想い。

溢れてしまいそうになる想いを留めて、止めて、…どこまで胸の奥に閉じ込めたらいいの。

溢れた。

独占欲。寂しさ。苦しさ。嫉妬。そんな黒い感情を私は言葉にして、大好きな恋人に伝えたくない。
独占欲を言葉にすれば束縛が強いと思われ、寂しさを言葉にすれば自分の時間を作れなくしてしまう。苦しさを伝えれば自分の傍に居る事に息苦しさを感じていると思われてしまい、嫉妬の想いを伝えれば行動を制限してしまう。

私は恋人が【好き】だからこそ、自分のそんな黒い感情に巻き込みたくないと思うし、伝えなくても死なないなら伝えなくていいと、そう思ってしまう。
でも伝えずにいるせいで心を開いていない。信頼されてないと思われるのも嫌で、この黒い感情をどうしたらいいか、私は分からずに居る。






待ちわびていた雪が降った今日、嬉しく嬉しくて私は頬を緩ませながら恋人の帰りを待っていた。彼が帰って来たら、雪が降ってどれだけ嬉しかったかを伝えよう。降った雪で何をして遊ぼうか考えていた事を話そう。そんな風に思っていたけど、彼はなかなか帰って来なかった。
部屋の中に響くのは秒針の音だけ。それ以外は何も聞こえない。暗い夜空を見上げ、この暗闇に彼は食べられてしまったのではないか。そんな馬鹿みたいな事を考えてしまうぐらい私は心細かった。
「…大丈夫かな。寒がっていたり、事故にあったりしていないといいけど…」一人だからだろうか。思わず本音が零れ落ちていた。彼の前では寂しいと勘付かれてしまう言葉をなかなか発さない所為だろう。思わず零れた言葉に自分自身がとても驚いた。



がちゃり。部屋に秒針とは別の音が響き、それが恋人の帰宅を知らせるものだと直ぐに悟った私は急いで玄関に向かった。
「おかり、なさい…!」短い距離だったのに走った所為か息が切れてしまったけど、出迎える言葉はなんとか紡げた。その事に少しだけ安堵を覚える。
「…ん、ただいま」話したい事は沢山あったはずなのに、彼のとても疲れたような、それでいて寂しそうな笑顔を見てしまったからかな。紡ぎたかった言葉は全部、胸の中に閉じ込められてしまった。私の意思とは、関係なく。


「ごめん、今日は疲れちゃって、…このまま眠ってもいい?」私よりも寂しそうな声、表情。そんな彼に『少しも、話せない…?』なんて我儘は言えない。そして、『寂しかったけど、』そんな言葉も紡げなくて私は無理をして、精一杯何時もの私に見えるように笑みを浮かべ、
「ううん、貴方は何も悪い事なんてしていないし謝らないで?…お仕事で疲れていると思うし、今日はこのまま眠ろう?」そう告げた。
せめて、『一緒に眠ろう?』と言えばよかったのかもしれない。そう言えば【可愛い】と思ってもらえたかもしれないけど、言えなかった。言って【私と過ごす時間】を強要したくなかったんだ。




彼はか細い声で「ありがとう」と呟き笑った後、私の手を引き寝室へと連れて行ってくれた。寂しそうな声や表情と違って、繋いだ手の温かさは優しくてとても愛しかった。その温かさに涙が零れてしまいそうになったけど、それを笑う事で堪える。





辿り着いた寝室のベットに身体を沈めると、彼は私の身体をぎゅっと、優しく抱きしめてくれた。そして、額にそっと口付けを祈るように落としてくれる。
「…おやすみ、お姫様」そう、甘く囁いて彼は瞳を閉じた。








彼が眠りについて一時間。私はまだ起きていた。彼の愛おしい寝顔を見つめ、時を過ごしていた。
規則正しい寝息と、偶に震えるように動く唇。それすら可愛くて愛おしくて、…黒い感情が生まれていってしまう。










「…寂しかったよ。会いたかったよ。話したかったよ。………すき、なんだよ」





起こしてしまわないよう、小さな、小さな声で囁いた。我儘で寂しがりで重たくて嫉妬深くて束縛も激しくて。そんな私だけど、貴方が好きなの。大好きなの。





この感情は留まるところを知らない。でも溢れた黒い感情をどうしたらいいのか分からなくて、一人呟く。貴方を巻き込んでしまわないように、傍に居られるように、この感情は、もう少しだけ、もう少しだけ、胸の奥に閉じ込めさせていて。

想い。

胸にあふれた想いを書き綴ってみました。少しでも共感していただけたら、とても嬉しく思います。

次回作も是非、宜しくお願いします。

想い。

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  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-02-09

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