あなたへと綴るラブレターの中で、わたしはあなたを殺してみた。

あなたへと綴るラブレターの中で、わたしはあなたを殺してみた。

――ずっと一途でいること、そういられることは、とても幸せなことかもしれない。でも時には離れていってしまうこともある、悲しいことだけれど、でもきっとそれは、どちらも尊くて、だからこそ痛くて、苦しくて、切なくて――

……とまぁそれはそれとして?!

絶賛上映中……じゃなくて同棲中の律と結月、そして律は決断する……これって本当に決断してる?、どうなってるのっ?!

死して屍拾うもの無し?、ていうか単なるただのしたたかな女性のお話?

…… oh !! hummingbird ?! 、て、突然何?!

ほら、ここで君が笑ぁうシーンが見どころなんだからさ Ah~♪……はぁ?

……え?、嘘だったの?、今日って“わたぬき”じゃないよね?……てか、弄ばれてる?

旋律を結ぶ片見月

 ――同棲して1年半、ようやく俺も決心がついたか……でも、ユヅがまだ若いっていうのも、ちょっと先延ばしにしてた理由、ってそんなのはこれまで勇気を出せなかった言い訳に過ぎないよな……今日の夜中には、ユヅ20歳(はたち)になるのか。

 そんなことを思いつつ、(りつ)は鞄の中の婚約指輪を再度確認し、玄関の戸を開けた。

『ただいま、ってか真っ暗』

 ――どっか出掛けてるのかな。

 電気はつけるが、先程の緊張その他は一旦寝かしつけた。

 ――そうだ、ちょうど12時にって考えてたけど、帰ってきた瞬間(とき)いきなりサプライズっていうのも、アリかもな。

 他にも妙案はないものかと、妙なニタニタ顔を浮かべ、部屋に入る。

 ――ん?、これってこの部屋のスペアキー、だよな……

 ローテーブルにはその鍵と、その下に何かのDVDが置いてある。

 ――なんで?、まさか冗談だろっ?!

 慌てて部屋中を引っ掻き回す。彼女の所有物は、髪の毛の1本すら見当たらない。

 次は当然、電話を掛けた。

 “お掛けになった番号は、現在つ、ツーーツーーツーー”

 当然、ここは今一度掛け直すのがセオリー。

 “ツーーツーーツーー”

 ――2回で諦めるとでも思ってんのか、ツーツー言いやがって。

 当然受け入れられず、その後はただ鍵を眺める。

 ――でも、普通置き手紙くらいはしていくもんだろ……

 手紙はない、謎のDVDはある。

 ――“憂愁(ゆうしゅう)*”、こんな古めのやつ借りてたかな?

 この流れなら、大抵の演出家は、律にDVDを()させるだろう。

 無論、律はその映画を観始めた。

 何かの手掛かりでも、探すかのように……


  ○●○●


 ――俺もこのアルマンドみたく、ずっとピアノ弾いてた頃があったな……それにしてもこのマルガリタの想いは、あまりに切なくて、こんなにも(はかな)くて……それで最後には、河に身を投げるなんて……

 ――まさかユヅも、何か重い病気を(わずら)ってて、それで……でも、いくらなんでもそんなっ!!

