ウナギ
「やってくれ!」
「いいんですか?」
「あぁ、構わない」
ぎゅっと目をつぶり、覚悟を決めた豆腐は、すり鉢の上から飛び降りた。彼はこれからとある事に、身も心も捧げようと思っていた。
「あっ、いい匂いがする」
豆腐はその身をすりつぶし、蓮根と混ざった。もはやその形は豆腐だとは思えない。
その姿のまま炙られ、秘伝のタレが塗られた。
とあるウナギ屋の賄いとして買われた豆腐は、価格高騰で店が立ち行かなくなるのを間近で見たために、何とかしたいと思った。
「へぇ~こういうのもありだね」
豆腐は精進料理のウナギとなり、客に提供されることになった、お客様からの評判は上々、店に客足は戻ったが。
「豆腐さんはもういないんだな」
ポツリと初老の店主が言うと、長いこと連れ添った奥さんが、隣で涙がこみ上げてきた。
ウナギ