年上の幼なじみがオタクで頭が痛い 1,2話

まずは、1話と2話を投稿しました。
2話ごとに頑張っていきます。

1話 脱オタ宣言とショタ疑惑

 フラれた。
 2月のバレンタインに告白されて、今は4月。
 俺、坂井洸太(さかいこうた)成田萌香(なりたもえか)は中学2年になった。
 俺たちは1年の時は同じクラスだったが、2年のクラス替えで向こうが2組、俺は6組とわかれた。
 でも俺は幽霊部員(ちなみに陸上部)だったので、成田が部活のない日に一緒に帰ればいいし、休日には遊びに行こうとも思っていた。

 「坂井くんとは、もう••••••つきあえない」

 始業式の帰り、成田に呼び出されて、ウキウキで行ったら••••••。

 「え? 俺、なんかムカつかせることした?」
 「ムカつくと言うか••••••」
 「何? 俺が悪かったなら、謝る!」

 必死か! 俺?

 「あーっ••••••、はっきり言っちゃうと!」

 な、なんだ?

 「坂井くん、オタクなんだもん!」

 はい、回想終わり!
 俺は頭を振って、あらためて自分の部屋を見回す。
 大きな本棚が1つ、2つ、3つ••••••。
 マンガとラノベでギッチリだった。
 ラノベは奥と手前の二重で置いている。
 とはいえ、俺が買ったのなんて、ほんの一部だ。
 じゃあ、誰がって話になるんだろうけど••••••。

 「洸太ーっ!」

 来たか。

 扉がバンッと開く。

 「な、何を考えているのよ~!」
 「これに詰めて、ここにある本、全て売ってやる!」
 「な、な••••••」

 ワナワナとしている侵入者に、俺はかき集めた紙袋を見せながら決意表明した。

 「兄ちゃん、全部捨てちゃうの?」

 小学4年の弟も心配して部屋に入ってくる。

 「捨てない。全部、売るんだ。亮太(りょうた)も部屋が広くなったら嬉しいだろ?」
 「でも、ミーのじゃないの?」
 「なんでウチに美月のマンガがあるんだ? 俺の部屋にある本をどうしようが、俺の勝手だ!」
 「ひ~ど~い~よ~!」

 あぁ、今まで静かだったのに••••••。

 「なんで? なんでいきなり売るとか言いだすの?」

 あぐらで作業していた俺に、四つん()いでドカドカと近づいてきやがった。
 ため息をつく。
 亮太を見ると扉に半分だけ身を隠していた。

 お前か、言ったの••••••。

 犬みたいな格好で俺を(うら)めしそうな目で(にら)んでいるこいつは中井美月(なかいみつき)
 隣りに住んでいる高校1年で、俺たち兄弟の幼なじみ。母親同士が昔からの友だちで、小学生のころは一緒に旅行にも行ったりしていた。
 長いストレートのはずだが、無造作に後ろで束ねて、前髪はピンで目にかからないようにしている。目がいつも笑っているみたいに細い以外は整っていると言えなくもない。
 ただ、メガネに中学ジャージ姿の美月は身長が150センチ以下ということもあって、どう見ても中学生にしか見えなかった。
 ジャージも今の1年と同じだから、一緒に外を歩いたら俺が上だと絶対思われる。

 もう1度、ため息をつく。

 「なんで売るかって? い・ら・な・い・か・ら・だ!」
 「ウソだーっ! 洸太だってめちゃくちゃ好きなの、いっぱいあるって言ってたじゃん!」
 「そうだ。好きなのも、もちろんある。でもな••••••」

 本棚からあふれそうな、いや一部あふれているマンガを見て俺は言った。

 「少女マンガや同人誌は別だ!」

   +++

 経緯を話そう。
 まず、中井美月。
 こいつは重度のオタクだ。
 マンガ、ラノベ、ゲーム、同人誌をこよなく愛する二次元人だ。俺も小学5年でこいつに会うまでは、普通にマンガは読むし、ゲームもしていた。
 が・・・。
 おもしろいからと言われるがまま、少女マンガやちょっとHな青年誌、ラノベに至るまで、俺は美月の英才教育をいつの間にか受けていた。

 受けてしまっていた••••••。

 まぁ、確かにおもしろいと思うものもあった。
 しかし••••••。

 「あげるから、好きな時に貸して!」

 今にしてみれば、美月の策略だったとしか言いようがない。こうしてみるみるうちに、俺たちの部屋には美月のコレクションが増えていった。中には亮太には見せられない(っちゅーか、18禁だから俺も美月もダメだろう)同人誌まである始末だった。

