ひばりヶ丘の休日

ひばりヶ丘の休日

エアコンが乾燥しきった空気を吐き出す。喉が焼けるような部屋で目が覚めた。

鉛の様に重たくなった身体。いつのまにかソファーの上で寝てしまっていたようだ。
部屋の中には誰のものだかわからない靴下と、見覚えのある花柄のブラウス、脱ぎ散らかされたスキニージーンズ。あと良い匂いのしそうなカーディガンとアンクル丈のダメージジーンズ。
どれも僕の部屋に元々無かったもの。

テーブルの上にあるべっとりと汚れの着いたメガネを掛け、ポケットに入っていたタバコに火をつけた。


さて、どうするもんかな


僕は台所に立ち薬缶に水を入れて火をかけた。これからのことを考えて(いるフリをして)いると、薬缶がピィと鳴る。
一昨日買ったインスタントコーヒーを濃いめに淹れ、たばこと交互に口に運ぶ。


ふと寝室に目をやると、ベットの上で寝息を立てている女の子が二人、片方は布団にくるまっていて、もう片方は寒そうに身を丸めていた。
とりあえず寒そうな方に毛布を掛けてやり、ベランダに出る。


ベランダからは黒目川が見え、散歩をするおじいちゃんやランニングする人が見える。
冷たく澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込み、すこし伸びをした後エアコンの室外機に腰かけた。
灰皿にポンポンと長くなった灰を落とす。


こんな日も良いかもしれない。


すると、ベランダの窓をコンコンと叩く音がした。
すこし怒った顔で僕のパーカーだけを着ている寒そうにしていた女の子は口ぱくで「下に着るものないの?」と言っている様だった。

僕は首を横に振り(無いことにしておこう)観念した彼女はそのままの姿のままベランダに出て、パイプ椅子に腰かけ

「あづいーっ」

パーカーの襟をパタパタとしながらメンソールのたばこに火をつける。
パタパタするたびに鎖骨の先にある二つのふくらみが見え隠れしていた。

僕はできるだけ、渋い顔で(大人の男性っぽく) おはようと言った。
コーヒーは彼女に取られたので、冷蔵庫から大人の飲み物バドワイザーと、渋い男の必需品マルボロに火をつけながらベランダに戻る。


「ねぇねぇ昨日のことまったく覚えてないの?ばかーー」


えぇ大変ご迷惑をお掛けしました。本当は下に穿くもの有るよ?履く?そのかっこう寒くない?

「え?本当はってなに?」

あぁこういうのいいなって思いながら時計は11時を指していた。


「今日これからどうするの?」彼女がぬるくなったコーヒーを飲みながら聞く。

あ、そういえば。スマホを見る。

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みーちゃん

これからそっち行くよー!!ふんわり鏡月買ってあるからねー!!10:38

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ふんわり鏡月はアセロラ・ゆずとラインナップが有り、どれもおいしくサラサラと飲めるのですぐに酔っ払いたい僕とみーちゃんの御用達のお酒だった。
今日はそのふんわり鏡月でたこやきパーティーを昼間からやる予定。僕らの飲み会は始まりが早くて終わるのが遅い。

彼女に斯く斯く云々説明し、


タコ焼きパーティー来る?


「…あー。パス。今日はいいわ」


そっか


「シャワーかりていい?」


はいはいどうぞどうぞ


浴室に向かうお尻を擬視しつつ、バドワイザーを飲み干すと、布団の女の子が起きてきた。
この子は僕のプーマのジャージを着ている。高校時代に買った黒い大きなシミのついたやつ。

コンコンとベランダの窓を叩く。口ぱくで「下に着るものないの?」と言っている様で

無いよと口ぱくで伝え、ジャージを着た女の子は勝手に冷蔵庫から誰かが残していったほろよいを手に取りベランダのパイプ椅子に座った。


「ねぇいつもあんなことしてるの?」


あんなこととは?


「は?言わせる気?」


その節はどうもお世話になりました。小生、酒に酔って全く覚えてない様でして...


どうやら昨日の夜はひだまりで飲んでいて(ここは覚えている)、店にいた女の子二人に「家に可愛い猫がいるんだ」と声を掛けてタクシーで家に帰り、可愛い猫は元カノの家に逃げたという言い訳をして、仲良く三人でシャワーを浴び、その後三人でお察しの通りでした。


なぜその夢のような出来事を覚えてないんだと、自分を小一時間問い詰めたい。


「ばかだねぇ」


ジャージの彼女は持っていたメンソールのタバコ火を付けおいしそうに吸い、空き缶になったほろよいに灰を落とした。
吸いこむときに目を細める仕草。白く透き通った横顔。まつ毛が長く美しいと思う。

パーカーの女の子が脱衣所でドライヤーを使う、ごうごうという音を聞きながら


「こんな日も悪くない」と言った。



時計は12時を過ぎ、2人はタコ焼きパーティーには参加しないようでパパっと着替えをすませ(渋い顔でそれを擬視)
ひばりの駅まで二人を送った。


パーカーの女の子が


「私この街好きかも」


またおいでよ


ジャージの女の子が

「こんどはちゃんと猫飼っといてね、あといろいろ忘れないよーに」


はいはい


ひらひらと手を振る女の子達にひらひらと手を振りかえしていると後ろから衝突が有った。


「いまの子たち誰?妹?ちがうよね?」


あ、あれは昨日できた妹達で


「まさか妹達とえっちしないよね?」


良く覚えてないからとりあえず買い物に行こう。


西友にたこ焼き機を買いに行く提案をし、二人で歩き出した。

ひばりヶ丘の休日

ひばりヶ丘の休日

エアコンが乾いた空気を吐きだし、ドライヤーがごうごうと音を立てる。薬缶がピィと鳴る。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-02-08

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