朴念仁が恋をした 4話
ラストです。
朴念仁が恋をした 4話
22
成田の第一志望を聞いてから、勉強に気合いが入った。
じゃあ、なんで気合いが入っているんだ?
まさか•••?
まず、落ち着こう。深呼吸をして•••。
よし、落ち着いた。
で。
俺、もしかして、成田のこと、気になっている?
••••••。
わからん。
んー、じゃあ、成田が知らない男と付き合ったら•••。
うわっ! めっちゃ、やだ!
••••••。
ヤバい。俺、成田のこと、好きになった?
自分の気持ちもままならない状態で、冬期講習に入っちまった。
「進藤くん、ここわかった?」
今は休み時間。
成田はいつも俺の後ろに何故か座った。
ペンで人の背中をザクザクさすな。
ヤバい。顔が熱くなっている。
「どれだよ?」
半分だけ振り返る。
「これこれ」
「ちょっと待て」
自分のノートを開いて渡す。
「ほれ」
「ありがとう、サンキュー」
自分のノートに書き写す成田。
もっと丁寧に書けばよかった。
そういえば01クラスには田中がいるなぁ。俺もわからない箇所を後で聞きにいこう。
「成田、他にわからないとこあるんなら次の休み時間、一緒に田中のところ聞きにいくか?」
成田の顔が曇る。
「いいよ、迷惑だし」
待て、俺は迷惑じゃないのか?
ツッコもうとしたが、成田の顔を見て止めた。
急におとなしくなって、どうしたんだ?
思い出した。
01クラスには、田中のほかに成田の知り合い•••確か坂井もいたな。
だからか?
それから、そのことが頭から離れなくなっていた。
23
塾の帰り道。
今日は1日雨だ。
そんな中、俺は成田と傘を並べて歩いている。
俺ん家の前の公園に入ったところで、俺はガマンできず成田に聞いた。
「成田、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「なぁに?」
「答えたくなかったら、答えなくていいから」
「だから、何なのよ?」
「いや、すげー前のことだけど、成田、ここで泣いていたことあったじゃん」
成田の肩がビクッと反応する。
少しためらったが、もう聞いちまったんだ。最後まで言おう。
「あの時のチョコって、坂井にあげようとしていたのか?」
「•••進藤くん」
「お、おう」
「なんでいきなりそんなこと聞いてくるの?」
「いや、この公園で確かそうなことあったなぁ、って思い出しただけで、別に深い意味はねぇよ」
自分にウソをつくつもりはなかった。でも本当の理由でもないな、と俺は思った。
「•••なんで坂井くんの名前が出てきたの?」
自分から聞いたはずだったのに、成田からの質問で俺自身が苦しくなっていた。
「•••なんとなく」
自分で言っておきながら、なんなんだと思う。
成田がジト目で俺を見上げる。
「いや、だから言いたくなかったら言わなくていいから」
俺は後ろに反り返りながら、ジリジリと近づく成田の無言の圧迫から逃げる。
すると、急にプレッシャーをかけるのをやめて、成田は見たことのない顔で笑った。
「そうだよ」
「え?」
「だから。進藤くんが言うとおり、あのチョコは坂井くんにあげようとしていたの!」
そっぽを向いて、傘で表情が見えない。
俺はなかば反射的に
「成田、ごめん」
「あ~、失恋の傷、ふさがってきたと思ったのに•••」
「いや、なんか悪い! 本当、ごめん!」
俺は頭を下げた。
「ウソウソ、気にしてないよ」
「本当か?」
「はいはい、本当、本当」
「あーっ、ビビった•••」
笑っている成田を見ながら、俺は頭をかいた。
もう、いつもの成田に戻っている。
成田は俺の顔をのぞき込みながら
「でも、本当になんでそんなこと聞きたかったの?」
俺は少し考えてから
「今日、01クラスに行こうって言った時、成田、なんか•••」
「え? 顔に出てた?」
俺は頷いた。
「それは失敗•••。でも大丈夫だよ、本当」
その時、俺には聞きたいことがもう1つあった。
まだ、坂井のこと、好きなのか?