 この見た目でよく買えるな••••••。

 この1年は美月が受験だったこともあって、話す機会もなかった。俺も中学1年になり異性である美月に対して話しにくくなっていたから調度よかった。
 そして美月の影響をモロに受けた俺は類友というべき友だちとよく遊ぶようになっていた。そいつらとは話をしていて楽しかったし、家にいる時はマンガやラノベを読んでいた。
 こうして俺の中学1年は過ぎると思った矢先、バレンタインに告白された。
 友だちからはリア充爆発しろ!とか色々言われたが、俺は普通に嬉しかった。
 成田萌香はかわいいと思ったし、初めてのことで舞い上がっていた。ホワイトデーのお返しもしたし、映画にも見に行った。春休みが終わって、学校で成田と会うのが楽しみだった。
 そして、冒頭に戻る••••••。
 禁煙して肺がもとに戻るのに5年、10年かかるっていうのを聞いたことがある。今すぐオタクをやめないと、高校でも同じ目に合うんじゃないか?
 ゾッとなった俺は、こうして脱オタを決心した。
 ••••••したわけだが。

   +++

 「お世話になった同人誌やマンガ、ラノベというものは、常に心にあって、ふとした瞬間に再会したくなるのですよ!」
 「黙れ、クッチーか!※1」
 「くっ、素晴らしいこの反応速度、この戦闘能力!」
 「また、古いところから。ゼクス・マーキスか! トールギスみたいに、こいつらともおさらばしろ!※2」

 亮太が俺たちのやりとりを楽しそうに見ている。やめろ! そんな純真そうな瞳で見るべきものじゃない! そう、俺たちが生まれる前のアニメネタで盛り上がっているこの事実が問題だ••••••。
 こんな身体(からだ)になっちまった俺は、どうすればいいんだ。決まっている。俺を改造した悪の組織を壊滅させるしかない!

 「美月。これらは俺にくれたんだよな?」
 「・・・そうだけど。本当に売っちゃうの?」
 「売る!」

 幻となったリア充ライフを奪った元凶を消すことに、俺はなんのためらいもなかった。

 「ミーがかわいそうだよ!」

 そこに突然、亮太が間に入ってきた。以外な伏兵に一瞬戸惑ったが、すぐに態勢を立て直す。

 「亮太。この中には美月も兄ちゃんも見ちゃいけない本もあるんだ。警察に捕まりたくなかったら処分するしかないんだ」

 18禁ネタをだされて、何も言えなくなる美月。その様子を見た亮太は部屋から出ていった。
 な、なんで俺が後ろめたさを感じなきゃいけないんだ。ここで負の連鎖を断ち切らねば!

 「何やってんの、あんた••••••」

 その声に俺は肩をビクッとさせてしまった。振り返ると、お盆にジュースとお菓子をのせて、母さんが立っていた。

 「美月ちゃん、久しぶりねぇ」
 「お邪魔しています」

 しおらしく頭を下げる美月をジト目で俺は見ていると、母さんがとんでもないことを言い出した。

 「それにしてもスゴいわよね。立高に受かるなんて。うちの洸太なんか、ものすごい通知表持ってきたんで、ボコボコにしてやったわよ。それでね、美月ちゃんにお願いがあるんだけど••••••」
 「・・・はい?」
 「洸太に勉強を教えてあげてくれない?」

 な、なんちゅーこと言い出すんだ、この人は!
 美月も突然の申し出に戸惑っているみたいだった。
 が••••••。
 美月が悪そうな顔で一瞬俺を見ると、次には優等生スマイルで母さんに向き直った。

 「わかりました。中学2年は大事な時期ですからね! 私で良かったら!」
 「本当! ありがとう。洸太ったら最近は生意気だけど、昔はミーミーってべったりだったものね! 良かったわね、洸太」
 「な、何勝手に決めてんだよ! そんなの・・・俺には••••••」
 「は~い~? 何か文句でも?」
 「・・・です」
 「聞こえなかった」
 「ないです!」

 この時、俺涙目だったと思う。
 そこに美月が母さんに、いかにも申し訳なさそうな雰囲気で

 「あの、お願いがあるんですが••••••」
 「あ、もちろんバイト代もだすわよ」
 「いえ、バイト代はいいので、そのお恥ずかしい話なんですが、部屋にマンガとかあると私も集中できない時もあるので、できたら洸太くんの部屋にそういった本、置かせていただけると••••••」

