年上の幼なじみがオタクで頭が痛い 5,6話
5話は、美月のややこしい事情です。
6話は、修羅場のお話です。
5話 デートの噂とヘビーな事情
亮太の運動会が終わるとすぐに中間だったが、何だろ? マジで勉強のコツみたいなの、わかってきた感じなんですけど。
で、結果は上々だった。マジか!
なんか美月のこと、イジメられねぇなぁ。
いや、イジメるけどね、自業自得だしね。
しかし、物事の筋として礼は言おう。
そしたら•••。
「じゃあ、買い物に付き合って!」
まぁ、これが美月だよな。
そんでもって、土曜日。
近くのモールだとばかり思っていたら、駅前で蕩子さんが待っていた。
美月、言えよ! あ~、もっとマシな格好してくりゃよかった。
「久しぶりだねぇ、洸太くん」
「ちわっス」
「今日はよろしくね!」
「は、はい•••」
俺はクルッと美月の方に向いて、にこやかに近づく。
逃げようとする美月をヘッドロックして事情聴取すると、秋葉原までマンガ描くのに必要なものを買いに行くということだった。
言えよ! 俺も聞かなかったけどね。
で、蕩子さんはアドバイザー、俺は荷物持ちだそうだ。
移動の電車の中での2人の会話は、到底俺なんかが入れるレベルではなかったので、寝たフリをしていた。
秋葉原に着くと、さっそく店に入って色々と品定めを始める2人。
•••俺の脱オタの決心、どこにいったんだろうな。
1人、黄昏れている俺だった。
その後、店員も怯む知識を披露する蕩子さんの言われるがままに、PC(デスクトップでモニターもだよ)、プリンター、スキャナー、ペンタブを大人買いする美月だった。
買う予定だったものは全てゲットしたみたいで、昼飯を3人で食べた後、(その手の)本屋に行くからということで蕩子さんとは別れた。
軽いものは美月が持ってくれたとはいえ、帰りの道のりは長かった。
購入した機材一式を美月の部屋に置いて帰ろうとすると、背中を引っ張られた。
「一緒にセッティングしよ、ね!」
やれやれ•••。仕方なく箱からPCやらモニターを出して電源やLANをつなぐ。スキャナーやプリンターの位置をあーだこーだやった上で、電源ねーじゃん! てことに気づいた時には、もう2人ともエネルギー切れだった。
また明日にしよう、ということで家に帰ろうとすると麻由さんが帰ってきた。
「あら、いらっしゃい」
「すいません、もう帰りますんで」
「美月は?」
「部屋で疲れて寝てると思います」
「••••••」
「え? いや、今日、買い物行って、パソコンとか色々買って、それを今まで設置してただけで、別にそんな変なことは•••」
「あはははは、大丈夫よ。それに洸太くんだったら、むしろこちらからお願いするよ」
やっぱり美月の母親だなぁ•••、と思う。うちの母さんとキャラが少し似ているんだよな。
「色々ありがとうね」
玄関までいったところで、少し前から気になっていることが頭をよぎる。
「ん? どうしたの?」
「•••あの」
考えるより先に声がでていた。
「この間、運動会の時に言っていた、美月が辛いって•••、どういうことなんですか?」
麻由さんは目を見開くと、俺に指でコイコイとする。そのままキッチンに入ると自分の席であろう場所に座って、視線でテーブルの向かいにある、たぶん美月の席に座れと指示する。
「えっと、美月が辛いかもってことだっけ?」
「はい」
「そっか。じゃあその前に」
「?」
「美月を見ていて、気づいたことない? ヒントは亮太くん」
「•••あります。美月、亮太というか、小学生男子のことが、なんか好きみたいで」
俺としては、かなりオブラートに包んだつもりだった。
「それ。そういうこと」
いや、全然わからないから。
「あ、ごめんごめん。でも、もう正解みたいなものだよ」
「•••すみません。やっぱりわからないんですが•••」
「んー、まあ、言っちゃうと美月、本当は弟か妹がいたんだ。でも私のお腹にいる間に死んじゃってね」
「! ご、ごめんなさい。お、俺•••」
