食べてやってくれ、な?」って言った、
するとアンちゃん、
「何言ってるんですか~?酷い言いかた~、ヒデさんがどうしてもって言うから作ったのに~俺?すごく傷つきましたからね?、いいですよ、
亜紀ちゃん?食べてくれるよね?」って言った、
「喜んで?アンちゃんの手料理なんて初めて、嬉しいよ、ありがと?アンちゃん!」って言ったらアンちゃんは満面の笑みを返してくれた・・。
食べ終わった頃にヒデさんが、
「靖~?上手いもんだ?さっきの発言は撤回するよ、悪かったな?ごめん!自分で自炊してるだけはあるかな、こんだけ出来るってことは
いつも自分で作るのか?凄いなお前、見直したよ・・」
って言ったらアンちゃんは、
「当然でしょ?そんな外で食べるほど、稼げないし、やって行けないですからね・・」ってしみじみ話してた・・。
するとヒデさんは、
「そうだな~、悪かったな?あ~そうだ亜紀~?靖と話してたんだけど、どう~?また三人で・・」
って言いかけたらアンちゃんが割り込んで、
「亜紀ちゃん?温泉にでも行かない?この時期にはぴったりだと思うんだけど、行かない?ね~亜紀ちゃん・・」って嬉しそうに話した・・、
「ほんと~?ほんとに連れてってくれるの?行きたい、でもヒデさん、いいの~?」
って聞いたらヒデさん、
「なにいってるんだよ~、俺が連れて行きたいから聞いてるんだろう~?変な遠慮なんかするなよ?行こう、な?」って言われて、
「ありがとう~!」って言ったらアンちゃんが、「よし、決りだね?ヒデさん、明日でいいの?」って聞くと
ヒデさんは、
「ああ~明日だ、亜紀、いいか~?」って聞かれてうちが頷いて見せるとふたりは手を叩き合って笑ってた、
どこまでが息合っているのかうちには解らない、でももうふたりの笑顔が嬉しくて、ただふたりの笑顔を眺めてた。
Ⅱ 十五章~見えない糸~
夕焼けに染まってく空は、街を包み込んで、吹き抜けてく風が、途切れた雲たちを流してくれたかのように、晴れ間が顔を出した、
冷たい風は、小枝を揺らして落ち葉を舞い散らして、巡って来る季節に何時の間にか忘れてた遠い記憶を思い出させた。
窓に寄りかかって夕焼け空を眺めながら思い出した、幼かった頃に過ごしたこんな夕暮れ、寒かった家のガラス越しから
見えてた木を揺らして吹いてた風、いつも独り居た家の中、こんな夕暮れだったように思う。
ふと気づくと、どうしてこんなこと思い出していたんだろうってそう気づいたら泣いてた、思わず涙を拭って窓から目を逸らしたら、
その時、ヒデさんが顔を見せて、
「亜紀~?店にお父さんが亜紀に会いたいって来てるんだ、居間の方に通してるけど、会ってくれないか?」って言われた、
そう話すヒデさんは何処か不安げな顔でうちの顔を見てた、
「分かった?」ってふたり居間に降りたら、お父さんはうちの顔を見ると、
「カナ~?思ったより元気そうだね、よかった?ああ、すまない、実は静の、あっいや、お母さんの墓参りなんだが、カナに一緒に行っては
貰えないかと思ってね~?独りで行ってもいいんだが、私はカナ?お前と一緒に行きたいと、そう思ったんだが、駄目だろうか?お前とふたりで行きたいんだよ、静に・・」そう言って言葉を詰まらせてた、
するとヒデさんが、
「亜紀、行ってきなよ?いいじゃないか、親子水入らずでさ?温泉は帰って来てからでも連れてってやるよ?だからさ?お母さんの墓参り
行ってきなよ、な~亜紀?」
って言った、思いもしなかったヒデさんの言葉に、うちはまた涙が零れた、
そしたらヒデさん、
「どうした~?なにも泣くこと無いだろう~?それとも亜紀は嫌なのか~?」って言われて、
「そんなんじゃない、嬉しいの、凄く嬉しい、けど涙が勝手に、ありがと~」って慌てて涙を拭いたら、二人が笑ってた、
「どうして笑うの~?あたし可笑しい?」
って聞いたら、お父さんは、
「あっいや、そんな事は無いよ、私は嬉しいんだよ・・」そう言ってうちの手を取るとお父さんは、
「カナ~ありがと?明日、迎えに来るからね?ヒデさん、すまない、私の我がままを、ほんとありがとう~?それじゃ~明日宜しく頼みます」
そう言ってお父さんは、ヒデさんに、頭を下げて帰って行った・。
翌朝、あまり寝つけないまま、起き出してしまったら、ヒデさんが、一緒になって起き出した、
「おはようヒデさん?でもどうしたの~?まだ早いでしょう~?」
って言うとヒデさんに、
「何言ってるんだよ、それを言うなら亜紀も、早いだろう~?」って言われて、「あっそれもそうよね、ごめん、あたし寝ぼけちゃってるね・・」
って笑ってしまったら、ヒデさんに、抱きつかれてた、「ヒデさん、どうしたの~?ごめん、気にさせちゃったの~?」
って言うと、ヒデさん、
「あ~いやそんなんじゃないよ?亜紀と一緒になってから亜紀が独りで出るのは初めてだったんだなってさ?何時の間にか俺は、亜紀を
独り占めしてたなって思ったんだよ、それでも亜紀はずっと居てくれてたよなってさ、亜紀~?ありがとな?今日はゆっくりして来たら、
