願い事
願いとは誰かに頼むということ、誰も彼もが使う日常の中でチームワーク的な要素で使うもの。
誰かに願うことは悪くない、楽だから。でもただ楽をしたくて願う人は好きじゃない。
神頼みなんて自分ができないと認めてるようなものじゃん。
街を歩く人々、大きな十字路を信号待ちし走る車と激しく唸る雑音。
全て願い全て手に入れた人は居ない。
居たとしても実例がない限りそれは意味を成さない。そもそも知らない。
何億何万居ようが根拠がないとね。っていう。
信号が変わる。歩く人は片手にスマホを持ち。また車は止まり青を待つ。
はやく青にならないかと願う。働く人は焦る。遅刻ないと願う。
学生は走る、電車の行く時間が遅くれていると願う。可能性の低いことを願う。
叶うことはないと思いつつもただ願う、その反対側にはやく出発しないか願う。
ただ願い、人は神に知らぬ間に願う。
全てが運で回り動かされていることを知らぬままただ頼むんだ。
人混みが荒れてくる、信号は青から赤に赤から青・黄・赤に。
歩く僕はただ考える、何も無い日々に奇跡が起きないかと願うんだ。
世界に涙があり悲しみが溢れ黒く染まる時が消える、そんなことを願うんだ。
知って欲しい、僕のこと。見てほしい、僕のことを。願う。願う。願う。
いつか僕らが一つになることを願うんだ。
「おーい、そこの君!そこにあるボールを取ってくれよ!」
頼まれる。楽を求めて。
「ありがとうございます!」
喜ぶ、誰かによって何かをされることで感謝を覚える。
それもいいかとは思うけど。正直めんどうくさい。
はぁ、学園生活は楽じゃないな...。誰かの為に動くのは疲れるな。グラウンドがなければいいのに。運動も概念も無くなればいいのに。
「あんたバカじゃない?」
学校は楽ではない、つっかかってくる奴がいる。
「何がグラウンド無くなればいいよ、サッカー部が見えなくなるじゃないの。」
めんどうくさい、関わりたくない。ただ無視して進む。しつこく迫る彼女を無視し、ただ。
進む。進む。進む!?。
口に出してない言葉を理解された!?
...心を読める少女と僕の出会いがここで始まった。と悟った。
「僕の心読めるの...?」
昼間は屋上でご飯を食べる、胡椒のかけすぎで塩っぱい唐揚げとご飯の絨毯に転がる梅干し。
いつも通りの唐揚げ弁当は不思議と僕の嫌いな人参を入れて心を萎えさせる。
上から落ちてくる人参...人参...人参!?
屋上には誰もいない、僕は背を寄せていた水道タンクの上を見上げる。
カラスかな...?
バサッ。目の前に落ちる黒い影となびく髪、ふわりと浮かぶチェック柄のスカート、僕を魅了する君の顔。これが望んでいた世界の始まりなのだろうか。
願いは叶うもの。素敵に裏切るもの。
「いつも考え事してるの?」
声を出さなくても伝わる彼女には心で伝えればいい、心で伝う人、そんな人が理想。そんなのどうでもいい。
「そうだけどなにか?」
不敵に笑う姿が美しい。巫女...いや、女神のように。
「ほんとバカ、アホ、ガリ勉かよ!」
加えてどことなく可愛い。
「勉強はしてないけど...それだけ?」
望むことは悪くない、でもそれを求めるには何も必要ない。遠ざければ疎遠で何も変わることのない日々の始まり始まり。
「あんたの願い叶えてあげようと思って!」
でもそれは簡単に叶って神よりも呆気なく面白くないものだったとしても構わない。
「どうやって?」
「何か一つ願ってみなよ!」
くだらなく自然と終わりを迎える世界の寿命なのだから。
「じゃあ、この唐揚げの胡椒ちょっと減らして。油に染み込んだ分も含めて美味しくテイストしてください。」
「は!?そんなことなの?まぁいいよ!やってあげる。」
