月の従者とかぐや姫。
1.「姫様?」
『ーー姫様・・・・・』
わたしを見下ろす男の人たち。
わたしは・・・わたし?
ワタシは、誰ーーーーーー
「ユウ!」
ぺちんと額をたたかれた。
「・・・・・お兄ちゃん」
「起きろ。遅刻するぞ」
時計を見て驚き。すでに8時を回ってる。
「・・・やっばぁぁあ!!!」
飛び起きて急いで身支度。
「早く来いあほ!置いてくぞ」
ヘルメットを投げつけてきた。エンジンをかけている間に、私は家の戸締まり。
兄の心(しん)の仕事先は途中まで同じ。
いつもバイクに乗せてくれる♪
両親は離婚していて、私も兄もどちらにも引き取られることなく、毎月お金が振り込まれるだけ。けれど、そんなこと気にならないくらい、兄は私のお世話をしてくれている。
仕事先も、口には出して言わないけれど私の登校時間や場所に合わせてくれている。
ブロロロロロロ
大きなバイクの音が響き渡る。
近所の人がお花に水をあげたり、車を洗ってる。
朝の雰囲気は好き。寝坊したけど(笑)
「ここまででいいな?」
キッとバイクを停めて手を差し出してくる。その手にヘルメットを乗せて、スカートを気にしながらバイクから降りる。
「ありがとう!帰りは?」
「遅いから迎えこれない。歩いて帰れるか?」
「歩いて15分だよ。歩けるよ(笑)」
コクン、と頷いて、兄はエンジンをふかして去っていった。
歩くにつれて、同じ制服を着た子達が、だんだんと増えていく。
校門に入ると、ふと目につく部活動。
「あがれー!!パスパス!」
ザッザッとスパイクと地面のこすれる音。
サッカー部。その中でも少しだけ目につく人がいる。
「ーーあ。藤宮先輩だ。みて・・・」
「ーーーかっこいいよね。だってさ、この間も・・」
近くを歩いている女の子達が話してる。
藤宮先輩。背が高くイケメンで、サッカー部のエース。
決して好きとかではないけれど、なんとなく目につく存在。
ガラッと教室の扉を開けて、自分の席に着くと、友達のエリカが寄ってきた。
「おはよ、夕(ゆう)!」
「おはよ。」
「昨日のドラマ見た?」
「うん、あれでしょ?」
他愛のない話から始まる学校生活。どうしてなのか、最近、なんだか前と違う気がするのは。
「月本さん!佐次(さじ)!おはよ!」
「ちょっと、なんで私だけ呼び捨て?伊藤!」
「朝から元気だね佐次は・・・はいはい、佐次サン!オハヨウ。」
「きー!むかつく(笑)」
ふたりの会話のテンポが良すぎて付いていけず、ぽかんとしているところに、再度クラスメイトの伊藤君が話しかけてきた。
「月本さんって、朝弱いの?ぎりぎりだったけど」
「あーうん。そうなの。でもお兄ちゃんが送ってくれたから間に合ったけど、送ってくれなかったらやばかった!」
「何か、いい夢でも見たんじゃない?」
なんなんだろう。伊藤君とは挨拶程度の存在だったのに、この質問攻めは。
同じく違和感を感じ取ったのか、エリカが先に口を割った。
「伊藤、なに?そんな夕に興味あるの?」
少しだけ戸惑った様子を見せて、彼は口を開いた。
「興味といえば、興味かな・・・」
チラッと私を見て言った。
「うそ。やば。まじ?」
「ちょっと、エリカ」
エリカの声が大きくなりそうだったので、先に腕をつかんで抑制させた。
伊藤君が、とかじゃなく、ただ単に騒がれるのが嫌なだけ。伊藤君の顔もあえて見ないようにした。
キーンコーンカーンコーン
「席つけー」
チャイムと同時に担任が来て、促す。
エリカも先ほどの興奮よりもチャイムが勝(まさ)ったようで、自分の席に戻ろうと私に背を向けた。
ーーーーー 一瞬の隙だった。
「・・・姫様」
少しトーンの上がった声で、耳元で、囁かれた。
ーーーーー姫様って・・・言った?
何だっけ。それ。ていうか何で私にそんなこと言うの?
まるで私の名前を呼ぶように、返事を促すように。
にこっとした笑顔を私に向けて、伊藤君は自分の席に帰っていった。
ぽかんとしたまま、私はホームルームを受けた。
2.「あなたは、かぐや姫の生まれ変わりなんだ。」
『ご無事でよろしゅうございました!姫様!』
『どれ程我らが心配したか!』
『いや、ーーーと接触してもこのようにお健やかなご様子、それだけで充分だ。』
『そうだな、・・姫様、これを機に我らがずっとおそばにおります。
ーー我ら、十二月(じゅうにづき)が。』
「ーーっ!」
「ーーなので、この方程式はテストで出すからねー」
今のは、夢?でも妙にしっくりきていて、不思議・・それに、「彼ら」は私をーーー姫様と呼び、私に話しかけていた?
