年上の幼なじみがオタクで頭が痛い 9,10話
9話は、洸太が覚悟を決める話です。
10話は、最終話の前振りです。
9話 お悩み相談とその答え
成田と別れて家に帰ってきた俺は布団にもぐって、もんもんとブラックホールを作っていた。頭の中のグルグルが眠くて仕方ないのに眠らせてくれない。
なんか成田、すげー大人だったな。女子って男より早く大人になるって言うし。
頭の中でメガネロリがニヤリと笑う。
いやいや、あれは大人とは一番遠い存在だし。
そもそも俺はあいつのことを好きなのか? 恋愛的な意味で?
ダメだ! 今はわからん! もう寝る! 絶対寝る!
そして、夢と現の境目があやふやになっていって、いつの間にか眠っていた。
「兄ちゃん! ミーと友だちが来てるよ」
亮太に激しく揺らされて目が覚めた。
ん? 今、なんて?
ガバッと起きて、亮太の肩をガシッとつかむ。
「み、美月がきてるのか?」
「来てますよー」
扉に美月と蕩子さんが立っていた。
「な、な、なんで•••」
「ごめん。まさか寝てたとは」
美月が俺の部屋の時計を見る。俺も見てみると、11時を過ぎたところだった。
「ごめんね、いきなり入ってきちゃって」
蕩子さんが申し訳なさそうに謝る。
「あ、いや、こんな時間まで普通寝てないんで。今日はたまたまというか」
動揺して何を言っているのか自分でもわからなかった。
そんな俺に優しく蕩子さんは話してくれた。
「準備とか色々あるでしょ? 着替えたら美月の部屋にきてくれる?」
「わ、わかりました」
蕩子さんの提案に乗っかって、落ち着きをなんとか取り戻す。そのまま2人が部屋を出た後に、猛ダッシュで着替えて、身だしなみを整える。
5分後、着がえ、髪型、歯磨き、トイレを済ませた。最後に深呼吸をして中井家のインターホンを鳴らす。美月が出てきた。
「早かったね~」
「急いだから」
「ま、ま、どうぞ、どうぞ」
「おじゃまします」
美月の部屋に入ると蕩子さんが座ってお茶を飲んでいた。俺を見ると
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくね!」
俺も慌てて挨拶をする。すると、蕩子さんは俺を見て感心していた。
「な、なんスカ?」
「さっき寝てたのに、もう着替えて準備できちゃうなんて、さすが男の子って感じで、うらやましいなぁ」
「そうなんですか?」
「そうよ。女子は服を選ぶのも髪型決めるのも一苦労なんだから」
俺の視線が自然と横にいるおチビちゃんにいく。
「な、なんだよ~、私だって•••。そうそう、女子は相手によるんだ。私も本気になれば」
「それで、わざわざ俺ん家まで来てもらってすみません。何かあったんですか?」
「人の話を聞けーっ!」
俺と美月のやりとりを見て、クスッと笑いながら蕩子さんは俺に説明してくれた。今回の冬コミで色々と手伝ってくれたお礼をしたい、何か欲しいものとかあるか? ということだった。美月は置いおいて、俺としては蕩子さんに対して、そんな大層なことした覚えもなかったので遠慮した。
「そんなにかたく考えないで。無理なことは無理って言うから」
実は真っ先に思ったことがあった。昨日の成田とのこと•••。どうすればいいのか、誰か相談にのってもらいたかった。ただ、美月の前でできる話でもなかったので、どうしようか思いあぐねていると
「ま、今すぐにってことじゃないから。それでね、私たちこれから初詣に行くんだけど、一緒に行かない? で、その間に考えてもらえばいいから」
俺はその提案を受けた。
というわけで、3人で初詣に出かけたのだが、ここでまた俺の考えの浅さが出てしまった。
つまり、知り合いの目、だ。お互いに気づいて挨拶したのが3組、俺が気づかないで向こうが気づいている数を想像する。アキバデート疑惑の件が頭をよぎってゾッとなった。
そんなことはつゆしらず、美月はイカ焼きの列へと並びに行った。俺と蕩子さんは少し離れたところで待っている。
俺は今がチャンスとばかりに話しかけた。
「あの、さっきのお礼なんですけど」
「あ、決まった?」
「はい、あの、相談にのってもらいたいことがあって」
蕩子さんは少し考えてから
「美月のこと?」
「•••はい、そうです」
「いいよ。ただ、今すぐここでってわけにもいかないだろうし、電話だと顔見えないのがイヤだなぁ」
再び考えて、蕩子さんは軽い感じで俺に言った。
「じゃあさ、今度の土曜日、2人で会わない?」
さすがの俺でもわかる。それってデートじゃん。マジか? 蕩子さんと、年上高校生と、ハイスペック美人と。無意識に蕩子さんを下から上へと見てしまう。