 て、て、てっめぇ~!
 何が集中だ、俺の部屋より魔窟じゃねーか!
 あと、そういった本という言葉で18禁同人誌までくくるんじゃねー!
 本当、血の涙がでそうだよ••••••。

 母さんは当たり前のようにOKをだすと、あとはお若い人同士で、と言って消えた。

 「真美さん、相変わらずファンキーだったなぁ」

 問題は全て片付いたと言わんばかりに笑っている美月の頭を、俺は手にしていたマンガで思いっきり(はた)いてやった。

   +++

 「勉強見てもらうのはアナタなんだから、細かいことは2人で決めなさい」

 放任主義を超して、もはや放置だな••••••。
 というわけで美月と話した結果、英語と数学を見てもらうことにした。週2回7時から1時間半。
 マジか••••••。
 俺とは反対に美月はオススメの参考書や問題集を買って楽しそうにしていた。
 そして、今日が第1回目。前回のテストを見たいと言いやがったので、しぶしぶ見せる。

 「パラメーター初期値、低いなぁ~。無理ゲーとは言わないけど、キツいなぁ••••••」

 こと勉強に関しては何も言えないことは自覚している。ただ、ゲームで例えるな!

 「美月って学校の勉強についていけてるの?」

 俺としてはわずかばかりの反撃のつもりだったが••••••。

 「学年で10位前後?」

 チーターじゃねーか!
 そして、30分後。

 「••••••となります。わかった?」

 悔しいが理解できちまった。きっと参考書がいいんだろう。

 「じゃあ、ここからここ。アホみたいに解いて。パターン覚えてもらうから。あ、あと次回ここテストするから」

 問題集の方も少しやり方が違うだけで、さっきやった同じ方法で解けた。おまけに次にここをテストにするなんて言われたら、頭に入るまでやるしかねーじゃねぇか。
 ふと美月を見ると俺の横でマンガなんか読んでやがる••••••。母さんがいくら渡すか知らねーが、ムチャクチャ楽なバイトじゃね?

 「ミー、大丈夫?」

 亮太が部屋に入ってくる。もともとこの部屋は兄弟共用なので俺なんかは全く気にしてなかったが、母さんから邪魔するなとか言われてたんだろう。
 むしろ気になったのは美月のテンションの上がり方だった。こいつの亮太大好きオーラは、この間久しぶりに来た時にも感じていたが••••••。読み途中のマンガを放り出して満面の笑みで迎え入れる。

 「全然いいよーっ、どうしたの?」

 俺の第六感が何かを察知する。俺自身も感じていたが、美月のかわいがり方には幼いながらも引く時があった。それが美月より俺の方がデカくなった頃、急にピタッとなくなった。
 当時は俺も異性を意識し始めたり、自分の気持ちを持て余していたから気づかなかったが••••••。
 問題集を終えて美月を見ると懇切丁寧に亮太の勉強を見ていた。
 オタク世界で少女趣味はロリ、男同士のはBL、女同士のはユリ••••••。
 少年好きは何て言ったか••••••。

 「ショタ?」

 美月の肩がビクリとなる。

 「な、な、な••••••。」

 声の出ない美月。
 マジか••••••。
 俺は亮太を抱きかかえて、美月から離す。

 「いや、違うから。違うから」

 手をバタバタさせる美月をしり目に、俺は決意も新たに誓った。
 ぜってーオタクやめてやる!



※1 げんしけん二代目123話より
※2 新機動戦記ガンダムW34話より

2話 箱根補完計画と幼なじみの覚醒

 「ゴールデンウイーク、みんなで箱根に行くから」

 夕飯を食べていると、いきなり母さんが言った。
 無邪気に喜ぶ亮太に対して俺は微妙な感じだった。うまいメシや温泉は魅力的だったけど、それ以外は楽しそうな感じがしない。なんか中学にあがってから家族旅行に行くくらいだったら、友だちと遊んだり、家でゲームしてたほうが楽しいと思うようになっていた。
 かといって家族がいない間、一人暮らしするのも面倒くさい。
 というわけで結局行くんだけど、母さんの次の言葉に俺は口に入っていたものを吹いてしまった。

 「それと久しぶりにお隣と一緒だから•••って、汚いわねぇ。洸太、何やってんのよ」
 「なに、美月も来るってこと?」
 「そうだけど。なぁに、あんた美月ちゃんと一緒なのが嬉しいの?」

