石段
西国寺の石段の上から
港が見える。
金剛力士の仁王門を跨いで、
君が登ってくる。
青き空の下、
山より吹く風が
僕の背中を通り過ぎていく。
朝からスケッチブックを
何枚も描き終えた。
君が覗き込んだページに、
描いた無数の墓石の一つに、
白いユリの花が咲いている。
君が、泣き出しそうに、
僕の腕を掴んで揺さぶる。
港を眺めて、
じっと待っている。
明日は、雨雲がやってくる。
明日は、雨に濡れた黒い屋根瓦の上に、
きっと、気持ちを休めてくれる風が吹くに違いない。
あの時から、
僕達の未来が、
金剛力士のように、格子に囲まれている。
でも、ここまでは誰であろうとも、追いかけてこない。
きっと、睨みつけ、踏みつけ、
怒りを忘れてしまうまで、何も考えず暮らしていれば、
再び、僕達の未来が、今日のように、
青い空ときらめく海が、予感もなく現れてくる。
石段