ファフロの月

ミステリー要素の強いファンタジーとなっております。楽しんで頂けると嬉しいです!

それは、君と出逢えた奇跡。



雪が降るある日。
とある村に裁きが降った。
傲慢な人間たちに神が振り下ろした刃。
それは凶刃となり無差別に僕の村を破壊した。

壊滅的な被害を受け…沢山の人が死んでしまった。
残された僅かな村民と
たった12歳の僕一人で、神に抗おうとしている。


ハルタケ「ソラ」

ソラ「ハルタケさん、どうしたの?」

ハルタケ「お前も知ってる通り…この村はもうダメだ。
人も足りない、家も家畜も皆ボロボロになっちまった。
……そういやお前の親父さんは、ソラを守って死んじまったって本当か…?」

ソラ「うん…。大きな音がして屋根が崩れ落ちてきたんだ。 僕怖くて一歩も動けなくて…。
お父さんが突き飛ばしてくれなきゃ今頃屋根の下敷きだったよ。」

ハルタケ「そうか…。お前の親父さん、俺が小さい時から学者さん学者さんって村の中では英雄だったもんな、本当立派な人を亡くしちまった。
こんな小さい村に生まれて、学者になるなんて本当すげえよ。」

ソラ「僕も父さんみたいに学者になりたかったんだ。もう叶わない夢になってしまったけど…」

ハルタケ「俺の爺さんも死んじまった。出ていった親父も帰ってこないし、俺が昨日付けで村長になっちまった。
爺さんの後を継いでなんとかこの村を再建したいんだが…
街から来たお偉いさん方もお手上げ。
山もないこの村に降って来たこの巨大石の正体がわからないとお手上げだ」


僕の村にある日一つの岩が降って来た。
隕石でもなく、火山岩でもない。
空中に突然生み出されたとしか思えない岩が降って来たんだ。

それに潰されて様々なものを失った。
この街に来た学者や科学者たちもなんの説明もできずに帰ってしまった。
僕が目指した学者ってあんなもんなんだ、って少し悲しくなった。


ハルタケ「領主様も村がこんな事になったのに一向に赴いてくれる気配もない。
見捨てられたんだな」

ソラ「領主様の屋敷は無事だったの?」

ハルタケ「ああ。俺らの村を管理してるはずの領主様だがこんな事になっても来てくれやしねぇ。
村はずれに豪邸を構えたと思えば…くそ、文字通り高みの見物でもしてやがんのか。
…そういやソラはまだ会ったこと無いんだよな。
15になった子供が領主様に会いに行くこの村のしきたりも今となっちゃもう関係ないな」

ソラ「うん。ねぇ村長さん、領主様ってどんな人なの?」

ハルタケ「村長さんはやめろよ…。
俺だって自分が15になった時くらいしか見たことねぇんだよ。
えらく歳のいった爺さんでな…何も喋らず帽子をくれる。この村での大人の証のな。
それだけだ。
…そういや隣にいつも若い女の子がいたな。娘って年頃…なのか…。
もう10年は見てねぇな」

ソラ「…ねぇ、あんな大きな岩や雪の塊が村の外にも降って来たのに何故屋敷だけ無傷なの?」

ハルタケ「…おい怖いこと言うなよ。たまたまだろ?」

ソラ「…ごめん、僕確認してくる」

ハルタケ「お、おい!…ったく、親父とそっくりなんだから!」


僕は学者になりたくて。
お父さんみたいな偉い学者になりたくてずっと勉強して来た。
だから気になったことはやっぱり気になってしまうわけで。
今考えれば入る手段すらないのに僕は気がついたら屋敷の前まで走って来ていた。



ソラ「はぁ、はぁはぁ…。 どうやって入ればいいんだ?
ベルなんてないし…鍵は…あ、空いてる?」

不用心だ。こんな大きな門も鍵がかかって無ければ無意味なもんだ。


ソラ「でも流石に扉は鍵がかかってるか…。
どうしよう…大きな声で領主様を呼んでみたら開けてくれるかな?」


そうやって僕が扉の前でブツブツ言ってる時でした。



ガチャっと音を立て大きな扉が開いた。
そこには…


「…誰?」

一人の女の子が立っていた。


ー ファフロの月 ー


ソラ「あっ…か、勝手に入ってごめんなさい」

「…ううん。大丈夫。 君は?」

ソラ「僕はソラ…村に住んでるんだけど…」

「けど?」

ソラ「知ってるだろう? 謎の岩で村が壊れちゃって…。
この周辺も壊滅してるのにこの屋敷だけ無事なんておかしいな、なんて…領主様いますか?お話がしたくて!」

「何言ってるかよくわからない…私には難しい」

ソラ「あ、ああ…ごめん」

「お父さまに会いに来たの?」

ソラ(お父様…やっぱり、ハルタケさんが見た女の子って領主様の娘だったんだ)

