朴念仁が恋をした 2話
告白されて悪い気はしないが、じゃあ、相手のことを好きになるのか、ならないのか•••
朴念仁が恋をした 2話
9
修学旅行2日目。
昨日に続き快晴。
今日は各班で決めた場所を見てまわる日だ。
まわる場所については、田中たちに任せていた。俺の性格を知っているメンバーだと助かる。
悪気はないんだが興味のないことに関しては、感情が表にでないこともあって、いつもまわりの人たちを怒らせてしまう。
今回もちゃんとテンションは上がっている。そう見えないらしいが•••。
ちなみに桜井とは昨日の今日だが、朝一で、まずは修学旅行を楽しもう、と2人で話した。
遠巻きにニヤニヤしている田中には、昨晩問い詰めたら
「礼を言われるならまだしも、文句を言われる筋合いはない!」
ぐぬぬとなったが確かに•••。おかげで寝つきが悪かった。
同室のヤツらからは、お前が一番に寝息をたてていたぞ、と言われたが。
「女の子として見て•••」
昨日の桜井を思い出しながらボーッとしいると、成田に
「なんか、珍しく進藤くん、表情に出てる。それも残念な感じで」
「ざ、残念ってなんだよ?」
「•••アヤを見て、鼻の下伸ばしてた」
電車の中で、そんなこと言うんじゃねーよ。
桜井を見ると目が合った。
顔を赤くして下を向いてしまう。
だが、こうしてあらためて見てみると、顔はかわいいし、スタイルもいい、というか隠れ巨乳の二つ名を持っているくらいだ。
「また、やらしい顔になってるよ」
成田はジト目で半分あきれた感じだったが、一応は注意してくれる。
いかん。女の子として見る=やらしい目では、思春期真っ只中の中坊だ。
その通りなんだが、だからこそ認めたくなかったりする。
手で顔下半分を隠しながら窓の外を見ていると、嵯峨嵐山駅に着いた。意外に近かったな。20分くらいじゃないか?
駅を出て西へとみんなについていく。
午前中だっていうのに結構もう人がいた。
「進藤くん、迷子にならないでね」
俺、成田にこんなこと言われるキャラだったか?
桜井はそんな俺を見て、恥ずかしそうに俺の横に立つと、
「手、つないであげよっか?」
完全におちょくられているなぁ•••。
とりあえず、後ろで肩をふるわせている田中にはヘッドロックをかけよう。
「うわ~」
「すご~い」
竹林を通る小径。
左右に林立する竹の間から光がさしている。
緑がすごい•••。
感嘆の声を上げる女性陣に対し、俺と田中は撮影スポットの確保に右往左往だった。
「いやぁ、いい写真が撮れたね~」
成田と桜井のツーショット。
ドラマのシーンみたいだ。
ちくしょう、いいなぁ。
俺がうらやましいと言うと、
「進藤くん、やっぱり田中くんとツーショット撮りたい?」
「禁断の愛だねぇ」
成田はともかく、桜井さん。昨日、俺のこと、好きって言ってたよね?
まぁ、楽しそうだったので、俺は安心していた。
そのまま竹林を進み、嵐山公園、保津峡、常寂光寺、二尊院とまわる。
そして祇王寺。林の中、緑の苔が一面を覆っていた。
神々しい緑の世界。
これを自分の目で見れただけでも来た甲斐があるな。
みんな堪能したようで、興奮しているような、でも騒ぐことをためらうような、なんか不思議な雰囲気になっていた。
田中が時計を見ると
「ちょっと長居しすぎたみたいだ。急いだほうが言いかも」
ん? 次は昼飯だったよな。まだ10時半をまわったとこだけど?
嵐山の近くで適当な店に入ればいいと思っていた俺に対し、3人は
「なんで京都でラーメンチャーハンセット食うんだ!」
「はぁ•••。進藤くん、前も思ったけど、あんまり食に興味ないのかな」
「わ、私もせっかくなら•••」
おぅ、すげーアウェイ感。
田中の俺=ラーチャセットという偏見は後で正すとして、今日行くところを話し合っていた時、おまかせモードになっていた俺がとやかく言う権利がないことは自覚していますよ、ちゃんと。
10
来た道を戻るように急いだ先には、すでに行列になりつつある店があった。
のれんには、おばんざい?
