わにとおどる
わにとおどった。
夜だった。
パンケーキが降り積もる夜だった。
ぼくは、はんぶん呼吸をしていない感じだった。感じだったので、実際はしていたのだけれど、していないのとおなじような感覚だった。
ロリータファッションの女の子が降り積もったパンケーキをふんで、ぐしゃ、とつぶれたパンケーキですべって、ずてんっ、としりもちをついていた。お姫さまみたいな水色のスカートが汚れて、女の子は泣いていた。かわいそうにと、わにがいった。ぼくもかわいそうだと思ったけれど、泣いている女の子はかわいかった。汚れて泣くのならば、もっと汚してあげたいと思った。キミ、よからぬことを想像しているねと、わにが、ターンをしながらいった。よからぬことを、想像しているよ。ぼくはこたえながら、ステップをふんだ。
アルファのぼくのことを、かんがえる。ときどき。
アルファという世界にもぼくがいることを、ぼくはしっている。アルファという世界にもわにがいて、わにも、そのことをしっている。
ベータという世界にも、いる。それから、シータという世界にも、ファイという世界にも、デルタにも、オメガにも、ぼくと、わには、存在している。
アルファでも、パンケーキは降ると思う?
ぼくはわににきいた。わには、ううん、と考えこんだ。考えながらも、おどりをおどっていた。わにのおどりは、創作ダンスだった。テーマなんてものはなくて、感じたままにおどるのがかっこいいと、わには語っていた。
きっと降るよ。ベータでも、シータでも、イプシロンでも、ガンマでも。パンケーキは、月から降ってくるからね。月面旅行に行って帰ってこれなくなったヒトたちが、まぜて、焼いて、ひゅん、と地球に向かって投げているからね。アルファでも、ファイでも、オメガでも、月は、平等にみえるからね。
わにはいった。いいながら、ジャンプをした。着地して、片足で立って、しっぽを伸ばしながら、ポーズらしきものを決めた。
わにとおどる