伊藤君が姫様って言ったからーーー?そんな風に考えながら伊藤君の方を見たら、目が合った。
先ほどと同じで、でも何だか少しだけ、確信を得たような、目に力が入ったような、そんな笑顔で。
ーーー何なの・・・?
キーンコーンカーンコーン
「お昼買いにいこー!ユウー!」
「はーいちょっと待ってねー」
エリカに腕をつかまれながらも、鞄の中から財布を取ろうとしたら、エリカの動いていた手が止まったので見たら、またしても伊藤君。
「月本さん、ちょっといい?」
「え・・・」
「佐次、月本さん借りていい?」
「・・・うん・・・」
重々しい雰囲気の伊藤君に、お昼で浮き足立つこの教室で、このあたりだけ妙な雰囲気になった。いつもなら騒ぐはずのエリカも、その雰囲気を壊せないほど。
まるで恋人のように手を優しく繋がれ、教室から連れ出される。
少しだけ回りの視線が痛い。こそこそと話されているのが分かる。それもそのはず。廊下を付き合ってもない二人が手を繋いで歩いているのだから。
でもそんなことよりも、伊藤君の表情と手の感覚が真剣さに困惑していた。
校舎の裏に連れていかれ、外も暖かいのに意外と人はいないんだなと頭の片隅に考えていた。と同時に、何の話をされるのかとも考えていた。
「・・・伊藤君?」
沈黙が堪えきれなくて自分から声をかけると、思いの外ころっとした笑顔でこちらに振り向いた。
「ごめんね、急に!」
へへっと笑って自然と私から手を離すと、彼はまた真剣な顔に戻った。
「話したいことがあるんだ」
「ーーーうん・・・」
何なんだろう。ま、まさか告白?それにしては何か、違う気がするーーーー
不思議な顔で伊藤君を見つめていたら、彼もそんな考えの私が分かったのか、吹き出しそうになって笑った。
「ごめん!告白とかじゃないんだ!残念ながら!」
「ーーーあ!そうなの!そっか、じゃあ・・・」
特に期待もしていないけれど、それ以外にこんな大袈裟に呼び出す必要ない。聞かれて困ることなんて他に無いのにーーーー
「じゃあ、何で?」
「・・・」
なかなか重い口を開かない彼に、私はやきもきしていた。
「伊藤君?ーーー」
そう呼んだと同時に、人が歩いてきた。
「・・・なんだ、まだ言ってないのかよ」
ぽかんとして私は突如現れた彼と目が合うと、開口一番にそう言った。
「ーーー有明(ありあけ)」
手をポケットにつっこみながら、ぶっきらぼうに話す相手を、伊藤君はそう呼んだ。
この人、確か隣のクラスの・・・?
「俺が話そうか?」
ふーっとため息をついてから、めんどくさそうに伊藤君をチラッと見る。
「・・・いや、俺が話すよ。」
決心したように、一度有明に困ったような笑顔を見せてから、私を見る。
「月本さん、多分、信じられないってなるかもしれない。」
「・・・」
私ももちろんだが、有明という男も同じように黙って伊藤君を見つめた。
「月本さん・・・あなたは、
かぐや姫の生まれ変わりなんだ。」
3.「僕らが探していたのはあなたなんだ。」
、
「・・・はい?」
先ほどの伊藤君の言葉を再確認する。
『あなたは
かぐや姫の
生まれ変わり』
「・・・え?」
何度考えても私の頭では他に解釈が生まれなかった。
「生まれ変わりなんだ。月本さんは。」
「昔話で終わりじゃないぜ。本当にこうして転生しているんだ。俺らのように。」
まるで顔を崩さない伊藤君と、こちらも真剣な顔で付け加えるように話す有明君と、私は困惑した顔で対峙する。
「えーっと、まずなんで月本さんが生まれ変わりって分かったかと言うと、名前。名字が月本で、月の文字が入ってるから。」
「次は予言。かぐや様が17歳まで生きられたため、17歳で覚醒する、と聞いていた。」
「あとは・・従者の勘。僕たちがここに集まっているということは、僕たちのそばにいる誰か、とふんでいたんだ。それでずっと探してた。」
さーっと話されても全く入ってきません・・・と表情で伝わったのか、有明君は怪訝そうな顔をしていた。
「おい、聞いてんのかよ?」
「・・・やめろ、そんな口効くな。姫様だぞ」
「まだ完全に覚醒していないんだ。覚醒したらきちんとするからいいだろ?」
二人がよくわからない会話をしても、全く耳に入ってこなかった。
「えっと、とりあえず・・・私・・・よくわかんないから・・・戻っていいかな・・・」
これ以上付き合ってられない。おかしい話なら私は遠慮しよう、と思った矢先、有明君は黙ったまま目の前まで来て、私をじっと見つめた。
「声、出すなよ。」
「・・・?
