牡丹一華
同棲を始めてから
2人で選んで買った初めての雑貨。
今ではもう見たくもない、
繊細な作りをした花瓶に花を挿した
外はまだ雨が降っていた。
「…うそつき。」
呟いた言葉は床に落ちて
すぐに溶けて消えていく。
「夏希」
「うそばっかり、ずっと、ずっと。」
「ちゃんと聞け」
「嫌だ聞きたくない、顔も見たくない。」
「美嘉が今から家に来る、お前に謝りたいらしい。」
リビングのカーペットには
血痕と涙だけが残されている。
「お前だけだ、って言ったじゃん」
「それは、」
「言い訳なんか要らないって何回言えばわかるの?」
嘘ばっかりだ。
今の言葉も、過去の言葉も。
私はいつも等身大で
そのままで、ぶつかっていたのに。
「もう、いい。」
ポケットにいれたままの小型ナイフを
右手で形を確認するように握った。
足音と、水音が少しずつ近づいて来る。
「俊也のことは、許すから。」
聞き慣れた呼び鈴が響いた後に
ドアノブが回った。
踏みにじられた花
劈く悲鳴
赤い染み
割れた花瓶
それだけが、玄関に残った。
牡丹一華