チョコみたいな甘い恋じゃなくてさ。
「チョコみたいな甘い恋じゃなくてさ。」
いつか溶けちゃうことのない恋をしようよ。
あいつはそう言った。真夏の日差しを浴びながら、あいつは確かにそういった。
────かっこいいな。
わずかながら、でもはっきりと、僕は彼女をかっこいいと思った。
「ね、あれおいしそうじゃない?」
「ほんとだ。食ってく?」
「うんうん!」
嬉しそうに財布を取り出す彼女は、僕がおごってくれるとか、そういうことは全く期待していないみたいで、というか、そういうおこがましい真似はしたくないと決めているようでもあった。それは僕にとって、微笑ましいような、ありがたいような、それでいてちょっぴり悲しいような、不思議な情景だった。
「見て見て!きれい!」
「鶴じゃん。かわいい!僕のはなんか…なんだこれ?」
僕の買った和菓子は、よくわからない模様のものだった。所詮砂糖だから模様なんてそんなに気にしないけれど、なんだか気になる。
「これ、ハートじゃない?」
「ハート?」
そんなあほな────そう思って、もう一度和菓子に顔を近づけて、よく模様を見た時の僕の顔は、きっと見ていられないほど無様で、滑稽だったと思う。
ハートだった。 よく見ないと分かんないのだ。真ん中におしゃれなハートがあしらってあり、まわりにからみつく葉っぱと太陽が描かれている。きっと僕等が恋人同士だと感じ取って、これを渡してくれたのだ。すこし嬉しかった。
「ね」
「ん?」
「あたし────好きだなあ。好き。好きだよっ」
「僕を?」
「うん、うん。大好きだよ…っ」
溶けない恋がしたい。チョコみたいに溶けちゃうような恋は嫌だ。
そう言ってた彼女は、今、チョコみたいに甘いことを言ってる。
恋のチョコの在り方は、人それぞれでいいよね。溶け方でも、味でも。
たまらなく愛おしくなって、僕は彼女を抱きしめた。……和菓子のハートに、感謝しなくちゃいけないな、と思った。
チョコみたいな甘い恋じゃなくてさ。