今、これを聞いてしまったら、なんか自分自身がわからなくなりそうだったので止めた。
桜井の時にわかったことがある。成田が誰を好きなのか、よりも、俺が成田のことをどう思っているか、これを先にはっきりさせなくちゃあな。
24
2月に入った。
推薦じゃない俺は、受験一発勝負だった。
月初めにあった滑り止めの私立入試には合格した。
正直、一安心だ。
あとは月の終わりにある都立入試に全力を尽くすだけだ。
公園の一件以来、成田のことは考えていなかった。
頭をよぎることはあったけど、まずは受験だし、それに同じ都立に受からなかったら、それこそ本末転倒だ。
だから、会った時は普通に話したけど、それ以上でもそれ以下でもなかった。
そして、都立高校入試。
できたような、ヤバいような。
来月には嫌でもわかるんだから、今は肩の力を抜いて、のんびりしよう。
この後にあった期末テストも、とりあえずという感じになってしまった。
でも、みんなそうだろ?
そして3月。
合格発表は受験者同士で高校まで行った。
これ帰りも一緒だろ?
まぁ、俺は知り合い1人しかいなかったから、それほど追加ダメージは食らわないだろう。
ただ、その1人っていうのが問題なんだけど。
で、結果発表。
男女5人で行った俺たちの中で合格したのは、3人だった。
1人は知らない女子だった。
もう1人は成田だった。
よかったな、おめでとう!
で、最後の1人は•••。
進藤明。
やった、受かったよ。
はしゃぎたかったが、2人落ちている中、さすがに無理だった。
とりあえず、母親に報告と。
一旦、学校に戻って、担任に報告する。
それ以外のこともサラッと片付けた。
そして、家への帰り•••。
同じ方向の成田と互いに合格を祝いあった。
「高校行っても一緒だね! よろしくお願いします」
「こちらこそ」
「ぷぷっ•••」
「なんだ?」
「いや、進藤くん、発表見てから、ずっとニヤケているよ」
「マジ?」
「よっぽど嬉しいんだね」
「そりゃ、そーだろ」
「ま、私もほっぺたの肉がさっきからガマンしすぎて、引きつっているんだけどね」
成田の笑った顔に俺は何も言えなくなっていた。
「じゃあね」
「おう」
考えることをストップしていたけど、しっかりと自分の気持ちと向きあおう。
25
卒業式の予行を終えて、あとは本番のみだ。
バレー部も男女合同で何か考えているみたいだった。
それと田中も桜井も第一志望に合格していた。
田中から聞いたが、桜井と同じ駅を利用するらしい。
それ以上、お互い言わなかった。
バレー部に顔を出した帰り、校門のところで成田を見つけた。
追いかけて、声をかける。
「進藤くんも今?」
「バレー部に顔出してた」
「バレー部って言えば、ジャージ持って来いって、やっぱ試合すんのかなぁ」
「たぶん、そうだろ」
「うぅ、身体動くかなぁ」
「ま、ケガしなきゃ、いいんじゃねーか」
あの雨の公園以来、恋愛系の話は一切していなかった。
だから当たり前だけど、成田とは、普通の会話しかしていない。
でも、成田と同じ高校に合格した日から。
あの日の成田の笑顔を見てから。
俺の気持ちは、もう自分でもわかっていた。
彼女にしたい、とか、付き合いたい、とかそういう気持ちより、ただ、もっと単純だった。
成田が好きだ。
伝えたい。
返事はもちろん気になるけど。
とにかく、自分の気持ちを伝えたかった。
心臓が異常に速い。
口の中がカラカラだ。
でも、伝える。
俺ん家の前の公園。
その中を俺たちは歩いている。
くそ、手が震えているのか?
情けない!
気合いを入れる。
「成田」
「ん?」
いつも通り振り返る。
あぁ、やっぱり好きだ。
「俺、成田のことが、好きだ」
言った。
成田の顔は?
