初めて記念日
三題話
お題
「逆さま」
「青」
「記念日」
「今日は僕達の『初めて記念日』になるね」
「んー、んー」
彼女は猿ぐつわをされているから喋ることはできないけれど、僕の言葉に喜んでいるようだ。
両手両足をロープで固定された彼女が体を揺らして、ベッドがギシギシと音を立てた。
真っ白で綺麗な肌にロープが食い込んで赤くなっている。
それを見て僕は、興奮している彼女を落ち着かせるために、顔を近付けて優しく頬を撫でた。
「ほら、そんなに動くと痛いだろ」
「んんー」
チワワのように潤んだ真っ黒な瞳の中に僕が写り込んでいる。
小刻みに震える様が、とてもかわいらしい。
「こわくない。こわくないよ」
「んー!」
彼女の柔らかな黒髪を一房手に取り、鼻に押し当てて胸一杯に息を吸い込む。
鼻腔をくすぐる彼女の芳香は、僕の頭をくらくらと蕩けさせる。
僕と同じシャンプーを使っているのに、別の香り。それは当然彼女自身の香りであるということ。
匂いも含めて、彼女の全てを愛している。
僕こそが、誰よりも彼女を愛している。
愛し合っている。
「さあ、始めようか。僕も初めてだからうまくできないかもしれないけど」
…
まずは首筋。僕は軽く唇を這わせて、その細い頸を甘噛みする。
美しい鎖骨の曲線が僕を更に興奮させる。
その下にある二つの膨らみは申し訳程度で彼女はそのことを恥じていたが、僕はこれくらいがちょうどいいと思う。
真っ白で綺麗な肌にお似合いのマシュマロのような感触。思わず顔を埋めたくなるが、それを堪能するにはサイズが足りないようだ。
とんとん、と肋骨が作る波型を指でなぞりながら、僕は彼女へ声を掛ける。
「ほんと、君は世界一かわいいね」
「…………」
大きく目を見開いて、僕を真っ直ぐ見詰めている。
口に猿ぐつわをされていて呼吸がしづらいのか、ふがふがと鼻息が荒くなっている。
涙目で、鼻の穴が広がっている。
少しブサイクになったその顔も、とてもかわいい。
僕が笑いかけると、彼女は大人しくなった。
そして、彼女の無防備な下腹部に先を押し当て、ゆっくりと挿入した。
ずぶずぶと今までに体験したことがないような感触。
激しく暴れる彼女。空いた手で胸を押さえ付ける。
ロープでベッドに固定していて良かった。
ざくざくと抜き挿しを繰り返すたび、彼女の身体は暴れ続けた。
薄い青色のシーツが、真っ赤に染まってゆく。
彼女の真っ白な肌が醜く汚れてゆく。
僕は彼女の顔を覗き込んだ。
大きく開かれた両目。
黒い瞳に宿る精気が、徐々に消えてゆく。
綺麗に澄んで輝いていたのに、それがなくなってゆく。
びくんと大きく身体が跳ね上がって、ようやく痙攣が治まった。
その瞬間、僕も一緒に果てていた。
今までに感じたことのない、激しい快感。
本当にこれまでの人生はなんだったんだと、頭の中が逆さまになって全ての常識が裏返ってしまったように感じた。
コレが、ホンモノ。
やっぱり空想だけでは飽き足りない。
彼女の身体は赤と白。
実におめでたい配色ではないか。
その後、彼女は動かなくなり、声も上げなくなった。
僕は右手に持つナイフを投げ捨てて、彼女の身体を抱きしめた。
「おお、ごめんよ……やっぱり初めてだから、痛かったよな……」
付き合い始めて一ヶ月では早すぎるかなとも思ったけれど。
こんなに良いものならもっと早くても彼女は許してくれたかもしれない。
僕は大きく息を吐く。
まだ興奮は収まりそうになかった。
初めて記念日