loveRain

ずっと続いていくと思ってた
これからも、この先もずっと君の隣で笑っていられると思ってた
「好き」だと伝えたら、君は私の想いに答えてくれますか?

1.springRain

「置いてかない・・・おいてかないって先生言ったのに・・・」
涙で潤んだ目を手で擦りながら愛郁先輩が言った。
私が書いていた手紙の一部を示し春樹先輩が涙ぐんだ。「ここ泣ける〜」
優真先輩は隣の教室で泣いていた。賢先輩は戸棚の一番大きなスペースに入りパタンと戸を閉めた。
大和先輩は廊下の窓から新しく出来たばかりのグラウンドをじっと眺めていた。
「みんな、なんかへんだね」
「うん」
拓海先輩は生徒会の仕事でいなかった。今朝のフレーズが私の頭から離れなかった。
『1年間、一緒にがんばってきた仲川先生ですが、昨日お亡くなりになりました。仲川先生は―』
校長先生の言葉は新学期の初めから私たちにくらい衝撃を与えた。
「水飲み行こう。」
「うん」
窓の外には出来たばかりの真っ平なグラウンドがある。
『早くグラウンドが出来ればいいのになぁー』
『そしたら、もっといっぱいサッカーできるのになぁ』
先生はいつもそう言っていた。こんなに綺麗にできたのに・・・
「グラウンド、できたのにね」
「仲川先生は、ここではプレー出来ないんだね。」
「一番ここでやりたかっただろうな・・・」
「そうだね。」
愛郁先輩と私はグラウンドをじっと見つめた。雲が灰色に染まっていく。
太陽のように優しかった先生の笑顔を思い出す。喉の奥で何かが詰まって苦しくなった。
「あっ、雨」と愛郁先輩が言う。
ポツポツと雨の雫が窓をぬらした。
黄色と白を混ぜたような色の土がだんだんと茶色に染まっていく。
空から降る雨は、私たちの涙と合わさってグラウンドを水浸しにした。

2.春色

暗い幕開けで始まった新学期。我がサッカー部にも新入部員がやってきた。
「では、自己紹介いってみようか…じゃあ、キャプテン!」
先生のその一言でキャプテンの賢斗が立ち上がる。
「3年B組 中原田 賢斗です!一応、キャプテンです!宜しくお願いします!!」
拍手が起こり、恥ずかしそうに賢斗が笑った。
「じゃあ、次 たくみね」
「3年C組 佐々木 拓海です!副キャプテンで、生徒会長です。よろしくお願いします!」
トクンと心が踊る。拓海の声を聞いたからか、それとも自分の番が近づいているからか・・・
『じゃあ次は、アイだな!』
急に聞こえたその声に驚いた。思わず椅子を倒してしまった私に拓海が小さな声で『ばーか』と言ったのが聞こえ、少しだけ睨んだ。
「えっと!ナガラです!あ、流良 愛郁です!3年A組です!よろしくお願いします!!」
「よーし。じゃあ次の人・・・」

自己紹介終了後、部活の大まかな内容を説明し、新入生の自己紹介をして今日が終わった。
「結構来たね!新入部員!!」
と、嬉しそうに小春が言った。
「新入部員かぁー。もう2年生なんだなぁー」
と、琴音が言うと「そうだねぇー」と結花と小春が揃えて言った。
悲しい幕開けで始まった1年。でも、前を向かなければいけない。
太陽が空にあるように、先生だってきっと笑っているはずだから。
「頑張って高体連勝つぞー!!」
『おー!』
「突然すぎるよ〜あっちゃん!」と、小春が言うと琴音と結花が揃って笑った。私も笑った。
もう桜が咲いていた。春がもうそこに来ていた。

帰り道の恋模様

「おら!もっと声出せ!!そんなんで中体連勝てると思ってるのか!!」
いつもに増して真剣で、そして鋭い監督の指摘。
来月に迫った中体連に向けて辛くなっていく練習。みんなの顔も必死さを日に日に増していく。
『負けられない』
私だって試合に出たい。怪我をしてから特別メニューを仲川先生に組んでもらっていたけど、もう仲川先生はいない。今までの練習の成果と、先生へのありがとうを届けるために私は頑張る。
「30分間走いくぞー!」
『はい!!』
みんなの声が空に響いた。

―拓海said
「はぁー・・・疲れた」
「だねー。でも、拓海凄いよ…めっちゃ速かったじゃん!」
「愛郁だってケガ治ったばっかなのに頑張ってたじゃん!」
帰り道。今日の練習の反省をしながら愛郁と歩いた。いつもは賢斗もいるのに何故か今日は2人だけでなんだか不思議な感じだ。
「中体連頑張ろうね!拓海!」
「あぁ!もちろん!!」
そうだ。頑張らなくちゃ・・・先生のためにも、自分のためにも
『負けられない』
絶対に勝ってやるんだ!!