いいよな?」っておでこにキスした、
ちょっと照れたけど嬉しいから、
「ありがと~ヒデさん?それじゃ~お言葉に甘えて?ゆっくり行ってきますね?」って返すと、ヒデさん笑い出して
「ああ、いってらっしゃい、亜紀?」ってまたキスされた・・。
支度を終えた頃にはもうお父さんは、店の前で待ってた、ヒデさんに見送られてうちはお父さんと店を出た・・、
空は途切れた雲が広がって、まだ衰えそうにない冷たい風に、少し寒くてうちは襟を立てた、するとお父さんが、自分のコートの中へと
入れてくれた、
暖かいって思った、そんなお父さんの背中にそっと手を回したら、お父さんが微笑んで抱き寄せてくれた・・、
何も言葉なんて交してないのに、それでも気持ちが繋がっているように思えた、そしたらもう、言葉なんて要らないってそう思えた、
なにも言わなくても、なにも聞かなくても、味わえなかったお父さんの温もりは、時が経っても繋いでいける、そう感じられるから・・・。
やっとお母さんのお墓へと辿りついた時、お父さんは、「カナ~?手を出してごらん?」って言った、
うちは言われるままに手を出すと、お父さんが、うちの手のひらの上に、鎖のようなものを乗せて、そっとうちの手を握り締めて、
「カナ~?これはお母さんの形見だ?このペンダントはお母さんがお前を産んで間もない頃に、肌身離さずずっと身につけてた物だよ、
これにはお前とお母さんの写真が貼り付けてある、これはカナ?お前が持っていなさい、その方が、静も喜んでくれるだろ?貰ってくれるね?カナ・・」って聞いた、
うちはまた涙が零れた、拭っても拭っても涙が溢れた、するとお父さんは、
「カナは優しい子だよ、会えてほんとに好かった・・」って言うとお父さんは、涙を零してうちを抱きしめた・・、
「あたしも嬉しい、お父さん~ありがとう?」って言ったら思いが込みあげてお父さんにすがって泣いてた、
するとお父さんはうちの頭を撫でると、
「さあ、そろそろお母さんに会いに行こうか?ね~カナ?」って言われてうちが頷くと、お父さんはうちの肩を抱きしめて歩き出した、
そしてお母さんのお墓の前まで来るとお父さんは落ち葉を払いのけて、花を供えて線香をたくと手を合わせて、静かに目を閉じた、
うちは、墓石に水をかけてやって、線香を添えて、お父さんの隣に坐り、手を合わせて眼を閉じた・・、
「お母さん?お父さんに逢わせてくれてありがと~?お母さんが引き合わせてくれたんだよね、ありがとお母さん?カナは幸せだよ?
お父さんはずっとお母さんを待っててくれてたの、お母さんの事、本当に愛してたよ?今度はあたしがお父さん大事にするね、
お母さんの分も・・」うちはお父さんがくれたペンダントを胸に握り締めて、空を仰いで涙を堪えた・・。
その時お父さんは立ち上がると、
「カナ~?今日はありがと~?それでね~カナ?もう一つ聞いて貰えないか?お前を育ててくれたお兄さんの事なんだがね?私は一度
お会いしたいと思ってるんだよ、会ってお礼が言いたい、駄目だろうか?血の繋がらないお前を此処まで育ててくれたお礼が、したいんだ、
大変だっただろう~カナ?辛い思いさせたね~?すまなかったカナ、私はお礼がしたいんだよ、カナ?会わせてくれないかな・・」
って言った、
「お父さん?お兄ちゃんは今、この町の病院に居るの、ずっと・・」ってうちは泣きそうになって堪えるのにうつむいてしまったら、
お父さんが、
「そうか、カナ~?会わせて貰えるかな?頼むよ、ね~カナ?」って言われてうちが頷いたらお父さんは、「ありがとう・・」って笑みを零した、
それからうちは、お父さんとお兄ちゃんの居る病院へと向かった、そして病室の前に来るとお父さんは扉をノックして中へと入った、
うちが「お兄ちゃん?カナです・・」
って言ったらお兄ちゃんは、驚いた顔でお父さんとうちを見ながら、「どうしたんだ~?ヒデは?それで・・」
って言いかけた時、お父さんが、
「初めまして、突然押し掛けて驚かせてしまったようで申し訳ありません、私はカナの父です、お陰さまで再会できました、娘を育てて
いただいたお礼を言いたくて、無理を言って来させて貰いました、本当にありがとうございました・・」
そう言ってお父さんは、深々と頭を下げた、
するとお兄ちゃんは、
「そんなお礼だなんて辞めてくださいよ、困ります、わたしは当たり前のことをしてきただけですから、それに私は辛い思いをさせて
きたんです、返って私の方が貴方に謝らなければいけないんですよ・・」そう言ってお兄ちゃんは、窓の外に視線を逸らした、
するとお父さんは、
「それでも子供を育てて行くのは大変だったでしょう?御兄弟だけだったと聞きました、ご苦労されてきたでしょう、血の繋がりのない
妹を抱えて、ありがとう?本当にありがとうございました・・、こうしてお会いできて、カナ、娘が貴方を慕う気持ちが、私なりに分かった
気がしますほんとにありがとう?こんな不仕付けに押し掛けてきて、申し訳なかったですね?