ーーーーーっあ!なに・・!?」
ふわっと抱き抱えられて、そのまま宙に浮かんだ。
浮かんだ・・?浮かんだのは有明君だ・・・けど・・・私もだ!!!!
「ひゃあぁぁあ!!!」
風が吹く大空で、私は今どうなっているの?
髪の毛も制服もなびいている。私、空に浮いてる?
とにかく怖くて下が見れない。怖くて怖くて今日初めて話した有明君に必死でしがみついていた。
「いやぁ!!怖いーーー!!!」
「信じるまで降ろさねぇぞ」
「し・・信じる!信じるから降ろして!!うぅ・・・!」
「ほんとか?」
有明君にしがみついたまま、ぶんぶんと私は頷いた。
気づくと地面に足がついた音がして、顔をあげると有明君の顔があった。
「・・・重い。」
はっ!としてすぐに有明君の腕から降りると、伊藤君が心配そうな顔でのぞいてきた。
「大丈夫?ごめんね、有明が無茶して・・・」
「こいつが信じねぇから悪いんだろ」
「荒療治すぎるよばか!それにこいつ、はやめろ!」
軽い言い合いをしている中、私は先ほどのありえない出来事のせいで足が震えていた。
私、さっきまで空に浮いてたの・・・?何故?何故そんなことができるの?有明君は・・・
がくがくする足を必死で立たせて、ゆっくりと視線を上げて彼らを見つめる。
「これが俺らの能力。」
「僕は違う能力だけどね。」
ふふんっとでも言いたげな有明君と、そんな有明君に少し困ったかのように笑う伊藤君。
「能力・・・?」
まだ震える。さっきのは人間技じゃない。空に浮かぶなんて、できるはずがない。
「あんたはかぐや姫の生まれ変わりで、俺らはあんたの従者の生まれ変わりなんだ。」
「あなたを守るために、先に覚醒してたけどね。だから見つけた時は嬉しかった!やっと会えたから!」
まだ状況がつかめない私に、再度二人は説明をしてきた。
にこっとする伊藤君。これはーーー二人とも、冗談じゃない・・・
「ほ・・本当に・・?」
こくりと頷く伊藤君。
「本当。かぐや様の生まれ変わりはあなたで、従者は全部で12人。だから僕らは十二月って呼ばれてるんだ。」
‘’十二月‘’と聞いた瞬間、走馬灯のように思い出した。朝も昼も、私は夢で‘’従者‘’に会っていた。
その中の、二人なんだ。この人たちは。
「一応月の数字が決まってるんだ。僕は4月生まれだから、従者としての呼び名は卯月(うづき)。
有明は11月だから霜月(しもつき)」
有明君のことを指差しながら話す彼に、ふと疑問をぶつけた。
「・・生まれ変わりとか、その・・話は、誰から聞いたの?私は・・記憶がないのだけど、二人は覚えてるの?」
生まれ変わりは勿論信じていない。けどそれを悟られたら、またきっと怖い目に合う・・
チラッと有明君のことを見る。するとすぐに目が合ったので私は大袈裟なくらいに目をそらした。
「誰から、とかはそれぞれ違うと思うけど、従者たちは割りといろんなこと覚えているな。でも覚醒した時期もそれぞれで、あ、覚醒ってのは月の国の記憶が鮮明に思い出せたら覚醒した、と言えるんだ。あとは能力が証拠だな。」
「そうだね。僕はまだ最近覚醒したばかりだけど、有明はもう一年前とかになるしね。」
ここまで来ると、信じなきゃいけないレベル・・・作り話にしては凝りすぎてる。それにさっきの‘’能力‘’ーーーー
「色々考えると思うけど、」
伊藤君はそれだけ言い放って続きを話さないので、眉間にシワを寄せて考えていた顔を、思わずあげた。
「・・・僕らが探していたのはあなたなんだ。」
4.「信じてくれて、ありがとう。」
「そんなこと言われても・・・」
いきなり私がかぐや姫の生まれ変わりで、従者は12人いて、能力があって・・・
急に信じられない言葉を並べられても、頭がパンクしそう。
「信じられない気持ちは分かるよ。」
伊藤君は真剣な表情で私を見つめる。
決して仲が良かったわけではないので、彼のことを知り尽くしているわけではないのに、そんな私でもいつもの伊藤君じゃないことは分かる。
「あんたが覚醒して何とかしてくれないと、俺達は・・一生このままなんだ。」
このままーーーー?
このままって、どういうこと?