 否定してもこの人には無意味だということは知っているので、俺としてはジト目で見るだけだった。

 「ただ、麻由(まゆ)は仕事で後から合流になっちゃうのよね•••」
 「ミーのお母さん、1人で来るの?」
 「そうなの。まぁ、お母さん的にはお酒の席に間にあえばOKなんだけどね」

 亮太に何言ってんだ、母さんは。
 それにしても•••。
 美月のオタ話につきあうのはウザかったが、亮太を毒牙から守らなければ!
 妙な理由だったが旅の目的はできた。

   +++

 ゴールデンウイークに入った。
 宿題がでたが週2の勉強の成果か、旅行までには楽勝で終わりそうだった。

 「洸太、ちょっと美月ちゃん、呼んできてよ。お昼一緒に食べようって」

 時計を見ると11時を過ぎたところだった。
 美月の家は母子家庭ってやつで、お父さんは交通事故で亡くなったそうだ。美月のお母さんは看護士で、お父さんの保険金で暮らせていけるらしかったが、何もしないとダメになるからと言って働いている、と前に母さんから聞いたことがある。
 亮太に行かせるわけには行かなかったので、いやいやながら隣の中井家へと久しぶりに訪れた。うちと中井家は8階建てのマンションの3階にあって、俺の部屋と美月の部屋はベランダづたいにいけなくもない。
 もう、やらないけどね•••。
 チャイムを鳴らす。
 反応なし。
 自らフラグを立てたことを後悔しつつ、俺は自分の部屋に戻った。
 一度ため息をついてから、ベランダに出てヘリに足をかける。間仕切りを越えて中井家のベランダへと着地した。
 カーテンの閉まった窓をノックする。
 反応なし。
 カーテンの隙間から何のためらいもなくのぞく。
 いやがった•••。
 ヘッドホンしてパソコンにへばりついている。
 俺は強めに窓を叩いた。
 気づいたみたいで、美月はあわただしくキーボードを打ってから窓を開けた。

 「洸太? なに? のぞき?」
 「安心しろ。たとえ警察が来ても、わざわざ罪を犯すほどの対象ではないと信じてくれるから」

 俺は親指を立ててニッコリと微笑(ほほえ)む。
 美月は部屋の鏡で自分の姿を確認すると顔を赤くして悔しそうに俺を見上げた。

 「•••世の中にはマニアックな犯罪者がいるかもしれないじゃないか!」
 「はいはい、わかったから。母さんが昼飯食べに来いって。そのままじゃまずいだろ?」

 よほど悔しかったのか、俺に背を向けると子供っぽいパジャマを脱ぎだした。
 今度は俺が慌ててベランダから自分の部屋に戻る。
 しばらくするとチャイムが鳴った。
 ノシノシと足音が近づくとドアがノックされる。

 「さっきはどうも!」
 「いえいえ、日頃から美月さんにはお世話になっていますので」

 ああ、なんか美月をいじめていると楽しいな。
 そこに亮太が入ってきた。

 「ミー、いらっしゃい」
 「亮太きゅん、こんにちは~! 亮太くんは誰かさんと違ってカワイイねぇ」
 「ミー、俺、男だよ! カワイイとか言わないでよ!」
 「ごめんごめん。そうだよねぇ」

 せっかく削ったHPを回復させないように追い打ち攻撃をかける。

 「いやいや、亮太。目にクマつくって、頭ボンバらせているJKよりお前の方がカワイイぞ」

 美月から変なオーラが漂い始めていた。
 その横で亮太は首を(かし)げている。
 そんな2人を見ていたら、昼飯ができたらしく、母さんが俺たちを呼んだ。

 「めしだ、めしだ」

 わざとらしく立ち上がってキッチンに行くと、焼きそばが並んでいた。ソースのいい香りがする。全員座ると、いただきますと同時に俺たち兄弟はがっつき始めた。よく噛めと母さんに怒られながらあっという間に食べ終わる。まだ食べている女性陣に亮太が聞いた。

 「ねぇ、ミーは目にクマがいるの?」

 咳き込む美月。
 母さんがあらためて美月を見てから。

 「あら、本当だ。どうしたの、美月ちゃん?」
 「実はゴールデンウイークの課題、無理矢理(むりやり)終わらせちゃって」
 「すごいわねぇ、どこかの大飯食らいにも見習って欲しいわ~」

