名階可岳先生の化学授業(理論)

ヘスの法則

「苦手な人多いよねえ。だけど、順序立てて覚えて行けば怖くない。『代入法』が分からないという人のためにも、連立方程式で式を組み立てるやり方を教えるからね。」

①まずは「ヘスの法則」とはなにか?
 できる前と後の物質が一緒なら、途中どんな物質に変わろうとも、発生(あるいは吸収)するエネルギーは同じである。
 つまり、C(炭素)+O₂(気体)=CO₂(気体)+100kJ
という式があったとする。(わかりやすくなるように、熱量はキリのいい数字にしてます。)
 そうすると、C(炭素)+O₂(気体)→CO(気体)+50kJ→CO₂(気体)+50kJ
となり、「どちらも合計は100kJ」ということになる。
 これが「ヘスの法則」だ。
 経路がかわっても、方法が変わっても、できる前と後での物質が一緒なら、発生するエネルギーの総量は一緒だ。


②次に、熱化学方程式の書き方
 注意!普通の化学反応式とは違います。
 これは「熱化学方程式」と呼ばれる別物で、もしも同じように書こうものならバツが付きます。
・矢印(→)ではなく、イコール(=)を使います。
・主成分の係数を「1」にするため、中途半端な分数が出てくることがある。
 たとえば、1/2O₂とか、1/2N₂とか。
・状態を()つきで書く。気体の場合は(気)。個体の場合、(固)とか。
・水に溶かすときには「+aq.」と書く。
 水に溶かした塩NaClは例えば、「NaCl aq.」。


③横線のたくさん入った「エネルギー図」がでてくる。
 このエネルギー図は、エネルギーの上下関係を表している。
 上に行くほどたくさんエネルギーを持っていて、下に行くほど少ない。
 だから、熱を発散して持ちエネルギーが少なくなるほど下に行き、熱を吸収して持ちエネルギーが多くなるほど上に行く。原子の状態は基本一番持ちエネルギーが多く、分子になったり、さらに化合物になったりするほど、持ちエネルギーは少なくて済む。だから下の方に行く。
(人間もそうだけど、孤独なほど生きるのにたくさんエネルギーが必要だという事だな。)


④次に用語の紹介。「~エネルギー」の名前を覚えよう。
これが区別できていないと熱化学方程式が書けない。そして熱化学方程式が書けないという事は、「ヘスの法則」を利用した熱量の問題が解けないという事になる。

このエネルギー、語句の意味からして問われます。ちゃんとおぼえること!
・生成熱=最も安定な単体(分子)→物質1mol
・燃焼熱=1㏖が燃える時に発生するエネルギー。もちろんO₂との結合です。
・溶解熱=水(溶媒)に溶かす。
・中和熱=水1molができる酸と塩基。
・結合エネルギー=Cl- Clなら、気体状態で、Cl1個につき1個これがある、という事になります。H₂Oなら、H-Oの結合が、2つある。


ここから下はややマイナー
・イオン化エネルギー=吸熱 陽イオンになる。エネルギー多くなる。
・電子親和力=発熱 陰イオンになる。エネルギーは少なくなる。
*e-(電子)を持つと、エネルギー段階は下がる。取られると上がる。
・水和熱=気体1㏖が水に水和。
・蒸発熱=蒸発した時の吸収エネルギー。
・凝縮熱=凝縮の発生エネルギー。
・融解熱=融解に必要なエネルギー。
・凝固熱=凝固の時の発生エネルギー。


⑤そしていよいよ式を連立させて解く方法。
Q:メタンの燃焼熱を求める。
手掛かり:メタンの生成熱は100kJだ。
     二酸化炭素の生成熱は400kJだ。
     水の生成熱は200kJだ。

それではこれでどうやって解くのか?
まずは手掛かりから式を書きます。どちらも生成熱なので、最も安定した物質からできる1㏖できる時の式にする。

・C(黒鉛)+2H₂=CH₄+100kJ(A)
・C(黒鉛)+O₂=CO₂+400kJ(B)
・H₂+1/2O₂=H₂O(液)+200kJ(C)

