新しい人生の詩のことを語っている

新しい人生の詩のことを語っている

  







    







   






   

まともな人生のライフサイクルなんて信用しない。


20年前の今頃はODを乱発していた


18時間電話したこともあれば


電話どころか電気も水道さえも止められたこともあった


8年大学に行って親の財産食い尽くした


ヒモにもなったし 失踪もした 保護室に拘禁された


テグレトールをジョニ黒で一気飲みして


交換輸血で血を全部入れ替えた身体だ


新しい詩を書きなぐっていたい


新しい映像を紡いでいたい


死後評価でいい 現代詩くそくらえ


金はそれほどない たまに彼女がいればいい


西園寺リルケゴールは鎖に繋がれた詩書きではない

  






 


        新しい人生のことを語っているのさ。


        新しい人生のことを描いているんだ。

  






 


誰も書いたことのない比喩が欲しい


誰も考えたことのないポエジーの思想が欲しい


ルー・リードになりたい


スザンヌ・ヴェガになりたい


誰も知らなかった西園寺リルケゴールを知りたい


素朴な詩がなんだ


難解な詩がなんだ


希望に溢れる詩がなんだ


おまえの恋愛を書いた詩がなんだというのだ


そんなの誰が誰でなくとも書けることだ


毎日そんなの読みたかねえんだ


殺人の詩だってフェラチオの詩だって書いた


閉鎖病棟の詩だって体制批判の詩だってお笑いの詩だって書いた


ジャンルとかくたばれ カタルシスなんて死にさらせ


安心も妥協もしたくない  なんだって書いてやるんだ


たとえ誰も読まなくても  西園寺リルケゴールの詩が大好きなんだ

  






 


        新しい人生の詩だけ描いていたいのさ。


        新しい人生の詩のことだけ考えているんだ。



  






 
大学の時の原チャリ旅行を思い出す


中古で買った3万円のスズキのセピアだ


ゲンズブールのステッカー貼って 


享年29歳って殴り書きしてあった


親友と一緒に夜中の9時に走り出した


北山通りから鞍馬山、貴船を越えて舞鶴へ


コンビニで買った地図にあるはずの道がなかった


迂回する国道は諦めて山道を越えた


ライダースジャケットで時速40キロの風を切った


途中でパトカーに出会って職務質問された


福知山まで走って腹痛に襲われた


うどん屋見つけたから鍋焼きホルモンうどんを食べた


綾部で白髪の爺さんに道を訊いたら危うく京都に戻りかけた


舞鶴市内に着いたのは夜中の3時過ぎだった


舞鶴文化公園は寒くて仕方なかった


ビジネスホテルで休みたかったが意外に高かった


電話帳調べて地元の創価学会の支部に電話した


学会員じゃないけど一晩泊めてくれと頼んだ


無論あっさり婉曲に断られた


深夜営業のガストーのブレンドで90分粘った


ボブヘアーの店員の女の子がかわいかったけど無愛想だった


明かりが灯った名前の知らない神社に行ったら


ウォーキングしてた小柄のおばさんと長話になった


大学で宗教哲学やってるといったら


なぜだか吉田茂は好きかと訊ねられた


西舞鶴駅に行って新聞紙3枚被って寝た


券売機前のコンクリートが痛くて寝苦しかった


定年間近っぽい駅員が枕代わりに古雑誌くれた


明け方近くに丹後由良海水浴場に行った


岩場に腰を下ろして1時間キャメルを吸い続けた


ブラックの缶コーヒー飲みながら日の出を待った


釣りをしてた中年男とグレとチヌの違いを話してたら ようやく日の出


まぶしかった 神々しかった


日本海からのぼる日の出 初めて見た


感動しながら なぜだか必殺仕事人を思い出した


冬の日本海の日の出は必殺のエンドクレジットに似ていた


思わず連れと一緒に鮎川いずみの「女は海」を歌い出した


微妙に恥ずかしかったが大声で歌った


チワワを散歩させてた主婦に怪訝な顔をされた 知ったことではなかった


朝食に舞鶴名物海軍カレーを食べた 


今でもその味を忘れていない ちょっと不味かった


給油で寄ったガソリンスタンドの角刈りの親父がおしゃべりだった


北区ナンバーを見てむかしは四条木屋町で大道芸をやっていたと自慢し始めた


自主映画を作っていると明かすと手土産のみかんを持たせてくれた


久しぶりに暖かい気持ちになって鞍馬口のアパートまで帰った


ルー・リードのニュー・センセーションズを聞きながら20時間眠った


これを書いている いま42歳 厄年だ


ちくしょう こんな稚拙なロードムービーの詩は初めてだ ざまあみろ


最近ちょっとだけ薄くなった髪の毛が気になる


だが知ったことではない


筆名 西園寺リルケゴール


みんなはリルと呼んでいる


ルー・リードのニュー・センセーションズを聞きながら


西園寺リルって名前が大好きだ


名前にキスしたいくらいにな


  






 

        新しい人生のことを語っているんだ。


        新しい人生のことを描いているんだ。


        新しい人生の詩をさがしているんだ。


        新しい人生のことを君に聞いているんだ。


        新しい君の人生の詩を 新しく君が描くことをさ。


  







   






   

  







  

新しい人生の詩のことを語っている

自己主張の激しい詩と、旅の叙景詩を組み合わせたかった。
ルー・リードの『ニュー・センセーション』を忠実に模倣した、練習の作品。

作者ツイッター https://twitter.com/2_vich

新しい人生の詩のことを語っている

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-01-25

Copyrighted
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