もしこんな私でも貴方のお力になれるなら、私も医者です、もし貴方さえ好ければ私の病院に移って来て貰える事を是非願いしたい、
その時は私が責任もって診させて貰いますよ、ああいきなりのぶしつけを許してください、でもお気持ちが変わったらいつでも来てください
お待ちしてますよ?それじゃ、私はこれで・・、ありがと?」
そう言ってうちは、お父さんに手を引かれるまま病室を出てきてしまった・・、
でもうちはお兄ちゃんに頭を下げる事しかできなくて、なにも話せなかった、何故かお兄ちゃんのあの表情が気になった、うちは、これで
良かったの、来て好かったの、って不安で心苦しくて、分からなくなったら、何時の間にか足が止まってた、お兄ちゃん、そう思った、
「お父さん?ごめんなさい、先に帰ってて貰えますか?あたしどうしても言いたい事が、すみません」って頭をさげてうちは、走り出した、
お兄ちゃんの居る病院へ、どうしてもお兄ちゃんに、ちゃんと話がしたかった、こんな形で帰りたくないそう思った、
そして病室の前に来た時、幸恵さんが病室から出てきて、顔を合わせてしまった、
「あら~?カナさん?どうしましたの?ええ~?独りでいらしたの~?ヒデさんは?ま~いいわ、中へどうぞ?」
って言われて、お兄ちゃんの顔が見えたら、うちは涙が零れてた、お兄ちゃんは、うちに気づくと、
「・・カナ~?どうしたんだ?帰ったんじゃなかったのか?一人なのか~?」って聞かれて、
「お兄ちゃん~ごめんね?ごめんなさい~あたしお兄ちゃん苦しめて~」って思わず泣き出してしまった、するとお兄ちゃんは、
「カナ~?俺はお前に苦しんだ覚えはないぞ?何を独りで思いつめてるんだ~?お父さんの事か~?バカだな~俺は喜んでいるんだよ?
いいお父さんじゃないか~、好かったな~カナ~?」って言った・・、
うちは、涙を拭ってお兄ちゃんを見た、するとお兄ちゃんが、
「まったく~、泣き虫だな~お前は~?幾つになっても変わらんな・・」って、うちの頭を撫でてた・・、
その時胸がドキドキしだして息苦しくなった、でも此処でこんなとこ見られたくない、そう思ったら、うちは、またベットの上に顔を埋めて
息を整えるのに必死になった、気づかれたくない、
その時お兄ちゃんに、
「カナ~?どうした~?いつまでそうしてるんだ?顔を上げなさい?」って言われて、何とか整いだした呼吸に、静かに顔を上げて、
うちは笑みを作って見せた、ただ言葉が出せない、そんなうちに、幸恵さんが、
「カナさん?大丈夫~?なんだか顔色が悪いわよ~?」って言われて、でも言葉が返せなくて、焦ってしまって、無理やり声を上げた、
「大丈夫・・」って言ってまたベッドに突っ伏してしまった、それが好かったのか悪かったのか、ふたりに笑われてしまった・・、
けどそのお陰かうちは、二人に気づかれることもなくて、苦しさにも開放された(好かった~)って口には出せないから心に叫んでた・・。
それからお兄ちゃんに、
「ありがと~?あたしお兄ちゃん、苦しめちゃったのかなって思って、でも好かった?今度はほんとに帰るね?ごめんなさい、幸恵さん~?
お騒がせしてすみませんでした~、これで帰りますね?お兄ちゃん?またね?」
って言ったら、お兄ちゃんは、
「独りで大丈夫か~?何なら家へ泊ってってもいいんだよ~?・・」って言った
「お兄ちゃん~?あたしそんなに子供じゃないですよ~?それにヒデさんが心配しますから、それじゃ~」って言うとお兄ちゃんは、
「そっか・・」って笑みを浮かべて手を振ってくれた・・。
そして病院を出て、帰り道を歩いた、すると急に誰かに呼ばれた気がして後ろを振り向くとお母さんが立ってた、うちは、
逃げ出したい衝動にかられながらも動けなかった、
するとお母さんは、
「あ~やっぱりカナちゃん?何年振りだろうね~?元気だったかい?あれからお父さん死んじまったんだよ~?お前は、親不孝もんだよね~?