「あ、洸太くんの目、ヤラシイ!」
「え? いや? そんなことは!」
「もしかして本当は私とデートするのが目的?」
「いや、違います、相談は本当です! 変なことはしませんから!」
蕩子さんは明るく笑うと
「ごめんごめん、冗談だよ。洸太くんのリアクションがあまりにもいいから、つい」
俺は胸をなで下ろす。やっぱり蕩子さん、コワい人だ。
まだ笑っている蕩子さんと連絡先を交換して、細かいことは土曜までに決めることにした。
ちょうどイカ焼きをゲットしてホクホクの美月が戻ってくる。幸せそうな顔しやがって。
+++
土曜日、新宿アルタ前。
10時の待ち合わせ。自分でもわかるくらい緊張している。去年の成田以来のデートだった。しかも今日は、年上美人お姉さんとのだ。
蕩子さんが近づいてくるのを見つける。
マジか! まわりのヤローが目で追ってやがる!
「ごめんごめん、遅れた」
「いえ、今日はすみません」
俺も自分なりに頑張ったつもりだったが、蕩子さんと比べるとはっきり言って見劣りしてしまう。きれいなお姉さんと弟という図だ。
「じゃあ予定通り、まずは映画に行こう!」
蕩子さんとの事前の打ち合わせで、俺の相談だけというのも時間を持て余しそうだったので、蕩子さんの希望で映画を見ることにした。その後、昼飯を食べながらでも俺の話を聞いてもらえれば、と思っている。
アニメオンリーの美月と違い、蕩子さんが見たかった映画は洋画の、なんて言うか、恋愛でもファンタジーでもSFでもない、偏屈なおじいさんが主人公の映画だった。
最初は、最後まで起きていられるか心配だったが、途中で笑い、かと言えばウルッとくるような話で、見終わった後の余韻、というか感想を誰かに伝えたくなる、そんな映画だった。
それは、蕩子さんも同じだったようで、俺たちはエンドロールが終わるやいなや、歩きながら互いに笑えたところ、ジーンとしたところを言い合った。
映画館を出ると、また急に人の数が多くなって、現実に引き戻される。
「お昼、どうしようか? 決めてなかったね?」
「すみません。俺、ランチとかわからなくて。蕩子さんにお願いしてもいいですか?」
「また、かたい感じに戻ってる! でも、カッコつけずに正直なのは良し!」
そう言って歩きながら、すぐに入れる、そんなに高くない、という基準でパスタ屋に入った。
ランチメニューもあって、コストパフォーマンス的にも満足できた。
ここでも映画の話で盛り上がって、蕩子さんがさっき言ったカタサも自分では取れた感じがする。
もっと緊張しながらの食事を考えていた俺は、すっかりリラックスして満腹になるまで食べてしまった。
「いやぁ、さすが男の子だねぇ! 見てて気持ちいい食べっぷりだったよ!」
やっぱり、ちょっと食べ過ぎたかな•••。
「では、洸太くんのお悩み相談タイムに移りますか? 場所は•••、御苑なんかどう?」
いや、どう?って言われても、俺の選択肢はOK一択なんで。蕩子さんの言う新宿御苑に入ると、今までの都会の雰囲気が一変した。
俺、こういう景色のほうが好きだ。
春になれば、緑がたくさん溢れるんだろうな。1月に入ったばかりの景色は木々の枝が冬の空に広がっている。
そして、ちょうどいいところにベンチがあった。並んで座ると、蕩子さんが核心から切り込んでくる。
「洸太くんは美月のこと、その、女の子として好きなの? それとも、やっぱり隣に住むお姉ちゃんでしかないのかな?」
「じ、実はそれが俺にもわからなくて•••」
「うーむ、では一旦それは置いといて。じゃあ、なんでいきなりそんな風に悩んでいるの?」
ほ、本当にグイグイくるなぁ•••。
「去年、バレンタインデーにチョコもらった子とちょっとだけ付き合ったんですけど」
「•••最近の中学生はけしからんなぁ」
「え?」
「いやいや、ささ、先をどうぞ!」
「その子にはすぐフラれたんですけど、この間会ったときに•••」
なんか、まとめてきたはずなのに、うまく言えない。
そんな俺を見て蕩子さんが
「いいよ、思ったこと、どんどん言って」
じゃあ、お言葉に甘えて
「そいつが言うには、俺は美月のことが好きで、それに気づいていないから別れた、って•••意味、わかります?」
「その子、美月のこと、知ってんだ? ふーん•••。ぶっちゃけ言っていい?」
「ど、どうぞ」
「私もあなたたち、好きあっていると思ってる。っていうか、本当にわからないの?」
な、なんかだんだんコワくなってません、蕩子さん?
