憎悪の手記
「憎悪」とは、事柄や人物をひどく嫌い、憎しみや消えて欲しいという感情を抱くことだと思う。嫌悪を越えた感情は、強いストレスになり身体的にも精神的にもダメージを与える。しかしその憎悪の感情を向けられる本人は、何とも思っていないのだ。そのことがさらに憎しみを生むことは言うまでもない。
何か、誰かを憎悪せずに生きていくことはできるのだろうか。
「憎悪していた」と「憎悪している」の違いは、現在も憎しみ続けているのかどうかだ。強く憎悪する相手、または事柄からは誰だって早く離れたい。考えないようにしたい。消してしまいたい。離れることができれば、全てなかったことにして、忘れられる。忘れようとする。それでもふとした時に思い出す。人生を左右してしまう。それが与えられた、被った傷の深さ。古傷が増えていくたび、思い出す。もう誰の事も悪く思いたくない。
憎悪するものを消したり、それから離れたりしなければ、苦しみはずっと続く。では「それ」から離れられなかったら? 組織、血縁関係、人間関係、経済的理由、変えられる権利、自由がなかったら? 依存しなければ生きていけなかったら? 機会を、権利を、力を、得られるまで耐えて待つのか、報復するのか。
誰もが快適に生きるためにはどうしたらいいのだろう。何もできないのは当然だ。個人の問題だと切り捨てられかねない。これは、個人的な憎しみとどう向き合っていけばいいのかという話。
たとえば、身体的特徴を嘲笑い、自信を喪失させた人。
少し視力が低いだけ。
『そんなの』ないと見えないの?
そういったあの人も、数年後眼鏡をかけていたのを知っている。その人を恨んだりしない。ずっと一緒にはいなかったし、ちょっと口が悪くて気が強いだけ。
でも、
忘れていても確かに、その言葉は心を打ちのめしたのだ。
たとえば、「友達」だと言って近づきお金や物品を騙し盗った人。
「友達」って便利な言葉。
ともだちって誰かを一緒になって傷つけることなのかな。お金を貸すこと? 貸してもらうこと? 嫌なのに一緒にいること?
好きだと思ったことは一度もない。学校に行きたくなかった。食事も喉を通らなかった。もう笑えなくなるんじゃないかと思った。
部屋に入れたくなかった。大事なものを漁られたくなかった。綺麗なものも、大切なものも、お金も、五百円玉、百円玉まで。
嘘嘘嘘。
嘘で塗り固めたそれは、何なんだろう。
愛されない人を装ったあなたを、愛さなくてはいけないの? たまたま目をつけられただけ。みんな被害者。誰か助けてくれたらいいのに。
「なぜそんなこと言うの?」
弱みを握られ、追い詰められて、それでもあなたはそんなことを言う。
嫌いって言ったらダメなのかな。
本当のことなのに、ダメだったのかな。
お金がないと言うと、貸してあげると言った。
それはあなたが盗ったお金。
無理やり使わせようとして、あなたは借金をさせて、返せと言った。
なぜこんな目に遭うのだろう。
時間が過ぎて、離れられるまで、借金がなくなるまで、ずっと続いた。
たとえば、大切な人に迷惑をかけ尊厳を傷付けて記憶も元の人格も失った人。
もう人間とは呼べないかもしれない。それでも生きている。誰かが世話をしなければ。
生きたい。何がしたい。これは嫌だ。そういう意志はあるのだろうか。
大切な人の負担になっていることを、身体に影響を与えていることを、それが当たり前のようになっていることをつらく思う。
なぜ「しなければいけない」のかな。
「育ててやった」「養ってやった」
それがあなたのやって来たこと、生き方に見合うのかな。
血縁関係、婚姻関係、年齢、性別。
それが「当たり前」をつくる。
想いや気持ちとは関係なく。
「不幸だ」とか「不運だ」とか、そんな言葉で片付けられるほど単純じゃないし終わらない。
大事な人が早く幸福になれることを願う。
たとえば、自分勝手で差別的、人の気持ちを考えない、アルコールに依存した人。
嫌だ嫌だ嫌だ。
生み出す音、声、匂い、存在が全て嫌いだ。
毎日会っているはずなのに顔ははっきり覚えていないし思い出したくない。
「人の気持ちになって考えろ」
そうだとしてもあなたは考えたことがあるのかな。考えられないのかな。
もし逆の立場だったら。あなたの中でそんなことはありえない。だって「違う」のだから。
あなたは傷ついているのかもしれない。苦しんでいるのかもしれない。でも周りの人を苦しめる権利があなたにあるのかな。自分は特別なのかな。偉いのかな。何を言ってもいいのかな。
責任だってとってほしくない。できるなら、早く無関係になりたい。我慢して生きていくのを見ているのは嫌だ。
憎しみという感情を知った日。
「〇〇だから。」
それだけで我慢して生きていくのはつらい。
自分の力で何とか出来たらなと強く思う。
憎しみが怒りに変わり、怒声になる。涙になる。
その感情は瞬く間に膨らんで心を侵略する。
暗い感情が余裕を食い潰して。
最後に残るのは何もない。
「私」が壊されてゆく。
好きなものは何だっけ。趣味は? 好きな人は?夢は? 思い出は?
思い出せても、正しく全ては思い出せないのかもしれない。
逃げて、逃げて。
幸せの場所を探して。
誰か、誰もいなくてもきっと大丈夫。
何かのために生きて行こう。
みんなが生きやすいように。
何ができるのだろう。
それを探すのも、きっと誰かの道。
憎悪の手記