はい。手掛かり完成です。
つぎに、作りたい式を立てる。

CH₄+2O₂=CO₂+2H₂O(液)+QkJ(D)
この「Q」が知りたい熱量です。

この式を作るには、Aを左辺右辺を逆にしないといけません。
CH₄+100kJ =C(黒鉛)+2H₂(A1)
でもこれだと熱量が左辺に来るので、移行して右辺に持ってきます。
CH₄=C(黒鉛)+2H₂―100kJ(A2)

はい、これでOKです。
あとは、作りたいDの式に係数を合わせて、順次足していくだけ。
そうすれば、左辺右辺で同じものが消えて、作りたい式ができます。
A2+B+2×C
=CH₄+C(黒鉛)+O₂+H₂+1/2O₂=C(黒鉛)+2H₂-100kJ+CO₂+400kJ +H₂O(液)+200kJ

左辺と右辺で同じものを消すと、
CH₄+2O₂=CO₂+2H₂O(液)+QkJ
はい、みごとDの式ができました。

だから、Qも求まります。
Q=A2+B+2×C
=-100+400+2×200=700kJ
Qは700kJだという事がすぐに分かります。

結合エネルギーでも、中和でも、燃焼でも何でも、こうやって「作りたい式に合わせる」方式で解けます。
 単純に「作りたい式と同じ物質が同じ側にあればプラス、違う側にあればマイナス、そして係数は合わせる」という方法でも、慣れてくるとやれます。

気体

前置き
「こんばんは~。今日は気体やります。」
「いきなりですか?普通基礎から順番にやりませんか?」
「時間があまりないから、苦手なところから順番に行く。」
「それ順番って言いませんよ~。」
「そうだ。この前言い忘れたことがあった。これを聞くとみんなやる気出すんだ。うー、オホン。
『化学の得意な男子はもてます。』」
「ほんとですか~?(゜_゜)」
「本当だよ! バンドで楽器が引けるのと同じくらいもてるんだから!数学できたり物理ができたりするのは、ちょっと気味悪がられるけど、化学はもてるんだ。何か発明しそうな感じがするのかな。だから頑張れ。」
「もてなくてもがんばりますよ。化学受けられなかったら、大学入れない…。で、先生彼女いるんですか?」
「(._.)それがさあ…。化学は付き合った後まで助けてくれないんだよね…。女性って難しくて…。(;_;)」
「すみません。聞いた僕が悪かったです。授業お願いいたします。」


本論
「はい、まず気体の状態方程式から。言える?」
「ああっと・・・。PV=RnT…あってます?」
「あってるよ。これが出てこないと気体問題は全然解けなくなるから、僕のごろ合わせも一応教えておこう。
『NTTのうえにポストヴォフィス(PV)がアール』 PV/nT=R
テスト中にさっと出てくるごろ合わせを選ぶんだよ。僕のを使うなら、NTTの上に、郵便局の入っているビルをイメージしてね。
 気体の状態方程式のすごいところは、この5つの記号のうち、4つが分かっていれば、残りの1つの数字がはじき出されて出てくる、と言う所だ。
 だから、出したい記号を左辺に持ってくる。気圧ならP 体積ならV 物質量㏖ならn 温度なら絶対温度T(ふつう温度に足すことの273℃ね。これも絶対覚えて。僕は「ツナサラダ」ツナサで273と覚えてるよ。)を左辺に持ってきて式変形する。後は、代入していけば出る。
 4つの数字が分かっていないなら、気体の状態方程式の完成形じゃなくて、一部か別の何かを使うってことだからね。
 Rは大抵問題で与えられている数字を使う。単位に注意して。時々圧力を㎩でなくて、atmを使っているひねくれ問題があるから。単位はそのまま式の通りに書くのね。」
「PV/nT=R 『NTTのうえにポストヴォフィス(PV)がアール』の気体の状態方程式と、
絶対温度「ツナサラダ」で273ですね。」
「うん。ちなみに絶対温度は、物質が振動を止める究極の零度だと言われている。実際には、超電導で電気抵抗が消滅する不思議現象が起こる不思議ワールドだけどね。
 とにかく正確な計算には、水の凍る温度を零度、沸騰を100℃と、人間世界の生活に合わせた温度設定のしてある普段使いの温度ではなく、物質世界の零度を使うんだ。」