 気付けば律は、慌てて部屋を飛び出していた。

 ――ユヅ、何処だっ?!、何処にいるっ?!、ユヅ、ユヅ……せめて一目(ひとめ)でいいから、もう一度君に……ユヅ、それでも俺は君と……

『ユヅーーーーーーっ!!』

 闇夜に響いたその声は、微結晶へと変化し、周囲の(あか)りを僅かに反射していた。


  ◇◆◇◆


結月(ゆづき)さん、今からリハーサルお願いしまぁす』

 とある番組のADが、結月の楽屋に、ひょこっとだけ顔を出した。

『はいっ、宜しくお願いしまっ、すぶ』

 その様子に、結月の担当マネージャー中辻(なかつじ)は、敢えて徐に声を掛けた。

『結月ちゃん、ちょっと硬くなりすぎ、リラックスリラックス』

『だって中辻さん、私、初めてのテレビ出演が生放送なんですよ、もう、“ぷ”るえちゃいます』

『ハハハ、(なに)ぷるえるって、なんか丸いのくっ付いちゃってるよ、じゃぁリハ終わったらさ、もう一回発声やっとこうか』

『はい是非とも、だって本番でもし声裏返ったりなんかしたら、私デビュー取り消しもんですよぉ~』

『そんな大袈裟な、大丈夫だよ結月ちゃんなら、ここまで頑張ってきたんだから』

『はい、とにかく心を込めて、歌います』



 ――律、本当にごめんなさい……でも、やっと念願のメジャーデビューが決まったんだ。私、何も告げずに出ていっちゃったけど、いつかきっと、私のこと何処かで観てくれる日が来るはず、その時、その姿を観てくれた律なら、分かってくれるよね、だって、ずっと(そば)にいたんだから……ちょうどこのあとの生放送、観てくれてたらいいんだけど、そういえばあの間違って借りてたDVD、ちゃんと返してくれたかな……



 ADに案内されながら、結月はふと別のスタジオに目がとまり、その出入り口の丸窓からチラッとだけ、中の様子がうかがえた。

『中辻さん、ニュース撮ってますよ、わっ、あのアナウンサー見たことあるっ、わぁ、ほんとにテレビ局なんだって実感するぅ~』

『結月ちゃん、ニュースもたぶん生放送だと思うから、いくらちょっと離れてるからって、あんまりはしゃいじゃダメだよ』

『んあぁ、そうですね、すみません……』

『結月さん、入られまぁす』

『宜しくお願いしまぁす』

 ――遂に始まる。私はこれからもっともっと、()ばたいていくんだ。

 それから間もなく、流れ始めたイントロの呼吸が、これから披露される歌声へのカウントダウンを始めていた。


  △▲△▲


「――では、次のニュースです。今日深夜、荒島区豊川交差点にて乗用車が歩行者と接触する事故が発生しました。乗用車の運転手に怪我はなく、歩行者の方は意識不明の重体だということです。その方に所持品がなかった為、現在、身元の確認を行っているとのことです」



憂愁*
フランスの文豪アレクサンドル・デュマ・フィスの名作“椿姫”を原作とする、本邦公開のアルゼンチン映画としては初の本格的劇映画(1955年)。

月経を結ぶ律儀者

『やったぁ、私にも書けたぁ』

『ん?、何々(なになに)?、何が書けたの?』

『うん、あのね、ちょっとネットに載せてみよっかなって、プチプチ小説』

『プチ小説?、へぇ、ちょっと俺にも見せてくれよ』


  □■□■


『……これって俺、ラスト死んでるよね?』

『ほっ?、なんで、生きてる生きてる、だってほら重体だから、だいじょぶだいじょぶ』

『にしても、ちょっと複雑な気分だな……ていうのもこの内容自体がさ、その、なんか俺、かなりプレッシャーかけられてるような……』

『へっ?、プレッシャー?、一体なんのこと言ってんの?、よっくわかんないんだけど』

『わかんないって……てか、こないだだってほら、テーブルんとこ置いてたよな、ゼ◯シィ』

『ひょ?、そう、だったかなぁ』

『そうだよ、ところでさっきからその“は”行リアクション、それってわざとだよな、まぁそんなことよりこのプチ小説、これってもう確信犯ってやつだろ?』

『はぁっ?、何よそれ?、人を罪人(つみびと)みたいな言い方して、私もう、律キライ』

 結月は軽く頬を膨らませ、近くにあったショッピングバッグから雑誌を取り出すと、それをスッとテーブルに置いていた。

 ――ん?、んぉ、おっ、おっ、おい、マ、ママンマンマ、マジか、それ、た◯ごクラブだよな、どう見てもa○anじゃねぇよな……

『ユヅ、その雑誌……』

『なんかさ、生理遅れてんだよね……』

 結月はさりげなく、雑誌のページを(めく)っていた。

 ――そっか、コウノトリが軽く鼻歌でも口ずさみながら、知らない間に勝手に忍び込んでいやがったか……でも、それってそもそも不法侵入ってやつだよな……まぁ、どうやっても捕まえることはできねぇんだけど……