出来るわけがない、どんな方法でも魔法じゃなきゃ現実的にありえない。
一般人が人差し指伸ばしてビームを放てるようになる。みたいに。
「私の力を信じて!塩よ減れ!」
何も起きぬ、これが現実。
「あれ?」
見た目は変わらない唐揚げ、ちょっと信じた自分が馬鹿らしい。そもそも馬鹿だ。
僕は一つ唐揚げを食べその塩の濃さを実感する。
「最高に美味だ!塩の加減と油、いや肉汁がいい感じになって、なんというか肉の味が一層引き立って真面目に美味い!」
「あれれ?」
感動で涙が出そうだ。こんな美味い唐揚げを生きてる内で食べられるなんて...天へ登りそう。
「成功した?やった!やったー!」
「んで、どうやったの?」
「私はあんたと違って生まれつき願いを叶える力を持った少女なのよ!」
稀に叶うということ、つまりそういうこと。
僕は検証した。 唐揚げの次はご飯、そして梅干し、次に...。
何十通りも繰り返してもらった結果、唐揚げの願いを叶えた後は1度も願いを叶えることは出来なかった。
法則や条件があるのかと思ったがやっぱりたまたまだと考え、信じることを辞めた。
もうそろそろ帰ろう。学校は暑苦しいし見てていろんな意味でごめんだ。
教師の片山平(かたやまたいら)通称→変態(片平→へんたいら→へんたい)
に早退を告げ学校を後にした。これも願い。
やっぱり願うことは辞められない。
それが本能のように自然的に人は頼まずには居られない願わずには居られない。
神は人の数居る。それぞれが神と言っても過言ではないかもしれない。
帰りに通る十字路は更に混雑している。昼の時間だからだろう。だがその中にも願う人がいる。 人の頭の上に表示されるテロップ。
「理想」「妄想」「仮想」「理想」「現実」「幻想」
思うことがたくさんありこの中にもこんなことしたい。こんなことさせて。これになりたい。
別世界に行かせてください。などたくさんの願いが固まっている。
「頭痛ーい。何?ここ!てかなんでこんな人居るの?人間集まりすぎでしょ!」
聞き覚えがある声だ。しつこく頭をノックする。
「なんで来たんですか?僕は早退してきたと言うのに。」
「だって私あの学校じゃないもん!」
「えっ?どうやって校門通ってあの場所で...?てかどうやって屋上に!?そこ一番わかんない。」
「そんなん決まってるじゃん!瞬間移動に決まってる!そこに行きたいと思えば行けるの!」
何言っているんだが一瞬わからなかった。でもまぁやらせておくだけ暇潰しになるからいいか。
「じゃあ家まで送ってってくれよ。」
「まぁいいけど...」
「はい、住所。」
僕は住所を渡すと何やら暗記するように唱え始める。
あ、信号青になった。
少しずつ波のように流れる彼女をただ僕は見つめ歩いて自宅へ帰ることを決めた。
また無駄にお願いしてしまった。
帰る先は大抵家だが帰ると暇だからコンビニでケーキを買って甘い気分を過ごすことにした。
「いらっしゃいませー!」
...帰って昨日録画したアニメを見る事にした。
願うことは大変だ。時に災いを招くんだ。今日は帰ってアニメ見て寝よう。
コンビニを真っ直ぐ進んだ先にある僕の家を目指し歩いた。
一瞬僕の右を誰かが歩いた気がしたが構わず進み、到着。
ポストには宗教勧誘やハガキに手紙。
全て無視してドアを開けると。
「あら輝月くんおかえり!」
輝月?あーニュースでやってた人だ。
同じ学校の人に自分の配信を馬鹿にされるわ晒されるわで学校中が敵になってしまい「もう居場所がないー」って言って自殺した愚か者。
頑張れば良かったのに。彼に届いたDMはほとんど夢を与えられました!だとかあなたみたいになりたいです!とか並んであったのに。。
んで、なんで僕が輝月になってるの母さん。
母さん?あれ、旅行中じゃ?