「いや、だから相談してるんですって」
「•••わかった。じゃあ、切り口を変えます。洸太くんはその子のこと、好きなの? また、付き合いたいの?」
一瞬、言葉につまる。やっぱ、人に相談するのって違うわ。
「し、正直に言っていいですか?」
「もちろん」
「成田っていうんですけど、そいつ小学校5年の時から、その、俺のこと、好きだったみたいで。それ聞いて、すげー嬉しかったんです」
「じゃあ、その子と付き合えばいいんじゃないの?」
「いや、そうなんだろうなとは思うけど、でもそうしたら、美月と今までみたいにできるのかなぁって。同人誌徹夜で手伝ったり、あと、家庭教師もどうしたらいいのかって•••」
蕩子さんは腕と足をのばして
「あーっ!」
と雄叫びをあげた。
ビビる俺にキッと向くと
「美月はわかんないけど、洸太くんのことはだいたいわかった」
「え? マジッスか?」
「えーえー、マジっすよ」
俺がびっくりしていると蕩子さんが俺に聞き取れない声でぶつぶつ言っている。
「そんなん、同人誌とかカテキョーとか、どーでもいい理由くっつけてる時点で美月のことが気になってるってことじゃん!」
「え? なんですか?」
蕩子さんは、おほほ、と笑うと
「洸太くんは、そうね。美月とデートしなさい! 幼なじみ同士で遊ぶんじゃなくて、ちゃんと美月を女の子として、洸太くんが考えたデートに誘いなさい!」
急にそんなこと言われても•••。顔が熱くなる。
「えーっ! マジッスか?」
「だからマジっすよ!」
俺が頭を抱え込んでいるのを見て、蕩子さんは俺の肩を叩く。
「あのね、これは洸太くんの気持ちの問題だと思うの。美月が洸太くんをどう思ってようと、美月との関係がこれからどうなるかは、とりあえず横にでも置いて、洸太くんが美月のこと、単なる幼なじみなのか、それ以上なのか、自分で自覚しないとダメだと思うよ?」
頭をあげて、蕩子さんを見ると、優しく笑ってくれていた。
「そのためにデートしろ、と?」
「うん。あ、でもね、すぐに結論でないと思うんだ。ま、出る時もあるんだろうけど。だから、すぐに自分の気持ち、決めなくていいんじやないかな」
頭ではわかった感じだが、どうも気持ちのほうが•••。
「デートしないとわからないッスかね?」
蕩子さんの顔から笑顔が消えた。いや、正確には笑顔のまま、なにか青白いオーラみたいのが出てるよ•••。
「美月か、別の子か、2人とも違うと思うのか! 自分で動かないと、わからないよ!」
「は、はい」
思わず返事をしてしまう。
オーラをおさめ、いつもの蕩子さんに戻ると
「よし、これで蕩子さんの悩み相談会は終了で大丈夫かしら?」
確かに気持ち的に少し楽になった気がする。
そこで、心の余裕ができたのか、ちょっとイタズラをしかけた。
「さっきの誰を選ぶかって中に」
「ん?」
「蕩子さんも入れさせてもらってもいいですか?」
蕩子さんの顔が驚いて、赤くなる。
でも、すぐにいつもの蕩子さんに戻った。
また、俺には聞こえない声でつぶやく。
「末恐ろしいヤツ。こういう無自覚モテ男は美月みたいな天然フワフワ娘に気を取られているのが丁度いいのかもね」
10話 幼なじみとマジデート
蕩子さんとの約束を忘れたわけじゃあない。ただ•••。
美月は週2回、俺の勉強を見るために来るけど、その時は亮太も一緒にいるので、まぁ、そういう話はできない。
わかっている。これが言い訳だっていうことは重々、自覚しているよ。