 美月を見ると勝ち誇った顔をして俺を見ていた。
 俺が呼びに行かなきゃ、ずっとオンラインゲームの住人だったくせに••••••。

 「••••••ネトゲ廃人」

 美月にしか聞こえない声で言ったらスネに蹴り入れてきやがった•••。
 ごちそうさま、と食器を片付けて俺と美月は部屋に戻った。

 「ねぇ、聞きたかったんだけど」

 食休(しょくやす)みなのか、なんなのか知らんが自分の部屋のように美月はくつろいでいた。亮太は母さんと箱根の打ち合わせみたいなことをしている。俺も横になって、パンパンになった腹に手をやり、全血液が消化作業で胃に集中してるのを感じていた。

 「ちょっと、寝るな。人が質問しているんだから」

 パチパチと人の頬を叩いてくる。

 「イテ、何すんだ?」
 「殴ってなぜ悪いか。貴様はいい、そうやって(わめ)いていれば気分も晴れるんだからな」

 やれやれとなる•••。

 「僕がそんなに安っぽい人間ですか?」

 ペチッ!

 「2度もぶった。親父にもぶたれたことないのに」
 「それが甘ったれなんだ。殴られもせずに1人前になった奴がどこにいるものか※1」
 「あの•••、いつまで続ける気なんだ?」
 「洸太が聞いてくれるまで」

 のってしまう俺も悪いが、俺と美月じゃ永遠に終わらない。

 「なに?」
 「なんでいきなりマンガを売るなんて言いだしたの?」

 ドフォ!
 俺の胸に美月の心ない言葉が突き刺さった。
 ビクビクと瀕死の俺を、ツンツンと美月がつついている。

 「なに、フラれでもしたの?」

 俺の肩がビクッとなる。

 「え? マジ? なに、生意気な!」

 いやな予感がした。

 「この、リア充•••」
 「もう爆発したから」

 最後まで言えなくて、むむむ、となる美月。
 ふっと肩の力を抜くと

 「なるほどね。オタクだからってフラれたわけだ」
 「••••••。」
 「彼女なんか作っても人間強度が下がるだけだよ」
 「主人公、結局ハーレム維持しつつ、ガハラさんと付き合っているじゃねーか!」
 「じゃあ、吸血鬼にでもなれば、鬼いちゃん※2」

 あぁ、頭が痛い•••。
 最近また話すようになったけど、こいつは何も変わっていないよ•••。

   +++

 旅行1日目。
 宿題を終わらせ後顧(こうこ)(うれ)いなく、今は父さんの車で一路箱根へとむかっている。
 俺はミニバンの3列目に美月を押し込もうとしたが、亮太が美月の隣がいいと言って聞かなかった。亮太め、(だま)されているとも知らず、飛んで火にいるなんとやら•••。
 結局3人並んで座っている。まん中に亮太が座ってくれているのが救いだった。2人ともミニサイズなので3人並んでも余裕だ。
 母さんからもらったお菓子を食べながら、俺たちはしりとりに(きょう)じている。美月の俺への執拗(しつよう)な「り」攻めをしのいでいると、亮太はいつの間にか寝てしまった。俺によりかかっているのを、いいなぁと見る美月。
 お前、マジ変質者か!
 しっし、と手をふってハァハァしている美月を虫のように追い払う。(にら)む美月を無視すると

 「洸太、あれ、インストールした?」
 「••••••した」
 「よっしゃ、ペダル、回すっしょ!※3」

 箱根IHか•••。
 (こぶし)を突き上げる美月を横目に旅行前のやりとりを思い出していた。
 美月は母さんとゴールデンウイークで混雑が予想される中、どのように観光すればいいのかを話してたのだが•••。
 俺は知っている。
 これが美月の欲望をかなえるための計画の一端だということを。

 「すべては我々のシナリオ通りだ※4」

 ゲンドウポーズで美月が俺に言った。
 (にぎ)わってはいたが、おかげでスムーズと言っていい感じで箱根を回ることができたよ。
 ただ、両親と弟が観光を楽しむ中、俺と美月はスマホで写真を撮りまくっていたけどね。

 「洸太、見て見て!」

 青空を初号機がジャンプしていた。

 「マジか、俺も撮りたい!」

 思わず興奮してしまった•••。そう、俺たちは観光そっちのけで箱根補完計画ARスタンプラリー※5というものをやっている。さっき美月が言っていたインストールというのは、これをやるアプリのことだ。
 GPSで位置情報を取得し、ARという拡張現実データがカメラに写る、というものだった。
 何気なくスマホをかざしているとアスカが写る。アスカ派の美月に対して俺は綾波派だった。俺はちょっとしたイタズラを思いつく。