ソラ「うん、会わせてくれる?」

「誰も入れるなって言われてるから…」

ソラ「は、入らなくてもいいんだ。君のお父さんとお話しさえさせてくれればここでも」

「…うっ…ああ…」

ソラ「ど、どうしたの!?」

「早く扉…閉めて…入って!」

ソラ「うわっちょっ…!」


バタン!!

大きな音を立てて閉ざされた扉。
内側からなら簡単に開けられると僕はこのとき思っていた。



ソラ「いたた…だ、大丈夫?」

「…っ、ふう…はぁ…。…もう大丈夫」

ソラ(なんだ、切れていた息が整っていく…。
なんで突然息切れなんて…)

「あ…つい入れちゃった…」

ソラ「あ…出るよ、開けてもらってもいい?」

「いや…もう開けたくない…」

ソラ「!?で、でもそれじゃ出れないよ?」

「うーん…。外の空気はもういやだし…」

ソラ「な、なら離れててくれれば勝手に出るよ?」

「それじゃ何するかわからない。監視しなきゃ」

ソラ「な、何もしない…とは言えないか…。
勝手に門を開けて入って来たようなやつだもんね…」

「…仕方ないや、出られる場所が奥にあるから来て」

ソラ「え?でも多分そこからでも僕が出るとき外の空気が入ると思うよ?」

「それは…大丈夫なの」


僕はよく分からなかった。
何が良くて何がダメなのか。
しかし勝手に入った手前、僕が自由に動く権利など何処にもない。
僕はこの子に付いて行くことにした。



「こっち。」

ソラ「ねぇ、その前に名前教えてくれる?」

「?名前…?」

ソラ「名前だよ名前。僕はソラ。君は?」

「…なまえ…?」

ソラ「えっ?…お父さんに、なんて呼ばれてる?」

「お父さまは私をファフロって呼ぶ」

ソラ「じゃあファフロだ。 ハーフ…って顔立ちじゃないけど…まあいいか! 宜しくね、ファフロ」

ファフロ「うん、よろしくソラ。」


これが僕と不思議な少女ファフロの出逢いだった。


ファフロ「…あれ?ここの鍵壊れてる」

ソラ「普段生活してるんじゃないの?」

ファフロ「私はさっきの扉がある玄関の広間で寝てる。」

ソラ「こんな広い屋敷なのにあの広間しか使わないの?」

ファフロ「うん。ご飯食べてねるだけだもん」

ソラ「お父さんは?」

ファフロ「最後にあったのはいつだったかな。
ずっと奥でお仕事してるよ」

ソラ(こんな年頃の子を放って!? …やっぱり何かおかしいよ)

ソラ「そっか。…で、どうするの?」

ファフロ「この扉の向こうに行かないと奥にいけないんだけど…。
地下通るしかないや、ちょっと危ないけど…」

ソラ「地下があるの?」

ファフロ「うん。地下は扉の向こうに繋がってるよ。犬を飼ってるんだ。 かわいいよ」

ソラ「へぇ、犬がいるんだね!」
(そんな地下があれば扉の意味はあるのかな…。
やっぱり変なところ。
でも、犬が居るなんて普通のところあるじゃん)



ソラ「って思ってた僕が愚かだった! ファフロ!?これのどこが犬なの!?」

ファフロ「おかしい。普段はもっとおとなしい」

ソラ「僕(不審者)を見て警戒してるんだよ!どうみても狼が!」

ファフロ「うーん。やっぱりちょっとあぶないや」

ソラ「うん、危ないよ、なんとか上から…」

ファフロ「ちょっと待ってて」


そう言うとファフロは地下通路の真ん中まで歩いて行った。

ソラ「ちょっ…ファフロ!」

しかし狼たちはファフロに噛み付く気配もない。
飼い主だからだろうか?
だけどあんなに興奮してるのに僕の方しかみない。
相当警戒されてるのかな…?
でもあまりにもファフロを見なさすぎだと思うけど…。