「あー、待って待って、大丈夫だから。それにまだ続きもあるから」
「は、はい•••」
「美月はね、あ、その時のことだよ。なんか絶対に弟だって決めつけていてね。で、そんな時にうちの旦那が車にひかれて•••。そのうえ赤ちゃんまで流れちゃってね」
単なる中学生には、とてつもなく重い話だった。でも、聞いたのは俺なんだから、最後まで聞かなきゃな。
「当たり前だけど、美月は相当ショックでね。私ももちろんそうだったけど、美月がいてくれたからね。それから時は流れて、っていうありきたりな感じなんだけど、ただ美月のその弟に対する想いがね•••」
「小学生男子が好きという方向にいったと?」
「そうそう、なんか変な道に迷い込んだみたいでね。まぁ、父親の時もそうだったけど、これも時間が解決してくれるんじゃないなかなぁ、なんて」
本当に軽いのか、俺に気をつかってなのかわからなかったけど、美月がショタになった原因について俺は知ってしまったわけで。
俺は麻由さんに頭を下げると自分の家へと戻った。
+++
月曜日。
学校に重い足取りでなんとかたどり着く。教室に入ると一瞬、俺に視線が集まる。だが、またすぐに戻った。俺が不思議に思っていると
「坂井、土曜、一緒にいたのって、誰?」
「なんのことだ?」
「ほら、秋葉原でなんかめっちゃ美人と買い物してたじゃねぇか?」
「え? あれ、見たの?」
「バッチリ!」
で、教室がこんな雰囲気になっていると。
っていうか、テメェがクラスの皆にバラしたんだろうが!
とりあえず友人(オタク)Aをシメる。
やれやれという感じで、ちょっとわざとらしく大きな声で
「彼女なんかじゃねーよ! 友達の友達っていうか? まぁ、とにかく違うから!」
これで大丈夫だろう。
そしたらAが声のトーンを落として
「だって、あれ年上だろ? なんかすげーいっぱい話していたじゃん?」
「お前、ストーカーか? あれは買い物の相談をしてたの」
「でも2人で出かけるって•••」
「いや、お前の視界には入ってなかったみたいだが、もう1人いたんだよ。ちなみにそいつの買い物で、そいつの知り合いが俺で、お前が見た美人もそいつの友達なんだよ。つまり美人は俺の知り合いの友達で、あの日、始めて話したんだ!」
「うーん、いたっけ、もう1人?」
美月、お前視界にも入ってないぞ。
思わず笑ってしまった。
「まぁ、そういうことだ」
「わかったよ。ただ、あんな美人と仲良く話して買い物している時点でかなりうらやましいけどな!」
それについては、俺もそう思っているので、ただ笑うだけだった。
まさか見られていたとはなぁ。
まぁ、真宵ちゃんも人の噂も75人※1って言ってたしな、気にすることもないだろう。
この少しあと、俺は真宵ちゃんのセリフの続きを忘れていたことに後悔するんだけどね。
「現代はネットがありますからね。75人に知れたら世界中に知れたと同義です」
+++
「なんか最近、違和感を感じるんですけど」
亮太を後ろから彼氏のように抱きかかえながら、美月はジト目で俺を見てくる。
「亮太も嫌がってないみたいだしな」
まだこちらをうかがってやがる。疑り深い奴だ。
「そういえば、こないだ買ったやつ、調子はどうだ?」
「•••難しい」
「美月、理系脳なんだから、機械とか得意だろ?」
「機械の操作とかじゃなくて、とにかく思った感じにならないの!」
「ミー、大変なの?」
「え? ううん、ただお兄ちゃんがミーをイジメるの」
「兄ちゃん、ミーをイジメないでよ」
「•••あ、うん」
今までだったら、アイアンクローをおみまいしているところだが、やっぱりどこか麻由さんの話が引っかかって、調子が出ない。
ため息をついて、頭の中のモヤモヤを忘れるように、美月に言われた課題をせっせとこなしていった。
+++
中間が終わったと思ったら、すぐに期末だよ。まあ、今までと違って付け焼き刃的だった試験勉強が前回の中間あたりから変わってきていた。
よーし、やるか!
