東南アジアで、村の隠し財宝を見つけてしまった悲劇 ~高木氏からの奇話~
”今、こうして生きてるだけでも”めっけもんだ”と語るその男性の異国での異常な体験談。
この平和な日本では想像もつかない事が・・・。
「日本に帰って来れたのは奇跡だ・・・」と、彼は言った。 ~体験談~
彼は決まった時刻にここに来る。
「あっ、おはようございます」
私は彼に朝の挨拶をした。
「おぅ、おはよう・・・」
その男性は足が悪かった。なので移動手段は車椅子である。
年齢による足腰の衰えではないのは見てわかった。何か理由があるのであろう。
「今日は出番なんだな?」
「はい、今日で3日目です」
”おじいちゃん”と呼ぶには少々早い。
その男性は、ただっぴっろいフロアの真ん中に備え付けてある平行棒の側にいた。
いつもの様に車椅子で平行棒に横づけになる。
「せいっ・・・」
彼は勢いをつけて平行棒に体重をのせる。
ふ~っ、と一息、呼吸を整えゆっくりと進みだす。
私はと言うと、大きなモップで朝の掃除だ。
午前中はほぼ掃除で終わる。
まぁ、建物が大きいのであるから致し方ない。
午前中は清掃員、午後からは運転手、時間が空けば介護助手。
それが大まかな一日の作業内容である。
「お兄さん、名前は?」
「はい、中野と言います」
「ああそうかい、中野さんね、覚えとくよ。俺は高木、よろしく頼むわ!この足だから何かと迷惑かけると思うが宜しくな!」
「大丈夫ですよ、任せてください、高木さん」
いつもは挨拶をかわす程度であったが、その日は違った。
いつのまにやらその男性の話しにのめり込んでいた。こんな話だ。
「この腕見てみろ、ホラ・・・」
突如高木氏は、私にその腕を見せつけた。 左の腕にボコボコとしたみみずばれの様な痕があった。
「こっちもホレ!」
右の腕にもむごたらしいみみずばれのがあった
私はその腕を凝視しながら”どうしたの、コレ?”と訊ねた。
「んん、これは注射の痕なんだ」
・・・病なのであろう、と察した。
「実はな・・・」
彼は挟まれた2本のステンレス棒の間から喋り出した。私は持っていたモップを隅に立てかけた。じっくり聞いてやりましょう、そう思ったのだ。
「10年も前になるかな、俺は東南アジアの小さな村で建設工事の仕事をしていた」
「そしてある日突然、拉致監禁された」
「えっ!?なんでまた」
高木氏は少し考えて、
「うん、それがな、どうやらその理由というのが・・・」
「・・・地元の人しか知らない宝、う~んつまり財宝などだな、それを知ってしまったからだって言うんだよ。 見たとは言ってもそれが宝の山だか何だかよく分からなかったけどな」
「だけど捕まっちまったものは捕まっちまった、もう逃げられなかった。あきらめるしかなかった」
「それから毎日毎日注射を打たれた。それがこの痕って訳だ。逃げ出してお宝の在りかをばらされるのを恐れたんだろうなあ、きっと」
「その注射って・・・」
”あり得ない・・・でもあり得るかも”・・・そう思った。
高木氏は話しを進める。
「毎日だぞ、毎日!」
高木氏は平行棒をつたい出した。その小太りな体形を支える両腕が小刻みに震えている。
「で、よく帰って来れましたね・・・」
もしかして虚言壁?という疑念は誰しもが持つだろう。私もそうだった。 作り話ならばどこかにほころびがあるはずだ。
「それがな、ある日偶然にも俺の顔見知りの女性が現れたんだ」
「女って?」
「うん、その女ってのは、過去に俺の下で働いていた事のある現地の女性で・・・」
「はい、はい・・・」
「自分をあまりに可哀そうだと思ったらしく逃がしてくれた」
「はぁ~、そ、そうなんですか」
「まる2年だぞ!まる2年!」
(マジかい・・・・・)
「お陰で徐々に歩けなくなってな・・・今じゃこの有り様って訳、だ!」
(信じられん・・・・・)
「帰って来れただけでもラッキーだからいいけど・・・」
高木氏はひとつ大きなため息をついた。
「東南アジアは危険だ。現地へ赴任して先ず最初にする事分かるか?」
「いや、ピンとこないですね」
「だろうな。・・・先ず、する事はな・・・」
「する事は?」
「最低でも2人!・・・自分だけのボディガードを雇うんだ」
(・・・・・)
この人の言っている事は本当の事かもしれないと、そう思った。
世界は広くてそして、恐ろしい。
東南アジアで、村の隠し財宝を見つけてしまった悲劇 ~高木氏からの奇話~
まるで映画のような話しだ。貴重で悲惨な体験談を聞かせてくれてありがとうと言いたい。