ハシゴを握りしめいつでも上に上がれるように怖がる僕を置いてファフロは狼の群れの中に入って行く。
狼は警戒はしてるけれど襲ってくる気配はない。


ファフロ「あった。」


そう言うとファフロは1匹の狼の首についてる鍵らしきものを取った。


ファフロ「おまたせ。こっちは通れなさそうだからうえにいこ?」

ソラ「う、うん、その鍵は?」

ファフロ「これ?奥に行くための廊下に行くための鍵」

ソラ「そ、そんなのあったの?」

ファフロ「ほんとはこの通路抜けて向こう側のはしごを登ればそれで着くんだけど、あぶないし」

ソラ「そっか。壊れてた鍵の扉は右側の部屋。構造が左右対称になってる屋敷だから奥に行く手段は「左の廊下」って手もあるのか」

ファフロ「ソラが言うこと難しい。いこ?」

ソラ「うん、行こう」


僕らはハシゴを登り、壊れていて断念した扉とは別の方向へと歩き出した。


ソラ「ファフロ、この屋敷って本当に広いよね」

ファフロ「うん。わたしも全部の部屋にいったことないよ」

ソラ「そういえばファフロって何歳なの?」

ファフロ「…わからない。ソラは?」

ソラ「僕は12歳。」

ファフロ「うーん。じゃあ私もそれで」

ソラ「えっ!?適当だね…」

ファフロ「だってわからないもん」

ソラ「あ、そういえばお母さんは?」

ファフロ「いないよ」

ソラ「あ…ごめん嫌なこと聞いて。
死んじゃった…とか?」

ファフロ「ううん。最初からいないよ?」

ソラ「…え?」
(養子ってことかな…?だからこんな名前してるのかな?
生まれた時からお母さんの顔を知らないからいないって言う言い方をしたのかな…?)

ファフロ「ついたよ」

ソラ「あ、うん」


この扉も使えなくて結局地下に…と言うことはなく、静かに扉は開かれた。

ファフロ「この先に進めば出れるよ」

ソラ「ごめんね、手間をかけさせて」

ファフロ「ううん大丈夫だよ
この廊下…すごくひさしぶり」

ソラ「みたいだね…。本当に廊下に蜘蛛の巣ができてる。本の中でしか見たことないよこんな廊下」

ファフロ「えへへ」

ソラ「ほ、ほめてはいないんだけどね…。
ん?…なにこれ」


ーー…ァ……のレポー…ーー

わた……とんで…な……のを………して…まっ…



一枚の紙だ。
汚れ破れていて、これくらいしか読めなかった。

ファフロ「どうしたの?ソラ。」

ソラ「いや、こんなものが落ちてて…」

ファフロ「…?なにこれ きたない。」

ソラ「そ、そうだね。置いておこうか」

ファフロ「うん」


僕は何かを感じ取った。
ファフロには捨てたと嘘をついたその紙をタイミングを見計らいポケットに仕舞い込んだ。


本当に長い廊下だ。
僕の小さな脚では進むのに時間がかかってしまう。


ファフロ「そろそろだよ」

ソラ「え?まだ廊下は続いてるよ?」

ファフロ「この部屋。ここから奥に行ける」

ソラ「あ、そういうこと」


僕らは廊下の真ん中にある部屋に入った。


ファフロ「あれ?ここじゃないや
もう一個横かも」

ソラ「あ、あはは。…ん?また紙が…」


ーーーフ………の……ポー…ーーー

この……名…は……フ…。 ま…ち…らをつか…こな………みたい…



ソラ(まただ。でもさっきとは違う。この紙は血で汚れてるんだ。
破かれた後。爪…?…え?…まさか…)


ファフロ「ソラ、いこ?」

ソラ「待ってファフロ…動いちゃダメだ…」

ファフロ「なんで?」

ソラ「お願い、動かないで…ファフロ…。」


薄暗い部屋。 一つしかない小さな窓から入る太陽の光だけで灯りを保ってるこの部屋は…
確実に「それ」がいた。


ファフロ「すんすん。ちのにおい」

ソラ「…いまだ、ファフロ!走って!!」

ファフロ「え?ちょっとソラ…?」

僕は無我夢中にファフロの手を引き来た道を引き返した。
扉を勢いよく締め、振り返らず全力で。

大きな破壊音と共に扉が壊れた。
腐敗した木を突進で破ったんだろう。
足音が聞こえる。それでも僕は走った。走って走って走った。


ファフロ「そっ、ソラ!?」

ソラ「はっはやく!もうちょっと…!!」

僕らは走り抜き、それに追いつかれる前に入って来た扉についた。
来るとき開けっ放しにしておいてよかったと心から思う。

その扉をファフロの体が通ったことを確認した僕は初めて後ろを振り返る。

ソラ「う、うわあ!!」

勢いよく扉を閉める!!