散々世話になっときながら、顔も見せやしないで、のこのこ、こんなとこに来てさ、まったく~、お前見てると、親父思い出してへどが出るよ~、
二度とこの街に来るんじゃないよ~、分かったね~?・・」
そう言いながら、うちの顔を散々殴りつけて、去って行った・・。
うちはしばらく動けなかった、痛いからでも、悔しい訳でもない、ただ悲しくて、苦しくて、震えが止まらない・・・、
うちはまだお母さんから逃げてたままでいたこと、まだ終わってなかった事、うちは今さらのように気づいた、ずっと逃げたままだったって
そう気づいたら、そしたらもうそこから一歩も動けなくて、地べたに坐り込んでた・・、
そんな時、また誰かに声を掛けられた気がして、うちは怖くなって耳を塞いでうずくまった、すると、
「カナ~?カナ、大丈夫か?どうしたんだい?何があったんだ~?さあ~もう大丈夫だよ?、帰ろう~ね?」うちを抱きかかえた、
ふと見ると、帰ったとばかり思ってたお父さんが、うちの顔を覗き込んで驚いた顔で、
「カナ~?その顔はどうしたんだ~?まさかお兄さんが・・」って言いかけてたのをうちは遮って、
「違うの、違うのお父さん、お兄ちゃんはそんなことしない、これは~」って言いかけてうちは、お母さんの顔が浮かんだ・・、
そしたら、怖くてまた震えが来て、思わずお父さんにしがみついた・・、でもお父さんはこれ以上に何も聞かなかった
その後駅のベンチで休んでから、お父さんと店へと帰り着いた・・。
その間ずっとお父さんは何も聞かずにうちの手を握り締めて、店の前に来ると扉を開けて一緒に中へと入った、
するとお父さん、
「ヒデさん~、今帰りましたよ~?ちょっといいかな~?」って言った、するとヒデさんとアンちゃんが出てきて「あ~お帰りなさい~」
って、駆けよって来た
うちの顔を見たヒデさんが、
「亜紀~?どうしたんだ~その顔、誰が?誰がこんな事、亜紀~?」って言うと、お父さんが、話し始めた・・・、
するとヒデさん、
「亜紀?誰に会ったんだ?話してくれないか?」って聞かれた、
でももううちは思い出したくなかった、怖いそう思っただけで震えが止まらくて、椅子に座り込んだ、そしたらヒデさんが、思い出したように、
「なあ亜紀~お母さんなのか~?なあ~もしかして、そうなのか~?亜紀?教えてくれよ、もう大丈夫だからさ~なあ亜紀?」
って言われてうちが頷いたら、
するとお父さんが、
「ヒデさん、どういう事なのか教えてくれないか?誰なんだい、そのお母さんというのは・・」って聞かれて、ヒデさんは、経緯を説明し出した、
その時、アンちゃんがうちの手を握ると自分の前に坐らせて、顔の傷の手当てをしてくれた・・、
「亜紀ちゃん?もう大丈夫だよ?此処には怖い人なんていないからさ?」って言うとうちの手を握ってくれた・・、
その後、お父さんはヒデさんに、「宜しく頼むよ・・」とだけ言って帰ってしまった、
お父さんが帰って行った後、店じまいをすませると、アンちゃんは
「亜紀ちゃん?今日はゆっくり休みな?ね?あまり考え込んじゃ駄目だよ?それじゃ~おやすみ?ヒデさん、おやすみ~」
って言うと部屋へ戻って行った・・、
ヒデさんは、アンちゃんに「お疲れさん~」って声をかけるとうちの顔を覗きこんで、「亜紀?部屋に行こう~な?」
って言われて、一緒に部屋へ戻った、
うちは、何も考えられなくて壁を背にしてうずくまった、そんなうちの隣に並んで坐ったヒデさんが、
「亜紀と初めて会ったあの雪の日もこんなふうに傷ついてたな、今よりひどかったかな?髪も服も、ただあん時の亜紀は人形みたいだった、
置物のように坐ってさ、亜紀~?辛かったろう~苦しかったよな~」って言葉を詰まらせてた・・、
「あたしは恩知らずなの、お父さんの死に目にも会ってやれなくて世話になってたのに、あたしは怖くて逃げてきたずっと、それでも
あたしは自分だけ幸せ貰って、もう終わった気になって、お母さんは言ってた、もう帰って来るなって二度と来るなって顔も見たくないって
何度も、何度も、でもそれはあたしの所為だから、あたしが悪いの、だから・・」
って言ったらまた涙が溢れた、
するとヒデさんが
「亜紀~?それは違うよ亜紀は何も悪い事なんてないんだ!亜紀が悪いんじゃないんだよ?なあ亜紀?そんなに自分を責めるな?
な~?聞いてくれ、けして亜紀の所為じゃない、だから自分を責めるなよ、俺は見てきたんだよ亜紀のことをずっとさ?だからさ~?