少しだけ暗い表情をした有明君に、私は不思議そうな顔で、問いかける。
「この能力、従者によって異なるけど・・決していいことだけじゃないんだ。
能力がバレて、国の実験台にされた仲間もいる。」
「じ、実験・・・?」
二人ともが揃って苦い顔をしてる。
それに国の実験台ってーーーなんだかスケールの大きな話。
キーンコーンカーンコーン
「・・あ。時間切れ。仕方ないか。じゃあまた放課後ね。‘’月本さん‘’。」
「・・・」
去っていく二人をぼーっと見つめて見送ったあと、ふと気づいた。
「・・・お腹すいた・・」
その後の授業は勿論頭に入るわけもなく、窓の外に目を向けて、先ほどの出来事を思い出していた。
あの空に・・さっき浮いてたのね・・・
夢?夢じゃない。あれだけ有明君に必死でしがみついたのだから。
かぐや姫ーーーーおじいさんとおばあさんに育てられて、美しく育ち、帝にまで求婚されて、結局は月に還っていくんだっけ・・・
何も自分に当てはまらない。祖父も祖母もいないし。美しくもないし。
夢を見たくらい。その夢だって、鮮明に思い出せるわけじゃないのにーーーーー
そんなことを考えてたら、いつの間にか授業が終わる時間になっていた。
チャイムが鳴り、帰り支度をしていると、エリカが近寄ってきた。
「ね、さっき伊藤君と何してたの?」
にやにやしながら話すエリカに、私はどう話そうか考えていた。勿論本当のことを言っても信じてもらえるわけがないので、上手く誤魔化すことに決めた。
「なにも!ただーーー」
「ちょっと聞きたいことがあったんだ!佐次・・さんの期待してるようなことじゃないよ?残念ながら!」
私が言いかけたことにかぶせて、伊藤君がそばにきて説明した。
「なんだーつまんないの!」
「悪かったな!」
エリカがつまらなさそうにつんとすると、伊藤君は顔を軽く歪めた。
「このあとも、さっきのことで話したいんだけど・・いい?」
視線を私に変えて、少しだけ遠慮しがちに話す伊藤君に、私は静かに頷いた。
「やっぱりあやしいぞ!なに?私は聞いちゃダメなん!?」
「っ声がでかいエリカ!何もないから!」
エリカをとにかく黙らせようと、何か言い訳はないかと考えていたところに、遠くから声が聞こえた。
「・・じ!佐次!お前ちょっとこい」
「げ!加藤先生!」
「げ!ってなんだ?げ!とは!さっさと来い!」
「ちぇーなにーまじでー。じゃあまたね、夕」
「う、うん!また明日ねエリカ!」
少しだけ助かったかも・・加藤先生!!
化学が担当の加藤先生にエリカが連れていかれたのを確認し、ホッとしたところで伊藤君が再度話しかけてきた。
「いこう。有明も待ってる。」
今度は手を引かれるわけではなかったけれど、自然と付いていこうとする私は、きっともう信じているんだと思う。
先程の、非現実的な話を。
「・・信じてくれて、ありがとう。‘’月本さん‘’」
5.「僕らって従者のこと?」
、
「・・理科室?」
伊藤君とは無言のまま、付いていった先には外ではなく理科室だったので、つい声が漏れた。
「そう。外だと寒いしね。入って。」
ガラガラと扉を開けて、自然に入る伊藤君には少し疑問を感じながらも、おそるおそる入室した。
廊下には今から帰るであろう生徒たちの声が切れ切れに聞こえて、窓の外からも部活動をしている生徒たちの声が聞こえる。
「あの・・勝手にいいんですか?理科室なんて・・」
「大丈夫。バレないから。それにバレても平気」
にこっと悪戯に笑う伊藤君に、わたしも思わず困りながらも笑顔になるのが分かる。
よく笑う人。本当に・・
先生にバレたりしたら何かするつもりなのかしら・・この人の能力とか・・?
色んなことを考えていたら、察したのだろうか、またにこっと笑って、伊藤君は私の手を引いて近くの椅子に座らせ、自分も隣に座った。
「寒くない?」
「あ、大丈夫。私たくさん着てるから・・」
「だからあんなに重かったのか」
「っ!?」
重いという言葉に反応しながらも、いきなりガラッと扉を開けて表れた有明君に言葉を無くす。
「あれ、今日いいの?バイト」
「あぁ。休み」
バイト禁止なのにーーーやってるんだ。
ドカッと鞄を机に置いて、目の前に座る有明君。
伊藤君と比べると、ぶっきらぼうに話したり無骨な態度で、やっぱり少し怖いイメージの有明君。
「リクも来(く)んだろ?」
「うん。もう少ししたら来るんじゃないかな」
リク?誰だろう。その人も仲間なのかしら・・
ガラッ
「・・悪い。待たせたか?」
「ーーーーか・・加藤先生!?」
白衣の姿で入ってきたのは、先程エリカを連れていった化学の先生。
「・・何だ?まだ話してないのか?」
「まだだよ。だって来てからの方がいいと思ってたし」
先生とため口で話す伊藤君に違和感を覚えながらも、加藤先生のことをじっと見る。
「初めまして・・ではないか。私は従者の水無月です。姫様から頂いた能力は、時間です。お見知りおきを。」
またまたよくわからない単語。とりあえず先生も従者のひとりで・・能力は時間で・・