 「亮太、ちょっと」

 弟を召還すると、ポーズを指示してシャッターを切る。こちらの動きに感づいた美月がよってきた。

 「なになに?」
 「ほれ」

 俺のスマホには、アスカの胸にタッチしようとする亮太が写っていた。

 「こ、これは•••」

 あれ? てっきり呆れるか怒ると思っていた。
 あっ、と気づく。
 美月の特殊な嗜好(しこう)を一瞬忘れていた。亮太に自分も撮らせてくれと頼み込む美月の頭を後ろから(はた)く。

 「いた~い!」
 「やめろ、変態!」

 恨めしそうに俺を見上げる美月。やれやれだぜ•••。

 その後も芦ノ湖の海賊船に乗ってテンションが上がる亮太とそれを眺める両親たち••••••とは別に第5使徒ラミエルの巨大さにビビりながら、美月とヤシマ作戦ごっこをしたり、覚醒した初号機で加持やリツコさんになったりしていた。※6
 •••って、何してんだ? オタク度合いが増してないか!

 「どうしたの、洸太?」
 「いや、ちょっと自己嫌悪」
 「なに、まだ失恋から立ち直れないの?」
 「ち、違う! オタクをやめられていないからだ!」
 「ふっふっふっ、貴様は私が生み出したオタクの最高傑作! 無駄なあがきはよせ」

 ブチっ。
 俺は美月の側頭部をゲンコツでグリグリする。

 「い、痛い、それ本当にいた~い!」

   +++

 こうして1日目の観光を終えて宿に入った。ロビーには美月のお母さんが待っていて、合流できた。
 部屋割りは男と女で別れた。たぶん母さん同士で夜中まで飲むのだろう。
 とりあえず温泉を堪能(たんのう)し、夕食まで部屋でゴロゴロしていると、隣の部屋から美月の悲鳴みたいのが聞こえたが無視する。
 夕食の時間になったので食堂フロアに行くのに女部屋をノックすると、浴衣姿の女の人が3人出てきた。

 「いやぁ、美月ちゃん、一回いじってみたかったんだよね。うち男ばっかだから」
 「いつも言ってるのよ、もっと身だしなみに気を使えって。ほら、また目つき悪くなっている!」
 「そんなこと言ったって、メガネなきゃ見えないよ」
 「どう? 美月ちゃん、カワイイでしょ」

 得意気に話す母さんと美月のお母さんの間に、背は低かったが美人が立っていた。

 「ミー? カワイイ!」

 亮太は遠慮なしに美人の足にしがみつく。

 「わ、ちょっと。亮太くん? 危ないから」
 「洸太? どうした、おーい?」

 母さんの声は聞こえていたが、何にも話すことも動くこともできなかった。
 美月••••••なのか?
 長い髪が結い上げられ、浴衣姿だから?
 それともメガネ?
 いや、それだけだったら、こんなに混乱しない!
 •••そうか。
 前髪を左右に流して、めったに見ないおでこが出ていた。
 小学生でもいけるロリパワーの源は、前髪メガネだったのか。
 それがないと•••。

 「いいわねぇ、わかりやすいリアクション。洸太ったら美月ちゃんの浴衣姿にデレデレだよ!」
 「な、な、な•••」
 「本当に~」

 ヤクザみたいなガンを飛ばして俺を見る美月。
 ち、近いよ!

 「兄ちゃん、顔真っ赤!」

 なんなんだーっ、この状況はーっ!
 俺は心の中で叫んでいた。



※1 ファーストガンダム9話より
※2 猫物語(黒)、憑物語より
※3 弱虫ペダル巻島のセリフより
※4 エヴァンゲリオン2話より
※5 箱根町観光協会によるイベント
※6 一連のエヴァンゲリオンネタ

年上の幼なじみがオタクで頭が痛い 1,2話

次回は、3話 成績向上と同人誌作りの関係性 と4話 小学校運動会とショタのシンクロ率 です。

年上の幼なじみがオタクで頭が痛い 1,2話

中学生男子が幼なじみでオタクの女子高校生にふりまわされるお話です。 2人とも、まったくお互いを異性としては見ていなかったところから、気持ちに変化が訪れる1年間を書きました。 できるだけたくさんの人に読んでもらえたら、嬉しいです。 よろしくお願いします。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-01-21

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 1話 脱オタ宣言とショタ疑惑
  2. 2話 箱根補完計画と幼なじみの覚醒