心の扉の鍵
貴方の心の扉を、私は開いて良いのか。そんな事を【なんでも開けられる鍵】を片手に私は悩み続ける。
貴方をずっと、抱きしめていたい
苦しそうにする貴方を見てると私の心まで苦しくなるの。悲しそうにする貴方を見ていると、私が貴方をそんな顔にしてしまったのかもしれない。そう勝手に思って私まで寂しくなってしまうの。…貴方には何時だって、笑っていてほしい。幸せでいてほしいよ。そして我儘を言っても良いなら私が───、
ソファに座り恋人の帰りを膝を抱えて待つのは何時もの事で、もう慣れてしまったけど、
「……ただいま」扉の向こうから聞こえた声は何時もより元気がなかった。
帰りを待ちわびていたのを知られるのが恥ずかしくてソファに座り続けていると部屋に入って来た恋人と視線が絡む。嬉しくて思わず頬が緩みそうになってしまうも、元気のない彼にそんな顔を見せたくなくてそれを堪え、
「おかえりなさい。今日のお仕事もお疲れ様でした」と迎える言葉を紡いだ。
「ん。…今日も迎えてくれて有難う」言葉を紡ぐ声は何処か弱々しく、【存在】が薄いように感じてしまう。
彼の【存在】を消したくなくて、消えてほしくなくてそっと抱き締めた。『大丈夫、貴方は此処に居る』と伝えるように。
抱き締めた行為に込められた想いに気付いてくれたのか、彼は苦笑しながら抱きしめ返してくれた。
触れた場所から伝わって来る温もりは温かいのに、彼の【心】はとても冷えているように感じる。その【心】を温めてあげたいのに私には何も出来ない。
『何かあったの?』そう聞けば良いだけなのかもしれない。でも、私は怖くて聞けなかった。
だって、彼が優しいのを知っているから、自分の心が【壊れる】寸前まで私には何も言わない事を知っているから、私は何も聞けない。
仮に聞いたとして、『大丈夫、なにもないよ』と優しい声で紡がれてしまったら『君には関係ない』と言われているように思えて、私まで一緒に【暗闇】に落ちてしまうから、私は彼に何も聞かずに抱きしめつづけるしかないんだ。
貴方には何時だって、笑っていてほしい。幸せでいてほしいよ。そして我儘を言っても良いなら私が───、貴方を笑顔にしたい。幸せにしたい。
手にした鍵は、そっとポケットにしまって、今夜も貴方の【存在】を抱きしめつづける。
心の扉の鍵
私自身人の心に踏み込むのがとても怖いと感じる人間なのですが、もしかしてそれは誰の心にでもある【恐怖心】なんじゃないかと思い、この小説を書きました。誰かの心の扉を開けるのはとても怖いけど、勇気がいる事だけど、開けた事で見える【景色】があるという事を、開けた事で抱き締められる【存在】があるという事を知って居て下さい。
私は何時も扉を開けてもらい助けてもらう側ですが、何時か、手にした【鍵】で大切な人たちの【心】や【存在】を抱き締められたらと思っています。此処でではありますが感謝を。…いつも、私の心の扉を開けてくれて、私の心を抱きしめてくれて、有難う御座います。
次回作も是非、宜しくお願いします。