亜紀の所為でも亜紀が悪い訳でもないんだよ、それは俺が一番知ってるよ?な~そうだろう?」そう言ってうちを抱きしめた・・。
あの家に貰われた時に初めて抱いたお母さんへの温もりうちは恋しいって思った、でもそれはうちの夢でしかなかった、逃げ出した
あの日から、うちはお母さんから逃げてた、ずっと・・、
記憶を辿っていく内に、ふいに気づいてポケットに手を入れて取りだした、お父さんがくれた、お母さんの形見だって言ったペンダント、
まだ見てもいなかった写真を開いて見た、お母さん・・、抱かれているのはうちなのかな、うちは涙が零れた、あの時に会いたかった、
お母さんに・・。
その時、ヒデさんが覗き込んできて、
「これって、亜紀の子供の頃の写真か~?亜紀、可愛い顔してるな~こうして見ると亜紀はお母さんそっくりだな~?」って言うと、
うちの顔見て微笑んで、
「亜紀~?お兄さん、元気してたか~?驚いてたろ~?今度また、ふたりで会いに行こうな?」って言った・・・、
「あたし、行っていいの~?」って聞いたらヒデさんは、
「何言ってるんだよ、いいに決まってるだろ~?自分を責めたりするなよ?俺はずっと亜紀を見てきたんだよ?それでも亜紀が苦しむなら
それは俺の所為だ、俺が亜紀の為にやって来た事が否定されるようなものだからな、な~亜紀?本当に亜紀の所為なら、お兄さんは亜紀に
謝ることしなかったと思う、お兄さんは亜紀を理解してくれたから分かり合えたんじゃないのか~?あのお母さんの言ってる事は、
自己満足なだけだって俺は思うよ?そんなことに亜紀が振り回されちゃ駄目だよ、な~?俺がついてるよ、それとも俺じゃ嫌か~?」
って聞かれた、
(どうしてそうなるの?)って思った・・、
「ヒデさん意地悪でしょう~?知ってて聞くのは意地悪いよ?」ってついムキニなった、
するとヒデさん、急に笑い出してうちに抱きつくと、「それならいいんだよ?好かった、それでいい、亜紀はそれでいいんだよ」って言った、
うちには、訳が分からなかった、でもヒデさんの嬉しそうな笑顔見てたら、ムキニなってた自分がなんだか可笑しく思えてつい笑みが零れてた
そしたらヒデさんに、
「好かったよ、亜紀がやっと笑ってくれてさ、な~亜紀?温泉、行こうか?靖と三人でさ~?約束したもんな~」って言われて
うちが頷くと、ヒデさんは、「よし!決りな?」って笑みを見せた。
Ⅱ 十六章~旅路~
お父さんと墓参りへ行ってから一周間が過ぎた、
窓のガラス越しから見えた夜の明かりに誘われて覗いて見た外の景色は、何時の間にか、ふあふあと雪が舞ってた、
風が散らす雪は、何処か頼りなくて、さ迷いながら落ちてく雪が、未だ拭えない想いにさ迷ってる自分を思わせて、またため息をついてた。
今も時々お母さんのあの罵声が頭の中を過ぎって震えが止まらなくなる、こんなんじゃいけないって分かっているのに・・・。
そんな時ヒデさんが、店を終えて部屋へ戻ってきた、
するとヒデさん、
「亜紀~?下で靖が何か作ってくれるそうだ、一緒に居間へ行かないか?靖が亜紀を待ってるんだよ、な、行こう?」ってうちの手を引いた、
言われるままに、ヒデさんと居間へ降りて行くと、アンちゃんが、
「亜紀ちゃん?一緒に食べようと思ってちょっと頑張ってみたんだけど、一緒に食べてくれるかな~?」そう言って料理を出してくれた、
「うわ~凄い、これ全部アンちゃんが作ったの~?」って聞いたら、
アンちゃんは、
「いや~?ヒデさんにも手伝って貰ってさ~、俺一人じゃここまではちょっと無理かな、そんなこといいからさ~、食べてみてくれよ、ね?」
って少し照れくさそうだった、
するとヒデさんは、
「でも俺は、手を貸しただけだからな、亜紀?せっかくだから食べてやってくれよ、な?」ってニコッと笑って見せた、
するとアンちゃん、少し機嫌悪くしたのか、
「ヒデさん?その言い方~俺、嬉しくないんですけどね~?亜紀ちゃん?食べよう~?」って言った、
なんだか可笑しなふたりのやり取りは、何処かうちを和ませて暖かいって思える、忘れちゃいけないよね、何時だってうちの傍に居てくれる
ふたりの優しさに、甘えてばかりじゃいけない、この幸せに甘えてばかりじゃ駄目だってこんなに気づかせてくれてるのに、そう想うと
ちょっと自分がなさけなく思えて、ため息が漏れた。
そんな時ヒデさんに、「亜紀~?どうした?」って聞かれて、うちは少し焦った・・
「えっ何?あっ何でもないよ、それじゃ~喜んで御ちそうになろうかな~、アンちゃんヒデさん、頂きます~?・・」
って言ったら二人が驚いた顔してうちを見てた、なにか可笑しなこと事、言ったのかな、そう思ったら気になって
「あ、あの?あたし、可笑しなこと言った~?」って聞いたら、二人が笑い出した・・、
その笑いに、やっぱりそうなんだって思った、そしたら恥ずかしくてつい「笑っちゃ駄目~!」って叫んでしまってた、
するとヒデさんが、
「ああ~悪い?けど亜紀が可笑しくて笑ったんじゃないよ?・・」って言いかけたら
アンちゃんが、
「いつもの亜紀ちゃんに戻ったなって思ったら、つい嬉しくなってさ、笑ったりしてごめんな?・・」って言った・・、
そんなに暗い顔してたの・・、
「あたしの方こそごめんなさい、心配かけてたみたいで、でももう大丈夫、二人に元気貰ったから、ありがと~」
って言ったら、ヒデさんが、
「それじゃ~、御ちそうになるかな?・・」って言うとアンちゃんが「そうだよ、食べよう~?ね亜紀ちゃん?」って言った・・・。
何時の間にか笑いの中にうちは居た、別に特別な事でもない、それでもうちにとっては特別な日に思えた・・、
食べ終えた頃に、ヒデさんが、
「亜紀?そろそろ行こうか?温泉にさ~?遅くなったけどな?」って言われて、「ほんと~?いいの?」
って聞いたら、ヒデさんは、
「亜紀が大丈夫なら、行くか~?な~靖~?・・」
って言うと、アンちゃんは、
「俺は何時でもオッケイだよ?亜紀ちゃんさえよければね?・・」って言うとうちにグウサイン出した、
するとヒデさんは、
「それじゃ~明日にでも行って見るか?」ってアンちゃんと頷きあったら、もう決ってた。
翌朝、乗り込んだ電車の中は、入り込んでくる人の温もりで、暖かく思えた、
そんな中、停車した駅から男女四人が乗り込んできて、その時、その中の一人で女の人がヒデさんの顔をみるといきなり声をかけてきた、
「ねえ~ヒデ?ヒデじゃない?やっぱりそうだよね~?久しぶり?あたしよ~覚えてない?」
って聞かれるとヒデさんは、少し困惑してたみたいだけど、思い出したのか「ああ~もしかして、えっと景子か~?」って言った、
すると彼女は、
「そうだよ~あたしの名前覚えててくれてたんだ~嬉しい~、何年ぶりだろね~?ヒデはまだ店は、続けてるの~?」
って聞かれると、ヒデさんは、
「ああ~、まだ健在だよ、お前は今、何やってるんだよ~?」って言うと彼女は「あ~あたし?看護師、見習い中ってとこかな?」って言った、
するとヒデさん、少し驚いた顔して、
「そうなのか~凄いな~?大変だろうけど、頑張れよ、な?今度、暇な時にでも、飯食いに来いよ?」
って言ったら、彼女は、
「そうね~是非寄らせて貰うわ~?積もる話もあるしね?あっ連れが居るんだよね~?ごめん?それじゃ今度行ったときにでもゆっくり、ね?
