停留所の風
文章の書き方も何も分からない初心者です。
本を読む事が好きだったので自分でも何か描いて見たいと思い投稿しました。
こうしたら良いというアドバイスお待ちしています。
ボロくなった木とサビたトタンで出来たバス停の小屋に私は居る。
バス停と同じくらいボロい木製のベンチに座りこんで、ただただ時間が流れるのを感じていた。
トタンの壁の隙間からは夏の日差しが入り込み、よく見るとその中に田んぼ一面の緑色がつつみこまれている。
不思議な話なのだが、身体中に光を浴びている時よりも薄暗い小屋の中から見えるほんの少しの光の方が力強く感じるもので、折れ曲がった私には差し込む光の真っ直ぐさは眩しすぎた。
もう二時間近くここに座っているが、バス一台、人っ子一人通らない。
当然だ。ここはもう廃止されたバス路線。
どこからきたかも分からない風がトタンをたたくだけ。
リュックには音楽プレイヤーが入っていたが、今だけは音楽を聞きたくなかった。
四日前、音楽コンクールで私はバイオリンを弾いていた。結果、準優勝。
家族、友達はみんな一斉に褒めてくれた。
この結果には満足した方がいいということなんだろう。
でも私は二位だったことに変わりはない。
私は私のもつ全ての力を出し切ったと心から言える。でも二位だったのだ。
学校での体力測定の時、陸上部の人と二人で同時に測った。
全速力をあげ脚を動かしているのに瞬く間に距離が開いていく。
全力をあっさりと潰される感覚。その時は不得手な競技だったからどうとも思わなかったが、一番得意で、一番好きな生きがいとも言える競技で負けた私はどうしたらいいのか分からなくなった。
どこでもいいから逃げたくなった私は、乗ったことのない下りの電車に乗り、暫く歩いて一つの廃バス停にたどり着いた。
風に揺れる稲や木々の音と蝉の声、ほんの少し聴こえる川のせせらぎ以外には何もなかったが、私が必死に弾いていたバイオリンよりも美しく感じる。
一切の嫉妬も湧かないのは、演奏者が一切の屈託もなく演奏しているからかもしれない。
「あら、こんにちは」
その声で私は我に帰った。
「こんにちは」
色白の美人な女性だった。顔は若く見えるが、身体に纏った小綺麗な和服と手に持ったからかさのせいで不思議な雰囲気を醸し出している。
「ここはもう、バスなんて来ませんよ。」
なんて返そうか迷ったがどうせもう会うことのない人だろうと思い素直に会話を始めた。
「はい。なんだかここにいたい気分なんです」
「あら、なるほどね」
驚くほど、話は通じた。
「私でよろしかったら、お話を聞かせてもらいますよ」
そう言いながらお姉さんはベンチに座る。
普段なら絶対に知らない人に相談なんかしないだろう。しかし、この人のもつ不思議な雰囲気か、はたまた元気すぎる太陽のせいか、私は口を開いていた。
「私、どうしたらいいのか分からないんです。一番好きなもので一番になれなくて。それでもそこまで悔しさみたいな物もなくて。ぽっかり穴が空いてるって言うんですかね?原因も解決策も分からないんです」
おばさんは微笑みながら言う。
「あなたは、もうバイオリンはお嫌いになって?」
「いえ、今でも好きです。でも」
私の声をお姉さんは遮り、
「それでいいんですよ」
と言ってくれた。
その後の数秒間、心地いい風と無言の停留所の時間はこれ以上なくゆっくり流れた。
「ありがとうございます、なんだかすっきりしました」
「いいえ、あなた、もうこの場所から答えを貰ってたみたいでしたから。私はほんの一言添えさせて貰っただけですよ」
そう言ってまた微笑んでくれた。
「もうこんな時間です、お帰りになられた方がよろしいでしょう。田舎の夜は本当に真っ暗ですから」
時間は4時30分を少しだけ過ぎていた。
「そうですね」
リュックを背負い、お姉さんとベンチに背を向けた時、私は一つだけ疑問を持った。
「バイオリンの事は何も言ってなかったと思うんですが」
こんなにも不思議な体験をしているにも関わらず動悸の一つも無い。
「ふふっ。実は、貴方みたいな人がたまにたまにここにいらっしゃるのよ。何かを悩んでね」
お姉さんは続ける。
「私はそれだけが楽しみなんですよ、悩んでいる人からすると嫌でしょうけど」
今もなお、時間がゆっくり流れている。
「老いも若きも、男も女も。みんな悩んでいるのでしょうね。貴方のひいおばあさんもここにいらっしゃった事がありました」
「そう、ですか」
「驚かれないんですね」
「なんだか、分かるような気がします。この場所と、お姉さんと一緒にいると」
またもやお姉さんは微笑んで
「そう」
と短く言った。
「もう私のひいおばあちゃんの頃に廃バス停になってたんですか?」
「さぁどうだったでしょうかね?」
一番気になるところは教えてくれないのか。
「自分で答えを出せってことでいいですか?」
「そうね、それもいいと思いますよ」
体が随分と軽くなった。いまなら風に負けないほど自由になれる気がする。
「大丈夫だと思いますがもうここには来ないよう生きて下さい。それでも我慢できなくなったらいらっしゃい。話し相手くらいにはなりますから」
「ありがとうございます」
私は背を向けたままもう一度頭を下げ、日が下がり始めた田んぼ道を歩き始めた。
最後に、山の方からヒグラシの声が届いた。
いつかこの声を超える事が今の私の夢になっている。
停留所の風
読んで頂きありがとうございました。
もし最後まで読んで頂けていたら幸いです。
途中でもう読めない!となってしまった方にいつか全文読んでもらえるようがんばります。