ドン、と大きな音がする。

中の腐った扉とは違い頑丈な扉をいきなり閉めた為、その生物は扉に激突した。
そして静かになった。

ファフロ「はあ、はあ、はあ、突然どうしたの?ソラ」

ソラ「き、気付かなかった!?」

僕はそーっと、扉を開ける。


そこには…血を垂れ流し、動かなくなった狼の死体。


ファフロ「お犬さん?あれ?この子…」

ソラ「あの部屋にはこれがいたんだ…暗くて気付かなかったけど…
後少し逃げるのが遅れたら殺されてたよ…」

ファフロ「そうなの?…あぶなかったねソラ」

ソラ「うん?…うん、ファフロも危なかったよ?」

ファフロ「わたしは…へいき。」

ソラ「いや飼い主だから大丈夫なんてレベルじゃなかったよ?
それにこいつは多分人を殺してる。」

ファフロ「あの血のにおい?」

ソラ「うん。あの部屋にあったこのメモ…
血まみれで破れている。きっと誰かがこの紙を持った状態でこいつに襲われたんだ
…僕は確認しにいくよ、ファフロも来てくれる?」

ファフロ「うん。私はソラの監視だし」

ソラ「はは…。そうだったね」


僕はその日、初めて何かを殺した。



ソラ「やっぱり。」

僕らは部屋に戻った。奥に進むと、さっきは見落としていた人の死体を見つけてしまった。


ファフロ「あ。お父さまのお友だちだ」

ソラ「知ってる人?…腐敗臭がしない…しかも暖かい…さっき殺されたんだ…」

ファフロ「そういえば今日も来てたよ」

ソラ「今日「も」?
あれ、この服…どこかで…
!?そうか、この人街の学者だ! 岩を見に来た…」


無残に殺されたその人はあの岩の正体を探りに来た学者の一人だった。
帰ったはずなのに…。

誰がどう見ても、あの狼が殺したことに間違いはなさそうだ。


ファフロ「何回もこの人には会ったことあるよ。お菓子くれたりするの。
でもなんどもこのお家に入った人にはお犬さんは噛まないのになんでだろ?」

ソラ(さっきの狼、飼い主のファフロが居たのに地下の奴らとは違って全力で追いかけて来てた。
きっと止まったら殺されて居ただろう。
…狂っていたとしか…なぜこの人は殺されたんだ?)


ファフロ「お父さまに教えてあげなきゃ。
お友達死んじゃったよって。
ソラ、いこ?」

ソラ「うん。」
(そう言えば…鍵のかかってたこの廊下の先の部屋に…この人どうやって入ったんだ?)



ファフロ「この先がお父さまのお部屋。
お父さまはここをけんきゅーしつ?って呼んでた」

ソラ「研究室…。領主さまはやっぱり何かを知ってるんだ…。
帰った演技をしてまでこの屋敷にいた街の学者…。
きっとあの岩の正体を突き止めたんだ…」

ファフロ「でもここには用はない。
お父さまのおともだちが死んじゃった事はソラを家から出したら私が伝えにいくね」

ソラ「ファフロ、お願いだ。君のお父さんに合わせて欲しい。
聞きたいことが山ほどあるんだ」

ファフロ「いくらソラのお願いでもそれはだめ。
お父さまは絶対ここには誰も入れるなって言ってた。
怒られちゃう。」

ソラ「僕が無理言って入ったことはちゃんと言う。だからお願いだ。僕らの住んでたところは突然空から降ってきた岩に壊されたんだ。その原因をきっと君のお父さんは知ってる…」