「そんなにいっぺんに話したらよくわかんなくなっちゃうよ」
「そーだよ、そいつ俺らの話を無視するからな?」
伊藤君も有明君も、まるで友達に話しかけるみたいにーーーわたしだけなの?ここにいるとよくわからなくなるのは。
「姫様に向かってそいつ、はないだろう。霜月。」
先程とはうって変わって、鋭い目付きをして有明君を睨む加藤先生。
「こいつにも言ったがよ・・まだ覚醒してないんだ。いいんじゃねぇの?別に・・」
「覚醒してない・・?」
うつ向いて少しだけばつが悪そうな顔をしている有明君のことが気になりながらも、そこまで驚かなくても、と思うくらい驚いている加藤先生に目がいく。
じっと私のことを見つめる加藤先生。
「前世のこと、月の国のことをすべては覚えていないとは思っていましたが、まさか覚醒もしていないとは・・姫様、では何故我らが集まったのかも、今頃姫様が目を覚まされたのも、ご存じないのですか?」
見下ろすような姿勢を自ら低くして腰を落とし、私の両腕を握り、じっと潤む目で私を見つめる加藤先生。
こんな加藤先生を、今まで見たことがあっただろうか。
「わ・・私は・・」
‘’なにもわからない‘’
この言葉がーーー何故か出ない。
それはきっと、知らないながらも、きっと何かしら関わっている、と本能で分かったんだろう。
軽はずみには話せなかった。
「リク、やめろ」
「そうだよ、まだ大丈夫。もしかしたら僕らが全員集まっていないからかもしれないし・・」
向かいから加藤先生を諭す有明君と、寂しそうに目線を落とす伊藤君。
「僕らって・・従者のこと?全員集まっていないの?」
私からゆっくりと手を離したのを確認したかのように、加藤先生が離れてからこくり、と頷く伊藤君。
6.「一緒に従者を見つけよう」
、
「姫様」
ふいに呼ばれてびくっとした。
それほどに、沈黙の時間が長かった。実際はそこまで長くはなかったのだろうけど。
「我らは、今この三人を合わせて五人しか集まっておりません。」
伊藤君。有明君。加藤先生。
この他にも集まっているのだろうけど、その他にまだ七人もーーー
「多分、それできっと姫様は覚醒されないのですね・・」
「でも、覚醒しなくたって・・僕はこうして姫様が表れただけで充分です。それまでは、姫様がこの現世、そしてこの日本に、いや、僕らのそばにいたなんて保障、何もありませんでしたから・・」
「・・そうだな。俺らの能力は決して誰も傷つけない。それだけで充分だ。最悪、隠して生きていけばいい。」
三人がそれぞれに口を割る。
初めて話す人もいるのに、私は何故か寂しそうにしている姿に、胸が痛くなった。
「私は・・どうしたらいいですか?」
私がかぐや姫だと言われてから、ずっとあったこの疑問。
「まだ・・私がかぐや姫の生まれ変わりとか、従者がいるとか、能力とか全部信じてるわけじゃありません・・けど、皆さんが私に何かを求めてるのは分かります。」
「・・一緒に従者を見つけよう」
ぽつりと言葉を落とす伊藤君。
「僕らはこうして、姫様のそばにいた。多分だけど・・他にもいると思うんだ。姫様のそばに、他の七人の従者は。」
他の従者も、私のそばに?
「どこにいるのかも勿論、何歳なのかも、どんな容姿なのかも、分からない。
それでも、協力してくれるか。」
眉間にシワを寄せ、しかめっ面で一点を見つめながら口を開く有明君。
「何年かかるか分からない。姫様も、不安だと思いますが、我らも今まで充分待ちました。どうか・・」
これ以上下がらないくらい眉を落として私を一身に見つめる加藤先生。
「わ・・分かりました。私も、自分なりに頑張ります・・」
私にとって、精一杯の言葉だった。私に何も出来ないのは分かっているし、もしも従者とやらが集まった時にどうなっているかも分からない。
それなのに、どうしてこの人たちの前で拒否することが言えようか。これほどまでに私を求めてる人たちに。
これしか言えなかった。
ただ、頑張るとしか。
「ありがとうございます。姫様!」
「ありがとう!」
大袈裟なくらい喜ぶ加藤先生と、にこっと笑う伊藤君。
黙ったままだが、さりげなく微笑む有明君三人に、なんだか親近感をもつ。
「ーーあ。従者は、名字か名前に月の文字が入ってて、男ってのは分かってるね。」
いきなり、あっけらかんと話す加藤先生。
先程とは雰囲気が異なる。こんな風にも話すんだ。
「うん、確かに。姫さ・・月本さんもだったけど、僕らも月の文字が入ってるでしょ?」
にこにこと話す伊藤君。先生も雰囲気が違ったけど、二人ともなんだか嬉しそう・・
「・・なーにテンション上がってんだよお前らは。」
意地悪そうに言葉を放つ有明君に、私はきょとんとした顔を向けた。
「べ、別にテンションあがってないぞ・・」
「そーだよ有明。これから大変だってのに!」
二人とも、あわあわして何故か挙動不審。私はよくわからなくて、冷静に見る有明君を見つめた。
「多分嬉しいんだよ、あんたがやる気になってくれて。」
私のやる気?に、こんなにも嬉しくなってるの?
