「居酒屋ひだまり」
「私、来年結婚するの」
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僕とみーちゃんは地元が一緒で同じ高校を卒業して、しばらくしてから仲が良くなった。
僕は地元で就職し、みーちゃんは都内の看護大学に。
よく週末にひばりが丘の「居酒屋ひだまり」に集まっては、
他の女の匂いがするという彼氏の愚痴を聞いたり、
僕は嫌な上司の愚痴を話すが、メニューに夢中でまったく聞いてなかったり、
カウンター越しの店長に大生をおごり一気に飲み干す店長を見てゲラゲラと笑った。
僕らは炙り〆さんまをつついたり、黒霧島を舐めたりしながらたくさんの話をした。
しばらくして酔いが回ってくるといつもみーちゃんは僕に、
「ねぇねぇなんで彼女作らないの?」
「いるよ?俺の目の前に」
彼女の顔がゆるみ、えへへと言って机に顔を乗せる。僕はそんなみーちゃんを見るのが好きだ。
そのくだりが二人の鉄板となっていた。
ある日一度だけ、深夜に彼女が僕のアパートまで来たことがある。
浮気した彼氏とケンカし僕の家の棚にある酒をほとんどひとりで飲み干しわんわん泣き、
ひとしきり泣いた後、いつもと違うくぐもった声で、
「ねぇねぇ...なんで彼女作らないの?」
その日初めて僕と彼女はそういうことになった。
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みーちゃんが大学を卒業してからは回数が減り、でも時々こうしてひだまりに集まっている。
彼女からすると仲の良い男友達。でも僕は違い、ぼんやりと彼と別れて僕の方に流れてくるのを期待していた。
「よかったね」
お祝いにみーちゃんに1杯、店長にも大生をおごり、僕も大生を注文して競う様に店長と大生を一気に飲み干す。
いつものようにゲラゲラと笑う。みーちゃんはもう僕に彼女をつくらない理由を聞かなくなった。
ずっとこれからも繰り返されてくはずの幸せが今日終わる。
ひばりが丘の終電の波に消えていくみーちゃんを眺めながら、たばこに火をつけた。
「居酒屋ひだまり」