龍の音、鬼の夢
続きます。
夢《序》
闇を抱えた岩屋の中。
燈籠のぼんやりとした明かりが、二つの影を岩壁に映し出していた。
一つは小さな少女のもの。
もう一つは、二本の歪な角を備えた男のものだ。
少女は真剣な面持ちで、その小さな口を開いた。
「――約束」
少女が右手をキュッと丸め、小指だけを立てる。
「責任とって、私のことお嫁さんにするって約束して」
差し出された小指とその言葉に、異形の男は目を一瞬丸くしてから苦笑した。
くつくつと笑うと、すっと目を細めて男は言った。
「鬼の愛は激しい……後悔をするなよ?」
「■■■さんのお嫁さんになるのに後悔なんてしないよ」
きっぱりと少女が言い切る。
その様に再び男は苦笑し、その武骨な小指を小さな小指に絡めた。
途端、少女は離すまいとでも言うかのように、ぎゅっと小指に力を込めた。
ふるりとした唇が、歌を紡ぐ。
「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ますっ、指切断!!」
「……」
男はとても微妙な顔をしたが結局何も言わず、少女の頭をなでるにとどめた。
少女の頬が赤く染まる。
優しい闇を抱えた岩屋の中には、幸せそうな、密やかな声。
今から300年程前のことである。
龍の音、鬼の夢