でもさ、それこそ互いの黒歴史を知っている幼なじみ同士でさ、あらためて、それも男女として、デートするっていうのは、当事者にしかわからない心の葛藤というものがあるわけで•••。
スマホが震える。蕩子さんからのメッセージがまた来た。
先々週、蕩子さんと新宿に映画を見に行って、その、例の約束をしたわけだけど、その次の週明け、つまり今日、美月にそれとなく聞いたところ、土日はどこにも行かないで家にいたよ! とか言われたらしく•••。
『ヘタレ』
蕩子さ~ん、やっぱ俺にはハードル高いよ~。
また、スマホが震える。
『うそつき』
既読がついているから、このまま返事しないとエンドレスできそうだったので、とりあえず
『すみません』
ソッコー返事がくる。
『言い訳はいりません。今すぐ美月を誘え!』
『まだ、行く場所も決めてなくって』
ゲンドウ画像が送られてきた。
『おまえには失望した。もう会うこともあるまい』
『いや、ちょっち待って』
『また逃げ出すのか?』
『そんなことは』
『命令違反、私のプライベートな時間の占有、稚拙な言い訳。これらはすべて犯罪行為だ』
『わかりました。誘います、誘います!』
『なぜそこにいる?』
『僕は、僕はエヴァンゲリオン初号機のパイロット、碇シンジです!※1』
『ちげーだろ』
『すいません』
『約束(2回目)だからね』
『はい』
スマホを置く。
頭を抱えて
「だーっ、どーすりゃいいんだ!」
また、スマホが震える。
蕩子さん、わかりましたから•••。
『蕩子がメールしろって。なに?』
と~こさ~ん•••!
美月からメールさせるなんて、ありッスか?
もう、本当に覚悟を決めるしかなかった。
+++
とりあえず、
『土曜ってヒマか?』
と返事したところ、
『ヒマだよ、悪いか?』
と、返ってきた。
なんでキレているかはわからなかったが、
『じゃあ、遊びに行かね?』
と、送信。
ドンドン!
ギャー! 窓に変質者がいる!
美月だった。
窓を開けてやると、
「さ、寒い~、コタツ、コタツ•••」
首まで入る。
「あ~、生き返るぅ。で、なに? どーした?」
直接来るか? これだから隣に住む幼なじみなんて設定、現実的には全くダメなんだ!
頭を抱えて、ため息をつくと
「なんだよ~、洸太が変なメールしてきたんだろ~」
変て•••、俺がどれだけ勇気を振り絞って送ったと•••。
しかし、今はこの状況をなんとかしなければ。
「いや、ちょっと、そのお前を見極めなければならなくなって」
「なんじゃ、そりゃ?」
「あ~、いやいや。違った。そう、遊びに行かなきゃならなくなって」
「なぜに、強制的?」
「あ、あれ? そんな、強制的なんてこと、ないない、全然ない」
「まぁ、いいけど。遊ぶってなにすんの?」
「ちなみになんかある?」
「言い出しっぺがノープランって•••。ん~、じゃあ、遊園地とか?」
そこに突然、母さんが入ってきた。
バーン!って感じだ。
まさかとは思うが•••。
「あらぁ、美月ちゃん、来てたの?」
「こんばんは。突然、すみません」
「いいのいいの。ところで、遊園地とか聞こえたんだけどぉ?」
わざとらしいこと、この上なし!
しかし息子としては、話をふってやる。
「なに? まさかタダ券を持っているとか?」
「ふふふ、まぁタダではなかったんだけど、お父さんの会社の方で安く手に入るからって、あんたら子どもたちには内緒で4枚買ってたのよ」
「で?」
にや~っと母さんが笑う。
かお! かお、ヤバいから!