  ▽▼▽▼


『ただいまぁ』

『おかえり、今日ね、中辻市場(いちば)でお肉の特売やっててさ、だから今日は律のだぁい好きなロールキャベツだお、よかったねぇ(りっ)くん、どですかぁ、うれちぃでちゅかぁ……え?、何やってんの?、律、それって……』

 律は片ひざをつき、婚約指輪の入ったケースの蓋を開け、それを結月に(かか)げていた。

『なんか、こんなベタっていうか、ありきたりな感じであれなんだけど、これから先もずっとさ、俺にそのロールキャベツ作ってくれよ』

『……うん、わかった、ねっ、ねっ、律っ、早くつけてつけてっその指輪っ、早く早くぅ』

『んぁ、あぁ……』

 律は結月の左手をそっと手に取り、微かに震える手で、薬指に指輪を通していた。

『わぁ、やったったぁ、ほらキラキラしてるよっ、律、イヒヒっ、Butterfly 今日は今まぁでぇの、どんなぁ時よぉり素晴らしい、赤い糸でむすばぁれてく、光ぃの輪のなかへ~♪』

 結月は左手を掲げながら、高らかに歌い続けていた。

 ――てか普通、こういう時ってじっとしたままポロっと涙でも(こぼ)すもんなんじゃねぇの?、なんか想像してたのとだいぶ違ったな……にしてもめっちゃはしゃいでるな、こっちはこれから先の心配事で、生活のことは勿論、やれ養育費だ、やれあれだこれだっつって、なんやかんやのてんこ盛りのオンパレードで、頭ん中じゃ擬人化された“現実”達が、ヒ○ダンの“115万キロのフィルム”に合わせてパレードを始めたばっかだっていうのに、ったく……

 ――まぁでも、ユヅのこの笑顔がずっと見られるんなら、俺はそれだけで充分……それに来年には、“新しい笑顔”にも会えるわけだし……

 すると、律ははしゃぐ結月の手を掴み、そのままグッと抱き寄せていた。

『ん?、どうしたの?、律……ん……あ、ん……あん、ダメ、律……ん……あっ……ねぇ、あ……ほんとにちょっとダメだって……ねぇ、律、ほんとにダメ』

 結月は下へと延びた律の手に触れ、どうにかその手を止めていた。

『ユヅ?……俺、ちょっと(ちから)が入り過ぎてたのかな?、もし痛かったのなら、ゴメン』

『うぅん、そうじゃなくて……律、私ね、今日生理きちゃって……だからできないの』


  ・・・・


『………………………………………………え?』



          《憂終?!》



*本文内に引用した歌詞、及びタイトルの紹介です。
「Butterfly」 木村カエラさん。
「115万キロのフィルム」 Official髭男dismさん。

あなたへと綴るラブレターの中で、わたしはあなたを殺してみた。

エンディングBGMには、ラブレター (feat. 春茶)?!

あと、これは全く関係のないお話なのですが、最近になってたまたま『ぼっち・ざ・ろっく!』を拝見してみたところ、とにかく最高でしたっ!!、なので皆さんもよかったら観てみてね。結束バンドの「星座になれたら」は、早速私の中での名曲に仲間入りしました。そう、星座になったのですっ!!、なんちゃって。

あなたへと綴るラブレターの中で、わたしはあなたを殺してみた。

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  • 小説
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  • 恋愛
  • 青年向け
更新日
登録日
2017-01-12

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  1. 旋律を結ぶ片見月
  2. 月経を結ぶ律儀者