田中に聞くと、ググれ!だと•••。
それを見ていた桜井がクスッと笑って、もともとは京都のお総菜のことで、最近はヘルシーなイメージで女子に人気があると教えてくれた。
俺が田中をドヤ顔(のつもりだが、まわりからは狙撃成功後のスナイパーと言われている)で見ると、田中にしては珍しくエロくない表情で桜井を見ていた。
田中は俺の視線に気づくと、すぐにいつもの雰囲気に戻る。
「なぁ、田中」
「な、なんだよ」
田中は少しだけ緊張しているようだった。
「おばんざい、女子のヘルシーメニューらしいけど俺、腹いっぱいになるかな」
田中は盛大に肩を落とす。そして俺の肩に手をのせると
「安心しろ、食い放題だ!」
サムズアップで歯を光らせながら笑う田中だった。
待つだろうと思っていたが、店が開くとすぐに店内に入れた。俺と田中は体育会系男子中学生の食欲を思う存分発揮した。デザートだって容赦なしだ。
「あんたたち、本当によく食べるね•••」
「いつものことだから」
呆れる成田に、あきらめ顔の桜井。
そんな2人を後目に、制限時間ギリギリまで粘ってやったぜ。
いや~、食ったった。
11
嵐山の最後は、やはり渡月橋だ、ということで記念写真を撮った。
次は電車で移動らしい。
本当、ついていっているだけだな、俺。
嵐電嵐山駅から今度は一度乗り換えて、北野白梅町駅で降りた。
「進藤くん、出番だよ! タクシーつかまえて!」
役割を与えてくれた成田に報いるべく、大げさに手を振ると、タクシーが止まってくれた。
「お兄ちゃんの顔が、あんまり必死やったから」
助手席に乗った俺にタクシーの運ちゃんはそんなことを言った。
後ろの3人は声を殺して笑っている。
結果オーライだ。甘んじて受けよう。
ものの数分で目的地に着いた。
「金閣寺だーっ! 京都に来たら絶対見たかったんだ!」
俺が精算していると、早々にタクシーを降りた成田は今にも走っていく勢いだった。
と思ったら走っていっちまった。
領収書と釣りを握りしめ、慌てて後を追う。
「大丈夫だよ。私がいるから」
桜井が待っていてくれた。
本当にいい奴だ。
成田と田中は撮影スポットの列に並んでいた。
「来た来た、カメラマン、こっちこっち!」
テンション高いなぁ•••。でも、ここは俺も写して欲しい。
というわけで、俺が人の良さそうなおじさんをつかまえ、優しく、丁寧にカメラをお願いする。
各自のカメラをお願いしたので、おじさんは4回シャッターを押す羽目になった。
サンキュー、おじさん。
目的を果たした俺たちはのんびりと境内をまわっていると
「あ、あのお店、ソフトクリームがある!」
なに?
行くしかあるまい!
さっき、食べ放題で散々食べたはずだったが、さすが全員育ち盛り。
育ち盛りと言えば、なんでも許されると思うな! といつも親に言われているが、だって食べたいんだもん!
「おい、アキちゃん。なんか気持ち悪いオーラが出てるぞ」
マジか?
ソフトクリームを買うということで童心に戻っちまったぜ。
それにしても•••。
京都と言えば抹茶だろうに、田中はイチゴなぞ注文しやがって。どれ、味見を•••。
「あの•••なんで写真を撮ってるんだ?」
「需要があるので供給サイドとしては」
「肖像権侵害で訴えるぞ」
「むずかしいこと知ってるね~」
俺と成田のやり取りを桜井は感心して見ている。お前も何か言えよ、田中。
そんなこんなで金閣寺の後は龍安寺と歩いて行く。
龍安寺の石庭は、マジに良かった。なんだろ、心が静まる。
しばらく静寂の世界にいたが、そろそろ帰ろうということになり、また俺がタクシーを拾う。
俺の唯一の役目になってきたな。
電車で京都まで戻り、俺たちは余裕を持って宿舎に着いた。
12
昨日と同じように飯食って風呂に入ると、消灯まで昨日と同じようにトランプやらUN0をした。最後の夜だと思うと、なんだか寂しい感じがする。
そして、また昨日と同じように田中は俺と抜けて、今日は2人でロビーに来た。
決してジュースをおごるから、と言われたからではなく、こんな田中でも悩みとか、もしかしたらあるかもしれないので、心の広い俺は聞いてやることにしたわけだが•••。
「アキちゃん、桜井に何て返事したの?」
ジュースを吹き出してしまった。
「な、なんでお前に言わなきゃなんねぇんだよ」
「俺が桜井のこと好きだからだ」
は?