ファフロ「うーん…。わたしが怒られないように言ってくれる?」

ソラ「うん!」

ファフロ「ならいいよ。開けるよ」

そう言うとファフロはポケットから鍵を出した。
さっきのとは違う、小さな鍵だ。

ファフロ「開いたよ。」

ソラ「ありがとう。…失礼します」




ファフロ「お父さま、お客さまだよ」

ソラ「領主様、勝手に入ってすみまーー!?」

そこに、腰掛けていたのは。


ただの白骨死体だった。。



ファフロ「お父さま、お父さまに聞きたいことがあるんだって。ソラっていうの。わたしは入っちゃダメって言ったんだよ?」

ソラ「ちょっ…ファフロ、それはただの…」

ファフロ「?お父さまがどうしたの?」

ソラ「ファフロ。それは白骨死体。死んで骨だけになっちゃった人の姿だよ。」

ファフロ「…え?」

ソラ「ファフロ…君のお父さんは…とっくの昔に…」

ファフロ「うーん。でもわたしはお話しできるよ?
あ、ほら今喋ってる。なになに?」

ソラ「ファ、ファフロ…」

ファフロ「うんうん。…え?」

ソラ「…なんて言ってるの?」

ファフロ「ソラに今すぐここから帰りなさいって言ってる。やっぱり怒ってる。」


僕は気づかなかった。
領主様の死体に目を取られて…その後ろに動く大きな機械を。

ソラ「これは…」

ファフロ「これ?これはお父さまのかいはつ?したきかいだよ。私が生きるために必要なんだって」


僕は機械に近づく。

ファフロ「ダメだよ?それ触ったら」

ソラ「見るだけ。僕が変なことをしないか、監視してて。」


ソラ(これは…ある一定の電波を放ち続けてるのか?
…まさか…
ん? なんだこの本… 日記?)

ファフロ「あ、それお父さまの本だよ。わたしは沢山本を読んできたけどそれはまだ読んだことないや」

僕はファフロの監視など目にもくれず無断でその本を開く。
1ページ、1ページ。めくるたびに…



ソラ「ファフロ、君はなんで外に出れないんだ?」

ファフロ「外の空気に触れるとダメってお父さまが言ってた。
そのしょーこに外の空気に触れるとしんどくなっちゃう」

ソラ「…最近、外に出ちゃったことは?」

ファフロ「うーん…
あ、さっきのお父さまのおともだちが扉あけっぱなしにしてたときがあったなぁ
それをしめよーとして、転んで外にでちゃったことはあったよ」

ソラ「すぐ…家に入った?」

ファフロ「ううん。転んだ時に足をけがしちゃって、しばらく動けなかったよ。
しんどくて死んじゃうかと思った」


ソラ「ちなみに…それはいつ…!?」

ファフロ「えっと…冷たい雨が降ってた日?」



冷たい雨。
ファフロはきっと「雪」を知らないんだ。
雪の降るあの日。
僕らの全てが、奪われたあの日。


ソラ「ファフロ。この機械が何か知ってる…?」

ファフロ「私が生きるために必要なもの…何かは知らないよ?」



ソラ「これは、特殊な電磁波を発生させる装置。 この装置から出る電磁波がファフロの体に纏わり付き続けてるの。
その範囲はこの屋敷の中だけ…。閉めきった、この屋敷の中だけ…。
外に出れば電磁波の膜が紫外線に壊されて君を包まなくなって君の力が…働く…」


ファフロ「むずかしい。なにをいってるの?」



ソラ「この本。これは君のお父さんの日記。
…読むよ。聞いて。」



ーーー日記ーーー

私はとんでもないものを生み出してしまった。
私の研究が実ったことは嬉しいことだ。
だが、それは望まぬ方向に叶ってしまった。
一人の女の子が生み出されてしまった。
名はファフロ。学術名から取った名だ。
学術名ファフロツキーズ。
別名・怪雨(かいう)

私の研究は「超常現象」を意のままに操るもの。
長年の研究の成果がこんな事になってしまうなんて。

この子は生み出された。
この子に罪はない。
この子をどうしようも出来ずただ放置する私を許してほしい。
私はここで人生を終えることになるだろう。
この特殊な電磁波を発生させる装置を私が管理しなくても自動で動くようにプログラミングするために人生の残りの時間を使うことにする。
この子は天災だが…私の孫なんだ。
少し昔話をさせてくれ。

この子の本当の名はルナ。私の息子夫妻が産んだ私の可愛い初孫だ。
この子が生まれることが分かって少しした時、親不孝な息子が交通事故で死んでしまったのだ。
残された息子の嫁の出産は困難を極めた。

そしてルナは産み落とされた。母体を犠牲に…。


一人になってしまったこの子を私が育てるのは当然のことだ。

元々この子には少し超能力と呼ばれる異質な力の種があった。ほんの僅かな火種を私は育ててしまった。
私が死んだ後、一人になるこの子が強く生きられる手段として…自分の人生をかけた研究をこの子に注いでしまった。

