額縁

商店街の暗き路地を抜けて
港の海岸線に立ち並ぶ民家の隙間から、
青い海ときらめく波の向こうに、
夏が降りてくる。

潮に錆びた船着場の鉄骨が、
激しい陽射しに焼かれ、
朽ち果てて港に突き出ている。

僕は、折りたたみの椅子に腰掛けて、
潮と鉄の入り混じった匂いを、
再び吸い込んだ忘れ様のない記憶が、
日傘を傾けて堤防の脇を近づいてきた。

海流に流されて行く遠い過去が、
風に舞い上がってしまう。

『もう、行こうよ。』

あの時、通り過ぎた君の記憶が、
小さな宝石箱の中で、眠っていた。

汗だくになりながら、
自転車を押して坂道を登り切った。
赤茶けた道路脇の崖の上に、
松林で鳴くセミの声を、
君が見上げながら、タオルに顔をうずめていた。

『あの絵はどこにあるの?』

線路脇の画廊で、
きっと、売れ残ったまま、
白いペンキの剥げた額縁の中で、
君の横顔が笑っている。

額縁

額縁

  • 自由詩
  • 掌編
  • 恋愛
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-07-22

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