春のはじまりに

春のはじまりに

彼はよく季節の変わり目に風邪をひく。

彼が鼻声になったら、新しい季節に移り変わるので私はひそかに彼が風邪を引くのが楽しみだったりする。

彼にそんなことを言うと
「風邪はひいていない、だってちゃんと季節の変わる匂いを感じているからね」

そう、絶対認めない。


彼女作らないの?と聞くと。

「いるよ?俺の目の前に」

8割本気の目が好き。恥ずかしくなってテーブルに顔を隠す。

彼と一緒になったらたくさん幸せにしてくれるだろうな。

彼は私の事が好きで、でも私には結婚を決めている人がいる。

居酒屋ひだまりには学生の頃からよく行くけど、私はとうに飽きてしまっている事、
もう私はカシスオレンジより生絞りグレープフルーツサワーが好きになった事。
もう私は以前の私とはちがう事。


に、彼は気づいていない。


「私、来年結婚するの」

歓びと落胆が合わさった表情で

「よかったね」

店長と大生を飲み干す彼を眺めながら想う。
ずっとこれからも繰り返されてくはずの幸せが今日終わる。

季節の変わり目を鼻に感じながら、私は終電に乗った。

春のはじまりに

春のはじまりに

春のはじまりに起こった彼と私のささいな出来事。

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-02-03

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