「息子がデートしたいっていうなら、仕方ない! あげましょう!」
美月が遠慮する。
「そんな、家族で行く予定だったのに」
「大丈夫! 私たちは別の日に3人で行くから。だから美月ちゃんたちは2人で行ってらっしゃい、ね!」
俺と美月は顔を見合わせると、ははは、と笑った。
+++
土曜日。
寒かったが、快晴。
俺たちは玄関で待ち合わせをして、駅へと向かった。
出かける際、坂井家の見送りを受けた以外は今のところ問題はない。
ついて来ねぇだろうな。
冬の遊園地は寒いから、しっかり防寒対策していきな! と母さんに言われたのだが、美月とは言え、一応デートである。
お年玉で服を買ってみた。
格好つけすぎか? と思うくらいが丁度良いのを前回の蕩子さんとのデートで知った。
成果が出ていればいいんだけど?
そんな俺の横を美月はトテトテと歩いている。
今回も麻由さんのコートを借りたとのこと。なので全体的にオシャレな感じだ。ズルい。
マフラーもあったかそうだったけど、顔半分隠れているのが残念。
足も黒タイツとブーツで完璧という感じだ。
準備万端。
こうして俺たちは遊園地に向かった。電車を3回ほど乗り換えて、最後はゴンドラに乗る。
上空から観覧車やジェットコースターが見えてくると、俺たちのテンションも上がってきた。
美月に絶叫系は平気か聞いたら、ゲンドウポーズで
「問題ない※2」
だそうだ。
そうとわかれば、まずはジェットコースターでしょ!
母さんからもらったチケットをフリーパスと交換して、入口で案内図をもらい、一直線にジェットコースターへと向かった。
•••って、やっぱり並ぶよね。
並んでいると俺たちの後ろにどんどん人が増えていく。
俺が感心して見ていると美月が俺を見上げていた。
「なに?」
「なんで、いきなり遊園地?」
「美月が行きたいって言ったんじゃん」
フルフル首をふる。
「なんで、2人で遊びに行こうって言ったの?」
まだ1つも乗ってないのに、いきなり核心ですか?
「家族と遊ぶよりは、美月とどこか行ったほうが楽しいからだよ」
「そうかぁ、遊園地とかだと亮太くんまだ乗れないの、いっぱいあるもんね」
「いやいや、美月さんもギリギリっての、結構あるじゃないっすか」
「ちくしょう、デカいからっていい気になりやがって」
うまくごまかせたけど、帰るまでには答え、見つけないとな。
それにしても•••。
まわりを見ると友だち同士、家族連れ、そしてカップルって感じだ。
「美月、俺たちって知らない人からはどう見られているのかな?」
「カップルじゃない?」
思わず咳き込む。
「まぁ、会話を聞かれたらアウトかもしれないけどね」
メガネが光る。
あー、ちょっとビビった。
やっぱり美月もそう感じているんだな。
そうこうしているうちに、俺たちの順番になった。
日頃の行いか、何なのか、先頭だよ。
係員の人にメガネを外すように言われて、美月はしぶしぶ外す。
「景色、見たいのに~」
「コンタクトにすればいいじゃん」
余裕で話していたんだけど、最高点に達してゆっくりと前に傾き始める。
「••••••」
結論を言おう。
冬のジェットコースターは、
「い、痛いよぅ」
「いやぁ、おもしろい。気に入った! もう1回乗りたい!」
顔がカピカピになっている俺の横で、おでこ全開の美月さんがきゃっきゃはしゃいでいらっしゃる。
子どもか!
「美月~、これ顔痛いよ」
「それでも男ですか、軟弱者!※3」
「俺もマフラー欲しい!」
「もう、しょうがないな」
「え? マジ? 貸してくれるの?」
「は? やだよ。そうじゃなくって、半分だけ!」
ん? つまり、1つのマフラーを2人でってこと?
「そのかわりもう1回乗ろう!」
俺は美月に言われるまま、また最後尾に並んだ。
ふ、2人マフラー!
い、いきなり恋人イベント、キター!
