無題(世界観)
その大陸の両端には、世界の勢力を二分する大国があった。
大陸の西。科学が遅れ、魔法が発展した『王国』。
大陸の東。魔法が使えず、科学の発達した『帝国』。
その成り立ちの差故に、間に無数の小国を挟んで尚も、両国は小競り合いを繰り返してきた。大陸の南淵、両国に国境を接するように広がる『共和国』だけが、宗教的背景を味方に付けて王国寄りの中立を保っていた。
帝国の更に東、『極東』に浮かぶ小さな島国は、そんな大陸情勢には我関せずと国を閉じて久しく。共和国のさらに南に浮かぶ大きな島国『合衆国』は、ある者は両大国の対立を諫めるように、またある者は燻る火種に油を注ぐように、武器と人間を送り込んだ。
魔法の使えぬ帝国人と、科学を介さぬ王国人。互いに互いを明に暗にと蔑み合ってきた両大国の全面衝突は、満を持して訪れた、歴史的必然とさえ言えた。
始まりは、一発の弾丸。それが一つの国を割り、周辺諸国を割り、大陸を割った。分かたれた立場の双方には、大義名分を得た各々の大国が付いた。二国の間にある無数の小国は戦場となり、各地で実質上の代理戦争が繰り返された。
大陸全土を巻き込んだ、世界大戦の勃発である。
大量破壊兵器と広域攻撃魔法により犠牲者数は止まる所を知らず、互いに引かぬ戦況は熾烈を極めた。しかし、人員も物資も無限ではない。双方全力の戦争を始めて二年、先に膝を屈したのは帝国だった。大戦は、王国の辛勝で幕を閉じた。
そして、終戦から三十年が経った現在。
戦勝国たる王国の主導に、対戦で殆ど無傷だった共和国の力添えで、世界は表向き平和を取り戻した。敗戦国たる帝国も、医療・通信技術の発達と経済の底上げを基に、戦前に劣らぬほどに復興を遂げた。
世界は表向き、歴史に見ない平穏を享受していた。
大陸の各所でほぼ同時期に、既存の生態系にそぐわぬ『魔物』の被害が相次ぐまでは。
無題(世界観)