やる気はないのだけれど、と思いつつ、なんだか二人のことを可愛く思えた。
「・・ふふっ」
違う、違わないと言い争う三人を見て、不思議と笑みがこぼれた。
この時、私は
私に対して向けられているものではないこと、
それを分かっていなかった。
すべては
かぐや姫、がいてこその
関係だったのに。
、
7.「あなた様が、我らを苦しめている。」
、
「・・う。夕!」
ぺちんと額を叩かれて目を覚ます。
「起きろ。晩飯。」
「・・叩かなくてもよくない?」
朝と同じく意地悪な起こし方をされたので、ぶすっと答える。
階段を降りてリビングに行くと、美味しそうな献立がずらり。
「さっさと食え。」
「はぁい。いただきまーす」
手を合わせて挨拶をし、すぐに兄が作ってくれたおかずに箸を伸ばす。
「ーーーー何か「おいしい!」
言葉を放ってから気づく。
思いっきり兄とかぶった。
「・・何て?」
口の中に入っていたものを飲み込んでから、兄に問う。
「・・・」
何故か応答が無い。今何か言いかけた、よね?
「・・お兄「何か、あったのか?」
またもやかぶったけれど、今度は聞こえた。
「何かって・・・何で?」
「いつもなら起きてるのに、珍しく寝てたろ」
確かに今日いちにち、いろんなことが一気に起こったけど・・そんな簡単には言えない。
私だったら信じられないしーーーー
兄の顔が見れず、俯いたままでいると、向こうが口を開いた。
「・・何もないならいいけど」
ぽつり、と言葉を落とし、食事を続ける。
ーーーお兄ちゃん・・?
少しだけいつもの様子と違う兄に、違和感を感じながらも温かい食事を優先させた。
テレビの音だけが、リビングに広がる。
「・・ふー疲れた」
食事を終えお風呂に入ったあと、自分の部屋で思いっきりベッドに体を落とす。ギシッと音がした。
今日はいろんなことがあったなーーーー
天井を見上げながら、今日起こったこと、言われたことを思い返す。
かぐや姫
従者
十二月
能力ーーー
まだたくさんの従者ーーー仲間がいるのね。
なんだか途方もない話な気がした。
どんな人たちなんだろう。
段々と目が落ちてくる。
どうすればーーー従者は見つかるのかしら・・
思考力が無くなっていることを感じながら、自分なりに睡魔に抵抗してみる。
・・すぅすぅ
ーーーー遠いところから、誰か私を、呼んでいる。
「ーーー姫様ーー」
だれ。あなたはーーー誰?
「・・見つけてほしくない従者も、いるのですよ」
ーー何故?見つかれば、理由が分かるんでしょ?
どうしてこうやって、生まれ変わったのか。
理由が、あるんじゃないの?
「・・それはーーーーー
姫様が望んだからです。
あなた様がーーーー我らを苦しめている。」
ーーーはっ!
チュンチュン・・
「朝ーーーーー」
さっきのは夢?妙に生々しい。
それにしても、私・・のせい?
伊藤君達・・従者の人たちが生まれ変わって、こうして生きていることは。
だいたい、姫様って言われるからそんな気分になるけど、かぐや姫のことなんて全く知らないし、第一、私は普通の人間だし・・
「あー!もう!わからない!」
大きな独り言を言ってから気づく。
「・・また遅刻する。」
、
8.独り言多くなってる。
「おはよ!月本さん!」
下駄箱で学校靴にはきかえて廊下を歩いていたら、ポンッと肩に手を置かれて、一瞬びくっとなってしまった。
「お、おはよう、伊藤君」
「今日は遅刻しなくてよかったね。
てかなになに?元気なくない?」
走ったら意外と間に合ったため、ゆっくりと呼吸を整えてるところで声をかけられたので、驚きはあったけど・・
というより、伊藤君の豹変ぶりにも驚き。
昨日のことがあるのに、なんだか知らないふりでもしてるみたい。
ただの、クラスメイトの声の掛け合い。
そんな風に困惑しながら何て答えようか考えていると、困ったように笑って、私に近づく伊藤君。
「・・そんなに壁作らないでよ。辛いから。」
「あ・・ごめん・・」
「謝らないで。これから大変なんだから、楽しくいこ!
ーーーじゃ、先いくね!」
ニコッと満面の笑みを浮かべて、軽やかに去っていく姿はなんだか格好よく見えた。
「楽しく・・かぁ」
ボソッと呟いてから気づく。
「独り言・・多くなってる・・」
はぁーとため息をついて横を見ると、朝練が終わったのか、我らがアイドル藤宮先輩が下駄箱で靴を履き替えていた。
ファンの人が見たら、私ラッキー!なんて思うんだろうなぁ・・こんな近くで・・
教室に向かいながらも藤宮先輩のいる下駄箱に視線を送りながら、ぼんやりと考えていると、先輩と目が合った。
「・・っ!?」
その瞬間、先輩が微笑んだ。自意識過剰かもしれないけど、まるで、愛しい人を見るように。
心臓がバクバクする。
何で?え?私に・・だよね?
