空き

水面にぷかぷかと浮いていた。
何も身につけず、大の字に開いた体はプールに浮いたまま動けなかった。ただ腹を上に向けて浮かぶことしかできない。

服や食べ物がプールサイドから飛んでくる。ゆったりと近づいてきて、体の周りに漂う。触れたと思うと、いつの間にか消えていた。

プールサイドにはたくさんの人がいた。先程までいなかったが、何やら話しかけてくる。私も応えるが、ただ声をあげているだけだ。

プールの水が少し減った。顔を精一杯横に向けると、確かに水かさが減ったのがわかる。プールの中の壁が見えていた。そこには文字のようなものが書かれていた。読めないが、文章のようになっている。

体が大きくなったようだ。首を動かせないから全体は見れないが、手が大きくなったのは確認できる。手はふやけたような色になっていた。

水はさらに減っていた。プールの壁が空に向かって伸びていた。それと同時に、壁がこちらに近づいていて、プールが狭くなったようだ。

手足が先程のように動かせなくなっていた。それもそうだ、これだけ水に浮かぶことしかしなければ、体が鈍るというものだ。それに食べ物も投げ込まれなくなった。動かせなくなるのも当然だ。

水はもう無くなりかけていた。背は底につき、プールの壁は高くそびえている。
かなり狭くなったようだ。もう壁は肩につくようになっている。

なにやら壁の外が騒がしい。歌のようなものも聞こえる。
何か投げ込まれた。花だ。水のない底が花で覆われてきた。私の頬にも花びらがかかっている。

体がもう動かない。あれだけ水をたたえていたプールは干上がり、壁は我が身を圧迫するかのように狭い。花は相変わらず私の周りを囲っていた。

今まで感じたことのないものを感じた。

これは火か。これが火というものか。

壁も焼け落ち、花も炭となり、体が黒ずんでいく。水の枯れ果てたプールは火に屈し、ガラガラと焼け落ちる。ああ、水があれば火など消せるのに。

何もせず浮かんでいた罰が下ったのだ。

いつのまにか火は止み、周りには何もない。
相変わらず腹を上に向けて浮かぶことしかできないが、わかったことがある。


次は、死なないようにしよう。

空き

空き

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-01-18

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