―愛郁said
「じゃあね。愛郁」
「バイバイ」
帰る方向が逆なのがこんなにつらいなんて思ったのは初めてだった。
いつもは3人で歩いている帰り道。でも、今日は2人だけで歩けた。
嬉しい。
賢斗は車で帰ったらしい。いつもならずるいって思うけど、今日は拓海と帰れたから・・・まあ、許してやろう。
私は拓海のことが好きだ。初めて見た時から。2年間一緒にサッカーして、一目ボレが確信に変わっていった。
今年で最後になる部活動。中学を卒業したら拓海とは離れてしまう。だから、今年が最後のチャンスだ
『告白』する。そう決めた。私は頑張るんだ
中体連で勝って、先生にありがとうを伝えて、拓海にもちゃんと、言うんだ。
「よし・・・がんばるぞ!!!」
全部ぜんぶやって見せる。
帰り道。いつもと変わらずに綺麗な海がゆらゆらと波打っている

summer rain

湧き上がる歓声。雨の中ビシャビシャになりながら必死に戦う勇ましい姿。やっぱり好きだって思った。かっこいいなって思った…
「がんばれー!!」
「行けー!!」
ピッピッピーッ
試合終了のホイッスル。最後に拓海のけったボールがコロコロと健人の足元に転がった。健人は悔しそうにそれを見つめていた。
相手チームの喜んでいる様子がただ、ただ、雨音を割いていた。
悔しかった。何も出来なかった。
「試合に出せなくてごめんな」と、山下先生が言った。その言葉がただひたすらに私たちの敗北を示していた。
「おつかれ、愛郁。」
「拓海こそ!おつかれ・・・」
私が手渡したタオルを目元に当て、涙を隠した拓海。雨に濡れるのを気にせずにただ呆然と立ち尽くす大和。
「...仲川先生。」と悔しげに賢斗が呟く。
みんなが賢斗を見た。そして、全員がこらえていたものを溢れさせた。
『仲川先生に勝利を届ける!』
そう誓って試合に望んだのだ。試合に出ていない私も、ベンチで控えていたメンバーも皆、悲しそうに俯く。
「みんな、そんなに落ち込むな。仲川先生はきっとお前らの頑張りを讃えてくれるはずだ。いや、讃えてくれる!誰よりもお前らの頑張りを知っている!」
その山下先生の言葉で私たちは仲川先生の言葉を思い出した。
『努力は必ず報われる。お前達が努力したらきっと一番になれる!どんなにうまい選手でも努力しなければ実らない。お前達の頑張りは必ず実を結ぶ。お前達はやれる!今までの成果を存分に発揮してまず楽しむ!それからだ。』
サッカーを楽しむ。先生が何よりも大切にしていたものだ。『好きじゃなければやらないだろう?お前達がここまで続けてきたのはサッカーが好きで、楽しかったからだろう?』
好きだから頑張れる。楽しいからもっとやりたいと思う。上手くなりたいと努力する。
私たちの流した汗は、涙は無駄ではない。
「翔!優人!来年は絶対勝てよ!任せたからな!!」
涙を振り切り賢斗は笑顔で言った。翔と優人は
「はい!!」と気合を入れて返事をする。私たちは負けた。でも、ただ負けた訳では無い。
来年は出れないけれど後輩に託そう。私たちの想いを。仲川先生の教えを。
夏が過ぎていく。雨雲とともに過ぎていく...

5.歓声

「愛郁おはよう。」
いつも通りの朝。拓海がいつものようにおはようと言う。私も「おはよう。」と返す。
いつもと変わらない。変わらなさすぎてつらい。
私の恋はもう、終わりにしなきゃいけないのに...

―1週間前
「はぁー...疲れたぁー」
「30分間走はつらい...」
「ほんとなぁー」
拓海と賢斗と並んで帰った。

loveRain

loveRain

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-01-19

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  1. 1.springRain
  2. 2.春色
  3. 帰り道の恋模様
  4. summer rain
  5. 5.歓声