気合いを入れた瞬間、美月からのラインが来た。
「ちょっと来て」
なんつー呼び出しじゃ。と言いつつ、亮太が寝ているのを確認して、窓からベランダのヘリをつたって美月の部屋に入る。
「なんだよ、こんな時間に」
「洸太さ、なにかお母さんに聞いた?」
上目づかいで見上げるな!
鼓動が速まる。
「な、な、なにを言っているんだい?」
「はぁ、お母さん、話したのかぁ•••」
美月は肩を落とす。
変な空気になる前に俺は頭を下げた。
「その、ごめん。俺が麻由さんに聞いたんだ」
別に怒るわけでもなく、悲しい素振りを見せるのでもなく、淡々と美月は俺に聞いてくる。
「•••そっか。で、どう思った?」
「いや、どうって別に、そうなんだぁ、って?」
「ふーん。で、最近、怒らないんだ」
また、静かになった。
俺もうまく今の自分を説明できない。
「いや、怒らないっていうか、麻由さんも言ってたけど、そのうち止めるのかなぁって」
「••••••」
「美月?」
下を向いてしまった美月を心配して声をかける。
「ふっふっふっ、ブァカめ、私が亮太くんといちゃいちゃするのは弟とかじゃない! 小学生男子だからだ!」
「え?」
「チャンスさえあればお風呂も一緒に入ってやるゼ!」
「み、美月さん?」
「そうなった暁には、亮太きゅんの ピー を丹念に ピー して、そして恥じらう亮太きゅんの ピー を無理やり•••」
「やめぇい!」
スパーンと美月の後頭部を叩く。
美月は痛そうに下を向いてフルフルしていたが、顔をあげてニッと笑った。
「やっとツッコんでくれた」
「え?」
「やっぱり洸太のツッコミがないと調子が狂うのよね」
こいつ、何を言って•••。
美月は叩かれた頭をおさえながら、少し照れたように笑っている。
なんでだかわからなかったけど、俺は顔が熱くるのを感じていた。
+++
期末、長かったよ•••。いったい何教科やったんだ!
そんな期末テストも今日でやっと終わった。
学校から帰って、自分の部屋にたどり着くと、ハタッと力なく倒れ込む。
頭だけ動かしてカレンダーを見た。もうすぐクリスマス。
亮太と違ってサンタさんではなく、その上位存在である母親に対して、俺はテスト結果も含めて効果的なアピールを目下、検討中だった。
なんとしてもPS4をゲットして、年末年始はゲーム三昧だ!
ふと、頭をボンバらせ、目にクマを作って、やつれた美月を思い出す。
いやいや、別にネトゲ廃人になるわけじゃない。何事も限度をわきまえれば•••。
窓の外に、その美月がへばりついていた。
キャーッ!
とりあえず部屋に入れると•••。
「洸太、期末って今日までだったよね?」
「そうだけど」
もう、やな予感しかしない。
「あのね、今回は洸太に言われたように前々から期限をつけてやってたんだよ」
「•••言い訳はいらん。で、なんだ?」
「助けてください!」
マジか?
土下座はよせ!
パターンとして、こういうタイミングで
「洸太、お昼ご飯、チャーハンでいい?」
母さん、お願い。
ノックして。
俺と美月を交互に見た母さんはビシッと俺を指差し。
「お前が悪い!」
だよねー。
かってにチャーハンに決め、かってに俺を悪者にした母さんが部屋から出ていくのを見て、俺は美月に言った。
「助ける? そりゃ無理だ。美月が勝手に一人で助かるだけだ。助けない。力は貸すけど※2」
このセリフが言えただけで、手伝う価値はあるかな?
