歌と私と、天使のような彼。
歌が大好きな少女、音咲奏。
上手になりたいという気持ちが逆に少女を苦しめることに・・・。
そんな時、同じ学校の軽音楽部の先輩から誘われて・・。
歌が好きで、大好きで、どこまでもうまくなりたくて、ボイストレーナーの先生をつけてもらった。
それなのに、なぜか満足できなくて、もやもやした気持ちでレッスンを受けていたら、先生にあきれられてしまった。
どうしてうまくなりたいのに、レッスンしてるのに、うまくなれないんだろう。
そんなことを考えていたら、私を勧誘する、天使のような男子が目の前に現れたの。
「音咲さん、ってさ。ボイトレしてるってホント?」
「え・・・と、なんで知ってるの?」
「んー、俺、けっこう顔広いから?」
そんなことを言ってケラケラと笑う少年。
後輩かと思っていたら、その人は同い年どころか、先輩だった。
「あの、さっきはごめんなさい。私、何回も入院しているせいで、あまり学校のこととか、先輩方のこととか知らなくて・・・」
「あぁ、ちょっとため口聞いちゃった話?気にしないでいいよ~。俺、年相応にみられることってまずあり得ないから!だから謝らなくていーよっ」
「・・・・たしかに、そのポンパドール、可愛いですね」
なんて笑ってみたら、顔を真っ赤にして固まってしまった。
「先輩?」
「っああ!なんでもないよっ、なんでも・・・それよりさ、突然で悪いんだけど、軽音でボーカルとして歌いませんか?」
「はい?」
「あーっと・・・俺の組んでるバンドでさー、俺のいないところで喧嘩勃発しちゃったらしくてね、ボーカルが部活やめちゃったの」
「あ・・・それで変わりのボーカルを探してる、ってわけですか」
「そゆこと!」
困ったな。
ボイトレやめたいとか思ってたんだけど・・・
「あのですね、先輩。私実は・・・」
「あ、軽音とか、嫌い?」
「いえっ、そういうわけじゃないんです・・・・ただ、今、スランプ・・・みたいで・・・」
「スランプ?」
こくんと、うなずいてみせると笑うでもなく、数秒ののち、先輩は私の頭を撫でていた。
「うんうん。よくあるよくある。そっか、ボイトレ、辛いの?」
「・・・・違います・・・・歌うことは、楽しくて・・・でも、さみしいんです」
歌うことは大好き。
それは、一生のうちでもう二度と変更されることのない決定事項。
でも、どうしても、心の中に隙間があるような気がして寂しくて、訳がわからなくなってしまっただけ・・・
「一人で歌うより、俺らの音楽に合わせて、歌ってみない?」
「でも、思うように歌えないかも・・・」
「どうして?スランプだから?」
もう一度、無言でうなずく。
「そんなのは、すぐなくなるよ」
ぱっと顔を上げると、優しく微笑む先輩がいた。
「俺もさー、今じゃそこそこ弾けるけど、始めたころとか特にひどかった。できたと思ったらできねーんだもん、辛かった。
けどな、諦めちゃいけないんだ。そこで諦めたら、全部、音楽も、ギターも嫌いになっちゃうんだよ。音咲さんも、考えるより、歌った方がいい」
「そういう、ものですか?」
「そういうものです。試しに歌ってみようよ、俺と一緒に。ほら、ちょうどここ、屋上だし、誰も君が歌ってるなんてわからない」
じゃぁ、と息を吸い込んで、一番好きな曲を歌いたいように、思い切り歌ってみた。
空は青くて、雲は白くて、風は優しく体を撫でていて、今まで歌った中で、一番心地よかった。
「どう?」
「・・・・すごく気持ちよかった。先輩のハモリも、綺麗で、歌いやすくて・・・」
楽しい。
そんな感情が久しぶりに私の中に宿った。
「だろ?君はね、うまくなろうとするあまりに、肝心なことを忘れていたんだよ。」
「肝心なこと?」
「そうっ!音楽で一番大事なのは、自分が第一に楽しむこと!」
両手を広げて大きく笑う先輩は、すっごく輝いて見えた。
「だから、俺と一緒にバンド組もう!」
この人は、常にマイペースなんだろうなぁ・・・
だって、私の気にしていたこと全部、こんな短時間で吹き飛ばしてくれたんだもん。
それはもう・・・・・
「ぜひ!一緒に歌わせてください!」
としか、いいようがないじゃない。
歌と私と、天使のような彼。
先輩がどうして顔を赤くしたのかは、言わずともお分かりかと思います。
奏ちゃん(音咲さん)は学校一の美少女という裏設定がありました。
省かせていただきましたが・・・・。
軽音に入部した後は、先輩がとにかく頑張っちゃいます。
それはまた、次の機会に書かせていただこうと思います。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。