ボクラの世界次元
ノベルジャムつーのがやってるらしく、時間的に参加できないので勝手に「破」のテーマで書いちゃったそんなものです。字数も2500くらいですしそれ以外ほとんどかけていないんですけどよかったら読んでください。
ナインティ―度
その日、世界は九十度回転した。
と言っても、この回転はとても型破りなものだ。例えば、ワタシの乗っていた汽車はしっかりとレールを踏んで走る。例えば、今窓から身を乗り出して見上げた青空から降り注ぐ天気雨は、ワタシの顔めがけやってくる。例えば、ワタシの足は対角のガラス窓を欲している。
この回転は、ワタシだけのものだ。
シートを伝って車両を移動したところで、ヒトが現れることもなければ車掌も存在しない。さあ、ホームに到着した。扉の開くと同時に白い空気と共にワタシは落下して駅名の看板に衝突した。駅名は「破(やぶれ)」だ。ノースリーブだといかんせん寒い。ワタシは下がった。一歩。二歩。三歩。ダッシュでジャンプ!
ヒールの突起に感じる重たい空気。まさしく「落ちる」感覚だ! そして、その景色はワタシに共感覚を目覚めさせるようだった。群青色の背景に点在する家々。それぞれ突起の長さが違う。時々タワーやマンション・ビルディングの存在感が目に入る。ワタシの下に太陽があるから、ワタシの上に影ができている。翻るマフラーを抑えながら、格好いい感じで、ここぞとばかりに伸びた鉄骨タワーに両足をつけた。
金属特有の破裂音を十回ほどきいたら、ワタシは付近の木に飛びついた。ぐるぅと一回転したらそのまま壁を蹴り、電柱へ。猿のように上手い事民家側面へ転がり込んだ。
さあ、パルクールの始まりだ!
「タテ」の世界
気が付いたら、もう何軒の壁を伝ってきたのだろう。寒空の下とはいえ、汗ばみ始める。自重力方向に尻もちをついた。空を飛行機が飛ぶ。よくよく見れば自動車だって通っている。生活感が漂うけれどここにはワタシ以外存在しない。存在を否定されている。まるで、ワタシしか存在するべきではないと忠告されているようで……目を閉じると、何故か目に見ることはできないヒトの存在を、ヒトの風格を感じる。確かに小さくて消えてしまいそうな魂だけれど……やっぱりここにはワタシ以外にヒトが存在する。
「そう、存在する」
眼球の裏に映ったシルエットを記憶したまま目を開けると、それが居た。なんだ? 足の無い宙を浮く黒フードの、声質から推測して男。
「ここにはキミ以外にたくさんのヒトがいる」
カレが宙を歩くと「ふわふわふわ」なんて音が出る。気味悪い。
「キミも感じているだろう?」
「アナタは?」
「ボクは「ここ」の住人さ、キミがこっちに入ってきた。たったそれだけ」
縦の世界とでもいうのか。
「そうさ。キミが元々居た世界が「横の世界」ならば、ここは「縦の世界」。キミは「横の世界」から「縦の世界」へとやってきた来訪者。そして、疑問に思わないかい。キミの心がボクに悟られている事実に」
仮面に覗く赤い瞳が、ワタシを睨んだ。座るワタシと、飛ぶカレ。関係は対等だ。
「対等なんかじゃあない。むしろ対比の関係にあるよ。ボクは「横の世界」の住人を目視できないけれど、「縦の住人」を見ることができる。キミは「横の世界」の住人を感じることはできるけれど「横の世界」の住人を見ることはできない。けれど「縦の世界」の住人を見ることができ、「縦の世界」の住人を感じることができない」
「ワタシは何故ここへ来たの?」
「そうだね。この世界の事を知って欲しかったからかな」
右を向いた。
「ちょっと場所を移そうか。大丈夫、飛べるよ」
ふわふわ浮く彼について行こうと思っているけれど、立ちあがった後の一歩が出ない。カレがハンドサインで呼ぶ。ふんっと大声と共に空を踏むと、そこで一回転した。空間認識能力が高いからか、ワタシはすぐその感覚に慣れた。カレの往く空道を浮いてゆくと、足の必要性は失われた。
「ワタシ」の世界
「着いたよ」
「ここは?」
「「横の世界」から送られた、ゴミ捨て場さ」
自動車自転車ビニール袋冷蔵庫テレビ食べ物カンが辺りに散在する中央に、それらが山積みされている。もはや頂上は見えないそれを、ただ茫然と眺めることしか私にはできなかった。
「すべて、ワタシの居た世界のモノ?」
「ああ、全部ね」
「どう処理するの?」
「処理できないんだ。一定量たまったら空間移転してここに溜まる。減ることは無い。「横の世界」が「縦の世界」に勝手に課した掃き溜め。ボクラに決定権は無いんだ」
重力に従って、涙が零れる。隣の彼も。
「きっと、このまま「縦の世界」は埋まるだろう。もちろんキミタチ「横の世界」の住人にとっては関係のない話だ。ただの戯言だ。けれどボクラの世界では、ボクラの世界次元ではこうなっている。キミが何を感じ、どう思うかは勝手だけれど、ボクにとってキミは「最後の希望」なんだ。「最後の希望」、なんだ」
ふわふわ浮かぶワタシタチ。一瞬ではあるけれど、感じられるはずのない彼の心を感じることができた気がする。ワタシにできることは何だろう。「縦の世界」に残り、処理方法を探る旅に出るのか。それとも「横の世界」から根本的に次元転送を阻止する方法を見つけ出すのか。
答えを知る者はダレもいない。ワタシと、アナタしか知らない真実。ワタシとアナタだけが知っている世界線。何も知らないけれど何かできる「ワタシ」と、全て知っているけれど何もできない「アナタ」。
関係は、やっぱり対等だ。
「最後の希望」さん
「帰ってしまうんだね「最後の希望」さん。ボクは悲しいよ」
「ここは「キミの世界」。「ワタシの世界」はあっち。それぞれ運命なんだ、きっと。ワタシは「ワタシの世界」でできる限りを尽くす。だから、キミも「キミの世界」でできる限りを尽くす。それがいいと思う」
「……そうだね。それじゃ、よろしく頼むよ……目を閉じて」
間際に向こうが手を挙げたので、返した。
その時、世界は九十度破回転した。
ボクラの世界次元
はい。3時間でこれは少ないですね。