この子はその力を宿し、10年もする頃には発現した。
私が宿したのは周りのものを動かす程度の力。ポルターガイストのつもりだった。

この子の中の元々あった素質という名の種と私が与えてしまった水が化学反応を起こし…「ファフロツキーズ」と呼ばれる力を宿してしまった。

その名も怪雨。
怪雨とは、一定範囲に雪や雨、隕石や黄砂といった良く知られる現象を除く「落ちてくるはずがないもの」がおちてくる超常現象の事だ。
この子はこうして、超常現象となってしまった。


私が80を超えた頃。
肉体年齢は20を超えたはずのルナは一向に育たずまだ年端もいかない少女の姿と知能をしていた。
私は本をたくさん読ませた。会話はできるようになった。


私が90を超えた頃。
この子はようやく自我を持ち、感情を持った。
私はこの子の為に電磁波発生装置をつくった。
これは特殊な電波の膜をルナの周りに作ることにより、超常現象となったこの子が浴びれなくなってしまった紫外線や外気を遮る役目がある。

ファフロツキーズは紫外線に弱いという弱点が出来てしまった。守るどころか私はこの子に死ぬまでこの屋敷から出られないという呪いを与えてしまった。外気に触れるだけでも…命に関わる。

私は街にいる私の教え子である学者の彼にこの子の世話を任せた。食べ物を定期的に運んでもらうことにしたのだ。



長い時間、特殊電波のすぐそばにいた私の体は神経がズタボロでもうとっくに崩れてもおかしくない。
だから私は血液に薬を投与することにした。
もし私の寿命が来れば1時間もしないうちに私の肉は体から崩れ落ち白骨死体となってしまうだろう。朽ち果て、蛆虫の沸いた肉体をこの子に見せたくはない。幸い、この子は人が死ねばどうなるかなど知らないのだから。

この日記をもし読むものがいれば。
学者の彼の身に何かあったと言う事だろう。
ファフロにはこの部屋には誰も連れ込むなと命じている。
その私の命令に逆らってまでこの部屋へと案内するほど仲良くなってくれたそのものならば。
そのものが私の愚行を赦してくれるのなら。
ルナをよろしく頼む。
肉体の成長が人の何倍も遅い、天涯孤独なこの子をー。


私の宝物を。



ーーーーーーーー



ファフロ「…わかんないよ。ぜんぜん」

ソラ「君は…人間じゃなかったんだね」

ファフロ「…そうみたい」

ソラ「…ファフロ、君は地下に長くいれないんだろう?」

ファフロ「なんでわかるの?」

ソラ「あそこにはギリギリ電磁波が届かないみたいだから。
地下に入った時に君が言った「危ない」って言葉は、僕の身が、じゃなくてファフロの体がって意味だったんだね」

ファフロ「うん」

ソラ「あそこにいた狼たちは狂わず入ってきた僕の警戒だけをしていた。
でも何かの拍子で外にいたあの狼は、電磁波を浴び続けて狂ってしまったんだね」

ファフロ「…あ、おもいだした。あのお犬さんはお父さまが側においてたペロだ」

ソラ「そっか。領主様の教え子だった学者さんは、きっと鍵を持っていてなんらかの理由でこの部屋に入ったんだろう。そしてあの狼に襲われた。
あの事件があったから。あの岩を見てすぐにファフロが落としたものだって気付いたんだろうね。
装置の出力をあげようとでもしたんだろうか…」


ファフロ「私が…おとした?」


ソラ「ん…いや、なんでもないよ…。」
(この部屋の扉を開けた際に領主様の遺体の横にでも居た狼に襲われて逃げたけれど追いつかれて…。)


ソラ「でもどうして地下に狼なんて…」

ファフロ「お父さまは良くわからないけど地下には誰も近付けないようにってばんけん?っていみであそこにお犬さんを飼ってたんだって言ってたよ。
私も入っちゃダメって言われてた。
しんどいからちかはきらい。でも最近しんこきゅーすれば少しは入れるようになったの」


ソラ(地下に何かがある…?それにファフロが辿り着かないように地下には電磁波が届かないようにワザとしているのか。
ファフロに入られないように、右側の鍵は壊して…。)