 それから、他の数字がすべて同じで、二つだけ、あるいは三つだけが変わるときは、その二つだけ、三つだけを計算することもできるんだ。
 これが「ボイルの法則」「シャルルの法則」「ボイル・シャルルの法則」と呼ばれるけれども、要は変わる数字だけを変えるってことなんだな。残りはみんなおんなじだから。
「ボイルの法則」:PV=PV
「シャルルの法則」:V/T=V/T
「ボイル・シャルルの法則」:PV/T=PV/T



補足①分圧について
 これは㏖比に比例する。
 容器の中を、㏖比に応じてきっちり種類別に気体が詰まっているのをイメージして。
 圧力がかかれば、その分きっちり詰まった、でも割合は一緒の気体になる。
 圧力が少なくなれば、その分スカスカの、でも割合は一緒の気体になる。
 分圧比と考えてもいいよ。

補足②飽和蒸気圧について
 これは容器の中に、とけるけど固い飴玉が入っているのをイメージして。
 「水の飽和蒸気圧は~Paである。」これはつまり異物なんだ。
 だから、全圧の計算をボイルの法則でやるときなんかも、これは計算に入れず、後から引いたりする。
 どれだけ圧力が上がろうが下がろうが、これ以上の圧力にならない。それ以上の圧力下では水になるからね。
 でもとても低い圧力下で、㏖比から言っても全体より少ない、という時は、これより低い圧力になり得る。つまり異物が小さくなる。
 で、飽和蒸気圧まで行くか行かないかは、それぞれ計算して決める。

補足③連結器の問題
 よくあるよね?連結器。特に「片方が227℃でもう片方が7℃。そして圧力は同じだが圧力は?」この問題が特に難しい。
 こういう問題は㏖数を使って=でつなぐんだよ。
 どんなに圧力を上げようが、温度を上げようが、㏖数は変わらない。
 だからこういう時は、㏖数を頼りにしてそれで等式を作るんだ。

平衡①

「平衡は高校化学の中で一番わかりにくい。だからそのつもりで用心して。」

 平衡について
・まず平衡とは何か?
aA+bB ⇄ cC+dD

これで→と←の速さが同じ結果、見た目は止まっているように見える状態。

ポイントは「反応が起こっているにもかかわらず元のままでいる怠け者がいる」という事。
つまりこの状態は、完全には進行しない中途半端な反応で起こる。
「塩酸」や「水酸化ナトリウム」では、完全に進行するので起こらない。

起こるのは、
・弱酸・弱塩基の電離(電離しない物がある)
・塩の加水分解(電離するのとしないのがある。特に緩衝液の塩では。)
・緩衝液の緩衝作用(酸や塩基を入れてもH⁺やOH⁻にならずに他のとくっついてしまう。)
・共通イオン効果
などがある。

平衡状態の中では、三つや四つのイオンが存在する。(いくつかは式による)
つまり変化形と元の形が仲良し状態になっているのである。

しかもこの止まっている時は掛け算にするとなぜか一定値を示す。
(温度が同じなら、触媒を入れようが一つを足してみようが常に同じ値を示す。)

この定数をなぜかいつもKであらわし、このKを「平衡定数」と呼ぶ。

1A+2B→3C+4D
とすると、

K=
[C]³×[D]⁴
―――――
[A]¹×[B]²

となり、
この[ ]は、濃度(㏖/ℓ)と使う「濃度平衡定数」と、
分圧(㎩)を使う「圧平衡定数」があり、
それぞれ単位は違うが、意味するところは全く同じである。
なぜなら、分圧はすなわち、一リットル中に入っている㏖数の割合という事だし、濃度も同じだから。
気体の時は㏖数よりも㎩を使う方が解きやすいからそうしている。
(濃度の時はKa  圧力の時はKp  と書くことが多い。)

