メランコリー型彼女

春生志乃

メランコリー型彼女

僕の彼女は、双極性感情障害、躁鬱と呼ばれる病気だ。
それは見ただけでは解らない。
容姿も普通で、特に変なところも見当たらない。
ただ、感情の起伏が異様だ。
先ほどまで嬉しい楽しいと言っていた筈が、いつのまにか地獄にでも落ちたかの様に暗くなる。
「次に来る電車に飛び込めば死ねるのかな」
そんな事をしょっちゅう言っていた。
けれど僕はそんな彼女に、冷たい言葉をかけた。
「死ぬ死ぬなんて言っているけど、なかなか死なないよね」
きっとそれは、彼女にとって死ねと言っている様なものだったのかもしれない。
僕は軽はずみにそんな言葉を言ってしまったのだ。
何も考えてはいなかった。
ただ口から出た言葉が、そんな言葉だった。
僕は彼女に死んで欲しいなんて思った事もないし、これからもそうだ。
けれど、でた言葉はまるで「死ね」と同じ様なものだった。
恐る恐る彼女の方を見ると、彼女は笑っていた。
何故笑っていられる。
何故、いつもの様に落ち込まないのだ。
そして彼女は言った。
「本当に死にたいなら、もう死んでるさ」
「ごめん、悪い意味じゃなくて、ただの疑問で」
「わかってる。何で死なないのかって聞かれても私もよく解らないな。死にたいとは思うけれど、実際未遂で終わったり、本当に死んだ事なんてない。死んだら今こうして会ってもいない。何故だろうね、人間は解らないよ。私も解らない」
彼女はまた笑って言った。
この疑問は彼女にとって「聞いて欲しい事」だったのかもしれない。
「死ぬ時は黙って死ぬよ。自殺をした人はみんなそうだ。けど本当は止めて欲しかったと思うよ。私は止められているから生きている、ただそれだけにすぎない」
「本当に死ぬなんてやめろよ」
「じゃあ死なない様に精々見張っておいたら」
彼女はスキップで帰っていった。

その晩、彼女から一通のメールが届いた。
添付されていた画像には、左腕に無数のリストカットをした、彼女の腕の映っていた。
僕は急いで彼女に電話をかけたが、彼女はでなかった。
僕は焦りつつ、彼女の元へ向かおうと準備を始めていると、また彼女からメールが来た。
「やっぱり死ぬ事なんて私には出来ないのかもしれない。死にたくて死にたくてどうしようもない気分だけれど、死ねない。これ以上苦しい事なんてあるかな。私は私にまだ未練も期待も抱いてしまっている。期待しても無駄なのに、期待している」
彼女の文面から、彼女の心が悲鳴をあげている事に気がついた。
きっと先ほど言った事を気にでもしたのだろう。
その後も立て続けにメールは届いた。
「明日死ぬなんて解っていたら、もっと今をただがむしゃらに楽しんで生きられると思わない?死ぬ事を目前としたら、きっと生きる事に魅力なんか感じてしまうから、きっと生きていけるのに」
僕は彼女返信した。
「さっきの事気にしているなら申し訳ない」
「ただ死について考えていただけ」
さっきは楽しそうにしていたのに、また気分が地獄にでも落ちた様だ。

彼女の考えている事は解らないが、彼女には隠されている魅力があると、僕が勝手に思っている。
彼女にしか解らない死についての思考だとか、彼女の気分の高揚だとか、僕には全て解れる筈がない。
けれど、僕は彼女が死なない様にただ見張っているのだ。
彼女がそう望むのなら、僕はそれに付き合っていこうと思う。
そんなメランコリーな彼女を好きになってしまったのだから。

メランコリー型彼女

メランコリー型彼女

メランコリーな彼女と僕の話

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
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