珈琲とエンピツの徒然日記1

珈琲とエンピツ。この二人は───二人と言っていいのか考えものだが───仲が良かった。
珈琲というものは、飲まれたら消えるものじゃない。飲まれても、また作られ、コップに注がれたなら、また同じ珈琲が生き返るのだ。つまりは、同じ場所でなら、新しく珈琲を作り直しても、珈琲に宿った命は、同じ場所でなら、永遠にループするというわけなのである。
まあ、よくわからない方も、この珈琲とエンピツがつづる日記を読んでいくうちに、いやでもわかる。

1 珈琲の日記

今日、初めてぼくはここに生まれた。生まれた、と言っても、ここに初めてコーヒーメーカーが置かれ、初めておじさんがぼくをつくったから、ぼくは、この場所だけとはいえど、永遠の命を授かることができた。おじさん、ありがとう。

このおじさんは、もの書きのようだ。だからぼくはコップに注がれてからも、しばらくは飲まれないことが多い。10分ぐらいするとちょっとすすり、20ぷんするとちょっとすすり、───そんなに冷めたぼくを飲んで、おいしいのかな。
おじさんの書く小説はなかなか面白いから、エンピツで綴られていく字を見ていても、全く飽きない。だから全部飲まれてしまうまで、それを見ていてもいいんだけれど、それじゃつまらないから、おしゃべりのできそうなひとが周りにいないか確かめた。
そしたら、横に鉛筆立てがあってさ。緑色の長いエンピツが、にょきりってこっちを見てた。
「こんにちは」
「こんにちは。珈琲さん。」
エンピツさんとは気が合った。男同士、いろいろ分かり合えたし、生まれたばかりのぼくに、おじさんについての情報をくれた。
「エンピツさんは、今おじさんの使ってる白いシャープペンシルさんみたいに、使われること、ないの?」
「シャープペンシルさんが壊れちゃって、新しいものを買いに行く間に使われることはあっても、俺はあんまり使われないんだよ。なにしろすぐ丸まっちゃうし、どういうわけかおじさんの右手の、原稿用紙にくっついてる部分が真っ黒になるからね。」
「…そうなんだ。ぼくは、飲まれちゃっても、ここでなら、新しくおじさんが珈琲を淹れてくれれば生き返るんだけど、エンピツさんは?」
「俺は、使われちゃったらそれでおしまい。ま、たぶん使い切られることはないと思うよ。実際、3度削られただけだし、こんなに長いんだぜ」
「そうだね。ぼくはコーヒーメーカーが壊れたらおしまいで、エンピツさんは使い切られちゃったらおしまいか」
「そういうことだよ。俺らは悲しい運命にあるのさ」

エンピツさんと話すのは楽しかった。ぼくはそのあと飲まれちゃったけど、編集者の人みたいなのが来た時に、もういちど作られて、2等分されて生き返った。編集者さんは飲むペースが早かったから、おじさんのカップにある意識と編集者さんの胃の中にある意識がごちゃごちゃになった。笑える。

明日もエンピツさんとお話ししたいな。

珈琲とエンピツの徒然日記1

珈琲とエンピツの徒然日記1

珈琲とエンピツの、愉快な日記。

  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-01-27

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