それじゃ・・」って手を振ってた、
ヒデさんは
「ああ~、そだな?んじゃ~な?」そう言うとヒデさんは戻って来た、
少し照れくさそうにしながら顔を見せるとヒデさんは、「悪いな~?俺の同期生なんだ?」って言って笑った、
するとアンちゃんが、
「ヒデさんにあんな綺麗な人の知り合いがいたのは驚きだな~?」
って言うとヒデさんは、
「何言ってるんだよ~?俺にだって一人や二人、友達ぐらいいるさ~、お前だっているだろう~?」
って言われたアンちゃんは、、
「あ~そだな~いたのかな~?あんまり覚えてないな、俺には亜紀達くらいかな?ははは、どうでもいいな・・」
って言いながらアンちゃんは、目を逸らしてた・・。
電車の窓から通り過ぎる景色を眺めながら、それぞれの想いは忘れてた記憶に思いを寄せて、何時の間にか言葉を無くしてしまったら
通り過ぎて見えなくなってく景色と一緒に言葉も見失って会話が消えた・・・。
それからやっと三人が辿りついた街、行先を聞かずに楽しみにしてた、筈だった、でも見覚えのあるこの街に、うちは身体が震えだしてた、
この街は温泉の街、電車の終着駅、あの頃はずっとこの街でやっていけると、あの時まではそう思ってた、
この街でお母さんに出会うまでは・・、
動けなかった、どうしてもその先に足が前に踏み出せなくて治まらない震えにうちは泣いてた、否応なく思いださせたあの日の事、
その時ヒデさんが、
「亜紀~?どうした?」って聞いた、でもどう応えていいのか分からない、
するとアンちゃんが、
「亜紀ちゃん~?震えてるけど、寒いのか~?早く温まろう~?ね~亜紀ちゃん?行こう~」って言われた、
でも足が思うように動いてくれなくて、押さえきれない涙が溢れだしたら、ヒデさんに、
「亜紀~?どうしたんだよ~どうして泣く事があるんだ~?可笑しいぞ?」って言った、その言葉にうちは慌てて涙を拭いた、
それでもなにも応えられない、でも二人の想いを壊したくない、そう思うと、もう考える事辞めようって自分に言い聞かせて歩き出した、
この街は、うちの居る街とは違って降る雪の量が多い、だから降り積もった雪は歩く道までも雪で覆い尽くしてしまう、そんな路面を
踏みならしながら、ただ必死に歩いた、早く着いてしまえば、息苦しくなってきた辛さからも解放されるって思った、
でも歩いて行く内に見えてきた煙突の立つ旅館に、足が震えだして、
「ねえ~?何処の旅館に行くの~?」って聞いてみた、するとアンちゃんは、「あ~ほら、あの煙突の見える旅館だよ~」って言った、
その言葉にまたうちの足が止まった、もう駄目、動けない、堪えてきた息苦しさも重なって、うちはその場に坐りこんでた、
するとヒデさんが、
「亜紀?どうした~?辛いのか?」って言われて、「ごめんなさい、あの旅館は行けない、ごめんなさい」ってうちはうずくまった、
するとヒデさんが、
「どうしたんだよ~?此処に何か・・」って言いかけてヒデさんは黙り込んでしまった、
そしたらヒデさん、
「靖~悪い?他の旅館にしょう~行こう~亜紀?立てるか?」って言うとうちはヒデさんに抱えられて、歩きだした、
するとアンちゃんは、
「どうしたんだよ~?別に何処でもいいけどさ~、訳ぐらい話してくれないかな~?ヒデさん~?」って叫んでた、
するとヒデさんは、
「宿見つけてからちゃんと話してやるよ・・」って言いながらアンちゃんの肩を叩いた・・。
ヒデさんは、街から少し離れた所にある旅館を選んで宿を取った、案内された部屋に入ると、
「亜紀?少し横になってな、な~?」って言うと自分の着てたジャケットをかけてくれた、
そして二人がテーブルを囲んで坐ると、ヒデさんは、うちの顔を覗き込んできて、
「亜紀~?少しは落ち着いたか~?なあ~亜紀の働いてたって言う旅館って、もしかしてあの旅館なのか~?だから此処に着いた時から、
そうなんだろ~亜紀?」って言われて、うちは頷いた、
「ごめんなさい、せっかく連れてきてくれたに、ほんとごめんね?・・」
って言ったら、ヒデさんは、
「いや、俺も気づいてやれなった、ごめんな?けどさ~?もしかして亜紀?あの日俺たちの居る街まで、此処から逃げてきたってことか~?
