〝K君について〟
少し色黒ですらりとしてて
端正な顔立ちだった
K君
中学から高校までの6年間
たった1度しか
同じクラスになれなかった
K君
一匹狼で帰宅部だった
K君
廊下ですれ違うと
「七海ちゃん元気?」と
微笑んでくれた
K君
スピッツが好きで
互いのお気に入りの歌について
語り合った
K君
いつかの校内合唱コンクールでは
彼の選曲であるロビンソンを
一緒に練習して歌った
K君
高校に入ると
途端に交流がなくなってしまった
K君
友達が少なくて
あまり笑わなくなってしまった
K君
学校に住みついた
猫のペケと仲良しだった
K君
自転車同好会(会員1名)だった
K君
先生に反抗的だった
K君
授業中にいなくなり
廊下の鉢植えを叩き割って帰った
K君
いつも何かに対する
怒りとやるせなさを湛えたような
鋭く綺麗な目をしていた
K君
昼休みに私のクラスに遊びに来ては
数少ない仲の良い友達といて
青い缶コーヒーを飲んでいた
K君
(あの缶コーヒーになりたいと思った)
その様子を横目で盗み見ては
勝手に胸を高鳴らせる私と
他の男子とじゃれ合って
普段とは別人のように無邪気に笑う
K君
全校集会の時
いつも3m前方右斜め45度にいた
K君
(夏はあの手の中のタオルに
冬はカイロになりたいと思った)
結局高校の3年間
ろくに会話もできないままで迎えた
卒業式の日に
偶然居合わせた下駄箱の前で
私に声をかけてくれた
K君
「バイバイ、七海ちゃん」
(あまりに自然で
そしてあまりに一瞬の出来事で
呆然とすることしかできなかった私)
その後の数年間
彼の行く末を知る者は
誰もいなかったが
今ではほぼ毎日
フェイスブックに
愛する我が子の写真をアップする
良き父親となった
K君
時間とは
不思議なものだ
あれだけ尖っていた彼から
色んなものを奪い去り
色んなものを与えたのだろう
それは
とても喜ばしく
素晴らしいことだ
素晴らしいことなのだけど
私がいつも
こっそり目で追っていたK君は
もうこの世にはいない
私の視界の片隅で
三日月のような寂しい光と引力で
確かな存在感を放っていたK君は
朝焼けに消えた
けれども私は
今でもあの場所にいる
瞼を閉じるたびに
あの卒業式の日の
桜の花びらが舞い込む下駄箱に
1人佇んでいる
耳を澄ませるたびに
あの日の
K君の声が聴こえる
「バイバイ、七海ちゃん」
〝K君について〟
学生時代に気になっていたK君について
儚き青春の備忘録として残したくて書きました
読んでいただいてありがとうございました
m(_ _)m