言ったはいいが、恥ずかしくて美月の顔がまともに見れないなんて、俺もまだまだ修行が足りない。
※1 偽物語の八九寺真宵のセリフより
※2 化物語の忍野メメのセリフより
6話 無謀なコピ本と混浴の結果
昨日、美月に学校から帰ってきたら家に来てと言われた。
ため息を一つつく。
中井家のチャイムを押すと美月が出てきた。今日は玄関からちゃんと入る。なんか変な感じだ。
靴を脱ごうとして、あれ?っとなる。
「美月、誰かいるの?」
「うん、もう蕩子が来てるよ」
いや、だからさ、言えよ、先に!
美月の部屋に入ると。
「どうも」
「あ、洸太くんだ。こんにちは!」
蕩子さんがマンガを読んでいた。
こんなに美人なのになぁ。
手に持っているのは、紛うことなきBLだった。
「それにしても夏に続いて冬コミにも参加ってスゴいですね」
「そうねぇ、運がよかったよね。確率としては結構低いから」
いや、まぁ、その幸運のおかげで、また俺は地獄を見るんですけどね。
「ところで、蕩子さんも今日は美月の手伝いですか?」
「まぁ、お手伝いなら洸太くんがいるから大丈夫だと思うけど、その、中身というか、話については洸太くんじゃあ辛いだろうし」
確かに俺に聞かれても、何にも答えられないというか、答えたくない。
そこに飲み物を持ってきた美月が加わる。
「とりあえず、どうぞ」
「いただきまーす」
俺たちは人心地ついた。
「で、何をやればいいんだ?」
「え? もうやるの? ••••••はいはい、やりますよ」
舐めたこと言っている美月を一睨みすると慌てて原稿やらペンやらを並べる。
「ではアシスタントくん。枠線をたのむよ」
こいつ、俺が蕩子さんの前だと大人しいのを利用しやがって。
30分後。
「ちょっと休まない?」
自分のネームが進まねえのに、人を巻き込むんじゃねぇ!
「ねぇ、洸太。聞きたかったんだけど」
「なんだよ?」
冷たくあしらう。
「蕩子と違って優しくなーい」
ったりめーだ!
「亮太くんの運動会の時、なんか話しかけてきた子いたじゃん。あの子がもしかして•••」
ガタッと立ち上がる。
美月を襲おう、いやいっそ、二度と口をきけなくしてやろうか!
「わ、ちょっと、タンマ! 待って•••」
今まさに襲わんとしたときに
「え、なになに。聞きたーい!」
蕩子さんが後ろから声をかけてくる。
一瞬、俺の意識が蕩子さんに向いた隙を見計らって、美月は蕩子さんの後ろに隠れた。
ちっ!
「その慌てっぷり。やはり、うふふふ」
「えーっ、だから何よ~?」
美月の服を引っぱる蕩子さん。
こうなっては仕方がない。少しヤケ気味に
「そうだよ。あの子が俺をフったんだよ」
「おー、正直ですねぇ。なかなか可愛い子だったじゃないですか?」
美月め、完全に俺をおちょくっているな。普段、俺がイジメているのを、ここで仕返しにきたか。
「え? 美月と洸太くん、付き合っているんじゃないの?」
「「はい~っ?」」
ハモる俺と美月。
全く予想していなかった言葉が蕩子さんの口から出て、俺はもとより美月まで驚いていた。
「なんで洸太と? まだ中2だよ?」
「いや、だって美月、ショタじゃん」
「な、な、何を言うーっ!」
思わぬところからの攻撃で美月さん、テンパっているなぁ。
美月はコホン、とわざとらしく咳払いを一つして
「わ、わかった。そうね、まぁ仮にショタだとしましょう」
ここで認めないところがスゲーな。
「でも洸太、こんなだよ? デカいし、目つき悪いし、性格イジワルだし•••」
蕩子さんは生暖かい目で美月を見ている。
「そ、そりゃあ、同人誌作り手伝ってくれたり、デカくて力あるから便利な時もあるけど•••」
「なるほど、それで?」
「だから•••」
「だから?」
美月がキャパオーバーした。
「私が好きなのは小学生なんだよーっ!」
俺は顔を手で覆い、ため息をついた。
しかし、まだこの時は平和だったんだ•••。
この数日後に訪れた修羅場という地獄に比べれば。
+++
「あら、洸太くん、いらっしゃい。最近、よく来るね」
仕事明けの麻由さんが眠そうに俺たちを見る。
いやいや、今、朝っすよ。そんな何事もないかのようにされても•••。
「あれ? もう朝?」
ボンバーな頭を起こして、美月がテーブルにあるであろうメガネを手探りでさがしていた。
ゴソゴソ動く美月の後ろ姿を見て、昨晩のことを思い出す。
昨日から冬休みに入った俺は部屋で売りそこなったマンガを自堕落に読み耽っていた。
そう、怠惰だったが、平和でもあった。
期末テストも上々だった俺の通知表は、母さんを喜ばせるのに充分だった。
よし! PS4ゲットだぜ!
