額縁
商店街の暗き路地を抜けて
港の海岸線に立ち並ぶ民家の隙間から、
青い海ときらめく波の向こうに、
夏が降りてくる。
潮に錆びた船着場の鉄骨が、
激しい陽射しに焼かれ、
朽ち果てて港に突き出ている。
僕は、折りたたみの椅子に腰掛けて、
潮と鉄の入り混じった匂いを、
再び吸い込んだ忘れ様のない記憶が、
日傘を傾けて堤防の脇を近づいてきた。
海流に流されて行く遠い過去が、
風に舞い上がってしまう。
『もう、行こうよ。』
あの時、通り過ぎた君の記憶が、
小さな宝石箱の中で、眠っていた。
汗だくになりながら、
自転車を押して坂道を登り切った。
赤茶けた道路脇の崖の上に、
松林で鳴くセミの声を、
君が見上げながら、タオルに顔をうずめていた。
『あの絵はどこにあるの?』
線路脇の画廊で、
きっと、売れ残ったまま、
白いペンキの剥げた額縁の中で、
君の横顔が笑っている。
額縁