そして気を付けるのは単位!
Kの単位はその時によって違う。

上で使った、 K= [C]³×[D]⁴(右辺)/[A]¹×[B]² (左辺)
この式でのKは、それぞれが㏖/ℓで、計算してみたら、
(㏖/ℓ)³/(㏖/ℓ)⁷で、すなわち、1/(㏖/ℓ)⁴ということになる。
だからこのときのKの単位はこう書ける。
→(ℓ/㏖)⁴((㏖/ℓ)をひっくりかえしたのの4乗)
もしも上下で(㏖/ℓ)の数が同じなら、その時は「単位なし」定数のみ。


それでは用語の説明
・まずは「[A]」この[ ]ってなんだろう?
これは普通は濃度で、(㏖/ℓ)をあらわす。
つまり100mlでも、500mlでも、2ℓでも、すべて1ℓに直して計算しなければ、数値が違ってくる。

・「電離度α」
電離度にはたいていαをつかう。
弱酸などで、αは、「濃度中の電離する割合」(つまり電離しない物があるから。)
電離しないのは、元の濃度をCとして、C(1-α)として計算する。
時には(1-α)≒1(電離度があまりにも低いから。酢酸とか。)として計算できて、計算がとても楽な時がある。

そして注意しておかなければならないが、
電離平衡では、Kは「電離定数」で、αは「電離度」
名前はそっくりだけど違うものである。


[水のイオン積]
水は温度にもよるが大抵
[H⁺]×[OH⁻]=10のマイナス14乗
となる。
 つまり、H⁺の濃度が低ければ低いほどOH⁻の濃度は高くなり、
逆も言える。

だから「pH」ということができる。
「pH」とは、すなわち、pH=㏒[H⁺]
[H⁺]の濃度が小数点以下何桁で計測できる濃度か、ということであり、
一桁ならpH=1 つまり[H⁺]が多い。
12桁なら、pH=12 つまり[H⁺]がすくなくてその分[OH⁻]が多い。

そして、両方が同じなら、つまり両方10のマイナス7乗なら、「pH7」
「中性」という事である。



「緩衝溶液」について

 水酸化ナトリウム+酢酸→酢酸ナトリウム+水
 アンモニア+塩酸→塩化アンモニウム+水

こういう中和の時に、でてくるのが「緩衝溶液」
できた「酢酸ナトリウム」や「塩化アンモニウム」のおかげで、多少の酸や塩基をくわえても、pHが変わらないという特徴を持つ。
 pH=㏒[H⁺]だから、
つまりはH⁺(水素イオン)またはOH⁻(水酸化物イオン)の濃度が変わらないという事になる。
 
 それがどうやって起こるのか?平衡定数を用いて説明すると、

例)水酸化ナトリウム+酢酸→酢酸ナトリウム+水
化学式で書くと、NaOH+CH₃COOH→CH₃COONa+H₂O

このCH₃COONaの入った溶液に酢酸を入れてもpHはあまり変化しない。

酢酸の電離式は
CH₃COOH→CH₃COO⁻+H⁺

「化学の問題は読んだら何でも化学式で書くのが基本。そうすると㏖比も分かるしね。」

平衡を表すと、
[CH₃COOH]  ⇄ [CH₃COO⁻]+[H⁺]

K=
[CH₃COO⁻]+[H⁺]
――――――――――
[CH₃COOH]

つまりはこれが定数になる。
と、いう事は、[CH₃COO⁻]を増やせば自動的に[H⁺]も減る。
これが緩衝溶液の基本である。

*[CH₃COO⁻]が増えると(つまり水酸化ナトリウムが入ると)、入れた酢酸は電離できずに、全て[CH₃COOH]の形になる。つまりは、[CH₃COOH]=C㏖/ℓ(つまり入れた分だけ分母の濃度にすればOK) 計算が楽、という事になる。

「塩の加水分解、共通イオン効果、弱塩基/弱酸遊離の問題もある。けどそれはまた今度。(できるかわかんないけど。)」

名階可岳先生の化学授業(理論)

名階可岳先生の化学授業(理論)

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-01-17

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  1. ヘスの法則
  2. 気体
  3. 平衡①