クリスマスに期待しつつ、今は戦士の休息よろしく、部屋にマンガを積み重ねて読んでいたのだが•••。
ドンドン!
このクソ寒い中、ベランダにいるバカと目があってしまった。
仕方ないので窓を開けると。
「ご~だ~、だずげでぇ~」
「風邪ひくぞ、ったく」
ティッシュで鼻をかんだ美月は首までコタツに入り込んだ。
「あったかいねぇ•••。洸太の部屋、このコタツがあるだけでポイント高いよ」
「だからって窓から入ってくるな、アブねーぞ」
「心配してくれるの?」
「あー、はいはい」
俺は途中だったマンガを読み始める。
「いや、違うから!」
いきなり美月がガバッと起きた。
「なんだよ、うるさいなぁ」
「違うの! 助けて、洸太!」
俺はため息をついた後、美月の話を一応聞いた。
「で、さっき見た最新話で今回描いた同人誌のほかに、どうしても描きたい話ができた、と?」
「そうそう」
「え~、アホか」
一応、ツッコんでやった。それだけでも自分を褒めてやりたい。
「そんなこと言わずに手伝って~」
「期末終わってから、ずーっと手伝ってきたよな? それで一昨日入稿祝いだーって、蕩子さんと3人で乾杯したよな!」
「でもぉ•••」
どうしても諦めきれない感じの美月。
いったい何なんだ、こいつのエネルギー源は?
「これが螺旋の力かよ、大したもんじゃねェか!※1」
「この血のたぎりがさだめを決める。入稿期限も突破して、つかんでみせるぜ己の道を!※2」
期限、突破していいの?
「コピ本の予定だから」
よくわからなかったが、こうして俺は休み返上でそのコピー本作成とやらの手伝いをすることになった。
でも、いきなりの徹夜とは•••。
「なぁ、美月」
「なぁに」
ボサボサ頭のちんちくりん、メガネロリババァ•••。でも、髪型を整えてメガネをとると•••。ボケた頭で消しゴムをかけていたら、ふと思ったことを口にしちまった。
「いや、もうすぐクリスマスじゃん? その、彼氏と出かけたりしないのか?」
「はあ? あんたバカァ?」
「ご、ごめん•••※3」
美月は少し間をおいて。
「私はクリスマス返上でコピ本を完成させるけど、洸太、予定あるんだったら•••」
「いや、違うから。一応、美月もJKだから、彼氏とかいるのかな、と思っただけ」
「はっはー、それ言ったら蕩子ですらいないよ。漫画部全滅だぜ!」
寝不足でテンションがおかしい。
しかし、そういう俺もどうやら限界のようだった。昼まで寝たいと美月に言うと。
「OK。じゃあ、1時スタートで」
こんな感じが、あとどれくらい続くんだ? なんで俺、こんなに付き合いいいんだろう?
+++
さらに数日後•••。
コピー本というのは、どうやらページ数が決まっているらしい。要は両面コピーで1枚に4ページだから、4の倍数になるそうだ。
いやあ、俺もまだまだ一般人だなあ。
「でも、これで知っちゃったね、っていうか作っちゃうね、ぷぷっ」
俺が拳をスッとだすと、シパッと原稿に戻った。
美月、今日が何の日か知ってて言っているんだよな? クリスマスっすよ、クリスマス! マジで返上するなよ!