俺、正直驚いてるよ、聞いておけばよかったな~、ごめんな・・」って言った、
その時アンちゃんが、
「あの~ヒデさん?俺には話しが見えないんだけどさ~?話してくれないかな~?のけものにしないでさ~」って少し拗ねてた。
その時ヒデさんは、アンちゃんの言葉に驚いた顔して「あ~ごめん~忘れてた?・・」って言った
するとアンちゃん
「それって酷くないですか~?俺だって気にしてるのにさ~」って余計に拗ねた、
するとヒデさん、
「あっいや~、ごめん!そう怒るなよ~?な?」って言うと、アンちゃん「別に怒ってる訳じゃないですよ、ただね~」ってうつむいた、
そんなアンちゃんに必死になって謝りながらヒデさんは、訳を話し始めた・・・。
話し終えるとふたりは、テーブルの前で坐り込んだまま黙りこんでしまった、
それからしばらくするとヒデさんが思い出したように、
「亜紀?温泉入りに行こうか?な~?」って言うと、アンちゃんが「ああ、いいね~?行こう~亜紀ちゃん?」
って言いながら、ニコニコしてた、
するとヒデさんが
「亜紀、行こう~?もし何なら一緒に入るか~?此処何でも混浴が在るらしいからさ~?」って言い出した、
その言葉に顔が熱くなってくのが分かったら、
「あっあの、ヒデさん?あたしは、一緒には行けません、あっあの、だから、お先にどうぞ?」って言ったら、アンちゃんが、
「ほら~ヒデさんがそんなこと言うから亜紀ちゃんが敬遠しちゃったじゃないか~?亜紀ちゃん?ヒデさんの言う事、気にしなくて
いいからさ?だからさ~?温泉、入りに行こう~?ねっ亜紀ちゃん?」って、なんだかお願いされてた、
するとヒデさん、
「亜紀~?悪かったよ?だから機嫌直して、行かないか~温泉?な~行こう~?」
ってそこまで言われたら、嫌とは言えなくなって、でも
「それじゃ~混浴は行かないよね?」って聞いたら、ふたりが顔を見合せて笑ってた、するとヒデさんが
「ああ~それじゃ行こう~な?」って言うとアンちゃんと頷き合ってまた笑ってた・・。
それから温泉に入って返って来ると夕食が用意されてて、一緒に食事をすませたら、三人でテーブルを囲んでくつろいでた、
そんな時ヒデさんに、
「そう言えば、初めてだな~?亜紀のゆかた姿見るのは、たまにはいいもんだな~?こういうのも・・」ってひとり納得してた・・、
するとアンちゃんが、
「亜紀は、意外と浴衣の方が合ってるかも知れないな~?お母さん譲りなのかな?・・」って言った・・、
「アンちゃん?意外とを付けなかったら素直に喜べたんだけどな~でもお母さんは、着物似合いそうな気がするな?・・」
って言ったらヒデさんが、
「そだ、亜紀?靖にも見せてやれよ、あの写真さ~?」って言われて少し恥ずかしい気もしたけど首からかけてたペンダントをはずして見せた・・。
するとアンちゃんは、
「これ、もしかして~亜紀とお母さん?へ~お母さん綺麗な人だね?それにしても亜紀ちゃん、可愛い顔してるな~?お人形さんみたいだ・・」
って言って見入ってた・・。
一人の部屋を与えて貰って、ふたりには何だか悪い気がして、一人は寂しくも思えたら、床についても寝つけなかった、その時少しだけ開いてた
障子から見えた外の景色に眼が入って、そっとベランダに置かれた椅子に腰かけた、
隣の障子は閉まったままでほっとしながら、夜空を見上げたら、雲が多い中に月が見え隠れしてた、でも、真っ暗じゃないそう思ったら
気持ちも明るくなれた気がする・・。
翌朝、早起きしてたアンちゃんは、何時の間にか朝の温泉に入って来て、うちの部屋に顔を覗かせて、
「亜紀ちゃん~おはよう~?どう~眠れた~?」って聞かれて
「おはようアンちゃん、お陰さまでね?」って言って頷いたら、アンちゃんは、「そっか、好かった・・」って言って笑顔になってた、
その後をヒデさんが少し遅れて眼を覚ますと眠気顔で、「おお~みんな早いな~」って言うとアンちゃんは「ヒデさんが、遅いだけだよ?」
って言ってそっぽ向いてた、するとヒデさん
「何言ってるんだよ~?仕事以外ゆっくり寝なきゃもったいないだろう~?ああ亜紀?おはよう~」って言うと、おおあくびしてた、
そんなヒデさんの言葉を無視しするようにアンちゃんが「亜紀ちゃん?はいお茶?」って、お茶を入れてくれた、
でもうちにはどっちにも返事が出来なくて、遣り場の無さに、つい窓の外に眼を逸らしてしまった。
それから帰り道、駅の前まで来たら、佐川さんを見かけて、ついうちは足を止めた、