僕は本能的にドアを閉めた。
「間違えました。」
自分の家の隣があの輝月の家だったなんて...えぇ。まちがえた。
あれ、輝月って死んでるじゃん。
ここの表札僕の苗字だし。
ドアを再び開けると...。
「なんで閉めるの!」「なんで居るの!」
「あなたが住所教えてここに瞬間移動してって言ったんでしょ!」
「コンビニの店員のアレは!」
「ちょっと脅かしたかっただけ!」
「えー!それだけでバイトしてたの!」
唐突に僕の人生を変えてしまうようだ。
「君面白いなぁ〜、名前なんて言うの?」
「表札に書いてあった通り、願永(がんえい)信心(しんじ)だよ。君は?」
「私は雫っていいまーす!」
そこに現れたそのものはまたも奇跡を起こしてくれる。
「お願いを叶えマース!」
「待った。」
どこから?僕にはわからない、四方八方から声が響きハウリングする。
「願いを叶えることは良い事だが何度も叶えてしまうことは許されていない、風のように過ぎ去るように叶え渡り鳥のように次の目的地に向かいまた...の繰り返しそれが我らの決まりなんだ。」
「やっば、逃げるよ!信心!」
「えっ、あ!うわぁぁぁ!」
まるで世界は一変したみたい、どこも変わったとこはない。ただ、出会って唐揚げを美味しくしてもらっただけ。
人生に1回は食べる手作り弁当のようなものじゃんか。
そしてこの物語のような出来事、きっと僕は神に動かされ願いの砦によって捕らわれ妄想し飢えているだけ。そう思いたいだけ。
「飛べ!絨毯!」
「えっ、あ?あぁ?絨毯飛ぶの!?」
願いは魔法?
「お願い開いて!ゲート!」
そんな大層なものじゃない。
「ゲート開けぇぇぇ!!!」
だって叶うかどうかの運ゲーだもの!
時空の狭間のようなものが空に開く。
「行くよ!信心!しっかり捕まってね!」
「うわぁぁぁぁ!はやぃぃ...うぅ。」
一瞬意識が飛ぶほどに強い風その速度にカラスは唖然し合唱を辞める。
謎の声はしだいに大きく響き唸る。
「ふぅ...。間に合った〜!」
「なんなの?今の。」
「え?あーあれはお父さん。」
「お父さん?」
ふと、頭に過ぎったのはゼウス。
全知全能の神そして全ての親と言われている。
「お父さんってどんな人?」
「今は...誰かに操られてるみたいなの。この世界の歯車が崩れだしてから。」
「歯車?どういうこと?」
「昔、この地球に落ちた隕石と言われるものの中に入っていた神にとって大事なものが無くなっちゃったんだよ。」
「それはどんなもの?それがないとどうなるの?」
「歯車のついた首飾りなんだけどね、それがないとこの世界に願いが無くなっちゃうの。だからそれがないと...。」
「どうしたの?大丈夫?」
「ごめん、時間がないみたい。はやく見つけ出さないと。」
願いがなくなる...神頼みがなくなってこの世界は良くなるじゃないか。努力と実力のみが試される、そんないいことはない。
「正直言うとそれがないと...私消えちゃうんだ。」
「え...。」
考えてみりゃ雫は願いを叶えてくれる神様なんだ、なら願いが叶えられなきゃいる必要もその存在自体も消えるのか。
「お願い!一緒に探して...!!」
断れる訳が無い...そう言えば。
「わかった。心当たりがあるんだよね」
「えっ!ほんと!はやく行かなきゃ!」
「それは僕の首にかけているものなんだよね。」
「ホントだ!気づかなかった!え...でも」
「気づいた?二個目の歯車がないんだよね。昔お父さんが持ってたものなんだけど...それは最初から無くてきっと僕の中にあるんじゃないかって言ってたんだよね。よくわかんない。」
