疾走する血
「街がなんだ 僕は死にたい きみの髪に 触れて 包まれて 未来を突いて」
ボンネットの上で、いつしか僕が、臨終を迎えたら
構わずきみは、この先を疾走するだろう。
不確かな未知を望んで、
得体の知れない非常の街を。
「神よりも あなたを信じるわ 終末は 愛に死んでも 罪は チャラなの」
狡猾な熱味を帯びた人工光の、交錯の筋を、
ブーツに刻んで彷徨しつづけた僕。
理由など無くしていたのだ。
ありふれた犬のように僕が絶命する陽の下で、
床を転ぶほどに、きみが笑った回想。
不毛な庭の道化たくちづけ
壁の剥げた地下で感じた鼓動
無垢な目 この世の終末の予感
君を感じたときの沈黙 至福。
「一 か 八か 賭けてみるのさ この魂で 駄目なら 世界を すれ違うだけ」
僕のなかに静寂があるとすれば、
それはうす汚れた血の言葉のなかの、
白いカーブの起伏を帯びた、透明に停止した光の中。
眼差しが交じりあって きみを感じた一瞬
それだけのために ボンネットの上でささやかな静寂を迎える最期
「刹那なの いち にの さんで あなたへ貫くの 生きる意味なら 犬も知ってる」
視界は、重力の鎖を解かれて、上昇し、
ますます慈愛を高めて、白く渇いた光に達し、
下方に遠ざかるかつての流刑地へは、もはや意識は届かない。
消えてゆく知覚は、ピントの外れた光景を捕まえて、
最期の記憶が捉える。
病みついた路地
原色の壁の穴
霧の中のシュプレヒコール
車体を優しく包んだ 疾走する僕らの血
そして やわらかく ゆがんだ 少女の眼差し 告白。
「目を凝らし 目を射抜くのさ 生ききるのさ たとえ死んでも ペテンが残る 」
生きたきみは、疾走する。
もはや言葉さえも欠いた放縦のうちに。
紅潮した頬の血を拭い、吹き上げる髪には童心の揺れ。
迷いを覚めた漆黒の目、想いを黙して。
「賭けしよう すべての舗石を 愛すから 僕が敗れて 生き延びたなら」
<おまえの形にならない未来は、疾るおまえのなかにある>
「瞬間が この先で 死ぬ日は 弾丸を 撃ち貫くわ あなたで終わるために」
きみは、疾走する。
光る草の陰と、開けた舗道の雨跡を通り過ぎて、
終末の響きを隔絶した、緑色の斜陽を駆け抜けて。
「青を狙って 赤を切り裂いて きみを拾う 緑の中で 息を引き取る」
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「きみは この恍惚を 信じるか? 僕の唇から 放たれるきみの詩を」
きみは、大気の透けた自由の空のなか、
透明な限りない意思が弾けて、
疾走するきみの背景に映えて、
この上なく、
美しい空が、
流れるだろう。
疾走する血
フランス映画『汚れた血』を見たときに書いた高校生の頃の作品。
随所に最近詠んだ短歌を改造して織り交ぜた。
作者ツイッター https://twitter.com/2_vich