••••••。
「い、痛いよぅ」
結局、安全バーで2人マフラーはできなかった。
「もう、はい」
美月は自分のマフラーを俺に巻いてくれた。
美月の熱をマフラーから感じて、急に顔の内側から熱くなる。
表面は冷たいのに、変な感じだ。
「なおった?」
おでこ全開でメガネを外した美月は、俺の顔を見るのに急接近してくる。
手を俺の頬にかざして
「どう? 少しはあったかくなった? おお! やっぱマフラーすげー! なんなら貸しましょうか? 有料になりますが?」
「い、いいよ。ただ顔痛い系は連続禁止で!」
人の気も知らないで口をとがらせている美月を見て、ますます自分の鼓動が速くなるのを感じた。
俺はひとつ大きく息をはく。
少し落ちつくと、美月と相談して屋内と絶叫系をバランスよく楽しむことにした。
ただ今日は休みということで、どれも並ばなきゃいけなかった。
最初の連続ジェットコースターの他に3つほどまわったところで、混みそうだからと早めに昼飯をとることにした。したんだけど、それでも混んでいた。
入りたかった店はやっぱり人気で、美月のなんでもいいよ、の一言でうどん屋になった。まぁ、おいしかったからOKなんだけどね。
午後になると、日も射してきて多少暖かくなった。それもあって目玉的なアトラクションは制覇できた。
楽しい時間はあっという間に過ぎるとはよく言ったもので、気がつくと夕方の空になっていた。
さて、と俺は気合いを入れる。恋人同士のど定番、観覧車に乗ろうと誘った。
さすがにカップルが多かった。まぁ、今日は俺の隣にも弟ではなく、女の子がいるわけで。
なんだろう、家族連れで来る時にはない優越感みたいなのがあった。
俺たちの番がきて乗り込むと、中は意外と寒くなかった。
ゆっくりと、高くなっていく。
「遊園地なんて、すごくひさしぶりだね」
「そうだな」
美月とは別の遊園地だったけど、何回か行ったことがあった。まだ、俺より美月の方が少し高かった頃だから、3年くらい前だと思う。
「あ~あ、あの頃の洸太、可愛かったなぁ。それがこんなにデカくなっちゃって」
「俺もあの頃は美月のこと、普通のお姉ちゃんだと思っていたんだよなぁ」
「ちょっと、それ、どういう意味?」
「自分の胸に手をあてて考えてください」
むう、となる美月を俺は笑いながら見ている。
「ね、そう言えばさ、初詣の帰り、大丈夫だった?」
「な、なにが?」
突然の話題変更に、それも今一番デリケートな部分にふれられて、俺は自分でもわかるくらい動揺した。
「なんか、あの子、洸太に話があるから送っていけ、なんて言ってなかった?」
美月にしては正しい。
「まぁ、そんな感じだ」
「なぁに? よりを戻したいとか?」
美月は目をキラキラさせて、迫ってくる。
イラッとした。
成田に言われて、蕩子さんにアドバイスをもらって、俺が本当に好きなのは、お前なのかどうかを確認するために、今デートしているわけで•••。
そりゃあ、美月にはそんなこと言えるわけないし、だからわからなくても仕方ないと思うけど。
それでもイラッとしている。
「関係ないだろ、美月には!」
「な、なんだよ、急に。じゃあ、もう聞きません!」
せっかくの夕日に映える山の稜線も、今の俺たちにはもったいなかった。
「あ!」
美月が声を上げたのは、イルミネーションの光だった。
俺もその声に反応しかけるが、美月と目が合うと言葉が続かなかった。
そのまま観覧車から降りても、気まずい空気が漂っている。
深呼吸をした。
「美月、さっきは怒ってごめん。でもこんな感じ、嫌だから」
「うん、私も。なんか洸太がイヤなこと聞いちゃったみたいでゴメン」
「じゃあ、もう終わりな」
「うん」
腹がへっているからイライラするんだ、という美月の意見で、2人でチュロスをモリモリ食べた。
あったかい飲み物も飲むと、本当に落ち着いた。
気がつくともう夜になっていた。
あたり一面のイルミネーションが幻想的な光の景色を作っている。
案内図でまわる順を決めて歩いた。
美月はその美しさに感動していたけど、俺なんかはあまりのカップルの多さに驚いていた。
「洸太!」
「ん? どうした?」
無数の光をバックに美月は笑顔で
「今日は誘ってくれて、ありがとうね!」
あぁ、俺はやっぱり•••。
※1 エヴァンゲリオン19話より
※2 エヴァンゲリオン1話より
※3 ファーストガンダム2話より
年上の幼なじみがオタクで頭が痛い 9,10話
次回は、11話 ブラコンと本命チョコです。
最終話です。