黒い写真
部屋の片隅の、段ボールの箱を開けた。
届いてから、もう長いこと放っておいたその箱は、底の方に埃がまとわりついて、ひどく小汚なかった。
開けるのが怖かった。
だから、放っておいた。
かといって、捨ててしまう勇気もなく。
だから、放っておいたのに。
重い右手で、ゆっくりと箱を開ける。
生まれたばかりの。
月を追うごとに大きくなって。
丁寧に添えられた文字。
成長の喜び。
大切に綴られたアルバムいっぱいの。
娘に似た、写真の中の女の子。
写真は思いのほか、きらきらと輝いていた。
もっと暗く、薄墨をぶちまけたように黒く変色しているかと。
ランドセル。
年を追うごとに大きくなって。
芋ほり。
入学式。
運動会。
サングラス。
着物。
母に似た、写真の中の女性。
いろいろあった。
いろいろあったけど、写真にうつる人は皆、誰もが笑顔で、楽しそうで。
黒い写真は、どこにも見あたらなかった。
黒い写真