そうだよな、驚くよな。
それでも俺はその場に立って、成田の言葉を待つ。
「え? 進藤くん、私のこと、好き•••なの?」
「好きだ•••」
「••••••」
目が泳ぐ成田。
みるみる顔が赤くなっていく。
「でも、進藤くん、そんな風に全然見えなかったから、私のこと、友だちなんだって思ってた•••」
「いや、友だちだけど、そこ以上に成田のこと考えると•••」
俺は服の胸の部分をつかみながら
「すげードキドキするんだ」
「•••そうなんだ。そうだったんだ•••」
成田も自分の胸に手をおくと、目を閉じた。
「成田?」
目を開いて俺を見る。
「わかった。進藤くんの気持ち、聞いたから」
一呼吸おいて
「でも、ちょっと待って。今すぐには答えられないから」
「•••わかった」
俺は頷くと成田の先を歩き始めた。
成田もあとからついてきているのがわかる。
俺は家に着くと
「じゃあ、またな」
「またね」
ぎこちなく笑う成田だった。
26
卒業式。
今日でもう中学校とも、おさらばだ。
一昨日、成田に告白してから返事はまだもらってない。
成田がなんて答えようと、悔いはなかった。
ただ、フラれたら落ち込むとは思うけど。
桜はまだ蕾で二部咲きくらいか。
後輩たちに見送られて、やっと校門までたどり着いた。
「進藤くん」
「桜井•••」
「追い出しパーティー、ジャージ忘れないでね」
「桜井も持ってこいよ。忘れられないレシーブさせてやるから」
「あはははは、遠慮しとくよ。それともケガしてたら、責任とってくれるの?」
咳き込む俺。
笑いながら背中を叩いてくれる桜井。
「何やってんだ? アキちゃんは•••」
田中が声をかけてきた。
「な、なんでもねーよ」
「はいはい、桜井もあんまりアキちゃんイジメないであげてね」
「は~い」
本当、こいつらにはかなわねー。
「じゃあな」
「じゃあね」
2人に手を振ると、俺も歩き始めた。
いつもの公園に着く。
ベンチに座って、俺は待っていた。
「進藤くん•••」
「よっ」
「や~、待ちぶせ? ストーカーなのかな?」
「ちげーよ」
成田は俺が座っているベンチの隣に腰をおろした。
成田は俺の方は見ずに、前を見ながら
「えー、わかっているよ。返事•••だよね」
「ああ」
俺も前を向きながら答えた。
「はい•••考えました。それでね、う~ん•••」
成田にしては珍しく、はっきりとしない。でも急いでいるわけでもないので、成田の言葉をゆっくり待つ。
「私、ずっと長いこと片思いしてたんだ。進藤くんもわかっていると思うけど、坂井くんね」
「でも、去年の初め、フラれちゃって」
「で、情けないことに、しばらく引きずってて」
「そしたら、まさかの進藤くんだったんだよね」
「なんだよ、まさかって?」
「いや、だってアヤでもダメだったんだよ? あのアヤをフったってことで進藤くん、知らないと思うけど、そっち系の女子の間では、もうそういうことだってことで、すごい人気だったんだから」
なんだ、そりゃ?
そう言や俺が田中と話していると、騒いでいた女子たちがいたな。
まあ、俺には関係ねーけど。
「じゃあ、成田もその、そっち系だって、俺のこと見てたのか?」
「そんなわけないじゃん。私、別にそういうの好きじゃないし」
「じゃあ、何がまさかだったんだ?」
「だから、私なんかより可愛いアヤがフラれてるんだから、私なんか眼中にないって思っていたの」
そんなこと考えていたのか•••。
で、それはわかったけど、結局、俺のことはどう思っているんだろう?
「それでね•••」
「私が進藤くんのことをどう思っているか考えたんだけど」
「まず友だちとしては間違いなく好きだよ。それはすぐに自分でもわかったの」
「じゃあ、友だちじゃなくて、もっと好きなのかって言われると•••」
そうか•••。
その気持ちはわかるつもりだった。
俺は立ち上がると
「わかった。ありがとうな」
成田に背を向けようとしたその時。
「待って」
俺は振り返る。
「でも、進藤くんと話せなくなったり、進藤くんが知らない女の子と話したりするの、考えたら•••」
一度頷いてから、成田は俺を見る。
「うん。私も進藤くんのこと、好きだ」
「•••マジで?」
「ウソなんかつかないよ」
「マジか•••」
「な、なによ、フラれたかったの?」
「そんなわけねーよ!」
「そっか。それなら良かった」
自分の頬をつねってみると
「なに? 信じられないの? 私がつねってあげようか?」
真っ赤な顔をして、成田は俺の顔に手を差し伸べる。
成田につねられたところは、痛かったけど、痛くなかった。
そして•••。
「ね•••」
「ん?」
「私もつねってよ」
成田の頬に触れると熱くて、思った以上に小さくて、頬の肉が薄くて•••。
そのまま、片手で成田の頬を包んだ。
「え? ちょっ•••待っ」
自分の唇を成田のに重ねる。
声にならないうめきで、しかたなく解放すると
「こ、こんな真っ昼間っから、何をするーっ!」
真っ赤な顔を隠すように下を向く成田の頭を俺は撫でる。
少しすねたように口をとがらせながら俺を見上げる成田に、俺は笑いかけた。
朴念仁が恋をした 4話
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