ソラ「ファフロ、あのお犬さんのお世話は誰がしていたの?」

ファフロ「わたしはわかんないけど、多分あのおともだちだよ」

ソラ(学者さんがお世話をしていたのか。
だから、あの狼の首に鍵がついていたんだな。ファフロがあの鍵に触らないように。ファフロが奥の部屋に行かないように。深呼吸すれば地下に入れるようになったなんて、死んでしまった領主様に分かるわけがないもの…。)



ファフロ「…ソラ、もう帰る?」

ソラ「…ファフロ、地下に行こう」

ファフロ「あそこしんどいもん」

ソラ「大丈夫、ほんの少し機械をいじるね。
地下にいる狼が狂わない程度に出力をあげて…。
あまり浴びてたら僕もまずいな、早くしよう。

よし、これで大丈夫。いくよ、ファフロ」

ファフロ「う、うん」



僕は途中であの部屋に寄り、学者さんの服を借りて羽織った。


ー地下ー


ソラ「思った通りだ。少し血の匂いはするけど、学者さんの匂いがする服なら襲われないぞ。
ファフロ、辛くない?」

ファフロ「うん。いつもよりマシ。すごいねソラ」

ソラ「凄いのは君のお父さんさ」


僕らは狼を刺激しないように地下を進んだ。
すると…。地下通路の丁度真ん中あたりの壁に違和感を感じた。


ソラ「これ…」

触ってみると、尖った岩が取り外せる。
岩を取り外すと…中にレバーがあった。
それを倒すと、側面の岩(レプリカ)が動き始め、地下通路に道が出来た。


ファフロ「なにこれ…知らなかった」

ソラ「…いこう」



そこには。



一室。ベッドと机がある。
埃を被ってはいるものの、灯りは生きていた。


机の上に本。 ベッドの上に白骨死体。


ー我が最愛の妻 ここに眠る



その立て札はこの白骨が誰なのか、言わずして分かることだった。
そして…本には。


ソラ「…超常現象を人に宿す研究の全てが多分書かれてる。難しすぎて分からないけど…
多分欲しい人は喉から手が出るほど欲しいものだと思う。」


ファフロ「…」

ソラ「ファフロ?」

ファフロは、泣き始めた。

ファフロ「なんでか分からないけど…このヒトを見てたら涙が出てきた。悲しくも痛くもないのに、なんで?ソラ。」


ファフロは多分、残留思念を感じ取ることが出来る。
遺体に宿る、未練や後悔が…。
それが痛いほど感じ取ってしまってるんだろう。

ソラ「なんて言ってる?このひとは。」

ファフロ「ごめんなさい…ミキオさん…ごめんなさい…って…」

この超常現象の全てを書かれた本の最後に、これを書いた人の名前が載ってあった。
夜月 幹夫。きっと領主様の名前だろう。



ソラ「出よう。あの部屋に戻るよ、ファフロ。」

ファフロ「…うん」



ー奥の部屋ー


ソラ「ファフロ。君は人間じゃない。
そして、君が村を破壊した張本人だ。
責める気は無いけど、事実はそうなってしまった」

ファフロ「うん。」

ソラ「驚かないの…?」

ファフロ「ソラが本を読んでくれた時。
難しすぎて分からないって言ったけど…本当は良くわかった。分からないふりをした。ごめんなさい」

ソラ「ファフロ…」

ファフロ「だって…わたしにはどうしようもないんだよ…
あの日確かにお外の光を浴びて…しんどくなって…
なにか、なにかがおきたのはよくわかった。
でもどうしようもないんだよ」

ソラ(制御が出来てない…のか…)

ファフロ「あの大きな石。お家の窓から見えてたの。
わたしが…生み出しちゃったんだね
今日まで わすれようとしてたのかもしれない」

ソラ「ファフロ…ファフロのせいじゃ…」


父さん…母さん…


ソラ「ファフロの…せいなんかじゃ…」


お父さん…


お母さん…


皆…



ソラ「ファフロの…うっ…うう…うわああ…」


ファフロ「ソラ…。……!!!」


ファフロは何かを決意した表情を浮かべると、近くにあったロウソク立てを持ち機械を何度も叩いた。


ソラ「!?」


ソラ「ファフロ!?な、なにをしてるんだ!?」


音を立て、煙を上げながら装置は壊れてしまった。


ファフロ「この機械がわたしをまもってるん…だよね?
…うっ…しんどくなってきた…わたし…ね、このしんどいとき…死んだ人の声が聞けるの…みんなできると思ってた…わたしは…ばけものだから」