周りに人はいなかった。確実に私に微笑んだ。けれど、何故?話したこともないのに。
キーンコーンカーンコーン
「!
やばい!」
藤宮先輩よりも、自分が遅刻することはまずいという信念が勝った。
それでも、心臓はバクバクしたままだけれど。
「・・なんで・・?」
どうしてあの藤宮先輩が、私なんかに微笑んだのか。
教室を目指して走りながら何度考えてみても、答えは出なかった。
「姫様・・・」
そんな風に藤宮先輩が呟いていたとは、知るよしもなかった。
9.「はじめまして」
、
「今日からここに集合しよう」
そう言い放ったのは、加藤先生だった。
ここは理科室。確かに、授業以外に使うことはない。
「そうだね。僕らは集まりやすい。シローくらいになるかな、わざわざ寄ってもらうのは。」
「あいつはそれくらいの方が外に出ていいかもしれねぇな。」
放課後にまた伊藤君に呼ばれて集まってみたものの、私は未だに何をどうしたらいいか分からない。
何を聞けばいいのかも、何をしたらいいのかも。
三人が何か会話をしているけれど、まるで他人事のように聞こえる。
ぼーっとしたまま動かないでいると、有明君が目の前を手のひらでふりふりしてきた。
「おーい。ヒメサマ?」
「ーーーあ!はい!」
ぶっきらぼうに″姫様″と呼ぶ有明君。こう呼ばれるのもまだ慣れないし、呼び方だけになんだかくすぐったい。
焦って返事をすると、皆が一斉にわたしを見ていた。
「あ、だからね。あと二人、今日紹介できるって言ったんだ。如月(きさらぎ)と師走(しわす)。」
「・・え?この学校にいるの?!」
「お前な・・なに聞いてたんだよ。だから、シロー・・師走はこの学校じゃねぇよ。歳も・・ん?何歳だっけあいつ?」
困ったように笑う伊藤君と比べて、嫌味な言い方をする有明君。
結局詳しくは分かってないっぽいし!
「シローは確か・・今年中学生に上がったから、13かな?」
「・・まだ12サイだよ。陸。」
ガラッと扉を開ける音と共に、加藤先生に突っ込みを入れながら、小柄な男の子が入ってきた。
「お!シロー!お前よく来れたな?道分かったか?」
「一人で来たのか?」
「久しぶりだねー」
まるで久々に会った親戚の子供と接するように、その少年に次々に声をかける。
でもなんだか少し、皆がみんな気を使ってるようにも見える。
そのうちに、そのシローという少年と目が合う。
「あ・・」
思わず声が漏れる。少年はこちらがどう出るかを探っているような目で、それでいて鋭い視線を、私からはずさない。
「この人が姫様だよ。シロー。今は月本夕さん。」
そんな私たちを見かねて、伊藤君が私を紹介してくれた。
「・・ハジメマシテ。」
有明君とはまた異なる、ぶっきらぼうな挨拶だった。幼い故か、恥じらいも少し感じる。
「なんだよシロー。姫様だぞ?会いたがってただろ?」
有明君がにやにやしながら腕でつつくと、顔をぷいと背けた。
「シロー、君?」
「・・シローじゃない。シロウ。及川志朗。」
今度は大人びた顔で自分の名前を訂正した。
「あ、ごめんなさい・・志朗君。」
そう呼ぶと、ほのかに顔が綻んだ。自分も大人だ、と言わんばかりの、誇らしげな顔でもあった。
10.何か視えたのか?
「志朗君の能力は何なの?」
四人が他愛ない話をしていた中、私は気になっていた疑問をぶつけた。
『・・・』
皆が口をつぐんで、少し、苦い顔をする。腫れ物にさわってしまったかのように。
「ご・・ごめんなさい。何かいけなかった?」
すぐに謝りの言葉を入れなければいけないと思うくらい、雰囲気が一瞬で冷たくなった。
「あー・・シローは「予言」
加藤先生が重たそうな口を開いたが、志朗君は自ら暴露した。
「予言・・なんだね!」
「・・そう。」
志朗君の能力について言及は避けた方がいいーーそう思ったのに、他の会話の中身が見つからない。
困っていると、有明君が言葉を続ける。
「そういえばさ。伊藤の能力は知らねぇよな?」
「・・あ、うん。」
「まだ教えてなかったっけ?僕はね
ガラッ
「あ。よかった。合ってた。」
ーーーーーーえ?
幻?じゃない。
扉を開けて理科室に入ってきたのは、あの藤宮先輩!
