シニガミ。
シニガミ。No.1 『前夜』
「僕は明日死ぬよ」
「・・・何で?」
彼に聞いても、ただ空を見てるだけで。
何分経ったろうか、それすらも分からないくらい私は答えを待ちながら彼と空を見ていた。
「帰ろっか」
青がどんどんオレンジになって、オレンジが紫になる頃に私達はサヨウナラをする
結果、答えは教えてくれなかった。
「ただいま」
「おかえり、遅かったね」
「・・・うん」
「どうかしたのかい?」
「・・・なんでもないよ、お腹空いただけ」
「そっか、じゃあご飯の準備するね」
「うん」
私は兄の背中を見て、彼の事を思い出す。
どうして突然死ぬだなんて言い出したのだろうか
明日の事なんて、誰も分からないはずなのに。
(病気?そんな話は全く聞いていなかったな・・・)
というかそもそも私は彼の事を知らない。名前も、家も、どこから来たのかも。何も知らないのに私は彼と何年も「友達」なのだ
「ねぇ、お兄ちゃん」
「ん?」
「未来予知・・・って、出来るのかな?」
「未来予知?」
「うん。明日の事とか、先の事を知りたい」
「うーん・・・非科学的な事は教えられないな、でも世界には色んな人がいる。1人くらい出来たっておかしくないかもね」
「・・・お兄ちゃんは、色んな人が居る中でお兄ちゃんにしか出来ない事とか、ある?」
「僕?超能力とかは無いなぁ・・・あるとしたら、今此処に居る事かな」
「何それ、すっごく当たり前だし誰にでも出来るよ」
「出来ないよ、今此処に座ってるのは僕だけ。明日此処に誰か座っていたとしても、今は今だよ。今は僕だ」
「・・・つまり?」
「当たり前の事でも、考えようによっては当たり前じゃないんだよ。神様だって僕が此処に座ると思ってなかったろうし、僕が此処に座っていたら他の人は座れない。今してる事は案外当たり前じゃないって事さ」
「難しいね」
「難しくなんか無いさ、誇れない事でも馬鹿みたいな事でも、その人にしか出来ない事はあるはずだしね」
「・・・そっか。私も何か出来るかな、私にしか出来ない事」
「やろうと思えば出来ると思うよ、未来予知でも何でもね。」
「・・・出来たらいいなぁ」
「明日何かあるの?」
「・・・うん、ちょっとね」
「ふぅん・・・未来予知で未来を知って何か動きたいって話?」
「うん」
「ははは、未来を知ったとしても変えてはならないよ」
「・・・何で?」
「人の人生を動かす事になったらとても危険だからだよ」
「・・・死ぬ運命の人を救う事も、危険なの・・・?」
「ダメだよ。決まっている事ならば尚更ね」
「・・・」
「見殺しにしろという訳では無いけれど、運命を変えてしまったらシニガミに殺されてしまう」
「シニガミ?」
「・・・この話はまた今度しようか。僕は少し出掛けてくるね」
「あ・・・うん・・・」
「未来予知が出来る様になる方法を検索するとか、しちゃダメだよ」
「・・・うん」
「じゃ、行ってくるね」
ドアが閉まり、私は1人取り残される
さっきまで兄が座っていた場所に座り食べかけのパンを齧った
運命を変えてしまったらシニガミに殺されてしまう
あの言葉にはどんな意味があるのだろうか
私は名前も知らない友達が、明日死ぬという運命を変えたい
変えたいから見たいだけで、救いたいだけで・・・
「どうしたらいいんだろう・・・」
どうしようもない言葉がぽつりと零れて、どっかに消えて行く気がした。
「・・・星空も綺麗だなぁ」
僕は明日、此処で死ぬ
「死にたくないな・・・」
どうしようもない言葉がぽつりと零れて、足元を濡らしていった
シニガミ。