マジで?
「いや、だって田中、昨日、俺と桜井、会わせたじゃねぇか•••」
「桜井がアキちゃんのこと、好きなの、前から知っていたからな」
「それなら、田中。お前が先に桜井に告白すればよかったじゃねぇか?」
「そんなことしたら桜井、悩むだろうし、好きな人がいるから、とか断られるだろうし•••」
「そんなこと言って俺が桜井と付き合ったら、どうしたんだよ」
「あきらめる」
あまりにサラリと田中が言うもんだから、思わず絶句してしまった。
田中はそんな俺を見て
「だってそうだろう? 確かに俺は桜井が好きだけど、友だちの彼女を奪うようなことはしたくねーし、っていうか無理だし」
田中の言ったことはわかったが、じゃあ俺は田中に何を言えばいいんだ?
田中はマジな目で
「もう一回聞く。アキちゃん、桜井に何て返事したの?」
正直に言うしかねぇ。
俺は昨日、桜井に言ったことを田中に伝えた。
田中は目を見開いて、ため息をつくと俺を見て呆れている。
「アキちゃん、大丈夫か? 健全な男子中学生か? エロいこととかマジに興味ないの?」
俺は手のひらを田中に向け、言葉を制す。
「いや、エロいことは好きだ」
「じゃあ、好きになった子の1人や2人、いるだろ?」
首を振る俺。
「•••わかった。じゃあ、それに対し、桜井は何か言ったか?」
俺は顔が熱くなるのを感じていた。
「マネージャーじゃなくて、女の子として見てくれって•••」
田中はまた、ため息をつくと、真剣な表情で
「そんなことだろうと思ったよ。アキちゃん、桜井のこと、真剣に考えて、答えてやってくれよ」
「わかった」
俺たちはその後、一言も発することなく部屋に戻った。
13
修学旅行から帰った俺たちを待っていたのは、中間テストだった。
良くもなく悪くもない結果だった俺の目には、夏季大会しかなかった。
全力を尽くした。
悔いはなかった•••、いや、もう少し練習していれば•••。
春季大会同様、2回戦敗退だった。
そして迎えた期末テスト。
はっきり言って悪かった。
自分自身、こんなにメンタル弱いのか? と信じられなかった。でも、1学期の内申点はこれで決まった。
そんな折、田中が塾の夏期講習に誘ってくれた。親に相談すると、むしろ行けと言われた。気持ちを切り替えて、しっかりやろう。
14
夏期講習初日。
先日、行ったクラス分けテストで、俺のクラスは03となった。
教室に入ると見たことのある顔もいたが話したことはなかった。
テキストや筆記用具を机に置いていると、後ろから背中をつつかれる。
振り返るとメガネをかけた成田がニヤ~と笑っていた。
「挨拶くらいしてよ、知らない仲じゃないんだから」
「悪い、成田だって気がつかなかった」
女バレも2回戦敗退だった。
成田も俺みたいに落ち込んだのかな•••。
「なに? なんか変?」
う~ん、想像できない。まぁ、そんな成田なんか俺も見たくないしな。
しかし、俺が想像できなかった落ち込む成田を、この後すぐ見ることになるとは•••。
次の教科が始まる前に、俺はトイレに立った。ついでに01にいる田中にでも挨拶しとこうか。ちなみにこの塾は学力順に4クラスにわけられて、俺は03、田中は2つ上のトップである01だった。
01の教室を覗いたが、田中はいなかった。そのかわり•••。
成田と、成田がバレンタインにチョコをあげていた•••確か坂井、が話をしているところを見てしまった。
会話が終わった後、教室から出てきた成田は、別人のようだった。
あんな顔の成田、初めて見た•••。
俺は成田が気づかないうちに、自分の教室に戻った。
朴念仁が恋をした 2話
折り返しです。
題名だけは裏切らないでもらいたい•••