文句を言っても仕方がないので、2人してもくもくと作業を続ける。
ピンポーン。
「えーい、のっているとこだったのに」
文句を言いながら玄関に向かった美月だったが、すぐにドタバタと戻ってきた。
「今日、真美さんがクリスマスだからおいでって!」
いや、おいでもなにも自分の家だから。
まあ、麻由さん帰ってくるの夕方だって言ってたし、母娘2人のクリスマスもいいかもしれないけど、せっかくだから母さんに甘えれば、と美月に言う。
さっそく美月は麻由さんにラインで伝えると直接、坂井家に来るとのこと。
俺たちも夕方までやりきって、坂井家、つまり俺ん家に行った。
「いらっしゃい、ミー」
「ラブリーマイエンジェル亮太きゅん!※4」
「はい、ダウト!」
美月の首根っこをつまんで部屋へと連行する。
「あーん、私の癒やしが~」
「セクハラで訴えるぞ」
「うう•••」
そこに亮太が入ってきて、とんでもないことを言いやがった。
「今日は遅くまで起きてていいから早くお風呂に入れって、母さんに言われたんだけど」
ま、まさか?
「ミー、一緒に入ろう!」
マ、マジか!
美月を見てみたら。
固まっているのは、まだわかるが•••。
な、泣いてやがる!
こ、こいつ、本物だ! 本物の変態だーっ!
そんな美月にかまわず亮太は、美月の手を引いて風呂場へと急ぐ。
はたして吉とでるか凶とでるか。
よくわからんが、2人の背中に思わず合掌していた。
30分後。
風呂から上がった亮太はご機嫌だったが、美月は放心状態だった。
「亮太を見る限りでは犯罪行為は行っていないみたいだな」
美月が変な手つきをしている。
「どうした?」
「ツ、ツルッツル•••」
反射的に美月の頭を叩く。
は、犯罪者だーっ!
こいつ、どうしてくれようかと思いあぐねていると、母さんに夕飯の準備ができたから来いと言われた。
席につくとテーブルにはいかにもクリスマスというものが並んでいる。
しかし風呂ではなく別の理由でのぼせていた美月は、チキンやケーキを少し食べただけで、席を立った。
母さんに目で行け、と言われたので部屋にいってみると、美月はコタツに入ってボーッとしていた。とりあえず向かいに腰をおろす。
「調子悪いのか?」
「私さあ、自分のこと、ショタだと思っていたんだけど•••」
なんだ? いきなり何言い出してんだ?
「さっき亮太くんとお風呂一緒に入って、なんかさぁ」
俺は黙って聞いている。
「違うというか、うーん。私のショタって2次元だったというかファンタジーだったというか」
「なんだ、そりゃ?」
「うまく言えないんだけど、今も亮太くんやそのくらいの年の男の子は大好きだよ。でも、マンガにあるような感じではない、というか」
「同人誌の内容を実際やろうとするな!」
「いやいや、あそこまではさすがにしないけど。そうじゃなくて、やっぱりお母さんが正しかったんだなぁ、って思いだしちゃった」
「麻由さん?」
「うん。洸太が中学生になって、なんか私から離れちゃった時•••、当時は認めてなかったけど私、落ち込んでたみたいで。姉離れってお母さんに言われたんだけど、どうしても認めたくなくって。で、なんか迷走したらこんな趣味になっていたというか」
ははは、とぎこちなく笑う美月に俺はなんて言えばいいのかわからなかった。
※1 グレンガラン25話より
※2 グレンガラン最終話より
※3 エヴァンゲリオンのシンジとアスカのやりとりより
※4 俺の妹がこんなに可愛いわけがない5巻より
年上の幼なじみがオタクで頭が痛い 5,6話
次回は、7話 父の心配と無自覚症状
8話 無自覚症状と強制的自覚 です。