声を掛ける気にはまだなれないけど、あの日、佐川さんが励ましてくれた言葉を今でも忘れてはいない、あの時かけてくれた言葉は、うちを
勇気づけてくれてた、今思うと背中を押してくれたように思えたから、だから何時か笑顔で出会う事ができたら、何時かそんな日がきたら、
きっと笑って話せるかもしれないって思う、だからその時までは(さようなら佐川さん・・)そう呟いて、うちは歩きだした、
でもそんなうちに佐川さんが気づく事も無かった・・。
それから暮れも迫ってきた頃、アンちゃんは、職場へと荷物の整理をするとかで帰ってしまった・・・。
その日の昼下り、幸恵さんから手紙が届いた「ヒデさん~?幸恵さんから手紙よ?・・」って言うと
ヒデさんは、
「そっか~?そろそろだな~亜紀?読んでくれよ~」って言われて、うちは手紙を開いた、
ヒデさん、カナさんお元気でいらっしゃいますか~、先日はわざわざのお見舞いありがとうございました、
慎一さんも貴方がたとお会いしてからというもの体調も良くこの頃は、カナさんの話題で表情も明るくなりました、
本当に感謝しております、主人からお聞きになってご承知かとは思いますが 慎一さんが来週にも仮退院が決りました、
つきましては、心ばかりの祝いの席をご用意いたしました、御忙しいとは存じますが、是非、御一緒に祝っていただければと、
取り急ぎお知らせしたく、筆を走らせました、
カナさん、ヒデさん、是非いらしてください、逢える日を、心よりお待ちいたしております・・。
うちが読み終えると、ヒデさんは、
「亜紀~?楽しみだろう~?」って言われて「ほんと楽しみね・・」って言ったら、
ヒデさんに、
「ほんとに~?なんだか亜紀、浮かない顔してるよ~?なにか気になる事でもあるんじゃないのか?」って言った、
「そんなこと無いよ?あたしはずっと楽しみにしてたんだから、嬉しいに決ってるでしょう?」って言うと、
ヒデさんは、
「そっか~?それならいいんだけどさ」って笑顔になった・・。
そしてお兄ちゃんの仮退院の日、
ヒデさんとお兄ちゃんの家を訪れた、幸恵さんは丁寧に家の地図を用意してくれて迷うことなく辿りつけた、
でも、お兄ちゃんの家があまりにも豪邸のようで、始めは間違えたのかって、何度も確かめてしまった、でも、間違いないってヒデさんと
確かめ合って、玄関のチャイムを鳴らした、
ヒデさんは、
「間違いなら、聞いてみたらいいさ」って苦笑いしてみせた、うちはそれも仕方ないかもって思ってたら、
その時、扉の奥から「は~い・・」って幸恵さんの声が聞こえて来て、ヒデさんと顔を見合せて、好かった~って笑いあった・・。
扉が開くと幸恵さんはうちとヒデさんの顔を見るなり・・、
「あら~、ヒデさん、カナさん、いらっしゃい、良く来てくださいましたわ~、嬉しいわ~、待ちこがねてましたのよ~?慎一さんも
そわそわしちゃって?・・」そう話す幸恵さんの勢いにヒデさんは、少し困惑してた、うちも何だか少し気後れしてたら、
そんな時お兄ちゃんが顔を見せて、、
「幸恵~?そんなところで話してたら上がれないだろ~?すまないね~さあ~上がってくれ?・・」って言われて、中へと通された、
広いリビングに繋がってそこから見えてた四畳半ほどの居間には、すでにお料理が並べられてた、どこか別の場所に迷い込んだような
うちはそんな錯覚に落ちた、その時ヒデさんが、「お兄さん、退院、おめでとうございます・・」って言った
するとお兄ちゃんは少し照れくさそうに、
「あ~まあ~、そんな型っ苦しい挨拶は抜きだよ、さ~どうぞ?・・」そう言って頭を撫でてた、
手招きされてヒデさんと居間へ腰を下ろすとお兄ちゃんは、
「来てくれて、ほんと嬉しいよ、ありがと?これで建・・」って言いかけてお兄ちゃんは、苦笑いして目を逸らした・・、
その時、はじめてうちは建兄ちゃんの事を思い出した、どうして今まで思い出さずにいたんだろうって、どんなに離れてても慎兄ちゃんと
一緒だったはずの建兄ちゃん、慎兄ちゃんは、今まで口にも出さなかった、どうして・・、
「お兄ちゃん~?建兄ちゃんは、今何処に?」って聞いてみた、そしたらお兄ちゃんの顔が沈んでしまったように思えて、うちはその先が
言えなくなってた・・、
時が記憶を曖昧にして、何時の間にか忘れてしまってた、ずっと一緒だった、もう一人のお兄ちゃんの存在、うちが愛されていたとはいえない、
繋がらない血の繋がり、それでも、いつだって一緒だったのに(ごめんね、建兄ちゃん、カナは幸せになれたよ、忘れててごめんね・・・)
時の足跡 ~second story~ 11章~16章