ソラ「今すぐ…直せるかな…くそっ…!」

ファフロ「ソラ!…みつけた。ソラのお父さんとお母さんの…たましい…」

ソラ「…!?」



ファフロ「強く…いきなさい… 学者になりたいんだろ…う?たくさん勉強して…父さんを超えてみろ…よ?
… …おうえん…してる…よ…」


ソラ「お父さん…お母さん…」


ファフロ「はあ、はあ」

ソラ「ファフロ、ダメだ…まだなんとか…直して…」

ファフロ「奥の…部屋を抜けて…更に奥…扉がある……このそうちのちかくだから…わたしも出入りできた…
そこから…でて…鍵はこれで…あけ…れる…はやく…!」

ソラ「ダメだ…見捨てれない…ファフロ!!やっと仲良く…仲良く…なれたのに…!
僕と君は友達だ……大切な友達になれたんだ!」

ファフロ「わたしは…あなたの全てをうばったばけ…もの…
ただの、ちょーじょー…げんしょーだよ?…」

ソラ「ファフロ…!」

ファフロ「はやく…はやくいって!!ソラに…見られたくない!!」

ソラ「…っ!!」

僕は走った。
何も考えられなかった。
ただ、泣き叫んで。


ファフロ「ふ…ふふ。 ごめんね…ソラ…
わたし…ソラに出逢えてよかっ…た…

わたしは…わたしのことで…しってることがひとつだけ…あるの………きっと…また会えるよ…ソラ…ソラならきっと…ソラの夢は…ぜったい…かな…うから…」


ありが…とう。
私を…友達だって…言ってくれて…。

『じゃあファフロだ。』

私の名前を…ひさしぶりに呼んでくれた…。
………わたしに…その名を………受け入れさせてくれて…
ありがとう……ありが…と…


ソラ…







ソラ「うわあああ!!うわあっ…ああ!!!」



どれくらい走ったのか。
気が付けば村まで僕は帰ってきていた。


帰りが遅くなったことでハルタケさんが血相を変えて探していたらしい。
領主の屋敷に行くとは言ったけれど、大きな門を見て引き返したらしい。
僕が拐われたーと大騒ぎをしたと後から聞いた。


そのとき、村にやってきていた別の学者が僕の持ってる本を見つけ中身を見たらしい。
それで学者たちが騒ぎ出し、近くの大きな街の偉い人たちがこの事実を隠蔽することにしたらしい。


街の警察が来て屋敷は捜索をされた。
死体が3つ。大量の狼。狼の死体。そして…女の子の服が見つかったらしい。


領主様の研究はとてもとても国の深いところに持ち込まれ、きっと水面下で研究されることだろう。

学者は適当な理由をつけてこの岩を遠くの山から飛んで来た火山岩だと説明を付けた。
僕はこの本をどこで手に入れたのかなど色々聞かれたが…。屋敷の前に落ちていたと説明した。
幸い子供の言うことだ、話半分に納得されたみたいだ。



あれから12年の月日が流れた。



僕は24歳になった。
学者となり、街に勤めている。
あの村はあの後なくなり、みんな街に移住した。
屋敷は壊され、あの研究の行方はもう分からない。



僕は今とある研究をしている。
その研究の題は「ファフロツキーズ」。
そして…夜月 月(やつき るな)の魂が還った世界を暴く研究をしている。

僕があの地下で拾った本。
難しすぎて分からなかったが、ひとつ覚えてることがある。


ーーファフロツキーズ 別名怪雨
特殊電波であの子をこの世に留めているが、効力が切れたとき あの子の肉体から離れた怪雨はどこかの空間に還る。それは我々人間が辿り着くにはまだ歴史が浅すぎる超常の世界だ。

だがこうも言えよう。
仮にルナが生物としての「死」を遂げても…
「記憶」や「思い出」は、残留思念として超常現象である彼女の意思にへばりつき永遠を彷徨う。
いつか人類の叡智を掛けて辿り着いた別世界に…
「ルナ」だった記憶が、漂っているかも知れないーーー


つまり
また、会えるってことだ。





ファフロ、見ているかい?
今夜は、無駄のない綺麗な月夜だ。


「また会えるだろう?ファフロ。
だってこんなに月が綺麗なんだから」


「また会えるよソラ。だって、君の夢は叶ったんだから」



ーfin.

ファフロの月

いかがでしたでしょうか?

ファフロの月

悲劇が襲った。僕は、君を見つけるために悲劇を受け入れる。

  • 小説
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  • ファンタジー
  • ミステリー
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-01-30

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