「信心くんの中に...?ある訳ないでしょ!んでお父さんはどこに?」
「もう死んじゃってるんだ。」
そう、僕のお父さんは死んでいる。
昔僕に歯車を渡した後、何者かに殺されてその後消えちゃったんだ。
いつか会える日を待ったけどお父さんはいつまでも帰ってこなくて...。
ほんとに辛かった。涙が止まらなかった。
でもお父さんは幼い頃に僕に言ったんだ。信じればいつかは叶う、忘れるな!ってだから...だから...。
「信心!シンジ!起きて!」
いつの間にか眠ってしまったようだ。
「お父さん?...?」
「雫だよ!はやく行かないと!」
起きた場所は願いの祠と言われる場所、そこには数え切れないほどの願いが辺り1面に広がり増え続けている。
ダメな願いは消え、少しずつその世界の作りが壊れていく。
お父さん、お父さん...助けてよ。ねぇ。
「信心もう行くよ、捕まって!」
「わかった。」
挫けそうな心、命運を持っているようで、見たくないものを見たようで、怖い。
「なに弱気になってるんだ?お前はなんだってできるさ!俺の子供なんだから!信心、信じる心と強い願いを忘れるな!」
...お父さん?
自然と涙が零れる、振り向く先には何もいなくて、祠だけが背中を押すように遠く、遠く離れていく。
雫は前を向きゲートを開いて世界を見る。
そこには願いのバランスが崩れグチャグチャな世界が広がっていた。
黒く染まり人は既に居ない、きっと未来だ。きっとこれは夢だ。何度も考えた。
ゲートの中にいた自分は別の世界に居たから消えず残っただけ。
僕だけなんで...。うぅ...。うわぁぁ...。
泣いて泣いて泣いて強く願う。いつも通りの世界に戻して、もう辞めて。お母さん...喧嘩して謝らずにごめん。お姉ちゃん...いつも世話ばかりさせてごめん。
お父さん、僕は1人で強くなるから...助けて。
「雫...世界を元に戻して...」
「えっ...信心、どうしたの?」
雫も唖然していたようだった。もう。ダメだと悟ったようだった。
「お前ら、もう逃がさん...。」
「お父さん...!辞めて!もう辞めて!」
雫は声を荒げ涙零しゼウスに訴えた。
でもその声は届かずに消える。
「全て消してやる。消えろ!!!!」
...信心。信心!前を向け!
僕は逃げない。もう逃げないから。願うことしかできないこんな僕でも願うことを許されたこんな僕だから...今言わなきゃダメなんだ!
「ゼウスよ!世界よ!元に戻れぇぇぇ!!!!」
「起きなさい!起きなさい!」
母さん...?
「旅行から帰ってみたら!なんで寝てるの!学校の時間でしょ!」
「まーた寝坊にしたのシンジ!姉ちゃん学校行くからね!」
お姉ちゃん...。
「お父さんからの手紙...届いたみたいだから学校終わったらすぐに帰ってきてね!」
お父さん...。お父さん...。
「はやく行きなさい!」
人混みが鬱陶しくて凄く胸が痛くて、今日も周りの人間は祈り願いを叶えてもらおうと必死に念じる。
明日この世界が終わればいいのにな。
「あんたバカ?」
聞き慣れた声が聞こえる。めんどうくさい。街に出るとこういう奴が良くいるんだよ。
「何がこの世界が終わればいいのにな...なの!大変でありゃしない!もっと前向きになりなさい!いつかまた会える日を楽しみにしてるね!」
とても元気な声の裏に切なさを覚えた。
「あーわかってるよ、雫、お前はもっと大人になっててよね。」
後ろを振り向くと誰もいない。
こんな暑い夏の日は人騙しに神様が陽炎として現れるらしい。
夢でも妄想でもなんでもいい。願うことは悪くない、今日も僕は願うんだ、この世界が平和になり、お父さんが帰ってくるその日を。
願い事