「ーーーうそ。」
ぼそっと言った言葉を、志朗君が拾った。
「なにがうそ。なの?」
きょとん、と不思議そうな顔をして隣から眺めてくる。こういうときはそこら辺にいる少年だなと、出会ったばかりなのに知っているかのように頭の中で思った。
「幸一。部活?遅いよー」
「ごめんごめん。」
目の前で伊藤君と藤宮先輩が会話をしている。
仲が良いのかな・・
藤宮先輩部活だったんだ。ちょっと汗かいてる・・
あーやっぱり格好いい。一般的にずば抜けてるわ!
そういえば朝笑いかけてきたっけ・・
そんなことを考えながら先輩の顔をぼーっと眺めていると、目があった。
「ーーー朝・・話しかけようと思ったのに」
いたづらに笑う先輩は、なんだか幼く見えた。
でもそんなことより、くすっと笑う先輩は、いつもより可愛く見えた。
「ーーえ・・あ、私にだったんですか?」
言葉の意味を理解するまでに、少し時間がかかった。
「そうだよー。姫様の気配を感じてから、あなただってことは昨日もう分かってたし。」
気配ーーーそれは分かるものなのね・・
怪訝そうな顔をしていたからか、またくすっと笑って私を見つめる。
「とにかく、これで五人揃ったわけだ。」
軽くなった雰囲気をまた引き締めるかのように、加藤先生が言う。
「俺たちが気づいた異常、他の従者たちも何らかの形で影響は受けているはず。」
「それを待つしかない、ってことだな。」
伊藤君と有明君も、同じように真剣な表情で頷きながら言葉を発する。
「姫様も、何か変化があったら言ってね。
これから・・何かあるように視えるから。」
私を見上げるようにして何か見据えた目をする志朗君。
「何か視えたのか?」
「・・少しね。」
あ、なるほど、能力ーーーー
キーンコーンカーンコーン
夕方の18時の合図。
「さ、今日は解散しよう。まぁ何かない限りは集まってもしょうがないから、次はいつ、とかは今のところはないけどな。」
「確かにね」
加藤先生の言葉に私を見つめながら賛同する藤宮先輩。
う・・緊張する・・
、
、
「ーーーーさまーー」
「ーー姫様ーーーーーー」
だれ?
なんて言っているの?
わたしを呼ぶのはーーーー
ちがう。
姫様、と呼ぶあなたは、
ーーーだれーーーーー?
私を優しく見つめて微笑む男の人。
見たことがない。
・・違う。この人の顔は、見たことがある。
ーーーー月の、世界で。
「・・もちづきーーーー」
ハッ!
いつの間にか朝を迎えていた。
私はまた、夢を見ていた。
いつもとは違う。なんだかはっきりしている。
「モチヅキ・・?」
それなのに、なんだかもやっとしてる。
「ーーーパスパス!」
「せーのっ!」
朝、いつもの校門をくぐると、朝練をしているサッカー部が見えた。
そのなかでもひときわ目立つ藤宮先輩。
そこまで見つめていなかったのに、その本人とぱちっと目が合う。
ーーう!何故か気まずい!
恥ずかしさから目を背けようと思った瞬間、そう思う私とは裏腹に、藤宮先輩はいつもの笑顔でひらひらと私に手を振ってきた。困惑しながらも振り替えしてみる。
「え・・なに、」
「手振ってなかった?先輩。あの子に。」
側にいた女の子たちに見られる。
怖い!
そそくさと下駄箱に向かう。
「はぁ・・怖かった・・」
「ーーーはよ。」
「っひゃあ!」
いきなり背後から声をかけられたので、自分でも驚くような声が出た。
「び・・っくりしたーーーなんだよ?」
「あ!ごめ・・有明君か・・」
「挨拶しただけだろ?何をそんな驚くんだよ」
はーっとため息をつきながら、自分の下駄箱から上履きを出して下に投げ置く。
「ごめんね・・あの・・」
先程の藤宮先輩ファンのことを上手く伝えれる気がしなく、ついどもってしまった。怪訝そうな顔をする有明君。
「ーーあ、あのね、そういえば今日も夢を見たの。」
今日の夢について、先程の話とはすり替えて話してみる。
「夢?」
「そう。少し気になって・・」
「あぁ、俺も見たよ。同じかな?わかんねぇけど」
鼻をぽりぽりとかきながら話す内に、私も上履きに履き替える。
「従者に、モチヅキって人はいる?」
「モチヅキ?いねぇけど?」
「え?その人が夢に出てきたんだけどな・・」
まさかの違う夢だった。
「俺は、テレパシーで夢を見させられたんだ。
そいつが、従者だと思う。きっと俺らに気づいたんだ。」
「コンタクトを取ってきたってこと・・?」
「あぁ。他の奴らも見たのか分からねぇけど。昨日の今日だから・・まぁ、もし他の奴らも同じ夢を見てたり、何か感じてたら、自然と集まるだろうけど。」
月の従者とかぐや姫。